Pbフリーはんだの金属学的基礎


(7) Sn−Ag−Cu(SAC)系

(7−1) SAC系の基本的性質

 Sn−Ag−Cu系はんだはSn−3.0−0.5CuをSAC305のように呼ぶ事が多いので以下そのように表記する。

(7−1−1) SAC系の国際的すう勢、規格

 既に述べているが国際的にPbフリーはんだの調査・研究が1990年代後半から進められた際、その筆頭に上げられたのは
Sn−Ag−Cu3元系の共晶近傍組成であった。
 各種プロジェクト推奨組成は次のようなものであった。

各種プロジェクト推奨組成(1999年)
プロジェクト 推奨組成
米国NEMI Sn-3.9Ag-0.6Cu
英国ITRI Sn-(3.4〜4.1)Ag-(0.45〜0.9)Cu
欧州IDEALS Sn-3.8Ag-0.7Cu
日本NEDO Sn-3.5Ag-0.7Cu
日本JEITA Sn-3.0Ag-0.5Cu

 またこの付近の組成は特許がありその代表的なものは米国のアイオワ州大と日本の松下・千住のものである。
 アイオワ州大は接合でも特許となっており対応が難しいところがあった。
 共晶組成ははっきりしないがアイオワ州大のは正しくないというのが一般的である。

 特許
出願者 特許No. 出願日 組成
Iowa State Ames Lab USP5527628 1995年2月24日 Sn-(3.5〜7.7)Ag-(1.4〜4.0)Cu
松下・千住 JP302744 1991年7月8日 Sn-(3.0〜5.0)Ag-(0.5〜3.0)Cu
JW Harris company失効 USP4695428 Sn-3.0Ag-0.5Cu
Engelhard Corporation USP4778733 Sn-(0.05〜3)Ag-(0.7〜6)Cu
*Petzow (German) 先行技術 Sn-4.0Ag-0.5Cu
(共晶組成)
Iowa State Ames Lab Sn-4.7Ag-1.7Cu
NIST Sn-3.5Ag-0.9Cu(実験
Sn-3.7Ag-0.9Cu
Sn-3.6Ag-1.0Cu
HUT Sn-3.4Ag-0.8Cu

HUTによると

*共晶組成というより調査された組成であろう。

 規格では

JIS Z 3282 :2006
公称組成 融点(℃) ISO合金番号
Sn-0.7Cu-0.3Ag 217-226 501
Sn-3Ag-0.5Cu 217-219 711
Sn-4Ag-0.5Cu 217-219 714
Sn-3.5Ag-0.7Cu 217 712
Sn-3.8Ag-0.7Cu 217 713

IPC J−STD−006B(2009)
公称組成 融点(℃)
Sn-4.0Cu-0.5Ag 217-219 SAC405
Sn-3.8Ag-0.7Cu 217-221 SAC387
Sn-3.2Ag-0.4Cu 217
Sn-3.0Ag-0.5Cu 217 SAC305
Sn-2.5Ag-0.8Cu-0.5Sb 217-225

ISO 9453(2006)
合金No. 公称組成 融点(℃)
501 Sn-0.3Ag-0.7Cu 217-227
711 Sn-3Ag-0.5Cu 217-220
712 Sn-3.5Ag-0.7Cu 217-218
713 Sn-3.8Ag-0.7Cu 217-226
714 Sn-4Ag-0.5Cu 217-229

 代表的組成についての一般的と思われる固液共存範囲は下図の通りである。


SACの融点の比較 (メーカー、規格)
組成 千住 ニホンゲンマ JIS IPC ISO AIM Indium.com Heraeus Qualitek calc その他
Sn-0.3Ag-0.7Cu 217-227 216-227 217-226 217-227 217-227
Sn-1.0Ag-0.7Cu 217-224 216-222
Sn-1.0Ag-0.5Cu 217-227 215-227 217-227 217-228
Sn-2.0Ag-0.5Cu 217-223
Sn-2.1Ag-0.9Cu 216-222
Sn-2.5Ag-0.9Cu 216-221
Sn-3.0Ag-0.5Cu 217-220 216-221 217-219 217 217-220 217-218 217-220 217 217-221 216-220
Sn-3.0Ag-0.7Cu 217-219
Sn-3.2Ag-0.8Cu 216-218
Sn-3.5Ag-0.75Cu
(Sn-3.5Ag-0.7Cu)
218-219 216-220 217 217-226 217-221 216-218
Sn-3.5Ag-1.0Cu 216-225
Sn-3.6Ag-1.5Cu 216-254
Sn-3.8Ag-0.7Cu 217-225 217 217-221 217-226 217-218 217-220 217-219
Sn-3.9Ag-0.6Cu 217-226 217-225 217.5-218.5(Kim)
Sn-4.0Ag-0.5Cu 217-229 217-229 217-218 217-225 217 217-221
Sn-4.0Ag-0.9Cu 217-230
Sn-4.0Ag-1.0Cu 216-223
 calc:COST531熱力学データベースの計算


(7−1−2) 光沢、引け巣と凝固過程

 SAC系合金の組織は通常βSnの周囲を共晶組織が囲んだ蜂の巣状となるが、共晶とされる組成でも光沢を示さず、
非光沢化と窪みと粗い表面、引け巣と呼ばれる裂け目状の深い溝などの状態を呈し、初晶βSnのデンドライトの他に
過共晶ではCu6Sn5、Ag3Snなどの大きなIMC初晶が晶出しやすい。
引け巣 IDEALS


熱間割れ


Juarez


表面状態 引け巣、光沢
 引け巣
  
 
  Ag3Snの存在と関係

 三洋電機
  

Almit 

引け巣(熱間割れ)と温度サイクルによる亀裂の違い


SACの表面状態

表面状態と組成(Ag)


千住の説明(2004年 鉛フリー実装フォーラム) 



表面状態と組成(Cu)


 その固液共存範囲は

課題
 材料コスト増
 凝固開始温度上昇、固液共存範囲拡大。
 共晶からずれることで巨大な初晶Ag3Sn、Cu6Sn5が生じる。


 日本スペリア  比較

 

冷却速度


 巨大初晶IMC Kang
 
 Sn-3.8Ag-0.7Cu                  Sn-3.8Ag-0.35Cu                Sn-3.5Ag

はんだボールの凝固 Kim
SAC305



SACの凝固
  凝固中断による凝固過程の組織



  白い結晶がAg3Sn、黒っぽいのがCu6Sn5結晶


凝固中断による途中組織


(a)は10μmのβSn、急冷凝固によるもの。
いずれも凝固による晶出組織と急冷凝固組織(微細βSn組織)が混在。





微細な黒い結晶は急冷で晶出したCu6Sn5。数1−〜100μmの初晶Cu6Sn5が存在。

(7−1−3) 状態図と組織

SAC NIST


  液相面(全体)

Snリッチ領域の3元状態図
 
   液相線面                                      2次凝固面     




組織
      
 (a):3元共晶 Sn+Ag3Sn(針状)+Cu6Sn5(円板状)  (b):(1)Sn、(2)Sn+Ag3Sn、(3)Sn+Cu6Sn5
  
   SEM像


(7−1−4) SAC系はんだの一般的特徴

IMS EFSOT



 Ma 概観







Hartford


H Ma Auburn大


室温エージングの影響







恒温エージング




           125℃






温度と歪速度の影響




2005_11.12_Robustness of Surface Mount Multilayer CapsPPT  


 SnPbとSACの比較








 SAC387 Sn3.5Ag

CZ SAC387
 SAC387、共晶SnAg



  

 
DfR



 冷却速度とデンドライト






同様 


 
 InnoLot
 SAC387+3.0Bi+1.4Sb+0.15Ni
  206〜217℃

Bary 高サイクルあるいは曲げ
 Sn−0.7Cu−0.05Ni











1:Biを固溶(1.7原子%)したβSn、2:(Cu,Ni)6Sn5
3:Ag3Sn、4:(Cu,Ni)6Sn5



 高サイクル疲労(振動)






 



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