ガラスの理論(ガラス転移とガラスの構造)   

 <序>
 以下の記述は素人がインターネットで仕入れた知識であり、そのための限界、欠点があることを弁えて参考にしてほしい。
 (未完成)

0.ガラス 

 広義にはガラス転移とは高温で無秩序な運動をしていたある自由度が温度低下により結晶(規則、秩序)化せずに
無秩序なまま凍結(固化)することで、自由度が原子、分子主鎖の重心位置(並進運動)である場合が通常のガラスで、自由度がスピン
、ダイポール(双極子)等(配向)の場合はスピン・グラス、ダイポール・グラス等々となる。

 *Angellは以下のガラス分類を示唆。
   重心無秩序ガラス
   配向無秩序ガラス  柔軟性結晶
      4重極子無秩序
      2重極子無秩序

 
  (Brandら)

 伝統的ガラスは冷却固化によって製造されるが現在はガラスは種々の方法で製造される。
 ガラスとは結晶化させずに堅いrigid状態に冷却した溶融fusion無機生成物(ASTM)。

 *流体と固体(弾性体)を区別するのは粘性と弾性(フックの法則)の区別であるが、ガラスは粘度が大きくなった状態で粘弾性的ともいわれる。

 熱力学的定義としてガラス転移点の存在、構造的には近距離秩序はあるが長距離秩序はない、製法的には液体を結晶化させずに
冷却固化させたもの。(巾崎)

 *ガラスとアモルファスあるいは無定形の違いは?通常金属ガラスとアモルファス金属の違いはガラス転移点の存在とされる。
  アモルファス・ガラスは急冷によるため冷却によるガラス転移点は確認できないし、昇温でガラス転移温度を示す前に結晶化する。

1.ガラス転移

1−1. ガラス転移の特徴 

 ガラスは冷却により徐々に粘性的になりついに平衡からずれ固化する。これは結晶化を避けるように十分に急速冷却することで
すべての液体に起こる。ガラス形成能力は普遍的で原子、分子の性質によらない。

 緩和時間τ=100s、粘性率η=1012Pa・sになる温度を通常ガラス転移温度Tgとする。
 ガラス転移温度Tgは冷却速度に依存。(とはいっても著しい変化をさせることはできない、特に徐冷で温度をさげることには限界がある)

 
 結晶とガラスの緩和時間

 平衡でない、配置が固化、比熱・圧縮率等の物理量が急変、遅い運動(slowing down遅化)が出現などの特徴を持ち、特に
動的な性質(緩和時間、粘性率など)が12桁以上変化するのに静的な性質(体積など)はわずかしか変化しない、あるいはほとんど
構造変化がないのに動的な性質の大きな変化が起こる。(構造変化を伴わない動的現象)
 体積、エンタルピー、エントロピーはガラス転移前後で連続的で分子構造の変化はない。
 熱膨張係数、比熱は液体より小さい(分子の再配向、運動は寄与していない)
 ガラスの動径分布関数と液体のそれには大差はなく、ガラスは液体構造を受け継ぎ、長範囲秩序はない。
 即ち平衡から非平衡への擬似転移、熱力学的2次転移ではなく動力学的(緩和)過程であるが、種々の熱力学関数に異常現象を生じる。

 ガラス転移はEhrenfest的意味で2次相転移に似ている(体積とエントロピーは連続的だがその導関数は非連続的)が
転移過程は連続的で冷却速度に依存し再加熱でヒステリシスがあり、真の相転移ではない。
 ヒステリシスが本質的にガラス転移と結びついている。また冷却速度が遅くなるとガラス転移温度は下がる。

 ガラスは非指数的緩和、緩和時間の温度依存性の非アレニウス性、有限な緩和の非線形性という特徴をもつ。
 即ち
 ・熱・機械的・電気的摂動に対しての安定状態への緩和は非指数的。
 ・緩和時間ないし粘性率の温度依存性の非アレニウス性(熱揺らぎにより克服される障壁に支配されるのであれば
 アレニウス的でなければならない→活性化エネルギーは温度の関数→温度低下で活性化エネルギーが上昇!)
 ・有限で小さな摂動に対する緩和の非線形性(同じ温度範囲のジャンプでも温度変化開始温度によって緩和速度が変化、
  温度ジャンプ量に対し非線形) →Kovacs効果
  
  (Kohlerら)

 ガラス転移はモード結合理論ではエルゴード−非エルゴード転移、トラッピング拡散モデルでは拡散のガウシアン分布から
非ガウシアン分布への転移とされる。(巾崎)
 
 液体は平衡状態では粒子は熱的揺らぎによって運動し個々の粒子は無相関に拡散するが、温度が下がりガラス状態に
近づくと個々の運動は凍結、強い相関を持った協同運動だけが生き残る。
 動的性質の変化は粒子の協同運動を反映し、これが動的不均一性を生じさせている。
 ダイナミクスでは個別・連続運動から集団・ジャンプ運動への動的変化が生じている。

○ デボラDeborah数とLillie数
    ガラスはデボラDeborah数が極めて大きい(緩和時間が観測時間より極めて大きい)という特徴をもつ。
     DN=τs/tobs>1  
    液体状態ではDN<1でガラス転移で1に近づく。
   観測時間という概念は曖昧でかつガラス転移温度の冷却・昇温速度依存性を説明できない→Lillie数
   ガラスはLillie number(Cooper&Gupta)が1のオーダー
     Li=dτ/dt=(dT/dt)・(dτ/dT)=q(dτ/dT)=定数≒1  q:冷却速度
    Lillie numberは転移温度幅を示す。
   *意味
     温度低下で平衡からの揺らぎが生まれ緩和速度が増加しΔτs>Δtで揺らぎが凍結あるいはガラス状態に分岐。(河村)
    
○ 1次相転移と2次相転移

Ehrenfestの1次相転移と2次相転移の特徴
1次相転移(不連続相転移)  
自由エネルギーの1階微分が不連続→体積、エントロピー等が不連続
潜熱が発生
界面形成、相共存
準安定状態がある(過熱、過冷却)
<秩序変数が不連続に変化>
*対称性が同じ転移は不連続転移(気体⇔液体)、2つの相の対称性が全く異なる場合も不連続相転移。
2次相転移(連続相転移)
自由エネルギーの2階微分が不連続→比熱、圧縮率等が不連続(体積、エントロピー等は連続)で発散
 *正確には不連続と発散は異なるともいわれる。
前駆現象を伴う、あるいは臨界現象が存在。
一様に連続的に相転移、グローバルな性質に依存。
<秩序変数が連続的に変化>  *2次相転移にとって十分条件ではあるが必要条件ではないとも。
Landau-Ginzburg理論・・・低対称相と高対称相、原子の変位・分布のわづかな変化


1−2. 熱量的ガラス転移温度、1次導関数と2次導関数の温度変化

○ DSC(示差走査熱量測定)と熱量的ガラス転移温度Tg

   

 ・Wendt-Abrahamパラメーターの温度変化によるガラス転移温度
    Wendt-Abrahamパラメーター R=gmin/gmax   敏感な測定法
     gmin:RDFの第1極小値、gmax:RDFの第1極大値 RDF:動径分布関数


    RDFの例                            Wendt-AbrahamパラメーターによるTg例

  
    非周期凝縮相の体制(Lubchenko)

○ 1次導関数の温度変化
   
   融点で結晶化せずに過冷却液体となりガラス化する。
   1次導関数はガラス転移温度で連続的に屈曲。
   Kauzmann温度TkとKauzmannパラドクス

   

○ 2次導関数の温度変化

  比熱(2次導関数)は結晶化では不連続に急変(発散)するがガラス化では連続的に急変する。 

   
       比熱の温度変化(Angellから)                         エンタルピーと比熱の温度変化(Dyreから)

○ 低温比熱異常とボソンピーク
   アモルファスの低温熱容量はデバイ則(T則)からはずれ、1K以下に温度に比例する過剰熱容量が存在し、
  5−10°Kで極値をとり、(Cp/Tのこぶ)これはボゾン・ピークに対応。 
   熱伝導率は1K以下でTに比例し5−30Kにプラトー。

   1K以下の過剰比熱 →2準位系のトンネル励起
   5−20Kの過剰比熱   →2−3meVの励起、ボソンピークに対応

   *Andersonらの2準位系two-level system理論(1972年)
    低温でのガラスの熱伝導率、熱容量の温度依存性
    ガラスに特有な低エネルギーの励起の存在。
    トンネル分裂によるエネルギーの2準位系が多数存在。

○ Gruneisenの関係
    γ=αV/(βCv)  β:圧縮率、Cv:比熱、α:膨張係数、V:比体積

1−3. Kauzmann温度とKauzmannパラドクス

 ・Kauzmann温度Tk
  過冷却液体のエントロピー(あるいは比体積)は結晶のエントロピーより急速に減少し、過冷却液体のエントロピー曲線
 を外挿(ガラス転移温度以下で)して結晶のエントロピー曲線と交わる温度をKauzmann温度Tkという。
     Sc=ΔCp(T-T0)/T  dS=ΔCpdT/T=ΔCpdlnT
  
 ・Kauzmannのパラドクス
  過冷却液体のエントロピー曲線を外挿すると(Tk以下で)結晶より小さくなり、0°Kでは負となり熱力学第3法則に反する。
  →熱力学的相転移を示唆する。
  Tgは低冷却速度で下げることができるからそれが可能なら液体はTk以下でも平衡となる。

 ・残留エントロピー
  ガラスはT=0°Kでも有限なエントロピーをもつ。

 ・過剰配置エントロピー 
  ガラスと結晶のエントロピーの差(ガラスのエントロピー>結晶のエントロピー)
  配置エントロピーは系のなかでとりうる状態数を反映する。
  
  このようなガラスのエントロピーは熱力学的量ではない→履歴に影響される→実験時間内ですべての可能な統計力学的微小配置 
 をとれない→エルゴード性が破れている。

 *エントロピーの温度変化
   液体の配置エントロピーは温度低下による部分的秩序化(クラスター形成)により低下し、結晶化で構造に関するエントロピーを
  失い振動エントロピーだけが残るが、ガラスの場合は過冷却液体状態で部分的秩序化がガラス転移温度まで続く。
 
   液体の部分的秩序化とエントロピー変化(山室ら)

1−4. エルゴード性 

 液体の平衡状態から部分的な熱平衡状態しか達成されていない非エルゴード的状態への転移がおこる温度がガラス転移温度。
 すなわちガラスは実験時間のスケールで可能な全ての原子配置をとることができず、ガラス相は可能な多くの等価な準安定状態から
ひとつの状態を選択する。
 FLE描像では複数のベイスン(自由エネルギーの谷)がありベイスン間の移動は困難となる。

1−5.  Prigogine-Defay比 

   Tgでは
   ΔV=Vl−Vg=0、ΔS=Sl−Sg=0 とすると
    ΔV=VgΔαdTg−VgΔβdp=0
    ΔS=ΔCpdTg/Tg−VgΔαdp=0
   従って
    dTg/dP=Δβ/Δα
    dTg/dP=TgVgΔαp/ΔCp
   これより
    Δβ/Δα=TgVgΔαp/ΔCp
   即ち
    Π(Prigogine-Defay比)=ΔCpΔβ/{TgVg(Δα)}=1

   一般的にはΠ>1
   通常dTg/dP=TgVgΔαp/ΔCpは満足されるがdTg/dP=Δβ/Δαは満足されない。
   過剰体積Veが一定ならdTg/dP=Δβ/Δαが成立、過剰エントロピーが一定ならdTg/dP=TgVgΔαp/ΔCpが成立。
   補正dTg/dP=(Δβ+δVp/V)/Δα

   あるいは2次転移のEhrenfestの式dTg/dP=Δβ/Δα、dTg/dP=TgVgΔαp/ΔCpから。

2. 緩和  

2−1. 拡散

 ガラス動力学での非フィックス性
  時間相関関数の緩和の非指数性
  平均2乗変位の中間時間スケールの副拡散プラトー
  Van Hove自己相関関数の非ガウス性
  
 液体は高温では個々の分子は互いに相関なくランダムに動き回るブラウン運動(拡散)を行うがガラス転移点に
近づくとcage効果の影響を受けるようになる。
 
 ガラス転移点近くの過冷却液体は以下の3つのスケールの運動を行う。
  アインシュタイン振動数程度の時間スケール(〜10−13sec)の原子振動
  比較的大きな位置の揺らぎ(〜10−11sec)  →β緩和
  原子間間隔程度のジャンプ(〜10−9sec)   →α緩和

 ガラス転移点以下では離散的なホッピングによるジャンプ拡散行う。→待ち時間を有する

 ・cage(cluster、rmobile island)効果
  液体では分子はガラス転移点に近づくと隣接原子によって形成される籠cageに捕獲trapされるようになる。
  籠cageに捕獲trapされた分子は個々の粒子の細かい振動とは別の大きな距離を動くジャンプ運動あるいは
 個々の原子の微視的な運動とは別の周囲の原子を巻き込んだ(籠の再編)メゾスコピックな領域での協同運動(相関変位)
 を行うようになる。

 (河村)
   
○ 平均2乗変位、Van Hove時空相関関数、非ガウス・パラメーター
   
 ・平均2乗変位
   平均2乗変位<r>:ある決まった時間間隔での運動の始点と終点の距離の2乗の平均量、粒子の移動量の目安となる
   平均2乗変位時間依存性 3領域 
     tが小さいとき <r>∝t  バリスティック領域(熱振動)
     時間が大きくなると温度により大きく変わる
      高温では<r>=6Dt+a D:拡散係数
      低温ではTgに近づくにつれプラトー領域が生じる。

   デバイ・ワラー因子M∝<r

   
     Cu原子の平均2乗変位と非ガウス・パラメーターの時間依存性(Bakai、60Ag−40Cu、Sutton-ChenポテンシャルMD)

 ・Van Hove時空相関関数の自己部分
   Van Hove相関関数Gs(r、t)の自己部分:ある粒子の時間tで位置rでの確率 
    低温では時間が長くなるにつれて第1ピークが低下し3Å付近に第2ピーク発生し成長。

   
     時間tでの位置rでの確率(Bakai)

 ・中間散乱関数S(Q,t)   
   時間差tで見た密度の空間周波数成分Qの相関を表す。(時間自己相関関数)
    S(Q,t)=<C(Q,t)C(Q,0)>/N C(Q,t):散乱振幅
   van Hoveの時空相関関数G(r,t)の空間に関するフーリエ変換として定義。
     
   中間散乱関数は動的光散乱から間接的に、中性子散乱から直接得られる。
   
 ・非ガウス・パラメーター
   粒子の運動のガウス分布からのずれ
    非ガウス・パラメーターは変位の2次、4次モーメントより
   
   温度低下とともにピークは長時間側に移動し成長

2−2. 緩和

  構造緩和・・・熱力学的量の緩和(平衡へ向かう)
   比体積(体積)、密度の変化
   エンタルピー緩和 ・・・DSCなどによる分析 → H=∫ΔCpdT≒ΔCp(Tg−T)
     ΔCp:準安定ガラスとの差
  誘電緩和
  屈折率緩和


2−3. 緩和のダイナミクス 

    
      相関関数(中間散乱関数)                        液体の動力学のアレニウス・プロット(Donth)

   
   Donthの説明(Donthの図のcが通常MCTのβ過程でaがα過程)

○ α過程  遅いslow過程   
   温度依存性が非アレニウス型という特徴をもち、ガラス転移により凍結する。構造緩和と関係。

   MCTでは籠に捕まった粒子が籠から抜け出す運動(ジャンプ運動、ホッピング、拡散)、長時間運動不均一性
   
○ β過程(JG Johari-Goldstein mode) 速いfast過程
   非デバイ型のブロードな対称緩和関数、アレニウス型温度依存性。α過程より速い過程。
   誘電損失ε”ではα過程に関係するピークに付加する第2ピークとして生じ(B型)、温度に依存するがα過程の後の
  Hz〜MHz領域に観測される。
   あるものではβ過程は見られず、αピークの高周波側に浅く冪則で減少する過剰翼excess wingとして出現する(A型)。
                     
   MCTでは籠cage内でのガタガタ(振動)運動、短時間の粒子レベル不均一性。
   1.2Tg以下あたりからα過程から分岐して出現する。
   MCTのβ過程(fastβ過程)はGHz−THzに出現しJohari-Goldstein modeと同一のものかは論争がある。
   
   β過程はslowβ過程(Johari-Goldstein mode)とfastβ過程(温度に依存しない)に分けることがある。
   ガラスに普遍的と考えられる過程をJohari-Goldstein mode。

   α過程の過剰翼excess wingの存在とslowβ過程の関係、α過程とβ過程の結合couplingと分離decoupling、緩和は全ての分子が
  関わっているのか易動性の島内の分子だけが関わっているのかなどが論争となっている。
   
   
        温度による緩和の分岐(Rosslerら)

     ブロードバンド誘電応答(Kohler)

 ・β過程の説明理論
   全ての分子のほぼ温度に無依存な小角再配向運動という説と密度揺らぎの凍結による疎な充填サイトに閉じ込められた少数の分子
  ないし分子集団の再配向運動という説が主要なものである。
  (高分子ガラスでは側鎖の運動とされる)

   活性化エネルギEβ〜24kTg Kudlik(1998年)

  Johariの易動性の島islands of mobility
    低密度(易動性の島)分子が部分的に再配向できることでβ過程が引き起こされる。
    易動性の島はガラス状マトリクスの中の緩やかに詰まった分子の孤立領域。
    β過程は並進拡散と関係している。
  Williams-Watts
    すべての分子の小角再配向small angle reorientation
  Arbe
    すべての分子の大角再配向
  Dyreの極小モデルminimal model
    最近の改良実験でα緩和の過剰翼にはβ過程が潜在することが確証された。
    ガラス(低温)では損失ピーク周波数は強く温度に依存し一方極大損失はあまり変化しないが平衡液相では損失は強く温度に
   依存し損失ピーク周波数は加熱で減少するという液体とガラスのβ緩和の違いから速度rate理論によって規定される2つの自由
   エネルギー極小を転移する標準非対称2重井戸ポテンシャルモデルを採用。
    非対称エネルギー差が0になる温度はα緩和とβ緩和が混ざる温度に近い。
    
       トリプロピレン・グリコールのβ緩和の損失ピーク周波数と損失ピーク極大

  Ngaiの結合モデルcoupling model
  Gotzeのモード結合モデルMCT

○ ボゾン・ピーク
  Tgより十分低い低温での低エネルギー(meV)励起、速い過程、強度はボーズ因子によりスケールでき
 (強度はボーズ因子に従う)、温度とともに増大。
  5−20Kの過剰比熱。振動スペクトルの低周波数(THz、数十cm−1)の異常挙動としても現れる。
  通常のデバイ挙動に対するTHz領域での格子振動(フォノン)の状態密度の過剰寄与。
  ガラスは弾性的挙動をするという意味で固体的でありフォノン型励起が存在し、特徴的なのがボゾン・ピークである。
  ボゾン・ピークは赤外吸収、ラマン散乱、非弾性中性子散乱、非弾性X線散乱で観察される。
  ガラスに普遍的とされる。

  
  換算比熱(Zeller)

  ボゾン・ピークはガラス転移理論に関係する典型長と等しい数nmの波長を持つ(振動スペクトルの)音響フォノンのエネルギー領域に出現する。
  音響的様相を示し、最大周波数νは特性長スケールλと関連付けられν〜v/λ、無機ガラスではvは5000−7000ms−1
 λは数nmで密度揺らぎの寸法に等しい。(Greaves) 

  非弾性中性子散乱では振動状態の密度DOSに広い成分を生み出し、ラマン・スペクトルでは励起は非常に無分散dispersionless
 で分子状であることを示唆。strongガラスでは過剰度は大きく、fragileガラスでは過剰は小さい。
  過剰振動の性質が音響的か光学的かは依然議論となっている。(Foret、Vacher)

  フォノンの自由度に対応するか、付加的調和励起に対応するか、
 集団的運動(結晶類似)(Schirmacher1998、Taraskin2001、Grigera2003、Masciovecchio2000、Buchenau1996、Sokolov1999)か、
  それとも局在運動(Gurevich2002、Sokolov1991、Buchenau1984、Colmenero1993)から発生するか・・Chumakov
  集団的性質(Schirmacher1998、Kantelhardt2001、Taraskin2001、Pilla2000)か、局在的性質(Buchenau1992、Foret1996)かは
 議論となっている・・Lunkenheimer

  ガラスの静的乱れstatic disorderにより誘起された高エネルギー振動モードの局在説と集団的伝播モードが高周波数まで持続説の
 2つの考え・・Masciovecchio
  典型的サイズの原子クラスターの振動説あるいは静的乱れによる音響フォノンのソフト化説・・Gurevich

 Vanerの分類
  マイクロスコピック起源の種々の振動励起
   固有乱れにより誘起された強く局在化した励起(schober1991、Elliott1992)
   集団伝播モード(Schirmacher1998、Taraskin2001)
   ソフト・ポテンシャル・モデルでは乱れたマトリクスでの局在ソフトポテンシャル起源の準局在低周波振動モード(Karpov1983、Vaner1994)
   ソフトポテンシャルでの局在化した調和モードGurevich2003、Klinger1999
   ナノメーターサイズ構造領域での準局在化音響状モード(Duval1990、Schroeder2004、Quitmann1998)

 Greavesの分類
  密度ゆらぎからの散乱によるソフトフォノンの局在(Klinger1992、Elliott1992)
  ソフト・ゾーンによって分離された凝集性cohesive不均一
   ナノクリスタルの振動表面モード(Duval1986)
   分布した力定数をもつネットワーク(Shirmacher1998、Taraskin2001)
  振動・緩和結合デルBuchenau1994
  MCTとPELの統一Parisi
   
 ・主なボゾン・ピーク理論
  Martin-Brenig(1974年) ラマン散乱の極値と関連長を関係付けた。
  Elliott(1992年) 短、中距離秩序をもつ密度揺らぎ
  Sokolvの弾性定数の揺らぎ
  Duvalの周期約1nmの準周期構造のナノメーター構造の局在振動励起(2004年)、ブロッブblobに局在する振動(1990)。
  Buchenauの振動−緩和カップリング 
  Orbachのフラクトン(フラクタル構造上の原子振動の波)での調和振動励起。
  Schirmacherの力定数の無秩序分布
  Vacherの不規則音響モード
  Klingerのソフト・モード振動励起と相互作用する音響振動をもつ弾性連続体
  Gurevichの弱く相互作用する準局在調和振動  
  Granatoの格子間欠陥Interstitialcy
  Masciovecchioらの静的乱れによる音響フォノンのソフト化

○ その他の過程

 ・NCL挙動 nearly Constant Loss(速い過程)
   β過程が凍結された低温でボソンピークより低周波側の広い領域に観測されるほとんど周波数に依存しない誘電損失。
   イオン導伝性ガラスでは局部的ポテンシャル井戸に閉じ込められたイオンの振動と緩和に結び付けられている。
   あるいはイオン網目の低エネルギー変形と関連付けられる。

 ・γ緩和
    緩和(誘電緩和)は低周波(高温)側からα、β、γ、δ・・・と名づけられ、α、β緩和以外のγ、更にδ緩和等が
   出現する場合がある。
    高分子ガラスではγ、δ・・・は側鎖や官能基の運動と結び付けられることが多い。
    α緩和は協同的運動である点で他と区別される。
    α、β、γとより速い過程となっていく。

2−4. 緩和関数

  過冷却液体に急激な温度変化を与えると新しい平衡状態に近づいていく→緩和

  デバイ型緩和は指数関数的に変化するので応答関数は
       φ(t)=φexp(−t/τ)

  ガラス転移領域の緩和は非指数、非線形なのでKohlrausch Williams Watts(KWW)型の拡張指数関数  
       φ(t)=φexp〔ー(t/τ)β〕   0≦β≦1
  温度が下がるとβ小さくなる
    βが小さい→複数の緩和過程が存在→動的不均一性  
    βが小さくなる→分布広がる→不均一性増大 
        
○ ガラス転移温度付近での緩和時間の温度依存性

 ・TNMの式 Tool-Narayanaswamy-Moynihan    
    τ=Aexp〔xΔH/RT+(1−x)ΔH/RT〕  0≦x≦1 x:非線形性パラメーター

 ・KAHRの式 Kovacs-Aklonis-Huchinson-Ramos
     τ=τirexp[−θ(T−T)−(1−x)θδ/Δα)] θ≒ΔH/(RTg) 


2−5. 物理的エージング

  非常に遅い緩和が物理的エージング 
  →ガラスでは履歴依存性(ヒステリシス)、記憶効果を示す

  クェンチ(急冷)やせん断(シア)などの外力を付加し緩和(エージング)させながら動的性質(応答関数の変化、レオロジー特性)
 を見る。応答関数(感受率)の変化を経過時間(待ち時間)tの関数とする。

 ・自己相関関数C(t、tw)と応答関数R(t、tw)(Susceptibility:感受率)
    外場h、磁化m(t)
   C(t、tw)=m(t)m(tw)
   R(t、tw)=δm(t)/δh(tw)
   m(t)=h∫dt’R(t、t’) (線形応答)
   示量変数−弾性率型、示強変数−コンプライアンス型

 ・記憶効果
   ガラス転移領域以下の温度での構造や物性は熱力学的変数だけではきまらず履歴に依存。
   温度を元に戻すと”緩和の続き”が再開する。

 ・若返りRejuvenation(緩和再初期化)
   エージング途中で温度を変えると初期化する(エンタルピーの回復)、これをもとの温度に戻すともとの曲線に戻る(記憶)。
   
○ Kovacs効果 

  体積緩和が熱履歴に支配される(体積が単調な時間的変化を示さない)  →記憶効果
  ある同一液体温度Ti(平衡状態)からある異なる温度Tlに急冷し、平衡する時間ta保持し(v(∞))てから再びあるTに近い
 同一温度T(T<T<T)に急加熱保持したときの時間的体積(v(t))変化(δ(t))が急冷温度Tlにより異なる。
  Tに急冷したものは一旦体積が増加してから、TからTfに急冷したものの体積緩和曲線と一致していく。
   δ(t)=(v(t)−v(∞))/v(∞)   v(t):時間tにおける体積、v(∞):平衡体積
  δ(t)は正負の温度ジャンプに対し非対称で(最初の出発平衡状態に対し非線形性)、数温度のジャンプに対し記憶効果がある
  δ(t)は非指数的、体積回復の指数的動力学

  
       Kovacsの実験(Kovacs)

  
   Moynihan

 ・Kovacsのτeffパラドクス  ・・・議論がある
   有効時間τeff  τeff−1=−dδ/δdt
    δ→0(平衡に近づく)でもτeffは同じ点に収束しない、路程pathに依存。(体積回復の平衡移動は路程pathに依存)
    膨張ギャップexpansion gapの存在 →正の温度ジャンプでτeff曲線が拡散する。

 ・体積回復の現象論モデル

  KAHRモデルKovacs-Aklonis-Hutchinson-Ramos
   回復過程は多くの副過程に分解され、各過程はいくつかの内部パラメーターで代表され、平衡からの総偏差は各副過程の
 平衡からの偏差の和。
   平衡接近速度は平衡からの偏差に比例
   dδi/dt=−qΔα−δi/τi  q:温度変化速度、Δα:過冷却液体とガラスの熱膨張率差
    τ→KAHRの式

  Moynihanのモデル
   パラメーターδの展開はKWW関数により決定される。

  Ngai-Rendellの結合モデル
   等温マクロ動力学過程は準線形速度式に従う。
   dδ/dt=−δ/τtβー1 τ:
  
○ 仮想温度
   緩和の非線形性はKovacsのパラメーターのほかにToolの導入した仮想温度によって示される。
   仮想温度は非平衡状態を規定する熱力学的パラメーター。

 ・Tool(1946年)
    仮想温度とはあるマクロな特性をもつガラスが平衡となる温度。
    →十分高い温度(T)で十分アニールして平衡状態とする

    比体積の温度変化で定義
       TはTでの仮想温度
     
     Tが転移範囲より上ではT=T
     転移範囲では液相の直線とガラスの直線に平行な線の交差点
     転移範囲以下では液相の直線とガラスの直線の交差点

    Toolの定義の意味(Mauroら)
  
      A:巨視的物理量
    
    あるいは
    dT/dt=(T−T)/τ  dT/dt=(dT/dT)(dT/dt)=βdT/dT  β:冷却速度
    
    
    
 ・Narayanaswamy(1971年)
 

  一般的にある特性pに対し
  

   TNMの式 τ=Aexp〔xΔH/RT+(1−x)ΔH/RT

 ・Moynihan(1976年)
    
  あるいは  

     T−Tα=δ/Δα  Δα=α−α   δ=(V−V)/V
     Tα:エージング温度、α:熱膨張係数

   限界仮想温度T
    →Moynihanの式

   
    
  
 ・Markovsky(1984年)
   Narayanaswamyの式を基にした計算式(アルゴリズム)

 ・Hodgeの式(1985年) またはScherer(1984年)
    τ(T,T)=Aexp〔B/{T(1−T/T)}〕    ・・・非線形アダム・ギッブスの式
      τ(T,T)=Aexp〔B/(TS(T))〕  →Sc(T)=∫ΔCp(T)dT/T、ΔCp(T)=CT/T  
           T:配置エントロピーが0になる温度

 ・Scherer(1990年)
   
   Scherer(1990年)によるTとTの定義

 ・Mazurin(1977年)
    

 
 1次熱力学特性(Scherer)と2次熱力学特性(Moynihan)による限界仮想温度T’の定義(Lang から)

 ・Ritlandの批判
  異なる冷却方法(定速とアニール)で得た等しい屈折率のガラスで異なる電気導電性をもつ。
  単一の仮想温度で非平衡ガラスを記述することは不適当。

 ・仮想温度Tの測定

 Galeenerのラマン散乱スペクトルによる方法
  D1(495cm−1、平面4員環起因の欠陥)とD2(606cm−1、平面3員環起因の欠陥)ピークの面積強度、アウレニウスの式に従う

 Agarwalらの方法
  2260cm−1(Si−O−Si非対称振動の倍音)周辺の赤外吸収帯の位置
  (赤外吸収スペクトルは456cm−1(横揺れ)、800cm−1(変角)、1100cm−1(伸縮))

 Schroederらの方法
  Landau-Placzek ratio RLPから
   RLP=(ρβ−1))T/T ρ:密度、v:音響速度、β:等温圧縮率

 ・非線形パラメーター
  TNMの式のx
   x=mmin/m〜(1−TTg)  (Hodge)

  
  (Hodge) TNMのxとKWW関数のβ

  KAHRの式のx

2−5.揺動散逸定理の破れと有効温度

○ ガラスでのFDTとTTIの破れ

 ・揺動散逸定理FDTの破れ Violation of Fluctuation Dissipation Theorem

  揺動散逸定理
   自発的揺らぎの緩和と弱い外部摂動への平衡系の応答の関係、平衡系での線形応答関数(Susceptibility:感受率)と平衡揺らぎの関係
   応答関数は温度によって与えられるプリ因子により熱揺らぎのパワー・スペクトル密度に比例

   ある物理量の自己相関関数C(t、tw)と共役な線形応答関数R(t、tw)、tw:待ち時間(経過時間)

    平衡状態での揺動散逸定理
     R(t、tw)=−β∂C(t、tw)/∂tw
       β=1/(kT)

    非平衡状態でのCugliandoloらの式
     R(t、tw)=X(t、tw)・∂C(t、tw)/(T∂tw)=∂C(t、tw)/(Teff∂tw)
     
 ・時間並進対称性TTI Time Translational Invarianceの破れ

  通常の物質は速やかに平衡化に達するのでtwによって測定結果は変わらないが、ガラスでは平衡に達するのに時間がかかるのでtwによって
 測定結果が変わる。
 
  Castilloの説明

○ 有効温度Teff effective temperature
   非平衡系を規定するため非平衡揺らぎを応答関数と関係付ける。

   Teff=T/X  :R(t、tw)vs C(t、tw)曲線の勾配の逆数 dR/dC=X/T

    ガラスではXは2値関数、短時間ではX=1、トリビアルではない長時間ではX=m<1
    Teffより上ではm=1で、低温ではTeffまでは系の温度に比例。

   Teffはアインシュタインの関係を示す。
        r:粒子位置、f:摂動場定数

○ Edwardsの配置温度 Configurational Temperature
  粒状媒体Granular mediaに関する議論からEdwardsらが定義

  動力学は機械的に安定な状態(ブロックされた配置blocked configuration)によって支配され、与えられた体積(拘束)と両立する
 機械的に安定な配置は統計的に等価とし、配置エントロピーConfigurational entropy S(V)とCompactivityを定義。

   配置エントロピーConfigurational entropy S(V) :体積Vと両立するブロックされた配置の数
   Compactivity :系の平衡からのずれとしての示強変数
     X=∂V/∂S  S(V,E)=λlnΩ  λ:未知のボルツマン定数類似数
   配置温度 Configurational Temperature
     Tedw=∂E/∂S

  有効温度Teffと配置温度Tedwは関係あることが示されている。(浴温度bath temperatureゼロで一致)

3. ガラスの粘性係数の温度依存性 

  平衡液体から過冷却液体の緩和時間あるいは粘性係数の温度依存性

○ 緩和時間τと粘性係数η 

    η=Gτ  G:高周波せん断弾性率(瞬間ずり弾性率)

  Maxwellの緩和時間はマクロな応力緩和を決めるだけではなく分子変位ないし再配向も決める。
  Gはケイ酸塩ではガラス転移温度付近であまり温度依存性がなく1010Pa。
    FrenkelモデルではG→RT/(3πV)  V:分子容積
    絶対速度理論ではRT/V
  で理論的には10−10Pa。
 
○ アレニウス型

 ・Andradeの式(1930年) 
   η=Aexp(E/RT)   logη=A+B/T

   De Guzman(1913年)、Arrhenius(1916年)、Frenkel(1926年)らの先行する理論 

   Eyringの式(1936年)
    液体の粘度は空孔が介在
    η=(Nh/V)exp[ΔG/(RT)]   V:モル容積、ΔG:活性化エネルギー

   Frenkelの式はη=ATexp(E/RT)

○ 非アレニウス型

 ・Vogel-Tammann-Fulcher則
  
  η=ηexp(B/(T−T))=ηexp(DT/(T−T))   logη=A+B/(T−T

  η=10−5Pa・s、ηTg=1012Pa・s →T/T=1+0.0255D

 ・WLF Williams-Landel-Ferry

  周波数依存性と温度依存性が等価→マスター・カーブが得られ、これからの移動量→シフト・ファクターa
  loga=−[C(T−T))]/(C+T−Tg)
 ここで
  loga≒log[η(T)/η(T)]=log[τ(T)/τ(T)]
  C=51.6、C=17.44
  もともとは非結晶性高分子でT=Tg+50℃を基準とし T<T<T+100℃ で成立

○ その他の形式(ガラス理論関係)

 ・Avramovの式
  エントロピーに依存する種々の高さの活性化エネルギー障壁の存在から拡張指数温度依存性を採用
  η=ηexp[ε(Tg/T)α

 ・Ojovan(2指数形)  
  Configuron理論から
  η(T)=AT{1+Aexp〔B/(RT)〕}{1+Cexp〔D/(RT)〕}

 ・Douglas
  酸素原子の流動がSi−O−Si結合の切断によって制限されるエネルギー障壁によって分離された二つの異なった位置を
 占めることができるという仮定
  η(T)=ATexp〔B/(RT)〕}{1+Cexp〔D/(RT)〕}

 ・Bendler-Shlesinger
   欠陥拡散モデル
   η(T)=ηexp〔B/(T−T1.5γ〕  mean field limitでγ=1  

 ・Colby
   T以下ではサイズ・スケールは広い分布で、再配置領域は3次元でなくフラクタルで、ξの多数は協同事象に参加しないとし
      T<T<Tではξ〜〔(T−T/T)〕−3/2よりη∝ξexp{E/(kT) 
   より
     τα∝[(T−Tc)/Tc]−9exp{E/(kT)}  (T>Tではτα〜η/T〜exp{E/(kT)  ブラウン運動)
   ここで T(Caging温度)>T>Tg>T
     T:すべての分子が隣接により籠閉じ込めされるクロスオーバー温度、典型的にはTより約20K以下

 ・Bassler-Richert   
   乱歩random walkモデル
   η=ηexp(B/T
   一般化すると=ηexp(B/T

 ・Cohen-Grest
   η=ηexp(B/vf)  
   vf=T−T+[(T−T+CT]1/2

 ・べき乗形
   Mode Coupling 理論
   η(T)=A(T−T−γ

 ・Buchenau
   原子の振動運動の平均2乗変位<u>に関係
    <u>locは過冷却液体と結晶の差(非調和振動と調和振動)

 等々・・・

○ デカップリング

 ・並進拡散translatinal diffusionと粘度、回転拡散Drotational diffusionと並進拡散Dとのデカップリング 
   D=kT/(6πηR)   Stokes-Einsteinの関係
   D=kT/(8πηR)  Stokes-Einstein-Debyeの関係
  過冷却で並進拡散のStokes-Einsteinの関係が破れる(T/ηに比例しなくなる)
   →並進拡散と粘性率のデカップリング
  Tgに近づく(1.2Tg)と並進拡散がStokes-Einsteinの関係より速くなる。(D∝(T/η)ξ ξ<1)
  回転拡散と粘度はTg付近でStokes-Einstein-Debyeに従う。
   →並進拡散と回転拡散のデカップリング。

 ・粘性流動τ(不動イオン)と直流導電性τσ(可動イオン)の緩和時間のデカップリングR=τ/τσ
   Tgではτは約100秒、一方ケイ酸塩ガラスではτσは約10−9秒。

○ 特性長(拡散長) 
  
 ・緩和に要する拡散距離(拡散長) 
   D=l/t  l:平均拡散長  →アインシュタインの関係
  同様に摩擦係数ξで
   D=kT/ξ
  ストークスの法則より
   ξ=6πηr
  従って
   l={1.48x10−11・τ/(6πrη)}
  τ=200s、r=1Å、η=1012Pa.sとすると  l≒0.2Å

4.ガラスのFragility、StrongガラスとFragilガラス

4−1. Angellプロット

   平衡液体から過冷却液体での粘性係数(緩和時間)の温度変化

   横軸:Tg/T、縦軸:粘性係数
    アレニウスArrhenius則に近い →Strongガラス
               外れるほど  →Fragilガラス

  Fragilityの定量化→Fragilityパラメーター
    Vogel-Tammann-Fulcher(VTF)則  
    
  Fragil、Strong
   方向性結合のないガラス形成体(ファン・デア・ワールス、イオン結合)はFragilガラスとなり、Strongガラス形成体と中間ガラス
  形成体は共有結合あるいは水素結合ネットワークで安定した短・中範囲構造をもつ。

  Fragilityはもともと熱的構造安定性によって名づけられた。Fragil液体はガラス転移温度付近での温度上昇で急速に配置構造が破れ、Strong液体
 構造は温度によって大きくは変化しない。
  この文脈では配置構造は最隣接配位数と第1接配位殻とアモルファス性を規定する長距離無秩序さの間に潜在する中範囲秩序と結びついている。
  構造の温度依存性の違いは、Fragil液体は温度により急速変化する配置エントロピーから生じる大きな配置熱容量を持ち、Strong液体は小さな
 配置熱容量をもつことである。
  最近はFragilityはスケーリング因子により構造緩和時間の非アレニウス温度依存と同一視されるようになり、この分類法はUhlmann(1972年)に
 さかのぼれ、配置空間のポテンシャル・エネルギー超曲面の概念を用いた温度依存構造に結びついている。
  Fragilityの非アレニウスはVTF則で議論される。Fragilityの非アレニウス定義と熱容量変化の関係はAdam-Gibbs理論で議論される。(Hodge)


4−2. Fragilityパラメーター    

 ・Steepness index m
  局部的パラメーター(速度論的kinetic)
  logη−Tg/T曲線のTgでの傾き
    m=d(logη)/d(Tg/T)=Eg/(2.303RTg)
  mが小→Strong→ガラスを形成しやすい
  
  τ=100s(Tg)、τ=10−14sでm=16
  シリカ〜20、重金属ハロゲンガラス〜200

   Adam-Gibbs式を利用すると
      
   Mohanty(2001年)
     mmin=log(η(Tg)/η
    配置熱容量と配置エントロピーの影響を受ける。

   VTF則を利用すると
     10−5Pa・sと10−12Pa・sを利用すると
     m=mmin+mminln10/D=17+590/D (Angell)

   Hodge(1996年)
      mmin=log(τ(Tg)/τ0
   T/Tが部分的にアレニウス挙動からのずれを決めるからFragilityはT/Tの関数。
   m=mmin/(1−T/T
    T/Tを除くとmmin≒16で(緩和では16、粘度では17)
   m=16+590/D=16+590T/B

  * Bをもつ形式のVFT則がアレニウス挙動になるにはT→0にならねばならない。一方B=DTで置き換えた形ではT→0で
   アレニウス式に収束せず(DT→0からτ=τ!)、実験的にはT→0でもB=DTは0でない。このためにはT→0でD=B/T→∞ 
   でなければならずこの矛盾がDの欠点である。VTF則がすべての物質に適しないのはTによって示される。

 ・VTF則でのstrengthパラメーターD(DT=B) 
  広域パラメーター
   m=17+590/D  (10−5Pa・sでmmin=17 または16±2)
    Dが大きいほどガラスはStrong
  Angellの関係
     Tg/T=1+0.0255D

 ・エントロピーから(熱力学的)
   Adam-Gibbs式から配置エントロピー項による定義(グローバル)
    K=TTkSc(T)/(T-Tk)  Tk:Kauzmann温度
     あるいはSc(T)−Tg/T曲線のTgでの傾き  Sex(Tg)/Sex(T)−Tg/T でAngellプロットと同様の曲線
    m=d(Sex(Tg)/Sex(T))/d(Tg/T)=Tg(Sex(Tg)/dT)/Sex(Tg)
      m=1+m

 ・速度論的Frajility F1/2 Richert-Angell(1998年)
    F1/2=2Tg/T1/2−1   T1/2:緩和時間10の温度(ガラス転移10と振動フォノン寿命10−14の中間)
    F1/2=(m/16−1)/(m/16+1)=(0.151−x)/(0.151+x)  x=ΔTg/Tg
     
 ・熱力学的Frajility  Martinez-Angell(2001年)
    F3/4=2(Tg/T)−1   T:Sex(Tg)/Sex(T)=3/4

    F1/2≒F3/4 
    
 
  Richert-Angell(1998年)
    F1/2Thermo=T1/2/T  T1/2:液体のエントロピーの半分

  Itoら(1999年)
    F0.8=1−ΔS(0.8T)/ΔS(T
      
 ・Dyre-Olsenら
   I=dlnΔE/dlnT  I:アレニウスからのずれ
     m=−16(1+I(Tg)) 
  アレニウスではI=0(m=16)、典型的ガラス形成液体は2−7。

 ・Doremus  
  η(T)=Aexp(Q/RT)での活性化エネルギーに対し
   R=Q/Q  Q:低温(ガラス状態)、G:高温(液体状態)
  Rdが大きいほどfragile、Strong:R<2、Fragile:R≧2
  ゲルマン酸塩の1.33からジオプサイドの7.26

 ・Avramov α
  η=ηexp[B(Tg/T)α
    m=αln(η/η)  m=12.5α
   strongでα〜1、fragilで大

 ・エンタルピーFrajility Robertsonら(2000年)
    mΔh=−(dlogβ)/d(Tf,ref/Tf)   βc:冷却速度、Tf:仮想温度、Tf,ref:参照仮想温度

  
    線状高分子でのmとmΔhの関係

 ・Scopigno
   mα=df(Q,T)/d(T/Tg) T→0、f(Q,T):非エルゴード因子
  
  

 ・Magazu(2009年)
  Buchenauの粘性式から
   

4−3. Fragilityパラメーターと他の特性との関係式
 
 ・剛性率   
  Novikov-Sokolovは次式を提案。
  m=29(B/G−0.41) B:バルク剛性率、G:せん断剛性率
  
   Yannopoulosらの批判、左Novikov-Sokolov、右Yannopoulosらのプロット(Yannopoulos)

 ・Landau-Placzek ratio RLP(レーリー散乱成分とブリルアン散乱成分比) 
   レーリー散乱成分:光の波長より小さいサイズの粒子による散乱、静的密度不均一性
   ブリルアン散乱:密度変化による散乱、動的密度ゆらぎ
  Scopignoら(2003年)
   α=T/(TRLP
  f−1=1+αT/T  f:波数ベクトルQの密度ゆらぎ時間相関関数
  非エルゴード性因子f≒Debye-Waller因子
  m=135α
  

 ・Kohlrausch-Williams-Watlsの拡張係数β 
  Bohmerら(1993年)は
  m=250(±30)-320β
  

 ・ボソン・ピーク相対強度relative intensity of boson peak
  Skolov(1993年)ら
  Fragilityが大きいほどボソン・ピーク相対強度が小さい
  
     非弾性中性子散乱                  mとデバイ状態密度                       mと非弾性中性子散乱強度比

4−4. 可逆性窓reversible window

   網目ガラス合金の可逆性窓
   変調微分走査熱量計MDSCで測定
    ガラス転移のエンタルピーΔH(x)を組成xの関数として可逆部ΔHr(x)と非可逆部(非エルゴード部)ΔHnr(x)に分離
       dHt/dt=dHr/dt+dHnr/dt=CpdT/dt+dHnr/dt
    可逆性窓はstrongガラスのほんどの性質に関係。
    窓のなかでΔHr(x)は窓の外同様平滑に変化し、一方ΔHnr(x)は窓の外の値に比べ非常に小さい。
    ΔHnr(x)の組成依存性は定性的にΔEa(x、Tg)=dlnη(x)/d(1/T)と似ているがΔEa(x、Tg)は多くの
   カルコゲナイトガラス形成合金の結合strong/fragile ガラス形成組成範囲内でわずかなファクターしか変化しないが、
   ΔHnr(x)はファクター10異常も変化する。
    液体でのstrongガラス形成体の境界は曖昧で粘性データからは確認できないが、ΔHnr(x)でははっきりした急変がある。
    可逆性窓の特徴的様相にはΔHnr(x)が非常に小さい組成範囲と一致する組成範囲の閉じ込められた分子密度の予期しない
   プラトーが含まれる。
    更に窓端での強いラマン・バンド周波数のx依存性の異常、内部網目応力の消失、ΔHnr(x)のエージングの大きな現象など。
   可逆性窓は平均原子価2.4の近くに中心位置しFSDPは高さと位置で広い直線性を示す。
     →Thorpeの中間相

    
      MDSC (Boolchandら)                 非可逆性エンタルピーの組成変化(Boolchand)
   
5. ガラス形成能力GFA 

5−1. 臨界冷却速度

○ TTT曲線から(Uhlmann)

   結晶化の障壁は核生成と結晶成長の障壁からなる。

   核生成速度   I
   結晶成長速度 U
   結晶化度(アブラミの式) Vx/V=1−exp(−πIxU/3)
   →核生成速度と結晶成長速度は重ならないとガラス化しやすい。
   
     核生成と結晶成長の速度

 ・TTT曲線−温度・時間・変態曲線(恒温変態曲線)Time-Temperature-Transformation Curve から求める
   各温度で過冷却液体を恒温保持し、析出する結晶の体積割合が10分の1(検知限界)になるまでの時間(潜伏時間)。
   
    TTT曲線
     
 ・臨界冷却速度critical cooling rate 
  臨界冷却速度→noseの接線 Rc≒(Tm−Tn)/tn   n:TTT曲線のnose(最も変態が早い領域)  
    結晶化の進行速度の最も大きい温度Tnとこの温度での結晶化潜伏時間tn 
     厚みlc≒(Dt1/2 D:熱拡散係数

 ・CCT曲線−連続冷却変態曲線 
    定冷却速度で結晶化する冷却速度
  
    TTT曲線とCCT曲線の模式図(柏谷ら)

○ DTA、DSCから実験的に決定(Barandiaran-Colmenero)

   lnR=lnRc−B/(ΔTxc)  ΔTxc=Tm−Tcr R:冷却速度、Tcr:結晶化開始温度
   lnR vs 1/(ΔTxc)直線の切片がlnRc

○ 冷却速度βとT(熱量的ガラス転移温度)

 ・Lasockaの経験式
    T=A+Blnβ

 ・Moynihanの式(Ritland-Bartenev) 
  緩和の考え方から 
    lnβ=−E/(RT)+定数

 ・Kissingerの式
  アブラミの式から
    ln(β/T)=−E/(RT)+定数

 ・Binderらの式
  T=T−B/ln(Aβ)
 
5−2. ガラス形成能力GFAの指標(特徴温度による)  

○ 種々の特徴温度
  T:熱量的ガラス転移温度
  T:カウツマン温度、配置エントロピーが消失。
  T:VFT式から ≒Tk<T

   T/T=1+0.0255D
     η=10−5Pa・s、ηTg=1012Pa・s

  T:α過程とβ過程の分岐温度(クロスオーバー温度)、MCT理論の温度、約1.2T
   T>T>T≒Tk

  温度上昇時の開始温度Tgs、ピーク温度Tgp、終了温度Tgf
  温度下降時の中間点Tgmc、開始温度Tgsc
    Tgmc≒Tgs、Tgp≒Tgsc

 ・ Tgの圧力依存性

  dTg/dP=VTΔα/ΔC

 ・ Huntのガラス転移温度の有限寸法効果(閉じ込め効果)
   d:閉じ込めサイズ、r:粒子間距離

○ Turnbull 換算ガラス転移温度
  K=T/T  (TはまたはT:液相線温度)
    Sakka−Mackenzieの3分の2法則 
    →Tは典型的には2/3 →T/T=2/3

 *Lindemannの基準(融解式)
   固有の融解機構は結晶サイズに無関係で(原子振動振幅/最近接原子間距離)がある臨界値を超えたときに起きる。
   この(原子振動振幅/最近接原子間距離)値は約0.1である。つまり振動振幅が10%を超えると融解が始まることになる。
   ガラスにもこの機構があてはまるという考えがある。

   
     臨界冷却速度と換算ガラス転移温度Trg(Ojovan)

○ Dietzelら
  ΔT=Tp−Tg

○ Weinberg 
  K=(Tp−Tg)/Tm
     あるいは(Tx−Tg)(Tp−Tx)/Tm
   Tp:結晶化ピーク温度、Tx:結晶化開始温度

○ Hruby
  K=(Tp−Tg)/(Tm−Tp)=ΔT/(Tm−Tp)  

○ Saad-Poulain
  S=(Tx−Tg)(Tp−Tx)/Tg  

○ Lu−Liu
  γ=Tx/(Tg+Tm)

○ Mondal-Murty
   α=Tx/Tm

○ Senkov
   fragilityとの関係
   F1=2[(m・mmin)(1/Trg−1)+2]−1   Trg=T/T
   mは極端にfragilityの〜0から極端にstrongの2Trg/(1+Trg)まで変化

○ Donald-Davies
   ΔT=(Tliqmix−Tliq)/Tliqmix   Tliq:合金液相温度、Tliqmix:構成成分液相温度の混合則

 等々。(場合よってはTp⇔Txを入れ換え)

6. ガラス構造の理論  
 
 ガラス構造の理論は化学構造、熱力学、速度論などの方面からアプローチされている。
 ガラスの構造については極微小結晶体crystallite(Lebedev、Randall)説と非結晶網目(Zachariasen、Warren)説が当初からあった。
 更にこれに高密度ランダム・パッキング説(Bernal)、クラスター説(Frank)が割って入ったかたちとなっている。
 
 最近はミクロSRO、マクロLROとその中間領域MROでの構造が問題となり、ミクロ不均一説の主張が多くなり、極微小結晶説と
非結晶網目説の両者説を越えた理論展開となっている。
 一方粘性ないし緩和挙動を説明する理論(動力学)からは動的不均一性理論も生じ、静的ミクロ不均一説との関係が問われる。
 
 ロシア人学者はcrystallite説を好み、最近のクラスター理論やミクロ不均一説(パラ結晶体説)をその発展形態とする。

6−1.理論展開
 
○ Frankenheim(1835年)
  種々のサイズの極微小結晶よりなり加熱で最も小さい結晶が早く融け潤滑剤となり融点以下で流動する。

○ Mendeleev(1864年)
  ガラス構造は高分子的。
 
◎ Lebedev(1921年)
  シリカのαーβ転移付近での反射率の不連続から微小結晶体crystalliteが非晶質領域で結合とする。
  crystalliteは種々の固溶体で歪んだ構造。
 
◎ Tammann(1925年)
  熱力学的、速度論的に考察、ガラスは凍結された過冷却液体。
  核生成−温度曲線と結晶成長−温度曲線が重ならないとガラス化。

○ Goldschmidt(1926年)
  陽イオンと酸素イオンのイオン半径比が0.2〜0.4。

◎ Randall(1930年)
  クリストバライト微小結晶説。
  シリカのブロードな回折リングはクリストバライトの(111)、クリストバライトの結晶が小さく、反射ピークがブロード化。

  Narten(1972年)
  シリカ・ガラスのRDFはα石英モデルからの計算と一致、が石英モデルの密度は高すぎる。

  Konnert-Karle(1972年)
  石英、クリストバライト、トリジマイトのRDFうちトリジマイトがもっともよく一致。

  Henderson(1984年)
  バイモーダル分布、2/3がトリジマイト状リング、1/3がクリストバライト状リング。

  
    RDF(Konnert)

◎ Zachariasen(1932年)
  極微小結晶説と非結晶網目説に対し非結晶網目(連続無秩序網目CRN)説。
  (配位子場からの)Zachariasenのガラス形成4条件 酸化物ガラスAmOn
   ・酸素原子は2陽イオン以下と結合
   ・陽イオン配位数は小さい、3か4
   ・酸素多面体は角共有(面、稜でない)
   ・3次元網目形成のためには少なくと3つの角が共有されなければならない

◎ Warren (1937年)
  X線回折から非結晶網目説。
  動径分布関数RDFから原子間距離を解析。長範囲秩序はなく短範囲秩序は10Å以下。
  
 X線回折パターン クリストバライト          シリカ・ガラス    (Warren)
  
   シリカ・ガラスのX線からの動径分布関数  (Warren)
 
○ Harleif(1938年)
  ガラス中のアルカリ・イオンはCRN理論が仮定するように完全に無秩序に分配されるよりも局在しがちである。

○ Myuller(1940年)
  化学結合とガラス形成性を結びつける。構造単位と化学結合の性質がガラス形成性に重要。 
  イオン結合(第1グループ)はガラスを形成しにくく、共有結合と極性結合、極性分子(第2グループ)はガラスを形成しやすい。
  第2グループは多原子価無機化合物、有機高分子、極性polarガラスよりなる。

○ Dietzel(1942年)
  場強度Field Strengthモデル。
  寸法と分極性→カチオン場強さF=陽イオン電荷Z/(イオン距離a)  イオン距離=陽イオン半径+陰イオン半径
   F 大←網目形成体(>1.3) 中間体 網目修飾体(<0.4)→小 
   F大→陽イオン−酸素結合エネルギーが大きい
   ・大電荷の小陽イオン ガラス形成体
   ・小電荷の大陽イオン 修飾体
   ・中電荷の中サイズイオン 中間体

○ Sun(1947年)
  結合強度Bond Strength基準。
  結合強度=酸化物の構成元素のガス状態化するエネルギー(単結合強度=解離エネルギー/配位数)。
  ガラス形成は架橋結合の接合性と原子・イオンとの強結合でもたらされる。強結合は融体の再組織化による結晶化を抑制。
  酸化物を結合強度で分類。
   ・酸素への強結合を形成するガラス形成体(>80Kcal/結合)
   ・酸素への弱結合の修飾体(<60Kcal/結合)
   ・中間体 それ自身ではガラスを形成しない、他の酸化物の助けでガラス形成

○ Hosemann(1950年〜)
  Paracrystalline理論 
  凝縮相構成ブロックとしての結晶体crystallineとアモルファス構造の中間段階のParacrystalline。
  Paracrystallineは狭い範囲で格子定数が変化している。 
  Paracrystalline distorsion parameter ghkl(相対的Paracrystalline間隔揺らぎ)、Paracrystalline厚みD等
 のパラメーターの規定。
  回折ハローの幅δbとParacrystallineの底面に対するミラー指数の平方和の2乗hは直線関係を示す。
  これよりD(切片1/D)、ghkl(傾きからd算出)が得られる。
   g=(−1)1/2 d:正味の面間隔、はdの平均、はdの平均
   
  Paracrystallineでg=0、完全アモルファスでg=1  
  gは結晶でほぼ1%、高分子で3%、グラファイトで6%、ガラスで12%、溶融金属で15%。
  3%以下ではcrystalline、10%以上では明らかにアモルファス。
  α=N1/2g≒0.15 N:Paracrystalを構成するnetplane層の平均数
   N=L/d d:格子面間平均距離、L:Paracrystallinサイズ

   
      微結晶説                   連続ネットワーク説            パラ結晶説    (Zarzyckiから)

  *Zarzyckiによるとパラ結晶とは結晶格子が歪んでいるもの

○ Smekal(1951年)
  混合化学結合(固定し、堅固な方向性の共有結合と方向性を欠くイオン・金属結合等)が無秩序配置には必要。
  混合化学結合からガラス形成物質を3つに分類。
   ・無機化合物 SiO、B等、部分的共有結合、部分的イオン結合
   ・鎖状構造をもつ物質 S、Se等 鎖内は共有結合、鎖間はファン・デア・ワールス力
   ・大分子をもつ有機化合物 分子内は共有結合、分子間はファン・デア・ワールス力

○ Stanworth(1952年)
  酸化物ではガラス形成性と結合のイオン性あるいは共有結合性が関係あるとしてポーリングの電気陰性度で評価。
  定量的には成分の電気陰性度と結合のイオン性(共有結合性)で評価。
  Stanworth条件
   陽イオン原子価は3以上
   陽イオンサイズ減少とともにガラス形成傾向増加
   陽イオン電気陰性度は1.5〜2.1
  陽イオンの電気陰性度から酸化物を3グループに分類。
  陰イオンは酸素なので(陽イオン・陰イオン結合のイオン比)による分類を意味する。
   ・グループ1 網目形成体 イオン比約50%
   ・グループ2 中間体 イオン比約60%
   ・グループ3 修飾体 非常に電気陰性度が低い、イオン比約80%。

◎ Frank(1952年)
   金属液体のガラス形成能力に対する正20面体icosahedral(12配位)局部秩序の重要性。
   13原子クラスター(集合体)の稠密秩序での正20面体と結晶構造のfcc、hcpとのエネルギーの差。
   
     12配位正20面体

○ Huggins(1954年)
   液体やガラスの諸特性はStructonの種類、数に依存。
   Structonは所与の環境(近隣接close-neighbors)での原子、イオン、分子、原子グループとして定義される局所構造単位。
   Structon説では原子周辺の近隣接配置が重視される、即ちStructonのタイプ、これらタイプの相対数、その諸特性を重視。
   シリケートではSi(4・O=)、Si(O-、3・O=)、Si(2・O-、2・O=)、Si(3・O-、・O=)、Si(4O-)
      =:2個のSiと結合、−:1個のSiと結合

○ Winter(1955年) 
  電子殻構造とガラス形成能力を関係付けた。
  ガラスの形成にはP電子が重要で、構成成分のP電子数と分子の原子数の比は2以上。

○ Tilton(1957年)
  5角形12面体Dodecahedral・クラスター・モデル(Vitron説)。
  対称4面体(SiO)の5員環からできる単位構造は20個のSiO4面体をもつ規則的5角形12面体クラスター。
  5回対称性のため周期構造とならない。
  

◎ Porai-Koshitz(1958年〜)
  微小多結晶体crystalliteの現代版。Lebedevを祖とするロシア学者としてのcrystallite説へのこだわり。
  高散乱角での散乱極値の存在→秩序の存在。ガラスの構造(回折パターン)は作成条件によって異なる。
  ソーダ・ガラスと種々の熱履歴のシリカ・ガラスの失透(相分離、結晶化)過程の様子から
    →ガラスはいくつかの乱れた構造crystalliteからなり、crystallite間は格子の歪んだ構造。

◎ Tunbull(1959年)
  結晶化を速度論Kineticから考察、ガラスは普遍的現象で結晶化しなければどんな液体もガラス化する(金属も)。 
  →Uhlmannが深化

○ Stevels(1960年) 
  Stevelsの構造パラメーター X、Y、Z、R
    X:SiO4面体当りの非架橋酸素イオンの平均数、
    Y:SiO4面体当りの架橋酸素イオンの平均数、シリカ・ガラスで4、網目修飾体増加で減少。
    Z:SiO4面体当りの酸素イオンの平均総数、ケイ酸塩では4。
    R:酸素イオン総数とネットワーク形成体総数の比(R=O:Si)、中間酸化物の影響を受ける。シリカ・ガラスで2.
    X+Y=Z、2X+Y=2R
  ガラスの多くの特性はYに依存ずる。Yが3以下になると顕著な変化が起きる。(架橋酸素イオン数が臨界パラメーター)
   →近接多面体と2点でしか接触しなくなりネットワークの堅固さが低下、イオン輸送に起因する特性が変化。

◎ Bernal(1964年)
   高密度ランダム充填DRP dense random packing理論
    等軸剛体球の高密度ランダム充填DRPHSを実験的に研究。
    多数の原子から構成される複雑な多面体(Voronoi多面体)構造 →プラトン立体、三角プリズム、正方反プリズムなど
   Scottはrandom close packing RCP構造の充填率を0.64とする。
   Bernalの物理的実験手法に対しFinneryはVoronoi分析やモンテ・カルロ法でBennettは計算アルゴリズムでこの方向を進める。
   一方random loose packing RCP構造(無重力)の充填率は0.55とされ液体からガラス状態への転移点に対応するとされる。
   結晶は0.74

   
    硬球系の状態図(Rintoulら)

○ Robinson(1965年)
  変形した5角形正12面体が積み重なった棒状組織。

○ Rawson(1967年)
  融点を重視、低融点の物質がガラスを形成しやすい。
  (結合強度/融点)が関係 >0.05
    →共晶がガラスを形成しやすい→液相線温度効果(Liquidus temperature effect)
  カルコゲン化合物に適用するためMinaevが修正 Sun-Rawson-Minaev基準
   ガラス形成能力=1原子当りの物質の化学結合エネルギー/液相線温度

○ Grigorovici(1967年)
   a−Si、a−Geに対しamorphonと称する5角形正12面体クラスターを構成単位とする。

○ Polk(1971年) 
   4面体結合アモルファス固体のCRN説hand built手作りモデル。
   Zachariasenのより唱えられ、Warren によりX線回折により裏付けられた共有結合ガラスのCRN説はPolkらにより
  モデル構築が始められた。
   平均配位数4で第1近接の結合長、角度偏差を実験値に調整
   5、6、7員環により非結晶化。

   Steinhardt(1974年)は緩和(ポテンシャルエネルギー最小化)を導入。
   Wooten(1985年)はコンピューター・アルゴリズムを開発。Keating potentialを採用。Bond Swiching

○ Bell-Dean(1972年) 
   ZachariasenのモデルをもとにX線回折を解釈。
   配位数4をもとにしたhand built手作りモデル。
   中心Siに4つの硬線からなる完全4面体配列を基本単位→ball and stick model
   数百の原子より構成。

   CRNモデルの具体化は既に1966年にEvansらが進めている。
   このモデルではSi−O−Si結合角θ(約120−180°にある)と4面体のSi-O結合に対する回転角がランダム化を規定する。
   平均θはEvansらは157°、Bell-Deanは153°、一方Warren-MozziのRDFによる結果は約144°。

○ Leadbetter-Wright(1972年)
  BFのX線、中性子散乱よりquasi-crystalline説(準晶が発見されるまえの表現)
  ガラスの短距離構造はα−クリストバライトの構造を修正したものに類似。
  それ以上では秩序が検知できない相関長は11Å。

○ Rudeeら(1972年)
  微結晶説。
  a−Si、a−Geに対し〜15Åの微結晶説。

○ Lucovsky(1974年)、Betts(1970年)
  化学的規則化(共有結合)ネットワークモデルchemically ordered (covalent) network model(鎖交差モデルchain crossing model)
  カルコゲン・ガラスの物性の組成依存性を説明、純粋なエネルギー的考察から異極結合(イオン結合)の形成が等極結合
 (共有結合)の形成より適合するとする。
  ガラス結合は系の安定な化学化合物(異極結合)の3次元交差構造単位ともしあれば余分の要素(等極結合)よりなると見なされる。
  安定な化学化合物形成に対応する系の共役線tie lineあるいは化学量論的組成に対し共役線組成が化学的閾値、化学的規則化による
 種々の特異な様相が観察される。

  一方ランダム共有結合ネットワーク・モデルでは
  結合タイプの分布は統計的で、8−N則に従う各局部配位、その組成比によって決められる。相対結合エネルギーなどは無視。

  両モデルともMottの8−N則(各原子サイトの配位は8−Nに等しい、Nは周期律表の列)を満たす。
   
○ Goodman(1975年)
  歪んだ混合クラスターStrained Mixed Clusterモデル 
  構造的に無関係な多形polymorphのクラスターの間を押し出された修飾不純物が埋め、歪みが除去される。

○ Hoare(1976年)
  クラスター・モデル      
  正20面体対称性をもつ充填単位(amorphon)に基づく。
  金属ガラスのDRP理論は非結晶的クラスターに対するエネルギー優位性preferenceを考慮していない。

○ Uhlmann(1977年)
  核生成速度、結晶成長速度とアブラミの結晶体積比式からTTT曲線を求め、臨界冷却速度を得る。

○ Gaskell(1978年)
   Stereo-chemically defined model。
    局部構造はほとんどcrystalliteと等しく、原子半径比のような幾何学的因子だけに拘束される幾何学的球充填モデル。

◎ Phillips(1979年)
  機械的拘束条件からカルコゲナイト・ガラスのような共有結合ガラスで平均配位数rとガラス形成性の関係を求めた。
  Phillipsはガラス形成傾向は(原子間の力の場拘束constraint数=原子の自由度数)で最大とした。
  (結合長、最隣接距離は平衡値からの偏位0)
  機械的拘束はbond strechinng結合伸縮(α)とbond bending結合曲げ(β)を考慮。
  α拘束=r/2、β拘束=r(r−1)/2、自由度数=3
   r/2+r(r−1)/2=3  r=2.45

  Thorpe(1983年〜)はパーコレーション理論から一般論として同様の結果。
   
   強い力と弱い力を区別し2面角、ファン・デア・ワールスその他の力を無視し、結合伸縮力と結合曲げ力を重視しKirkwood-
  KeatingポテンシャルV=(α/2)(Δl)+(β/2)(Δθ) Δl:結合長変化、Δθ:結合角変化
  を採用。
   拘束数はMaxwell counting(総自由度=拘束数)を使用。
   網目がエネルギーの犠牲なく連続的に変形するのは0周波数振動モードがあるから。
   floppyモードの数Fは自由度の総数3Nと拘束数Cの差(F=3N−C)、0周波数モードの比f=F/3N
   (結合拘束r/2に対し角度拘束2r−3、Phillipsは過剰見積もり)、結局
       f=2−<r>5/6   f=0で<r>=2.4 rigidity percolation(浸透)閾値、機械的閾値
   で網目はfloppyからrigidに転移。(r=1が存在する場合は修正が必要。)
   2.4以下(低平均配位網目)はrigid領域が孤立した高分子ガラス(floppy、under constrained)、平均配位が増加するにつれて
  rigid領域は増加しパーコレーション転移が起こり、2.4以上はアモルファス固体(rigid、over constrained)、<r>=2.4では
  最も締まった結合で、最も短い結合距離で最も緻密となる、floppy-rigid転移が生じる。
   これは機械的転移で2次転移というより1次転移である。
    環状構造では6個以下の原子の環はrigidで孤立した7個以上の原子の環はfloppy。小さな環が局部的rigid領域生成に重要。
    この環状構造の問題とSi−Oタイプ網目の考察(修飾)から2.67にも閾値があり化学的閾値とされヘテロ共有結合からだけで
   構成されるchemical orderingとみなされている。
   (2次元層構造から3次元交叉構造への転移:田中あるいはナノスケール相分離:Boolchand)
    またもし応力下のある配置が避けられると2つの相転移とrigidだが応力のない中間相intermediate phaseが生じる。
     (self-organized network)
    これによると<r>=2.375でfloppyから応力のないrigid状態への2次転移が起こり、<r>=2.392で応力下のrigid状態への
   1次相転移が起こる。この間で網目は静水圧的にrigidである。
    転移の次数を決めるのはfloppyモードの数Fを自由エネルギー類似量、平均配位<r>を温度類似量(Fの導関数)として使用。

◎ Kleman-Sadoc(1979年)
   曲がった空間Curved Spaceアプローチ、曲がった空間では完全20面体固体が可能。
   最小回位欠陥の導入で普通の平らな空間に投影。
   曲がった空間アプローチでトポロジカル、幾何学的制限のもと非結晶構造の隠された対称性を調べる。
   曲がった空間での理想構造を参照状態として平らな3次元ユークリッド空間の現実配置へ戻るにはトポロジカル
  欠陥の導入が必要となる。最も重要なのは回位disclination。回位は回転対称性、つまり結合配向対称性の破れと結びつく
  3次元の線欠陥。このような欠陥により無秩序網目、欠陥によって妨げられた局部的秩序領域よりなる実際のアモルファス
  が形成される。

○ Phillips(1981年)
   カルコゲン・ガラスのクラスター・モデル
   アウトリガー・ラフトOutrigger Rafts構造。
   橋渡し部(Outrigger)を有するリボン構造(いかだRafts)の積層。

○ Poulain(1981年)
  イオン結合性ガラスでは陰イオンfcと陽イオンfa(f=Z/イオン半径)のイオン結合比fc/faが重要、fc/faは2.5〜10。

○ Galeener(1982年)
   ラマン・スペクトルからシリカ・ガラスでの3員環(D)、4(D)員環構造の存在。 

   
   

○ Phillips(1982年)
   シリカ・ガラスは表面で結合していない直径約60Åのβクリストバライトパラ結晶体で約10Åの積層欠陥や微小双晶を含む。

○ Rao(1982年)
   クラスターと結合組織からなるマイクロ不均一組織。
   クラスター中の原子は高度の位置相関をもち、結合組織は本当のアモルファスで高度な非調和エネルギーの特徴をもつ。
   ガラス転移はクラスターの溶融に対応。

○ Steinhart(1983年)
   並進対称性はなくても結合配向に相関があると考え3次元の隣接配向秩序(結合配向秩序)bond orientational orderを定義。
   Qlm(r)=Ylm(θ、ψ)   Ylm(θ、ψ):球面調和関数
   l=4は立方対称、l=6は正20面体。
   これより回転不変量Q、Wlを定義、これらは最近接の配向対称性に敏感。
   異なる対称性クラスターに対しQ、Wlの分布が異なるので構造が分析できる。
   
     正20面体、fcc、hcpに対するQ、Wlのヒストグラム

○ Greaves(1985)
  修正ランダム・ネットワーク・モデル。
  長範囲秩序は修飾成分とネットワーク成分の相互浸透で特徴付けられ、これによりマイクロ構造は相分離初期に
 見られるようなナノスケール(相分離よりはより短範囲)のフラクタル構造となる。
  即ちSiリッチ・ゾーンをアルカリ・チャンネルが取り囲んだ構造となる。
         
   修正ランダムネットワーク説                     Wrightのパラメーター

○ Wright(1990年) 
   中・短範囲秩序を規定するパラメーターを定義。
    SiO4面体を規定 →ガラスと結晶で差は小さい
     結合長bond length d
     4面体角tetrahedral angle φ
     配位数coordination number n

    SiO4面体の結合を規定 →ガラスと結晶で差は大きく、ガラス間でも差は大きい。
     4面体間結合角intertetrahedral bond angle α
     結合捩れ角bond torsion angles δ1,δ2

○ Elliott (1991年)
   4員環以下の構造がシリカ・ガラスの中距離秩序MRO構造。
   void correlation model
     共有結合ガラスのFSDPは陽イオン中心構造単位でのIntersititial Volumeによる化学秩序プレピーク。
     Ql=3π/2D  Ql:FSDPの位置、D:ボイド直径
   準周期性Quasi periodicity
     準周期性間隔Quasi periodicity spacing R=2π/QFSDP
     相関長 L=2π/ΔQFSDP
      シリカ QFSDP=1.52Å−1、ΔQFSDP=0.4Å−1 →R=4.1Å、L=16Å

○ Miracle(2003年)
  金属ガラスでの溶質中心クラスターの第1配位殻での原子充填を基にする有効クラスター・充填モデル
  金属ガラスでは有効充填efficiently packed溶質中心solute-centered原子クラスターが重要。
  所与の配位数に対し半径比Rの最小を与えるクラスターで最適充填を規定。
  溶質原子と溶媒原子の半径比が溶質中心原子クラスター生成の重要な変数。
  異なった寸法の球の高密度ランダム充填DRPに基づく理論は結晶状態に比べ高密度なアモルファス合金を説明できない。

○ Ojovan(2006年)のConfiguron理論  
  Configuronはアモルファス物質おいて化学結合の切断をもつ基本的配置励起で原子振動の中心の歪み解放局部調整と
 結びついている。温度が高いほどConfiguronの濃度は高い。Configuronは結合系を弱める。
  ガラス転移温度でのConfiguron浸透(percolation)クラスターの形成によってガラス転移現象が説明される。
  ガラス転移温度以上でのConfiguronのクラスター化が融体での粘性流動を促進する。 
  
   ガラス液体転移でどのような種類の対称性が変化するかー液体とガラスの対称性での定性的違いは物質的基本粒子の配置
  より結合参加方式にある。
   ガラス転移では緩和挙動の変化の他に結合方式の変化が起こる。
   
   切断結合broken bond(Configuron)量分析によりアモルファスで異なる対称性で特徴付けられる2つのタイプのトポロジカル
  無秩序性が明らかになった。
   ガラス状態では結合の幾何学的構造が3次元的(d=3):Configuronが結合構造内で均一に分布しConfiguronのクラスターの 
  パーコレーション(浸透)が形成されない。液体状態では切断結合によりなるパーコレーション・クラスターが形成される。
   ガラス転移では結合のハウスドルフ次元d(フラクタル”=自己相似図形、部分を拡大するともとの図形と同じ形”の自己相似の
  複雑さの度合いを表す指標)がガラス状態の3から液体状態のフラクタルの2.55±0.55への変化がある。
   このモデルではTgはConfiguronよりなるパーコレーション・クラスターが形成される温度として定義される。
   ガラスから過冷却液体への転移はトポロジカル無秩序の対称性の変化として取り扱われ、このためガラス転移は結晶では
  対称性変化として特徴付けられる2次転移に類似する。

6−2.ガラスの諸階層(SOR、IRO−MRO、LRO−GRO)の構造

 Elliottのガラス構造の諸階層  
   SRO 〜0.2−0.5nmの原子配列
    構造単位の主タイプの中心原子の配位数、平均共有結合距離、第1配位殻のデバイ・ワラー捩れ因子
    ネットワークの構造単位の主タイプ
   MRO
    近MRO 0.5nm 配位多面体との結合(角、端、面の共有構造)
    中MRO 0.5−0.8 相互結合配位多面体の配向Orientation
    遠MRO 0.8−2.0 共有結合ガラス・ネットワークの局部次元での配向
   LRO >2.0nm
    マイクロスコピック不均一性、大規模欠陥(第2相抽出、カラム成長モルフォジー、微小結晶体・・・)

 Wrightの定義
   4範囲の秩序
     構造単位structure unit
     隣接構造単位の相互結合 interconnection of adjacent structure units
     網目トポロジーnetworl topology(medium range order)
     長距離密度揺らぎ(長距離秩序)long range density fluctuation(long range order)

6−2−1.Short Range Order
  第1配位球と最隣接(Wright)、〜0.2nm、Si酸化物ガラスではSiO4面体
    Wrightのパラメーター
     結合長bond length d
     4面体角tetrahedral angle φ  O−Si−Oのなす角 
     配位数coordination number n
     4面体間結合角intertetrahedral bond angle α  Si−O−Siのなす角 
     結合捩れ角bond torsion angles δ1,δ2

  第1隣接距離 Si−O
  第2隣接距離 Si−Si、O−O(同じSiに結合)
  
  (Lucovsky)

  Warren(1934年)
   Si−O 1.60Å
   O−O 2.62Å
   Si−Si 3.20Å
   φ(β) 109°(完全な4面体では109.47°Wright) 
   α 145°

  化学結合に関し同じ化合物の結晶と非結晶で変わらない。
  Si−O結合長は各種結晶、ガラスでほとんど変わらず0.161−0.162nmである。

  幾何学的TopologicalSRO
  化学的SRO
    異種原子間の相関

 ・Honeycutt-Andersenの共通隣接分析(CNA)Common Neighbor Analysis
  原子対の局部環境を示す。
  着目原子Aとその隣接原子Bの結合状態を4つの指標(I、J、K、L)で識別
   i:結合1、非結合2
   j:両原子に共通隣接原子数
   k:共通隣接原子間の結合数
   l:共通隣接原子間のk結合での最も長い連続鎖での結合数
   カットオフ距離r(動径分布関数から)以下で結合
   (1,4,2,1)を12個もつ→fcc

 ・ボロノイVoronoi多面体解析
   特定の原子の周囲の原子配置を評価。
   着目原子と隣接原子との間の垂直2等分面により形成される最小の凸多面体の多角形の面数を計算。
   (n3,n4,n5,n6・・・)ボロノイ多面体  n3:3角形面数、n4:4角形面数、n5:5角形面数、n6:6角形面数・・・
        f=12で(0,0,12,0):正12面体(icosahedral)
   原子配置の特徴は多面体の面数f、多角形の種類とその数で示される。
   第2隣接原子までとればf=最隣接の配位数

6−2−2.Intermediate Range Order (Medium Range Order)

  1〜2nm(Wright)
  Zachariasenはランダム 2面角dihedral angle(Si−O−Siのなす角θ、Wrightのα) 分布で特徴付けた。
     θは120−180°(Henderson、Gladdenは143−153°)で諸説ある
     結晶では144−150°
  
   Si−O−Si角安定性(粟津からGaleener孫引き)

  Si−O(隣のSiに結合) 4.00Å
  O−O(別のSiに結合) 4.5−5Å(Bell-Dean)
  
  (Lucovsky)

  密度はα石英より17%、αトリジマイトより3%小さい。(石英2.65、シリカ2.2)

  MROの兆候はX線回折の第1シャープ回折ピークFSDPあるいはプレ・ピークである。
  FSDPは広く認められるがa−Siでは欠き普遍的Universalではない。
  FSDPの起源は議論となっている。
    格子間ボイド(Elliottら1995年)
    ガラスの偽ないし亜ブラッグ面(Gaskelら1996年)

  X線回折では小散乱波数ベクトルがMROに関係、一方RDF動径分布曲線では高距離がMRO情報

  種々議論があるが2nmを越える秩序はない。

  協同的再配置領域Cooperatove Rearranging Region
  空間不均一性Spatial Heterogeneity
  クラスター

 ・光学特性
  ラマン散乱
  IR

 ・X線(広角X線散乱WAXA)

  FSDP
   R=2π/Q  correlation length
   L=2π/Δ Q coherence lemgth

   シリカ QFSDP=1.52Å−1、ΔQFSDP=0.4Å−1 →R=4.1Å、L=16Å
  
  RDF動径分布関数G(r)(2体分布関数、対分布関数PDF) 
  
   2つの原子が間隔rにある確率
   散乱強度I(q) →構造因子S(q) (フーリエ変換)→RDF

   第1ピークまでの積分値 平均配位数
   第1、第2ピーク 角度偏差
    
    動径分布関数と配位殻

 ・EXAFS(広域X線吸収微細構造)
 ・小角X線散乱SAXA
    (000)ピークの広がりから散乱体のサイズ    →ブラッグ反射では回折ピークの広がりから結晶サイズ
    散乱ベクトルqとブラッグ間隔L L=2π/q   q=4πsinθ/λ
    I(q):電子密度揺らぎ
    Gunier領域 低散乱角
     慣性半径
    Porod領域  高散乱角
     界面情報
  
 ・Warren-Cowleyの化学短距離秩序パラメーターchemical short range order parameter
    2成分系で
    =1−NAB/NC NAB:原子Aと結合している原子Bの数、N:原子Aの全結合数、C:原子Bの比率

 ・Spaepen-Cargillの短範囲秩序パラメーター
    ηAB=ZAB/ZAB−1   ZAB=c/Z   c:B原子濃度、Z:配位数
    

○ トポロジー  短、中範囲秩序を規定する用語、シリカ・ガラスでのSiO4面体の配置の仕方 
    decoration i
     Siに結合する酸素Oのうちの非架橋(金属原子と結合する)酸素O
    connectivity C
     各構造単位の他の構造単位と共有される原子数、2次元でC=3、3次元でC=4
    connection mode γ
     互いに共有しあう2近接構造単位の原子数、3次元ではどの2つの4面体も1角を共有するのでγ=1

○ ネットワーク(高分子)構造の指標
  

 ・Q
      nは4面体の架橋酸素の数
    Q:SiOでは3次元ネットワーク
    Q:SiOでは2次元ネットワーク、層状
    Q:SiOでは1次元ネットワーク、鎖状、環状
    Q:SiOでは2量体
    Q:SiOではイオン

  29Si MAS NMRケミカル・シフトで区別
   
   Putnis

 ・MysenのNBO/T(1981年)
     非架橋酸素/4面体陽イオン →小さいほど網目構造発達

○ 修飾体の分布
   均一か局在しているか →Greavesの修正ランダム・ネットワーク・モデルのアルカリ・チャンネル

○ 混合アルカリ効果
   他のアルカリの存在で互いに拡散が激減。
 
 (KNa1−x)2Siの混合アルカリ効果(Greavesから孫転載)

○ 環状構造 
  最も一般的なシリカ・ガラスの中範囲構造のひとつはSiO4面体環(リング)
  結晶では6員環であるのに対しガラスでは4、5、6・・・

    Bell-Dean(1972年) 4、5員環
    Cartz(1964年)    5、6、7員環時には8員環も存在
    Himmel(1986年)   6員環だけ
  
   シリカの環構造(粟津)                                                                                                                                                                                                                                                       
○ MROでの相関の存在
  〜1.0−1.5nmでの相関(Sokolov)
    動径分布関数での明白なピーク(SiOの〜0.8nmまで)
    理想的CRNから期待されるより高い濃度の原子の環の存在
    X線、中性子構造因子でのFSDP
    ラマン・スペクトルの低周波ピーク(ボソン・ピーク)
      ボソン・ピークと〜10−100cm−1あるいは1−10meVのガラスの振動特性の低周波異常は準局在励起
      (議論はあるが)Rc≒10Åの相関半径と結びつく、原子数30−100
        ωmax≒Vt/(2πcR)    Vt:音響横波速度、c:光速
      ラーマン・ピーク周波数はナノクリスタル・サイズDに逆比例
       捩れモードωmax≒0.85Vt/(cD) 球面モードωmax≒0.7V/(cD)  V:音響縦波速度
      D≒50−200Åのナノクリスタルが埋め込まれている。

    ボソン・ピークとFSDPの強度、FSDPの位置とωmaxに相関がある。
     SokolovによるFSDP幅ΔQとボソン・ピークVt/(cωmax)の関係
      D=2π/ΔQ≒(0.90±0.11)Vt/(cωmax
     SokolovによるFSDP幅と位置の相関 ΔQ≒(0.3−0.2)Q
     →ガラス構造の相関長2R(MROスケール)はFSDPを生み出す潜在する構造単位間の特性距離Lと密接に関係

6−2−3.Long Range Order 、Global Range Order

    1−2nm以上
    密度揺らぎdensity fluctuation

6−3 ポリアモルフィズムPolyamorphism
   HO、a−Si、SiOなどのアモルファスで無秩序−無秩序転移がみられる。
   シリカ・ガラスでは対応結晶体との相関が指摘されている。
   シリカ・ガラスはエネルギー的に異なる構造状態の混合物のようにみなされることがある。
   方向性配位をもつものがポリアモルフィズムを示し、圧力でより高密度の相になる。

 ・液体−液体相転移
 
  Rapoportの2状態液体モデル

○ ガラスの階層構造と観測手段(河村)
   
    〜10−13s IR吸収・反射、ラマン散乱、非弾性中性子散乱INS
       局部構造の原子振動
   10−12s〜10−9s:GHz〜THz  準弾性中性子散乱QENS、準弾性光散乱QELS、マイクロ波・ミリ波分光
       アモルファス物質に特徴的低エネルギー励起、準局在振動、準局在横モード
   10−9s〜10−3s:kHz〜GHz  
       高周波での定損失、低周波での冪則、拡張指数応答
   

 
    空間−時間階層構造と観測手段(河村)

7.ガラスの種類

○ Smekalの混合化学結合の理論
  混合化学結合(固定し、堅固な方向性の共有結合と方向性を欠くイオン・金属結合等)が無秩序配置には必要。
  混合化学結合からガラス形成物質を3つに分類。
   ・無機化合物 SiO2、B2O3等、部分的共有結合、部分的イオン結合
   ・鎖状構造をもつ物質 S、Se等 鎖内は共有結合、鎖間はファン・デア・ワールス力
   ・大分子をもつ有機化合物 分子内は共有結合、分子間はファン・デア・ワールス力

○ Fragilガラス、Strongガラス
   方向性結合のないガラス形成体(ファン・デア・ワールス、イオン結合)はFragilガラスとなり、Strongガラス形成体と中間ガラス
  形成体は共有結合あるいは水素結合ネットワークで安定した短・中範囲構造をもつ。


・ 元素ガラス
   Si、Ge 
    水素によって安定化
   C
    ダイヤモンド構造(sp3結合)とグラファイト構造(sp2結合)の混合タイプ
    水素を含むタイプ
   カルコゲン
    S、Se、Te
 
・ 酸化物ガラス  
    Goldschmidt ,Zachariasen、Stanworth、Sunらの理論
   単純酸化物
    SiO2(シリカ)ガラス
    GeO2、B2O3、P2O5、V2O5、As2O5等
   酸化物塩
     ケイ酸塩ガラス  網目修飾酸化物
   その他
   
・ 非酸化物ガラス   
   カルコゲンガラス
   ハロゲン化物ガラス

・ 金属ガラス 
   Bernalの高密度ランダム充填DRP dense random packing理論

・ 分子性ガラス(有機ガラス)
   低分子
   高分子

・ 超急冷ガラス

8.ガラス転移の動力学dynamics理論 
 
8−1.粘性挙動あるいは緩和挙動の説明の諸理論

  微視的理論の色合いの一方の極端として第1原理によるものとしてはモード・カップリング理論MCTがありもう一方の
 極端として物理的直感に基づく種々の現象論的理論がある。
  現象論的理論としては自由体積理論、エントロピー理論、ELS理論などがある。
  Adam・Gibbsのエントロピー理論の協同的再配置領域CRRの概念のその後の理論展開に与えた影響は極めて大きいが、最近では
 エントロピー理論にかわって自由エネルギー理論が中心となりつつある。
  この中間として運動拘束モデルがあり、これはMROの特徴的な秩序変数を使用しハミルトニアンあるいはエネルギー関数と
 厳密に定義され動力学展開方程式を用いる

  
○ 自由体積理論 
   流動事象には余剰な(自由な)体積が必要とされる。

 ・Doolittle
   自由体積vf
     v/v=f+α(T−T
   η=ηexp(Bv/v) →VTF則
    f=0.025、α=5x10−4 →自由体積2.5%でガラス転移温度
  

 ・Cohen-Tunbull
   自由体積は他と重なるのでγで補正した臨界体積vに対し
  空孔の確率P=exp(−γv/v)より拡散係数を求め、Stokes-Einsteinの粘性率と拡散係数関係より
   η=AT1/2exp(−γv/v

 ・Cohen-Grest
   liquid-likeとsolid-likeセル粒子集団を仮定。
   ある臨界体積vに対し自由体積v=v−v
    v<v solid-like cell粒子集団、振動的
    v>v liquid-like cell粒子集団、自由体積をもつcell、拡散的
   solid-likeクラスターのパーコレーションでガラス転移が起こる。
    
    η=ηexp(B/v)  
    v=T−T+[(T−T+CT]1/2

 ・Macedo-Litovitz
   自由体積理論だけでは不十分として活性化エネルギーも導入。
   η=ηexp(γv/v+Q/T)

○ 配置エントロピー・モデル

 ・Adam・Gibbs
  分子再配置は協同的に起きると仮定し、協同的再配置領域CRRCooperatively rearranging region(協同的に粒子が動く領域)
 という概念を導入、温度が下がるとCRRが大きくなると考える。活性エネルギーはCRRに比例。  
    η=Aexp(NΔμ/kT)=Aexp(B/(TΔS))  粒子数N、エネルギー障壁Δμ
  温度が下がるとNが増加しηが大きくなる。
    N∝1/ΔS、ΔS=∫ΔCp/TdT∝(T−Tk)

  Richert-Angellによると ΔS=∫(ΔCp/T)dT→ΔCp≒B/T
    η=ηexp[Q/(T(1−T/T))]

 *T>TではΔS=ΔCp(T−T)/TでΔSは定数ではない。
  T<TではΔS=ΔCp(T−T)/TでΔSは定数。
  ΔS(配置エネルギー)はとりうる配置状態数Ω配置の計測量でΔS=kln[Ω配置(T)]

 ・Avramov-Milchev
   η=ηexp{εexp[2(S−Sg)/(ZR)]}  
    Z:系の縮退度(脱出経路数)、ε=Emax/σr 、系の分散σ=σrexp[2(S−Sr)/(ZR)] ←<ν>≒νexp(−Emax/σ)
   η=ηexp[B(Tg/T)α]   α=2Cp/(ZR)、S−Sg=Cpln(T/Tg)
     α=2Cp/(ZR)=2・3R/(ZR)=6/Z=1.2

 ・Angell、Raoの結合格子bond latticeモデル(励起子excitationモデル) 
   
   アモルファス系のポテンシャル・エネルギーは基本充填モードの励起(切断結合broken bond)で増加。
   これらは結合は切れたりoff結びついたりonできる結合として取り扱われる。
   ある種の物質では励起状態は独立的で2状態の統計が適用できる。
     
    η=ηexp(x/X)  励起子度(broken bond比)degree of excitation:X=1/(1+exp(ΔG/RT))
      ΔGはエンタルピーΔHとエントロピー成分TΔSを含む
    η=ηexp〔c/(1+exp(ΔG/RT)〕
   これは熱力学と動力学を含む。

○ エネルギー・モデル 

  自由体積やエントロピーの他にエネルギーを変数とするモデルが考えられ、これは
 初期にはGoldstein(1969年、1972年)により提案され、Stillingerのinherent
 structures (potential energy minima)等によりFELに展開していく。
  エントロピー効果が支配的な高温でガラスは形成されるが、局部構造配置に影響を
 及ぼすエネルギーの考慮も低温では特に必要である。
  
 ・Goldstein(1969年)
   ポテンシャル・エネルギー障壁描像。
   粘性液体流動(せん断緩和時間≧10−9秒)は熱エネルギーに比較し高い
  ポテンシャル障壁によって支配され、高温ではこれは当てはまらない。(液体の拡散
  は高温と低温では異なる)
   ガラスは低温ではポテンシャル・エネルギー関数の局部的極小付近にあり、温度
  上昇とともにポテンシャル・エネルギー障壁を越えて別の極小に移れるようになり、
  ここでは1つの極小内での振動と極小間の転移の明確な分離が生じる。
   ポテンシャル・エネルギー障壁を越えての原子位置の再配置は小領域で起こり、
 他の領域と独立して起こる。

 ・Stillinger
   ポテンシャル・エネルギー面は固有構造inherent structureと呼ばれる多数の局部的
 極小(ベイスン)をもつ。

 ・自由エネルギー・ランドスケープFEL描像

  多次元の配置空間における自由エネルギーの多谷構造を想定。  
  FELは高温では平坦な曲面だが低温で複数の極小(ベイスン)をもつ曲面となり、
 温度が下がるにしたがってベイスンが深くなる。
  相転移の標準理論ランダウ理論では平衡値が極小となる滑らかな自由エネルギー、
 一方FELでは自由エネルギーは多谷構造とみなされる。
  系が種々の深さの準安定状態に捕捉され、ダイナミクスは種々の自由エネルギーの
 極小間の飛び越えのより分離された各準安定配置周辺での小さな調和振動により起きる。
 <FEL模式図の説明>
  strong液体は極小の密度が小さく、谷の間隔が広く、深い。一歩、fragile液体は極小の密度
 が大きく、谷が比較的浅い。
                                                                    (Angell)

○ 弾性理論 
    配置エントロピーが温度低下とともに減少、自由体積が温度低下とともに減少、エネルギーが温度とともに減少等々とみなすように
   弾性理論では短期(高周波)弾性係数が温度低下とともに増加とみなす。
    どんな液体も十分な短時間スケールでは固体的で、短時間弾性特性は弾性率G、Kで特徴付けられる。
    流動事象(分子再配置)に対する障壁遷移は実際非常に速い時間スケールで起こり、エネルギー障壁は液体特性で決定される。

 ・調和振動モデル
   粘度はひとつの平衡位置から他への移動分子速度によって決められる。
   配位空間座標はガウス分布で、周囲は距離aの配位空間座標で隔てられていると仮定。
     τ=τexp(λ/<x>)  <x>:平衡状態からの系の熱平均2乗平均距離の平方根
     ΔE=λ/<x
       調和振動系では<x>〜TだからΔEは温度無依存だが、ほとんどのガラス形成液体では冷却で<x>はTより速く減少するので
      活性化エネルギーは冷却で増加。
     ΔE∝G(液体せん断剛性率)
     ΔE=λ
     Gは結晶、ガラス、低粘性液体より粘性液体でより温度に依存するので温度低下で増加。

  *ΔE/(kT)∝a/<x
   速い運動の振幅がたまたま臨界変位を越えると局部的構造再配置(α緩和)がおきる。→ガラスのLindemann基準

 ・Shovingモデル
   粘性液体は流動する固体であるという考えを基礎にしている。
   多くの液体の性質は短範囲の厳しい反発力と非常に弱い長距離引力からなる分子間力により引き出される。
   厳しい反発力のため余剰な空間が適時形成されないと分子再配置には高いエネルギーが要求される。
   Shovingモデルは流動事象の活性化エネルギーは周囲を押し込むshove asideことによってなされる仕事に支配されると仮定する。
   系は弾性係数G、Kの固体と見なされる。仕事はGに比例する。
   すなわち活性化エネルギーは弾性エネルギーでこれは流動事象周辺に局在し、せん断弾性エネルギーである。
  (密度変化とは関係ない。)
   エネルギー障壁は周囲の分子の小変位と結びついている。
       E(T)=VcG(T)
     η=η=ηexp〔VcG(T)/(kT)〕  Vc=2(ΔV)/(3V) 

○ Gesztiのフィードバック理論(モード結合に関する直感的説明)
    粘性がせん断緩和時間を支配し、そのため粘性自身が支配される。
    即ち、緩和時間は振動部分と構造部分に分解され、構造緩和は拡散に関係しそれでEinstein-Stokesの関係よりせん断粘度
  に関係する。
     η=Gτvib+Gc(T)D(T)−1
     η(T)=η+b(T)D(T)−1
     D(T)=kT/〔1−6πRη(T)〕 (Einstein-Stokesの関係)
    より
     η(T)=η/〔1−6πRb(T)/(kT)〕=η/〔1−B(T)〕
    分母0となる温度でつまり
     Tc=6πRb(T)/k
    で粘性係数発散。

○ モード・カップリング理論MCT 
  粒子密度が大きくなるにつれて籠効果(自己捕獲)で互いの運動を抑制し合い(フィードバック機構)ある平均密度で密度の
 不均一な揺らぎが凍結する密度揺らぎの凍結を平均場描像で扱い、密度ゆらぎ相関関数Φに対する記憶関数(減衰係数)を
 含んだ非線形方程式を使用する。
  記憶関数は異なる波長(モード)間の相互作用を表す結合定数をもつ。この結合効果が自己捕獲機構をもたらす。
  液体の密度揺らぎが減衰しなくなる点を理想的ガラス転移温度Tcとする。Tc≒1.2Tg(熱量的)である。
  Tcは純粋な動的転移点である。
 (イオン結合、ファンデア・ワールス結合では1.15T〜1.2T、共有結合では1.6T〜1.7T
  クロスオーバー温度Tcでエルゴー・非エルゴード転移、動力学の分岐(αとβ)が起こる。
  すなわちΦが無限時間でも0とならずΦ=fq≠0(非エルゴード・パラメーター)。
  Tc<Tではfragileガラスの示す特異挙動のほとんどが記述されるが、Tcに近づくにつれてMCTで考慮されない活性化過程が
 重要となり、理論は実験結果と一致しなくなる。MCTの示す構造停止は起こらない。
  物理量がパワー型発散をとる。 τ−1、D、η∝(T−Tγ →実験とあわない。
  MCTの記述する転移での臨界特異は実験的に起こらない。
  MCTは低温での活性化過程が記述不能で、平均場の本質により不均一動力学も記述不能。
  活性化過程を取り入れたモード結合理論が作られている。(動的密度汎関数法)
  
   配置エントロピー                            ELS
   Tcでαとβ分岐、Tgでα凍結
    Φの温度変化(Angell)

○ Das-Mazenkoの非線形揺動流体力学nonlinear fluctuating hydrodynamics理論
    g=ρV g:運動量密度、ρ:質量密度、V速度場
   の拘束により生じる非線形性と熱揺らぎを含む圧縮流体は十分高い密度と低い温度で転移を示す。
   Tgより高いT付近でガラス転移が生じ、粘度発散により特徴付けられる先鋭なガラス転移はないが液体の集団運動の
  質的変化が起きる。
   カットオフ機構により鋭い転移が存在しなくなる。
   これによりモード結合理論のモデルが示される。

○ Kirkpatrick-Wolynesのランダム1次相転移理論 
   ガラスの動力学は潜在する熱力学的理想的ランダム1次転移によって引き起こされるという考えが基礎でこれをもとにガラスの
  fragileとstrong挙動を解明。
   2つの転移温度が存在するタイプの平均場スピン・グラス、及びエルゴード性が破れる動的転移を予言するMCT理論から着想を得ている。
   MCT理論や液体の密度関数的理論は非周期的密度波の安定性にたいしリンデマンLindemann基準があることを予言し、Lindemann比
  は1次相転移とつじつまが合う。
   潜熱がないことはガラス転移で凍結する多くの非周期的構造の存在によって説明される。
   ある種のスピン・グラス転移は多くの構造への凍結を示しこれはランダム1次転移と呼ばれる。これらは潜熱なしに局部的に定義された
 秩序パラメーターの1次ジャンプを示しランダム1次転移と称される。
   ポッツ・グラス、pスピン・グラス、ランダム・エネルギー・モデルなどがそうでこれらは局部状態の間に対称性はないが長距離のクェンチ
  された無秩序な相互作用をもつ。
   これらは更にKauzmannエントロピー危機(絶対0度以上での配置エントロピー消失)という構造ガラスと同様の現象を示す。
   このことが理想的ガラス転移の潜在を定義する。
   正確に解ける統計力学ではMCTと一致する温度Tで動的転移が起きる。しかし熱力学的転移はより低い温度Tまで起きない。
   Tは異なる凍結溶液の配置エントロピーが消失する温度である。
   理論と実際の液体ガラス転移には、液体にはクェンチされたランダムネスがなくこれは自己発生しなければならない、モデルでは
  無限距離力があるが液体の相互作用は有限距離であるという2つの明らかな違いがある。クェンチされたランダムネスの欠如は理論の
  修正で解決しうるが有限距離相互作用のもたらす結果は重要である。これは通常の1次転移のスピノーダルのような動的転移を
  引き起こす。これは活性化された動力学への移行(クロスオーバー)となる。
   T以下で液体の大領域の再配置を含む有限距離系での運動が起こりうる。集団的活性化された事象は配置エントロピーで駆動される。
   ランダム1次転移に近づく有限距離系に対し活性化障壁に対するエントロピー小滴entropic dropletスケーリング議論で非アレニウス輸送
  挙動が説明されVogel-Fulcher則がもたらされる。
   ガラスの運動に配置エントロピーが必要という考えはAdam-Gibbsが先例するがこれはどのように再配置単位の活性化エネルギーが
  マイクロスコピックな力と関係しているかを説明していない。
   ニアnear・ユニバーサリティなLindemann比が種々のfragilityの液体に対する障壁高さと熱力学の結びつきを説明する。

   再配置領域の特性寸法ξはTに近づくにつれてAdam-Gibbsがランダム1次転移よりゆっくり成長、fragile物質に対しTg付近では
  ランダム1次転移では約90分子でそれに対しAdam-Gibbsではせいぜい10分子。
   ランダム1次転移エントロピー小滴描像は臨界小滴サイズξより大きい協同領域過冷却液体のモザイク構造をもたらす。
  
   *1次相転移は2つの相が互いに排斥しあうことで相界面が形成され相共存が起こるが、短距離相互作用でこのような相分離
  が起こるか。一方が自己凝集することでも他方が自動的に排除されて別々のドメインを形成しうる。→ランダム1次相転移

○ Glotzer(1998年)
   紐状協同運動
   固有構造間の転移は協同的な粒子集団の紐状string-like運動によって平均粒子間距離より短い距離の移動で起こる。  
    
   紐状協同運動(Glotzer)

○ Palmerらの階層的拘束hierarchically constrainedモデル
   緩和過程(自由度)は運動論的拘束により結び付けられた(各段階が次の段階を解放するように緩和する)緩和段階の連続で進む。
   これによりより拡張指数関数緩和が自然に生じる。

○ 運動拘束Kinetically constrainedモデル 

   運動拘束モデルでは考慮するメゾスコピック変数間の相互作用がないエネルギー関数を持ち、系の種々の配置間の
  許容された転移に機械的拘束を導入。

 ・Fredrickson-Andersonが開拓したスピン促進化faciliatedイジングモデル
   可動低密度領域と動き難い高密度領域の2状態変数を採用し、再配置は付近にこれを促進する十分な可動低密度領域が
  存在すると可能。
   低密度から高密度への再配置はスピン・フリップ(ひっくり返り)に翻訳される。

 ・Kob-Andersonらの機械的拘束ガス格子モデル
   粒子数が保存される。
   粒子は有次元格子を占め、動的規則に従って最隣接サイトに動くことができる。各サイトは少なくとも1つの粒子で占められることができる。
   すべての許容配置は同エネルギーで同じボルツマン重みを持ちエネルギーランドスケープはトリヴィアル。
   粒子は単位速度で、動く前後でmより少ない占有隣接サイトをもつという条件で空いた最隣接サイトに動く。

 ・Garrahanの荒い粒子化モデルCoarse-grained model
  促進化facilitated動力学dynamics(動的促進dynamic facilitation)を元としている。
  粒子の可動性は小さくほとんどの粒子は事実上詰まっている。
  すでに詰まっていない領域に隣接するときにだけ詰まった領域の原子は詰まっていない状態となることができ可動性を示す。
  可動粒子は時空間で鎖を形成する。可動性は方向を伴いこの方向にだけ長時間持続することができる、つまり粒子運動は伝搬性を有する。
  粒子運動は集団的で数粒子の複雑な入れ替えである。
  このモデルでは荒い粒子化モデルを採用し、空間を流体のバルク相関距離より小さくない立体空間に分割し、時間もいくつかの期間、
 時間ステップに分割される。

○ スピン・グラスモデル

  長距離秩序なしに配向が凍結するスピン・グラスはスロー・ダイナミクス、エージングや非可逆現象を示し、この転移はスピンの
 協力現象でまた連続的凍結現象でかつ多数の準安定状態が存在することが考えるなどガラス転移と類似した性格を有し、また
 スピン・グラス理論では動的転移と静的相転移を示すため(構造structural)ガラス転移の理解から注目されている。

 2つの異なった転移機構を示す平均場理論がある。

<2次相転移を示す>

  静的なガラス転移で連続的なレプリカ対称性の破れを示す。
  秩序パラメーターは連続的に変化する関数。(2次相転移)

 ・Edwards-Andersonモデル
  Isingスピン・モデル(Si=±1)でスピン間の相互作用を確率(ガウス分布)で無秩序に与える。
    
  最隣接相互作用Jijは互いに独立なランダム変数(長距離相互作用はない)、hは局所外部磁場
  臨界温度Tg以上では各スピンの熱平均<Sは0だが温度が下がるにつれてゆらぎが大きくなりTg以下で各スピンはランダムな方向
 に凍結し<Sは0でなくなる。そこで
  秩序変数として自己相関関数を定義。

 ・Sherington-Kirkpatrickモデル
  Edwards-Andersonモデルを平均場モデル化。
  交換相互作用はその間の距離に関係なくすべてのスピン対に働く。
  エネルギーを示強変数化するため相互作用の平均値、分散をNでスケール。

 ・レプリカ対称性破れRSB機構(Parisi)とdroplet描像(Fisher-Huse)

  droplet描像
   ある大きさのクラスターが集団的にスピン・反転するdroplet励起という考えに基づく。
   クラスター反転は熱活性過程とする。クラスター励起の確率はクラスターの大きさLに対し
    P(L)〜1/Lθ
  のスケーリングに従うとする。

 <無秩序1次転移random first order transition>

  局部状態には対称性はないが、長距離のクェンチされた無秩序な相互作用がある。
  1次相転移を示す。1段階のレプリカ対称性破れを示す。秩序パラメーターは、0<で<qEAの定数。
  動的転移点Tと静的転移点Tをもつ。T>TでTで配置エントロピーが消失。
  Tはエルゴード・非エルゴード移行によるMCTが規定するような動的転移。

 ・Derridaのspin-glass random energy model   
    Sherington-Kirkpatrickより単純なモデル。
    スピン配置エネルギーは独立ランダム変数。系は2のエネルギー状態をもつ。エネルギー状態はガウス分布。
     
 ・p spin model  pスピン相互作用
   長距離ハミルトニアン

    
   Jは平均0でないランダムな独立ガウス分布変数、分散1/N(p−1)、スピンはイジング変数
   p=2はSherington-Kirkpatrickモデル、p→∞は random energy model
   p>2以上が問題となる。

 ・Potts glass(Ashkin-Teller model)
   スピン±1の2状態のイジング・スピンに対しq状態に一般化。
   各スピンはすべての他のスピンと相互作用(平均場は距離に無依存なすべての2つのスピンの間のエネルギー関数)、
   q=2はSKモデル。
    
   Jijは1対のスピン(Si、Sj)が同じ状態にあるときだけ≠0、それ以外は=0 
   q>4以上が重要である。(1次転移となる)

○ Souletieのscaling model  
    ガラス転移を2次相転移のスケーリング理論で特徴付けた。
    slowing down式
    
    あるいは微分形
    Pτ(T)=−∂lnT/∂lnτ=(T−T)/zνT=(T−T)/θ 
    fragileでzν〜6、中間zν〜15、 strongでzν→∞

○ 田中の2秩序パラメーター・モデル 
    液体の最も簡単な標準モデルは剛体球モデルでこれによると無秩序で一様な液体構造が想定されるが、引力相互作用をする
   球状粒子モデルでは1つの粒子の周りに12個の粒子をもつ正20面体構造がfccやbccより低いエネルギーをもつ。
    これは最近接粒子数との結合エネルギーを局所的に最小化しようとする要請によるもので、このような液体内の短距離秩序化
   をあらわすために結合秩序変数を密度秩序変数に加えて導入する。異方的エネルギー相互作用する粒子からなる液体、たとえば
  水素結合では正4面体構造を形成するがこれも結合秩序変数であらわせる。対称性が問題とならない場合には局所安定構造の
  分率を結合秩序変数とする。
   液体の短距離秩序化とガラス化の関係は、引力相互作用をする粒子では結合秩序変数で示される結合の質を最大化しようとする
  要請と密度秩序変数で示される密度を最大化しようとする要請の二つがあり、結合の質を最大化しようとする要請は局所安定化構造
  を形成するが、この構造は結晶の対称性とあいいれないため成長には大きなエネルギーが必要でグローバル化はできないという様に
  説明される。
   局所安定化構造のエネルギーは通常の液体構造に比べて低いので温度低下で局所安定構造がランダムに形成され、この短距離秩序
  の存在が結晶化を阻害する。
   このように結晶化をもたらす(長距離秩序を表す密度を最大化する)密度秩序パラメーターと結晶対称性と両立しない局部対称性に
  適合した(局部結合を最大化する)結合秩序パラメーターの2つの秩序パラメーターの競合、局所安定化構造と結晶としてのグローバル
  構造の対称性不適合が強いフラストレーションの結果ガラス転移が生じるとして2秩序変数モデルでは示される。
     
     2秩序パラメーターモデルの状態図(新谷ら)

○ Kivelson(1994年) フラストレーション制限領域Frustration limited domain 
   局部適応構造(正4面体あるいは正20面体)は全空間を張り巡らすことはできない(幾何学的フラストレーション)ことを基本概念とする。

   液体中の分子は局部的自由エネルギーの極小に対応する局部適合構造に配置する傾向がある。
   しかしこの局部的配置の空間的拡大は局部適合構造によって空間を周期的に覆うことを妨げる遍在するubiquitous構造フラストレーション
  によって妨害されるとともに、これは系のサイズとともに超広範囲に成長する歪自由エネルギーの源でもある。
   秩序化、つまり局部適合構造を拡大する傾向とフラストレーションによって発生する歪の競合の結果、液体はある温度Tで歪んだ
  局部適合構造の領域と高温液体構造と結びついた領域に分裂し、そのサイズと更なる成長はフラストレーションによって制限される。
   温度Tは通常の分子液体挙動(T>T)と集合的領域に影響された挙動(T<T)のクロスオーバー(移行)温度と解釈される。
   液体の局部適合構造は局部秩序変数O(r)によって特徴付けられ、これは離散的方向を取れる。
   この理論では普遍的冪則universal power lawの普遍指数universal indexとして8/3が得られる。
   

○ Bouchaudのトラップ・モデル
   トラップ・ネルギーの指数分布を仮定。
    ρ(E)=(1/T)exp(−E/T
   トラッピング時間分布ψ(τ)〜τ−(1+T/T

○ 確率stochastic過程モデル
   小田垣らのトラッピング拡散モデル
    系の長時間領域における性質を決める原子のジャンプ運動に注目、ジャンプの待ち時間がべき分布を示し間歇的拡散が起きる。
    ノンガウシアンパラメーターがオーダーパラメーター。

○ 小貫らの格子欠陥モデル
   自由体積と呼ばれる粒子密度と格子密度の差(局所的隙間)の遅い緩和がガラス的緩和の原因。
   ガラス状態は格子欠陥が密に存在する状態。

○ Ngaiの結合couplingモデルCM 
   緩和動力学の異なる2つの時間体制を分かつ温度独立クロスオーバー時間tcを仮定。t〜10−12s。
   非常に短時間の高周波数に適用するものと、長時間の低周波数に適用するものの二つ応答関数をもつ。
   時間tcで緩和はデバイ型から拡張型へ移行。
   t<tでは基本単位は分子間相互作用はΩを決める時間独立平均場を与える以外何の効果もないように互いに独立に
  定速Ω=τ−1で緩和。緩和過程の相関関数はデバイ形でC(t)=exp−(t/τ
   t>tでは隣接分子は各単位の緩和に拘束を課す。このモデルでは引き続く多体緩和動力学を全単位に渡る平均によって得られる
  有効緩和速度で規定する。各単位は時間依存遅延緩和速度Ω(t)をもつ。
       Ω(t)=Ω(Ωt)−n
   nは結合パラメーターで、0<n<1で分子間協同性の程度を決める。この協同性が部分による再配向、配置転移などに対する成功速度
  に対するランダム変動をもたらす。
    相関関数はexp−(t/τ1−nでτ=t/τ1−n
   τβ(Tg)と(1−n):α緩和ピーク形状−に相関がある。
   この理論では結合をもたらす相互作用の性質はわからない。

○ Fan-Fechtのクラスター・モデル
   過冷却ガラス形成液体は液相と液体領域より粘性流動の活性化エネルギーが高い固体状クラスターからなる。
   η=ηexp(E/kT)exp(ΦT/T) Φ:fragility
   ガラス形成液体の動力学的kinetic粘性流動は熱力学と密接に関係している。

○ Stillinger-Hodgdonの流動化領域fluidized domainモデル
   固体ガラスはT付近で小さな割合(〜10−4)の流動化領域よりなる。
   全体の流動性は流動化領域内の非常に高い移動性による。
   この移動性領域は速い速度で揺らぐflicker。

○ Chamberlinの動的相関領域dynamically correlated domainsモデル
   非指数緩和は指数的に緩和する領域の不均一分布による。
   動的相関をもってこれらの領域が緩和すると結局分布は均一になる。
   サイズ依存緩和速度ωs=ωexp(−C/s)  s:ドメイン・サイズ

○ パーコレーションpercolation
  ランダムに存在する媒体の系内での繋がり、繋がりでできた集団・クラスターが網目を形成して浸透  
 
 ・Thorpe 
   Floppy状態でのRigid領域のパーコレーション
      
 ・Ojovan
   化学結合での切断結合Configuronのパーコレーション

 ・Jonsson-Andersen、Evteev、Dzugutov
   正20面体icosahedraクラスターのパーコレーション

 ・Cohen-Grest、Novikov
   liquid-likeとsolid-likeクラスターを仮定、solid-likeクラスターのパーコレーション

○ フラクタル構造
   fractal dimension

○ ジャミングjamming転移
   ジャミング転移はマクロ粒子系がある閾値密度(詰まったjamming状態)以上で無秩序な構造が凍結(流動停止)されて剛性となる
  現象で過冷却液体の協同運動、動的不均一性と同様な現象を示しその類似性が注目されている。
   液体の温度がジャミング転移のせん断応力あるいは密度に対応する。
   
   ガラス−ジャミング転移の概念図

○ シミュレーションSimulation

 ・分子動力学法molecular dynamicsMD
   原子、粒子を所定のポテンシャル関数で古典力学の運動方程式で解く。
  Dzugutovポテンシャル
  Lennard-Jonesポテンシャル
   平均2乗変位

 ・モンテカルロMonte CarloMC法
   確率分布Pに従う値Xをサンプリング、または種々の関数の期待値を計算する際に乱数を利用。
  
   メトロポリス法

   逆モンテカルロ法RMC

 ・密度汎関数法

8−2. 動的不均一性   

  ミクロ、マクロの中間領域での構造、中距離秩序IROの有無
  マクロ的には均一 

  ダイナミクスは空間的に不均一、運動の速い領域と遅い領域が存在。
  温度が下がるほど活性化した領域と不活性化した領域の不均一性が増大。
  通常の臨界現象では秩序変数の揺らぎが空間的(静的)に非一様に分布しているのに対し、ガラス転移では原子・分子の運動
 が時空間上で動的に非一様に分布。 
  
○ 相関長さcorrelation length   

  熱量的特性長
  協同現象(アダム・ギッブスのCRR)を特徴づける相関長、特性長 
  クラスタ
  動的相関長dynamical length scale
  
  動的不均一性と協同的再配置領域CR、諸クラスターの関係

○ Ornstein-Zernikeの密度揺らぎ理論

   密度揺らぎΔρ≡<(ΔN)>/<N>  <(ΔN)>:粒子数の揺らぎ
      <(ΔN)>=<(N−<N>)>=<N>−<N>

   液体の密度ゆらぎ
     Δρ=VρTK    K:等温圧縮率

   Ornstein-Zernikeの相関距離ξ
     I(s)=I(0)/(1+ξ)  s:散乱パラメータ、I:散乱強度
     密度関数∝r−1exp(−r/ξ)

○ Fischer cluster  異常小角散乱
   長距離密度ゆらぎdensity Fluctuation   
   液体の密度ゆらぎ<(ΔN)>=VρTKがあてはまらない   
   平衡液体のランダウ・プラチェック比からの期待を越える過剰光散乱、温度低下で増大 
   オルンシュタイン・ゼルケニOrnstein-Zernike式に従い数百nmと大きい
   構造緩和より数桁遅い時間スケール
     →熱揺らぎと別の起源の密度揺らぎ

 ・Bakai-Fisherの異(不均一)相揺らぎheterophase fluctuationモデル
   過冷却液体は分子が動きやすい液体状領域と動き難い固体状領域が数10Å程度の規模で共存。
   この2つの領域は異なった短距離秩序をもち無秩序に分布(フラクタル構造)。
   
 ・Kivelsonのフラストレーション制限領域

 ・田中の2秩序パラメーター・モデル

○ Cunat、Hermanのナノスケール相分離モデル
   Fe1−Xでの約1nmのクラスターによる相分離。

○ Donthの密度ゆらぎ

   系の全体積が亜体積(CRR)に分割されるとしてこの亜体積の熱力学的量に統計熱力学を採用。
   これをα過程に限定しまた揺らぎとして自由体積理論を導入。
    Va=ξa=kΔ(1/C)/(ρδT)  Na=RTΔ(1/C)/(MδT) 
     Na:協同性cooperativity(体積VaのCRRの平均粒子数)
   C:定体積比熱、Δ(1/C)=ガラス領域の(1/C)−液体領域の(1/C)、M:粒子の分子量
     ξa=Va1/3:特性長

○ Moynihan-Schroeder
   密度揺らぎ、体積揺らぎ
   <Δρ>/ρ=<ΔV>/V=kTΔκ/V

○ 4点感受率four-point susceptibility(Glotzerら) 
  時間tの揺らぎの空間量
 

  空間上の2点の軌道の2時間相関関数(4体時空間相関関数) 
  4点相関関数の空間積分、2点動的相関関数の導関数

○ 部分構造因子partial structure factor

 ・Bhatia-Thorton
   密度揺らぎ、原子種の濃度揺らぎ
   number number structure factor
    SNN:トポロジカル秩序(結合長、結合角)
   concentration concentration structure factor
    化学秩序
    Scc=N(<Δc>)=NkT/(∂G/∂cT,P,N  <Δc>:平均2乗濃度関数
   number concentration structure factor
    トポロジカルと化学的揺らぎの相関

 ・Faber-Ziman
   原子種相関

 ・Ashcroft-Langreth
   濃度変化

○ Kirkwood-Buffのパラメーター(積分)
   分子間距離などの微視的構造と熱力学量などの巨視的量を結びつける。
   Gij=∫(gij(r)−1)4πrdr gij(r):部分動径分布関数
    溶質αのiサイトと溶媒原子sとの密度揺らぎを全空間で積分
   これより2成分系での濃度揺らぎN<(Δx>、密度揺らぎ<(ΔN)/N>、濃度揺らぎ・密度揺らぎ相関<(ΔNΔx)>
  が得られる。
   
○ 4D−NMR、dielectric(magnetic) hole burning 、deep photobleaching
   緩和時間の分布をもとにsubensemble(不均一性のなかの遅い領域)を選択に観察することでsubensembleの動力学を選択的に観察できる。


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