非金属無機固体材料創製の科学  


[V ガラス・非晶質]

  ガラスは本来、溶融物を結晶化しないように冷却・固化した無機物質であり、それ自体単独で
 ガラスを形成する網目形成酸化物と呼ばれるSiO2、P2O5、GeO2、As2O3、B2O3とアルカリ酸化物、
 アルカリ土類酸化物等の網目修飾酸化物よりなっている。
  このようなガラスはたとえばSi−O結合ネットワークをSi−O−Naのような形で一部切断することで
 安定化している。
  このガラスの特徴はX線回折での結晶特有のシャープなピークの欠如とハローと呼ばれるブロードな
 パターンの存在(非晶質)と、融点Tと明瞭に異なる熱力学的性質をもつガラス転移温度
 を持っていることである。
  ガラス転移温度と融点の間は過冷却液体と呼ばれる。
  過冷却液体では融点を過ぎても液体と同じ体積変化率を示し、ガラス転移点で体積変化率が変化する。
  ガラスは不規則構造をしているが粒界をもたない。
  ガラスに似た表現に非晶質(アモルファス)、無定形物質などという呼び方がある。
  金属等の融体を急冷することで非晶質(アモルファス)が得られる。
  また気相成長やゾル・ゲル法、炭素材料でも非晶質が得られるがこれらのなかで、炭素材料や
  気相成長による水素化Si(a-Si)や水素化カーボン(Diamond Like C)は必ずしもガラスとしての性質
 が確認されてはいない。
  多くの物質が水素化や放射線の照射で非晶質化することが知られている。

ガラスの理論

(1) 溶融法ガラス 

    珪酸塩が主であるがホウ酸塩、リン酸塩、ゲルマン酸塩などのガラスもある。
    ホウ酸塩ガラスはケイ酸塩ガラスに比べて溶融温度が低く作り易いが、耐化学性に劣るため
   中性子線吸収ガラスや接着用ガラスなどの特殊用途に使用される。
    リン酸塩ガラスはレーザー用や生体用に研究されている。
    ゲルマン酸塩は赤外線透過ガラス・光ファイバーなどに研究されている。

   ・水ガラス
     珪酸ナトリウム水溶液、広くは珪酸アルカリガラス水溶液の総称。
     強酸で弱酸の遊離による珪酸ゲルが生じる。

   ・強化ガラス
     ガラスは脆く、また粒界がないため一度亀裂が入ると簡単に亀裂が拡大しやすく
    破壊しやすい。
     ガラスは引っ張り応力に弱いので圧縮応力を残留させて強化する。
     強化方法には物理的方法と化学的方法がある。
      物理的方法
        成形後の加熱状態で表面を急冷する。
      化学的方法
        表面をイオン交換(Na→K)によって大きいイオンにし圧縮応力を生じさせる。

   ・分布屈折率型ガラス
     通常のレンズは屈折率の均一なガラスを凸凹の球面にして光を屈折させるが、場所に
    より屈折率の異なるガラスを用いれば平板でもレンズとしての機能を果たす。
     このような屈折率分布を持つガラスを分布屈折率型ガラスgradient index gkassと呼ぶ。
     ガラス中に屈折率分布を作るためのはイオン交換によるのが一般的で、1価のイオン
    は比較的容易にイオン交換でき、溶融塩への浸漬でイオン交換を行う。
     CVD法で屈折率の異なるガラス層を積み上げる方法もある。(光ファイバーなど)
     屈折率を大きくするにはGe、Pを小さくするにはB、Fを添加する。

   ・ホトクロミック・ガラス
     光により着色するガラス。一般的なのはハロゲン化銀を含むもの。
     光により物質の色が変化する現象をフォトクロミズムという。

   ・Pbフリーガラス
     Pb入りガラスは低融点である、高屈折率である、X線遮蔽性をもつなどの優れた性質をもつ
    がPbの有害性よりPbフリーガラスの研究が行われている。
     高屈折率ではBi2O3系ガラス、低融点ではBi−SiO−B系、B−ZnO系、
    ZnO−P系ガラスなどが研究されている。


(2) CVDによる石英系ガラス

    四塩化珪素 (SiCl4) ガスの化学気相蒸着 (CVD) によって純度の高い石英ガラスを製造する
   ことが光ファイバーで行われている。
    石英管、セラミクス棒などに酸水素炎などにより原料ガスを酸化して堆積させ、これを加熱し
   透明化する。

(3) 非酸化物ガラス

   酸素をカルコゲン元素やハロゲン元素で置き換えた非酸化物ガラスがある。
   これらは赤外透過性の良いものが多く赤外線透過材料などに使用される。
   (赤外部の損失はOHによるものが大きい)
   非酸化物ガラスの溶融は不活性ガスや真空雰囲気下で行われる。

 ・カルコゲン化物ガラス(カルコゲナイトガラス)
    カルコゲン元素(Se、Te、S)を含むAs2S3、GeS2、As2Se3などを主成分とするガラス。
    赤外光の透過性が高い、電子伝導性の半導体であり光電効果を示す等があり、
   赤外線透過材料や半導体スイッチング素子、撮像管ターゲットや電子写真への応用、
   希土類元素をドープしたレーザーガラスなどの研究、相変化を利用した光メモリーなどに利用
   あるいは研究されている。
   
 ・ハロゲン化物ガラス
    フッ素,塩素,臭素を含むZrF4,BaF2,AlF3等から得られるガラス。
    赤外透過性が高い、フォノンエネルギーが小さい等があり、赤外線透過材料や蛍光材料
   としての希土類イオンのホスト等に用いられる。

 ・イオン導電性ガラス
    ヨウ化銀を含むガラスには大きなイオン導電性をもつものがある。
    その他Cu、Li、Na、Fなどの比較的イオン半径の小さい1価のイオンを伝導イオン
   とするイオン導電性ガラスが知られている。

 ・フツ燐酸塩ガラス
    MFn-Al2O3-P2O系のフツリン酸塩ガラスは、リン酸塩ガラスやケイ酸塩ガラスと比較して
   屈折率の非線形性が小さく、レーザーガラスとして用いられる。

(4) アモルファス金属と金属ガラス及び準結晶  →より詳しく

   ・融体(液体)急冷splat cooling
      回転ロール等に融体を吹き付け急冷(106K/sec程度)により通常はガラス化しない物質の
     非晶質(アモルファス)が得られる。ロール法では薄帯が得られる。

   ・アモルファス金属
     金属はアモルファスになりにくいが液体急冷法で金属のアモルファス化が可能である。
     金属ではSi、Ge、P、C、Pを加えるとアモルファス化しやすい。
     アモルファス合金には加熱によりガラス転移温度に達するまえに結晶化が進行しガラス転移点
    を実験的に観察することが出来ないものが多い。
     アモルファス金属は粒界、析出物や欠陥がないため(1) 高強度(高引張り強度、低ヤング率)、
    (2)軟磁性、(3)耐食性という特徴をもち、弾性変形のあと塑性変形なしに破壊する。

   ・金属ガラス
     急冷によらないでもアモルファス化する金属があり金属ガラスと呼ばれる。
     銅鋳型鋳造程度の冷却速度でもガラス化しバルクの金属ガラスが得られる。
     結晶化する前にガラス転移温度Tgをもち結晶化温度TxとTgの間の過冷却液体状態で
    粘性流動状態を示す。
     成分的には3元素以上の多元系、各原子の径が12%以上異なる、各元素が化合物化しやすい
    という傾向をもつといわれる。(井上明久氏の3原則)
     Pd系で最初に見出されZr系が最初に実用化された。
     Zr55Ni5Al10Cu30 が代表的。

   ・準結晶
     準結晶は結晶やアモルファスとも異なる固体物質の構造である。
     回折パターンがδ関数的、逆格子点を記述する基本ベクトルが次元数より多く必要、通常の結晶構造
    に許されない回転対称性を有すという特徴を持つ。
     結晶は並進対称性を有し、その回転対称性は2回、3回、4回および6回に限られているが、多くの
    準結晶は正20面体構造を示し5回対称性を有する。
     正二十面体相は基本構造となるクラスター構造により、MI型(マッカイ二十面体型)、RT型(菱形三十
   面体型)に分けられる。
     その他正8角形、正10角形、正12角形相が見出されている。
     これらは準結晶面に垂直な方向は周期的に積層した構造を有する二次元準結晶である。
     原子が規則的に配列しながらも、通常の結晶のような周期的構造は持たず、
    単一の単位胞で空間を満たすことが出来ない。
     (逆格子点を記述する基本ベクトルが次元数より多く必要)
     脆く、電気や熱が伝わりにくいなどの特徴を持つ。
     準結晶は熱的に不安定なものが多く、Al-Cu-FeやMg-Al-Cuなどのように、3つ以上の元素から
    構成されると安定になる傾向がある。
     準結晶は主に液体急冷法により作成され、メカニカルアロイング法では粉末が得られる。
     フェイゾンという特有の局所的な熱ゆらぎ現象を示す。
     準結晶と同じ局所構造を有する結晶相があり近似結晶という。
     これらはいずれも6次元空間の周期構造によりその構造が説明される。

(5) 薄膜  
    PVD、CVDやめっきなどの薄膜状態でも非晶質状態が得られる。

(6) 炭素材料 

  炭素材料はC、H、Oを主成分とする有機物質からH、Oを除去する炭化によって生成するが、
 この際、Hが残留しCの結合手を切断することにより非晶質化の傾向を示す事が多い。   

  ・無定形炭素
    コークス、木炭、すす、活性炭など

  ・ガラス状カーボン
    熱硬化樹脂を非酸化性雰囲気中で焼成する炭化処理して得られる。
    緻密な均質組織と優れた機械的強度、気体不透過性ならびに耐食性を備えているため、
   電池用電極、電解用電極、半導体製造用坩堝などに利用される。

  ・アモルファス・カーボン(水素化カーボン、DLC) 
    炭化水素によるCVD(プラズマでの分解等)によって薄膜として得られる。
    水素を若干含有した非晶質(アモルファス)構造を持つ。
   
(7) ゾル・ゲル法

  ゾルーゲル法では液体原料から高温溶融を経ずにガラスを作成できる。
  有機金属化合物(金属アルコキシド等)の加水分解・脱水縮合により透明なゲルが得られる。
  得られたゲルからエタノール、水を蒸発させて収縮固化させ、熱処理する。
  亀裂が入らないように脱水させるには時間がかかるのが欠点である。
  この欠点を克服する研究が行われている。

  *ゾルとゲル
   ゾルとは分散相が固体で分散媒が液体であるような分散系。
   ゲルも分散相が固体で分散媒が液体であるがゾルのように自重では流動せず形を保つ。
   ゲルは溶媒を含む三次元的に架橋された3次元網構造をもち、架橋構造がファンデアワールス結合
  のような物理的結合による物理ゲルと化学結合により化学ゲルがある。

(8) a-Si(水素化シリコン)

  シラン(SiH4)ガスによる CVD法で基板上に薄膜として形成される。
  Siの結合手が残留Hにより切断され非晶質化する。
  大面積化が容易、ガラス上に形成できるなどの利点があるため太陽電池、液晶駆動用ICなどに
 検討されたがポリシリコンの開発により優位性が薄らいでいる。

(9) 結晶化ガラス(ガラス・セラミックス)

  珪酸塩ガラスは通常は結晶化し難いが、1000℃付近で長時間加熱すると結晶が析出し、透明性が
 失われることがある(失透)。
  このガラスでの結晶化を利用したのが結晶化ガラスである。
  ガラス中に1μm以下の微細な結晶を析出させると、ガラスの強度(曲げ強度等)や耐熱衝撃性等が向上
 する。
  たとえばLi2Oを添加したガラスは組成の異なる2相に分離(分相)しやすく、スピノーダル分解により極めて
 細かい結晶が析出する。
  結晶析出にはガラス組成に金属や異種酸化物を結晶促進剤として添加することが有効である。

  *スピノーダル分解とは高温で固溶していた(擬)2成分系が低温でナノスケールのサイン波的組成ゆらぎ
  が生じ、2相に相分離すること。

(10) 光相変化記録
 
  レーザー照射によるアモルファスと結晶の相変化に伴う反射率変化を利用。
  GeSbTeなどを使用する。

(11) 柔粘性結晶とガラス性結晶

  球形に近い分子は、3次元規則配列した重心のまわりで回転しており柔粘性結晶と呼ぶ。
  柔粘性結晶は、 結晶内で.分子が殆ど自由に回転しているが、 その重心が.動かないために、
 結晶の特質である周期性を失っ.ていない。
  C60が有名。
  分子の位置が固定され配向の自由度をのみもつものはガラス性結晶と呼ばれる。



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