生分解性プラスチック(生分解性ポリマー)

 生分解性プラスチックとは自然界の微生物によって最終的に水とCOに分解されるプラスチックとされる。
 微生物による分解は微生物の菌外酵素による高分子の低分子化とこれが体内に取り込まれて好気的条件で
水とCOに、嫌気的条件ではメタンとCOに分解される。
 これは環境にやさしい(エコ)材料としてグリーンプラスチックと称される側面である。
 他方医療では手術用縫合糸、骨折固定材(ネジ、ピン)、不織布、DDS(ドラッグ・デリバリー・システム:薬物伝達システム)などに
利用される生分解吸収性高分子として利用されこの場合、分解生成物は生体内代謝物であることが重要となる。

 生分解性プラスチックは微生物生産系、化学合成系、天然高分子系に分類される。
 微生物生産系は微生物が合成したものでバイオポリエステルと称されるポリヒドロキシブチレート(ポリ水酸化酪酸エステルPHB)
が中心となっている。
 化学合成系は化学的に合成されたもので微生物に分解されやすい脂肪酸ポリエステルが中心となっている。
 天然高分子系はでんぷん、カニやエビのキチン・キトサンなどが利用される。

〔T〕 脂肪族ポリエステル

1. ポリヒドロキシアルカン酸PHA(ポリヒドロキシアルカン酸エステル、ポリヒドロキシアルカノエート)

 *ヒドロキシアルカン酸:OHとCOOHをもつアルカン酸、水酸基をもつカルボン酸。
    C グリコール酸    HOCH2COOH
    C 乳酸         CH3CH(OH)COOH
    C ヒドロキシ酪酸
         P3HB 3−ヒドロキシ酪酸 CH3CH(OH)CH2COOH
         P4HB 4−ヒドロキシ酪酸 CH2(OH)CH2CH2COOH
       リンゴ酸       HOOCCH(OH)CH2COOH
    C ヒドロキシ吉草酸  
         3−ヒドロキシ吉草酸     CH3CH2CH(OH)CH2COOH
       クエン酸       HOOCCH2C(COOH)(OH)CH2COOH
    C 3−ヒドロキシヘキサン酸 CH3CH2CH2CH(OH)CH2COOH

 *アルカン酸(脂肪族カルボン酸)
      C2n+1COOH
      n=1 メタン酸
      n=4 酪酸 butyrc acid
      n=5 吉草酸 valeric acid
      n=6 カプロン酸 caproic acid
 *ジカルボン酸
      シュウ酸 HOOC-COOH
      マロン酸 HOOC-CH2-COOH
      コハク酸 HOOC-(CH2)2-COOH
      フマル酸(トランス形) HOOC-CH=CH-COOH  マレイン酸(シス形) 

   ヒドロキシアルカノエート

    n=1の3−ヒドロキシアルカノエート
    Rがメチル基、n=1のポリヒドロキシ酪酸、Rがエチル基、n=1のポリヒドロキシ吉草酸

 *アルカノエート→アルカン酸エステル ヒドロキシアルカノエート→ヒドロキシアルカン酸エステル
  -ate(エート):エステル シアネート:シアン酸エステル、カーボネート:炭酸エステル・・・

1−1. ポリグリコール酸PGA
      
     グリコール酸 HOCH2COOH
     融点:230℃、Tg:36℃
     グリコール酸や乳酸を直接重縮合させる方法は高分子量化できないのでグリコリド、ラクチドなどの環状化合物の開環重合を
    利用する。
    グリコリド
 *ラクチド
   ラクチド(lactide)は2分子のヒドロキシカルボン酸がヒドロキシ基とカルボキシル基で脱水縮合してできたエステル結合をもつ
  環状化合物。ラクチド、グリコリド・・・

1−2. ポリラクチド(ポリ乳酸PLA)
     
    乳酸 CH3CH(OH)COOH
  ポリLラクチド
   融点:175℃、Tg:56℃、硬くて脆い。
  ラクチド

 

1−3. ポリヒドロキシブチレートPHB(ポリヒドロキシ(ブタン)酪酸、ポリ水酸化酪酸エステル)
  PHB
 PHBは微生物が細胞内でメタンから合成、融点:175℃。
 バイオポリエステル。
 脆いので共重合による改善。
 3−ヒドロキシ酪酸3HBと3−ヒドロキシ吉草酸3HV
 *微生物の生産するポリ3−ヒドロキシアルカノエートは3PHBが主であるが栄養源を変えることで種々の
 ポリ3−ヒドロキシアルカノエートを生産する。
 
1−4. ポリリンゴ酸
   
  リンゴ酸 HOOCCH(OH)CH2COOH

1−5. ポリヒドロキシバリレート(ポリ水酸化吉草酸)
  3−ヒドロキシ吉草酸 CH3CH2CH(OH)CH2COOH

1−6. ポリεカプロラクトンPCL
   

 εカプロラクトンの開環重合により石油化学工業的に得られる。
 融点:60℃、Tg:−60℃、高結晶性でポリエステルなみの柔軟性。
  εカプロラクトン

 6−ヒドロキシヘキサン酸 OHCH2CH2CH2CH2CH2COOH
 *ラクトン
  エステル構造をもつ環状化合物、ヒドロキシカルボン酸(オキシ酸)の分子内脱水縮合
 αーヒドロキシ酸は脱水反応により2量化環状化してラクチドを、βーヒドロキシ酸は脱水反応により不飽和カルボン酸を、
 γーヒドロキシ酸以上は環状化してラクトンを生成しやすい。
  官能基(カルボン酸ではカルボキシル基)の隣のCからα・・・一番遠い位置がω、α位置にOHがあるヒドロキシ酸は
 αーヒドロキシ酸・・・。

1−7. 環状ケテンアセタールの開環重合によるポリエステル
  付加開環重合でエステル結合を導入。
   
  環状ケテンアセタール
  2−メチレン−1,3−ジオキソラン
  2−メチレン−1,3−ジオキサン
  2−メチレン−1,3−ジオキセパン

 不飽和カルボン酸との共重合体

2. ポリエーテルエステル

2−1. ポリジオキサノン
     -O-CO-CH2-O-CH2CH2-
 融点:110℃
 p−ジオキサノンの開環重合
   p−ジオキサノン

2−2. MTC(2−メチレンー1,3,6−トリオキソカン)
 MTCの開環重合によるポリエーテルエステル
 -OCH2CH2OCH2CH2CH2CO-
 MTC(2−メチレンー1,3,6−トリオキソカン)

・MTCと各種ビニル化合物の共重合体
 2価脂肪酸ジビニルエステルCH2=CHOCORCOOCH=CH2
 
3. 脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオール (α,ω−脂肪族ジカルボン酸とα,ω−脂肪族ジオール)

   ジカルボン酸 HOOC(CH2)nCOOH    
     =0 シュウ酸 oxalic acid HOOC-COOH    
     =1 マロン酸 malonic acid HOOCCH2COOH    
     =2 コハク酸 succinic acid  HOOC(CH2)2COOH    
     =3 グルタル酸 glutaric acid HOOC(CH2)3COOH   
     =4 アジピン酸 adipic acid HOOC(CH2)4COOH

   HO(CH2)2OH  エチレンジオール(エチレングリコール)
   HO(CH2)3OH  1、3―プロパンジオール 
   HO(CH2)4OH  1、4―ブタンジオール

  *ヒドロキシ基が隣接しているものを1,2−グリコール、1つのメチレン基を介してヒドロキシ基が隣接しているものを
  1,3−グリコール、2つのメチレン基を介してヒドロキシ基が隣接しているものを1,4−グリコール・・・

3−1. ポリコハク酸アルキレン

 ・ポリブチレンサクシネート(PBS)
  (-OCH2CH2 CH2CH2O-OCCH2CH2CO-)
  
   1,4−ブタンジオールHO(CH2)4OHとコハク酸、融点114℃、Tg:−32℃
  
 ・ポリエチレンサクシネート(PES)
  (-OCH2CH2O-OCCH2CH2CO-)
  エチレングリコールとコハク酸
  ポリブチレンサクシネートやポリエチレンサクシネートは1,4−ブタンジオールまたはエチレングリコール
 とコハク酸の脱グリコール反応によるエステル化により合成されるが高分子量のポリマーが得られない。

3−2. ポリエチレンアジペート(PEA)
     (-OCH2CH2O-OCCH2CH2 CH2CH2CO-)

4. 共重合体

  ポリグラクチン
   ポリグリコール酸とポリ乳酸共重合体

  ポリグリコネート
   トリメチレンカーボネートとグリコリド共重合体

  ポリグレカプロン
   グリコリドとポリεカプロラクトン共重合体

 ポリεカプロラクトンとラクチド 
 トリメチレンカーボネートとラクチド 
 ジオキサノンとラクチド
  ラクトン類
         γ=3 γブチロラクトン γ=4 δバレロラクトン γ=5 εカプロラクトン
         R=H グリコール酸 R=CH 乳酸

 ポリブチレンサクシネートアジペート
   融点95℃、Tg:−45℃

5. テレフタレート

  芳香族ポリエステルが生分解性をもつかが問題であるが、脂肪族ポリエステルとテレフタレートの共重合体が生分解性を持つ
 といわれ、PETもある種の微生物で分解されるといわれる。
  コハク酸、アジピン酸、グルタル酸等のオキシ酸とグリコール(ジオール)とテレフタル酸から合成。
  (コハク酸、アジピン酸、グルタル酸等のエステルとPET、PBT)
   1,4−ブタンジオールとアジピン酸とテレフタル酸の共重合体であるポリブチレンアジペートテレフタレート
    (例えば、エコフレックス:BASF社製)
    
   1,4−ブタンジオールとコハク酸とテレフタル酸の共重合体であるポリブチレンサクシネートテレフタレート
    (例えば、バイオマックス:デュポン社製)
    
  など。

6. 脂肪族ポリカーボネート

6−1. 環状カーボネート

  ポリトリメチレンカーボネート(ポリ−1,3−ジオキサン−2−オン)

    →ーO-(CH2)3-O-CO-

6−2. 脂肪族ポリエステルカーボネート
    -ORCO-ORO-CO-
   1,4−ブタンジオールを主成分とする脂肪族ジヒドロキシ化合物とコハク酸を主成分とする脂肪族ジカルボン酸化合物と
  からなる脂肪族ポリエステルオリゴマーとジフェニルカーボネートとから。
  ジフェニルカーボネート 

  ヒドロキシカルボン酸の環状エステル(ラクトン)と 環状カーボネートを用いた開環重合による高分子量の脂肪族ポリエステル
 カーボネートの製造。

7. ポリエステルアミド
     -(-NH-R2-CO-)n-(-O-R1-CO-)n  
   環状エステル(ラクトン)と環状アミド(ラクタム)の開環共重合。  
   ε−カプロラクトンとε−カプロラクタム
  
8. ポリウレタン
    ジイソシアネートとジオールでウレタン結合(-NHCOO-)
   ジオールにエステル型またはエーテル型ジオール
   イソシアネートとして脂肪族イソシアネートであるヘキサメチレンジイソシアネートOCN-(CH2)6NCOや
  イソホ(フォ)ロンジイソシアネート
  ポリウレタンの生分解性はよくない、特にエーテル型は生分解されにくい。

 ・ポリエステルポリウレタン  
  ジカルボン酸・グリコール型脂肪族ポリエステル(ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート)
 あるいは PHAとポリイソシアネートを付加反応。  

 ・ポリエーテルウレタン   
  ポリエチレングリコールなどとポリイソシアネート

9. ポリ酸無水物
   -ORO-CO-
  脂肪族ポリ酸無水物は加水分解速度は速いが融点が低く、機械的性質が劣る。

〔U〕 ポリアミノ酸

10. ポリアミノ酸

  PHAはエステル結合が水素結合を有しないため容易に生分解されるがポリアミノ酸ではアミド結合が分子間あるいは分子内で
 強固な水素結合を形成するため生分解されにくい。

10−1. ポリアミド4 (ポリα−ピロリドン)
    
    ポリアミド4は、ピロリドン(ラクタム)を開環重合することにより合成される生分解性高分子材料。
   γアミノ酪酸H2N-CH2-CH2-CH2-COOH

 *ラクタムは、アミノ酸の分子内のカルボキシル基とアミノ基が脱水縮合して生成した環の一部に-CO-NR-    
  (Rは水素でもよい)を含む環状アミド化合物。

10−2. ポリアスパラギン酸
 
  アスパラギン酸 (2-アミノコハク酸) (COOH)CH2CH(COOH)NH2
  アスパラギン酸の重縮合で得られるポリスクシンイミドを加水分解。
  ポリスクシンイミド    ポリアスパラギン酸
  ポリアスパラギン酸を製造する方法はアスパラギン酸を原料とする方法と、マレアミド酸、マレイミド、およびフマル酸
 または無水マレイン酸とアンモニアなどを 原料とする2通りの方法に大別され、ポリコハク酸イミドとなり得るモノマーを
 熱縮重合してポリコハク酸イミドを得て、次いでそれを加水分解する。
   無水マレイン酸   マレイミド
  HOOCCOOH  フマル酸
  H2NCO-CH=CH-COOHマレアミド酸

  *α-アミノ酸 OHとCOOHが同じCに結合    
  αオキシ酸(ヒドロキシ酸)は、アミノ酸のα-アミノ基をヒドロキシ基に、乳酸はアラニン・・・

10−3. ポリグルタミン酸
   

  グルタミン酸 HOOCCH2CH2CH(NH2)COOH
 納豆のネバをつくっている成分、ただしこれは低分子量。架橋型は保水性をもつ。   

10−4. ポリリジン
  
  食品添加物

11. ポリデプシペプチド
    -R-NH-CO-R'-O-CO-
    分子内にエステル結合―CO−O−とペプチド結合−CO−NH−の両方を有する。
  デプシペプチド共重合体は,高融点 (100℃以上)だが合成が困難。

   *デプシペプチド:アミノ酸とα-オキシ酸(α-アミノ酸のアミノ基をヒドロキシ基に置き換え)で構成されるペプチド
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