Pbフリーはんだの金属学的基礎


(2−2) Sn合金の概要

(2−2−1) 2元系の状態図的特徴

 代表的Sn2元系合金をまとめると、

@ 共晶型

 はんだにおいては何よりも融点が低いことが求められるので共晶系が有利となる。

ア) 金属間化合物IMC形成型(Snリッチ側)

 IMCとの共晶構造は分散強化をもたらす。
 しかしIMCを形成する系では巨大なファセット相を示すIMCの初晶が晶出が生じやすく、これが
問題となることが多い。

 Sn−AuSn−AgSn−Cuなど。
 ・若干の融点低下を示す。
 ・分散強化を示す。
 ・過冷却が大きく、巨大なIMCの初晶が晶出し、問題となることが多い。
 ・Sn−AgSn−Cuの共晶がPbフリーはんだの中心。

 Sn−NiSn−CoSn−Feなど。
 ・ほとんど融点低下しない。
 ・過共晶側の液相線の勾配が大きい。

イ) 金属間化合物非形成型

 Sn−BiSn−Zn(、Sn−Pb)など。
 ・比較的大きな融点低下を示す。
 ・Sn-Biは脆くなる、偏析しやすいなどの欠点をもつ。
 ・Sn-Znは酸化しやすい欠点がある。

A 特殊な状態図型

 Sn−Sb 
 ・Snリッチ側で包晶を示し、融点上昇するので高温Pbフリーはんだの候補。

 Sn−In  
 ・幅広い組成の中間相をもつ。
 ・共晶組成はβとγよりなる。
 ・コストに難がある。
 ・低Inでは温度サイクルで相変態を起こし変形する。

(2−2−2) 固体Snへの固溶度solid solubility

 BiSbZnInGaAl(、Pb、Cd)などがある程度の固溶を示す。
 このなかでBi、Sb、Alが固溶度の温度変化が大きく、Alは常温付近ではほとんど0。

 Sn−Zn
 

 Sn-Sb


 Sn--Bi
  
     
 Sn−In
 
KaistのSeoらによると 
Snへの固溶度(wt%)
温度(℃) Cu Ni Ag
300、液相 2.28 0.30 8.30
250、液相 1.23 0.198 5.03
200、βSn 0.00347 0.000935 0.052
50、βSn 0.0000379 0.00000352 0.002

*状態図
  →  Sn−PbSn−BiSn−InSn−AuSn−CuSn−AgSn−ZnSn−Sb
  あるいは→Snの主な2元系合金

(2−2−3) Pbフリーはんだの共晶組織

 共晶組織の分類にはいくつかの方法があり、たとえば
  形態から
   正常normal共晶(あるいは規則regular共晶)と異常anomalous共晶(あるいは不規則irregular共晶)と退化degenerate共晶。
  熱力学的に
   ノンファセット・ノンファセット共晶、ノンファセット・ファセット共晶、ファセット・ファセット共晶。
  成長機構から
   協調成長、分離成長。
などと分類される。

 Scheilの分類(1954年):溶質相の体積比Vによる分類。
 ・正常nomal共晶(規則共晶)
   体積比が近い。ノンファセット・ノンファセット共晶。
   ラメラ状、ロッド状。
 ・異常anomalous共晶(不規則共晶)
   体積比が大きく異なるか、少数相が顕著な異方性を示す。
   ノンファセット・ファセット共晶。
   不規則ないしニードル状。
 ・退化degenerate共晶
   正常共晶あるいは異常共晶のような協調成長による組織を示さない、マトリックス相に第2相がほぼ均一に分布した状態を示す
  共晶系組織を指す。


 Jacksonの溶融エントロピーΔSによる分類(1966年)
  Jacksonは溶融エントロピーΔSによって3分類、これをTaylorが拡大。
  Taylorは溶解solutionエントロピーを使用し、23J/mol-Kを基準とした。

 ・ノンファセット・ノンファセット共晶(正常共晶)
   両相が低エントロピー、23 J/mol-K以下
 ・ファセット・ノンファセット共晶(異常共晶)  
   高エントロピーと低エントロピー
 ・ファセット・ファセット共晶
   不規則共晶。
   両相が高エントロピー、23 J/mol-K以上

 Kurz とFisherの分類(1989年)
  Jacksonの荒さパラメーターαと溶質相の体積比Vによる分類。


共晶組織の分類
Crokerらの分類







 協調成長と分離成長

  分離共晶とは協調成長(ラメラ、ロッド状)に見られるような秩序配置がなく、α相とβ相が個々に配置した種々の共晶構造をいい、
 共晶点をはずれたoff eutectic組成の共晶(一方の相の体積比が小さい)でβ相が核生成のため大きな過冷却を必要とするため、
 α相が液相線の延長を準安定的にβ相が形成されるまで成長されることにより生ずるとされる。(分離成長)
  あるいは初相αのデンドライトが面積的に多く、共晶がそのデンドライトの小さな空間の形成される場合、共晶のα相が初相αに
 優先的に形成されるため、β相が取り残された状態となるともされる。
  分離成長では凝固前線でα相とβ相の共通の固液界面形成と溶質の交換が存在せず、両相が互いに独立して成長する。
  協調成長の共晶ではα相とβ相は同時に成長するが分離成長では別々に成長する。


 分離共晶の別の説明図

 高Sn合金の共晶組織
   一般的にはβSnとIMCの共晶構造である。
   SnCu、SnAg、SnAgCuの共晶はβSnマトリクスと周辺の共晶組織よりなる蜂の巣構造で、冷却速度により
  βSnの形状がデンドライト、柱状、等軸といったように変化する。
   Au-20Sn、Sn-Bi、Sn−38Pbなどは典型的不規則共晶組織となる。
   Sn-48Inはγの間をβが埋める組織となる。
   Sn-8ZnではZnは針状のファセット相となる。

   組織には冷却速度、過冷却度、不純物(合金元素)などが影響する。

(2−2−4) 組織例 

 Sn-3.5Ag→状態図 

 長岡科技大のZhaoら

 
 Auburn大のWang


Ochoaら 共晶Sn-Ag


Biancoら Sn−3.5AgとBi−43Sn
 

 Sn-Cu 状態図

Huhら

光学像

ザガジグ大 El−Daly(2011)ら


ザガジグ大 El−Daly(2011)ら


 Sn-Au 状態図
Yoon
 Au−30at%Sn ζ(Au5Sn)とδ(AuSn)の共晶
 


 Sn-Sb(包晶) 状態図
高温 (5Sb、10Sb)、
 

 Sn−Bi 状態図


 Sn−Zn 状態図


 Sn−In 状態図
 共晶はβ+γ


相互接合による組織(Sn−InとCu及びNi)


Chuang


 Sn−Pb 状態図


(2−2−5) Sn-Pb2元系の組成による組織変化

 →状態図

 高Sn側
 

 共晶近傍
  

 高Pb側


(2−3) 3元合金


(2−3−1) 状態図例

 Sn-Ag-X(X=Bi、In、Cu、Zn)
 Ohnumaら


 Sn−Zn−Bi
 Kroupaら


 Sn-8Zn-Bi
 Kimら


 状態図 Kattner(2002)  
 Sn−Ag−Bi、Sn−Ag−Cu、Sn−Bi−Cu


 状態図COST531 Sn−Ag−Biの反応

 

(2−3−2) 3元系の組織例

 Sn-Ag-Cu

シンガポールのマイクロエレクトロニクス研究所のChe(2010)


*Sn-3.0Ag-0.5CuをSAC305などの様に称する。

Kang IBM 




Sn−Ag−Cu(SAC)3元系
 NISTなどにより詳しく調査されている。 
 SAC3元共晶組織


Cu過共晶組織


Ag過共晶組織


その他3元系組織

AbdulMatin
 Sn-Ag-Bi、Sn−Zn−Bi


(2−4) Sn合金の融点

  Sn系合金ではSn−X (X=Ag、Bi、Cu、Ga、In、Pb、Sb、Zn)合金の2元系合金状態図の液相線の傾きから
 多元系合金の融点は
  
   とおおよそ予測される。(W:重量比)
    ここでAg<3.5、Bi<43、Cu<0.7、Ga<20、In<25、Pb<38、Sb<6.7、Zn<6






Frear 融点と固液共存範囲

Henkel


各種はんだの表面状態

(2−5) Snの主な合金化元素とその特徴

 Snに対する合金化元素の主なものはAg、Cu、Bi、Zn、Inである。その基本的特徴は
元素 特徴
Ag 高強度、信頼性良好、濡れ許容、高融点(共晶点221℃)、高価格。
Cu 高融点(共晶点227℃)、濡れはAgよりやや劣る、信頼性もやや劣る、低価格。
Bi 低融点(共晶点139℃)、高強度、濡れ良好、Pbと混合で強度と耐熱疲労低下、信頼性やや劣る、
伸びが劣り加工性に難。偏析しやすい。
Zn 融点は共晶SnPbに近い(共晶点199℃)、酸化しやすい、腐食亀裂、ボイド、濡れ悪い、低価格。
In 供給問題(高価格)、酸化、低融点(共晶点117℃)、偏析しやすい、相変態による形状変化、伸び良好。

 であるが、更に第3成分等の添加による改善が行われる。

 Ag、CuはSnと金属間化合物IMCを形成し、分散強化が起きるが、過共晶では巨大初晶が生じ悪影響をもたらす
ことがある。
 Bi、Zn、Pbはホモロガス温度が低く、再結晶と粒成長、拡散と偏析が起こりやすい。

 
 インジウム・コーポレーションのLee1997
 

主要共晶形成元素の特性

 NIST 表2.2.5

 室温での諸特性(E、G、HBはwikipedia)
融点(℃) 結晶構造 熱膨張係数
(10−6/℃)
熱伝導率
(W/(m.K)
密度(g/cm3) ヤング率E
(GPa)
剛性率G
(GPa)
ブリネル硬度HB
(MPa)
Sn  232 20または23.5 66.6または73.2 7.31 50  18 51
Pb  327 fcc  29.1 35.0 11.34 16 5.6 38.3
Bi  271 菱面体  13.4 11.2又は9 9.8  32  12 94.2
Zn  420 hcp  33 125又は119.5 7.14または7.04 108  43 412

 材料特性
引張強度(MPa) 伸び(%)
Sn 14
Pb 10前後(純度による) 60
Bi 4〜20
Zn 100前後 40



  Pb 1:精錬Pb 4:微細組織 5:粗大組織

Zhang


SnとPb

(2−6) 条件により種々の様相を示すはんだ組織


 組織 カリフォルニア大のMorris(2005) プレゼン資料
 
 
 
 discrete eutecticという言葉は内容不明、Divorced Eutecticも疑問がある。

 


Intel


 防衛大のグループによるとSn-Cu系の過共晶では通常ファセット相Cu6Sn5を取り囲むようにβSnがハローとして晶出するが、
デンドライト状にも晶出するという。(Sn−Ag、Sn−Niも同様))
  
         Sn−2.02Cuの微細組織

 ΔTの定義

  







 βSnの体積率は過冷却度に依存、冷却速度や組成にはあまり影響を受けない。

 東海大 宮沢(2001) 
  Sn−Pb、Sn−Ag、Sn−Zn、Sn−Biのエージング













青山・西山
 T/Tm=0.87で1時間の熱処理したものを空冷


線引き加工、熱処理

 SnPb、SnAg、SACは鋳造材と異なる組織。
 SnAg、SACではデンドライト初晶が見えない。
 SnPb、SnSbは熱処理で結晶粒粗大化。


IBMのKang
 Sn-Bi共晶組織


 Sn-Sb共晶組織



 Sn-Cu共晶組織


 Sn-Zn共晶組織






 各合金については更に詳しくは〔V〕 各種Pbフリーはんだの特性 で述べる。


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