金属の組織 

(1) 凝固 
 
(1−1) 核生成と成長

 凝固は液体から固体への相変態であり、液体の無秩序な構造のなかから温度低下により結晶の核となる
隣接原子の配置が結晶に近い原子配置のエンブリオが発生し、このなかから偶然臨界半径より大きいものが
形成されると安定となり成長する。
    
    σ:表面エネルギー、ΔGv:変態の駆動自由エネルギー、Tm:融点、Hm:潜熱、ΔT:過冷度
 臨界半径は過冷度とともに小さくなる。核生成は表面エネルギーが大きく影響する。
 核生成には周囲の影響を受けない均質核生成と坩堝壁面、不純物粒子等の影響を受ける不均質核生成がある。
 通常の金属の凝固では核発生の制御はできないから多結晶となり、各結晶は結晶粒界で接することとなる。
 結晶成長を規定するのは固液界面形状と優先成長方位である。

<固液界面形状>
 固液界面形状は熱・物質移動および潜熱と界面エネルギーによって規定される。
 固液界面は固体から液体を通して温度が高くなる正の温度勾配で平滑となり、一方液体で温度が低下する
負の温度勾配では固液界面が乱れ結晶組織に影響がでる。
 
 平らな界面が成長とともに不安定になる現象をMullins-Sekerka不安定をいう。
 平らな界面は成長速度とともにセル状cellular、柱状columnarデンドライト、等軸equiaxedデンドライトと変化する。
 

<凝固時の組成変化>
 平衡状態の凝固では液相は液相線に沿って、固相は固相線に沿って組成変化し、固相と液相の割合は
てこの原理に従う。
 不純物濃度はScheilの式に従うとされる。(液相濃度一様で固相での拡散がないという仮定)
     C=kC(1−fk−1 k:分配係数 k=C/C、f:凝固率

 しかし実際に凝固は非平衡状態で進み溶質元素は液相に濃縮され、固相、液相ともに内部に濃度勾配が生じる。
 液相内では拡散と対流が生じ、固相では拡散が生じる。

<組成的過冷constitutional undercooling>
 合金系では溶質の偏析のため液相内の実際の温度分布が濃度分布に対応した仮想の温度分布より低い
組成的過冷)ことがあり、このため平滑界面が不安定化する。
 組成的過冷は凝固時には存在せず凝固の進行で過冷(融点が下がる)が生じる。

<Gibbs-Thomson効果>
 固液界面が凸形状(曲率正)になると、液体中の固体の自由エネルギーは曲面による内部圧力上昇によりその径に
反比例して増加、
   
    :Gibbs-Thomson係数、K:曲率、σ:界面エネルギー、T:融点、ΔH融解エンタルピー、ρ:曲率半径
なる過冷却ΔT(曲率過冷)が生じる。(すなわち曲率正になると融点が下がることになる。)これをGibbs-Thomson効果という。
 
 熱拡散による潜熱の除去と界面形状によるGibbs-Thomson効果がMullins-Sekerka不安定の基本的仕組みである。
 即ち凸部が形成されると熱が放出されやすくなり成長が加速されるが、Gibbs-Thomson効果で溶けやすくなり抑制に働く。

<樹枝状晶デンドライト dendrite>
 結晶をゆっくり成長させると結晶に特有の外形(晶へき)で成長するが通常の結晶成長では樹枝状晶となる。
 樹枝状晶は過冷却状態にある溶液からの凝固に見られる結晶成長の一形態である。
 成長は樹枝状に枝分かれしながら急速度で起こり、各枝の方向は正確に結晶学的に特定の方向に一致する。
 固液界面が乱れると平滑な面からセル状(曲率をもった突起状)更に樹枝状となる。
 固液共存範囲が広く凝固区間が広い場合も樹枝状晶になりやすい。

*結晶成長の駆動力となる過冷度ΔTは熱的過冷度ΔTt、組成的過冷度ΔTc、Gibbs-Thomson効果による曲率過冷度
ΔT、界面駆動力である動的過冷度ΔTkからなる。
   ΔT=ΔTt+ΔTc+ΔT+ΔTk
 熱的過冷度は熱伝導方程式を解いて得られるIvantsov関数Iv(Pe)によって与えられる。
   (Pe=rV/2Dはペクレ数と呼ばれ、r:半径、V:成長速度、D:拡散率)
   ΔTt=ΔH×Iv(P)/C  C:体積比熱、ΔH:体積当り融解エンタルピー
 動的過冷度ΔTkは次式で与えられる。
    V:成長速度、μ:線形動力学係数

(1−2) 結晶の外形

 結晶成長には外見の違いからファセットfaceted成長ノンファセットnon faceted成長がある。
 

 ・ファセットfaceted成長
  結晶外形が特定の結晶面からなる平らな面(ファセット)で囲まれた形態を示す。
  沿面成長機構による。

 ・ノンファセットnon faceted成長
  結晶外形は特定の結晶面からなる平らな面を示さないが、母体(幹)や枝(腕)の方向は結晶学的に特定の方向に一致する。
  連続成長機構による。
  
(1−3) 結晶の成長機構

(1−3−1) 沿面成長と連続成長

 ファセット成長とノンファセット成長はそれぞれ沿面成長と連続成長機構による。

<沿面lateral成長> (層成長、stepwise成長、 edgewise成長)
   界面は原子的に平坦で(平坦な面をテラスという)、原子はエッジ(ステップ、段)やジョグ(キンク、ステップの角)に付着し、結晶は
  特殊なエッジ面(晶癖面)を示す。
   成長の駆動力が小さく、平衡に近い成長条件で起きる。
   ファセット成長を示す。主に非金属。
   ステップの供給の仕方により2次元(表面)核生成成長と渦巻き成長がある。

  ・2次元(表面)核生成成長
    島状に結晶成長核が形成される。
    成長速度V∝exp(−1/Δμ)  (Δμ:駆動力、固相と液相の化学エネルギー差)

  ・渦巻きspiral成長
    らせんscrew転位によりステップが供給される。
    成長速度V∝(Δμ)  

<連続成長> (垂直normal成長、付着成長)
   原子的に荒れた面、拡散界面、原子は界面に均一に付着、マクロ的には平坦で特殊なエッジや面がない。
   ノンファセット成長を示し、主に金属。
   過飽和度の大きな気相成長などで起きる。
   荒れた面なのでステップ、キンクは多く存在する。
   成長速度V∝Δμ

 

 ・ラフニング転移
  規則的に配列した平坦な面をした構造から無秩序な荒れた面をした構造への変化をラフニング転移という。

(1−3−2) JacksonモデルとCahnモデル

 荒れた面と平坦な面の成長モデルとしてJacksonモデルとCahnモデルがある。
 
 ・Jacksonモデル
   平坦な面か粗い面かは物質の特性と面の結晶学的性質による。
  Jacksonの荒さパラメーターα
      α=ξΔS/R     ΔS=ΔH/T  ΔS:溶融エントロピー、ΔH:溶解熱
                     ξ:結晶学因子<=1
   α≦2         連続成長、ノンファセット成長 荒れた面
   α>2  沿面成長、ファセット成長 平坦な面

 ・Cahnモデル
   沿面成長から連続成長への変化は界面の過冷却増大による。
   連続成長は過冷却が大、沿面成長は過冷却が小。

   金属は低過冷却でも連続成長が起きる。
   低過冷却から”らせん成長、2次元核成長、連続成長”と変化。
     
(1−3−3) ベルグ効果(現象)

 結晶成長では多面体結晶の平らな面は稜や隅より過飽和度が小さくなり、従って稜や隅の結晶成長速度が大きくなる。
 この効果が強くなると結晶の稜や隅が出っ張り、平らな面が引っ込んだ骸晶が生じ、更に樹枝状晶、球状晶と変化
する。
 過冷却度が小さいと結晶はファセット(自形)をとるが、大きくなると順に骸晶、樹枝状晶、球状晶となり更にはガラス化する。

*晶癖と晶相
 晶癖habitus
  結晶面の発達の程度の違いで生じる結晶形態の違い、四角柱、四角平板・・・
  結晶自体の成長速度の異方性あるいは環境条件の異方性によって生じる。
 晶相tracht
  面の組み合わせと発達の程度の変化によっておこる結晶の形態変化、正6面体、正8面体、・・
  結晶面の成長速度の環境条件(温度、過飽和度、溶媒、不純物・・)の依存性によって生じる。

(2) 偏析(凝固偏析)  

 合金元素や不純物などの溶質元素を含有している溶融金属が凝固する時は,溶質元素は偏析する。
 元素の偏析にはミクロ偏析とマクロ偏析とがある。 
 偏析(凝固偏析)が生じるのは溶質元素の固相と液相への配分を示す分配係数kが1でないことに起因する。
 また合金の固相線と液相線の温度範囲(固液共存範囲)が広いことにも起因する。

(2−1)ミクロ偏析  

 溶質元素の溶解度は、液体中に比べ固相中の方が低い。したがって、凝固の進行にともない液体中に、
溶質元素が排出され濃化する。
 そのためデンドライト凝固では主軸の成長および側枝の発達に伴い固液間の溶質元素の分布を生じ、先に
凝固したデンドライトの部分は溶質元素(合金元素)の濃度が少なく、後で凝固するデンドライトの部分とで濃度差を生じ(粒内偏析)、
またデンドライト間つまり凝固粒界には、溶質元素や不純物が濃縮される。(粒界偏析)

(2−2) マクロ偏析 

 マクロ偏析とは,デンドライト間隔や結晶粒間隔よりも長距離にわたり肉眼的な尺度でみられる偏析を言う。
 マクロ偏析は,一般にミクロ偏析によって濃化された液相が流動するために起こるのがほとんどであり、
温度差および濃度差に起因する自然対流,表面張力流,電磁力や凝固収縮力などによって流動する。
 凝固は鋳型に接触した外側から内部に進むから低融点成分や不純物は中心部に偏析する。
 このように凝固の遅い部分に不純物等が偏析する場合は正常偏析という。
 Al合金や青銅などで外側(表面ないし凝固の早い部分)に不純物等が偏析する場合を逆偏析という。
 これは凝固・冷却による収縮で型との間に空隙が生じ、その結果放熱が悪くなり、熱伝導率のいいAl合金
やCu合金では凝固部の再溶融が起こるためとされる。
 
 また前述のように溶質元素の溶解度は、液体中に比べ固相中の方が低い。したがって、凝固の進行にともない液体中に、
溶質元素が排出され、遅くに凝固した部分に濃化し、平均組成より濃度の高い正偏析を起こす、一方、平均組成より濃度の
低い場合は負偏析という。
 連続鋳造では中心偏析を避けるために行う電磁攪拌によりミクロ偏析した溶質元素が洗い出されたり、圧延と移動(圧下)に
より中心部の未凝固の液相が絞りだされたりすることにより合金鋼などでのCr、Ni、Cなどの負偏析が生じる。

*偏析は以下のように分類できる
  凝固偏析
    マクロ偏析 ・・・肉眼レベル
    ミクロ偏析 ・・・μmオーダー
      粒内偏析(結晶偏析)  ・・・結晶の中心と周辺、デンドライトの主枝と側枝の間、溶質元素の固相での拡散のしにくさによる。
      (凝固による)粒界偏析
 (凝固によらない)粒界偏析 ・・・nmオーダー   →後述
    平衡偏析
    非平衡偏析

*レカレッセンスrecalescence(再輝現象)
 過冷度が大きくなると、凝固に伴う発光が観察されこれをレカレッセンスという。
 凝固時の潜熱の解放で説明される。
 過冷却を大きくしていくと凝固潜熱の放出により試料の温度が急に上昇する復熱現象が見られる。 
 (通常の凝固では凝固が終わるまで潜熱で温度一定状態になる)
 金・銀・銅などの金属を、融点を境にして昇温・降温を繰り返すと最大過冷度は約200℃に達する。 
 浮遊法による無容器凝固でも大きな過冷度が得られレカレッセンスが見られる。

(3) 鋳造鋳塊(インゴット) 

 金型鋳造による鋳塊は金型に接する部分は急冷と多数の核生成により非常に小さな等軸晶が形成され
(チル層)、このなかの優先成長方向を有する結晶が優先成長して柱状晶が形成される。
 中央には方向性をもたない等軸晶が形成される。
 
 生産性を向上させるため現在は連続鋳造が中心であるが連続鋳造では表面が凝固し、なかが未凝固の状態で
圧延が行われる。

*鉄鋼の造塊

 鋼の凝固では溶存酸素の除去が特に重要で溶存酸素はシリコン(FeSiフェロシリコン)、アルミニウム、マンガン(FeMn
フェロマンガン)などによって除去(脱酸、酸化物化し除去)する、脱酸を行わないと酸素がCと激しく反応し主にCOを発生し
溶湯は沸騰し(リミング・アクション)、最初の凝固した表面に気泡を生じる。
 鋼は脱酸の程度でキルド鋼、セミ・キルド鋼、キャップド鋼、リムド鋼に分けられる。

 キルド鋼
  鋳造鋳塊製造(凝固)の際、十分脱酸を行い(シリコンやアルミニウム等の添加)、ガス(CO)放出のない静かな状態で
 凝固させた鋼。
  気泡がなく組織がほぼ均一で偏析の少ない優れた特性を持つが上部に引け巣(収縮孔)が生じ歩留まりが悪い。
  高級鋼や合金鋼。

 セミ・キルド鋼
  リムド鋼とキルド鋼の中間の脱酸を行ったもので従って性質もその中間となる。

 キャップド鋼
  溶鋼を鋳型に注入後一定の時間が経過してからAlを投入する(ケミカルキャップド鋼)か、あるいは鋳型に蓋をして
 (メカニカルキャップド鋼)リミング反応を早めに強制終了させ内部を静かに凝固させた鋼。
  このようにして表層部をリムド鋼のような清浄なものとするとともに、内部をセミキルド鋼のような偏析の少ない状態とし、かつ気泡
 によって収縮孔を相殺しようとしたもの。

 リムド鋼
   フェロマンガンで軽く脱酸する程度で、従ってガスを放出・沸騰(リミイング反応)しながら凝固するため最初に凝固する
  表面に気泡を含む縁層(リム層)が生じる。
   圧延では内部の気泡もつぶれ良好であるが切削すると内部の傷が露出するので塑性加工向きで切削加工には向かない。

 連続鋳造
  連続鋳造では溶鋼を側面が凝固した状態で鋳型の底から引き出していき圧延を行う。このためには溶鋼の不純物をできるだけ
 除去するとともに、最後に凝固する中心部への不純物偏析を防ぐ必要がある。
  通常Alキルド鋼である。

(4) 多相合金の凝固

(4−1) 多相合金の特徴的凝固組織

 多相合金系では相平衡の様式(状態図からわかる)から特徴的な組織を呈するものが見られる。

 ・共晶eutectic組織
  共晶は液相から二つの固相が同時に凝固する反応である。
   L(液相)→α(固相)+β(固相) 
  共晶は2相の体積比で層状組織、棒状組織などを示す。
  低融点が求められるはんだは共晶を基本とする。
   層状組織 
    2相の体積が近い場合、Al-Cu、Pb-Snなどに見られる。 
   棒状組織  
    2相の体積に差がある場合。
  
 ・偏晶monotectic組織 
  偏晶は液相から固相と液相が分離する反応で
    L→L’+α
  残った液相もやがて凝固するので結果的に共晶組織に近い組織を呈することがある。
  Cu-Pb、Al-Pb、Al-Inなどがある。
  
 ・包晶peritectic組織
   包晶は液相と固相から別の固相が生成する反応で
    L+α→β 
  固相αを固相βが取り囲んだ組織を形成する。
  Ni-Al、Fe-Cなどで見られる。 
  

 *凝固の反対の溶融過程においては一致溶融(合致溶融、調和溶融、Congruent Melting)と分解溶融
(不一致溶融、非調和溶融、Incongruent Melting)が生じうる。
  化合物が融点で固体と同じ組成の液体になる場合が一致溶融であり、部分的に溶融つまり分解して溶融し固体と異なる
 別の固体と液体になる場合が分解溶融で単結晶育成において問題となる。
  分解溶融化合物は一般に包晶反応である。

 *分別晶出(結晶化)fractional crystalization作用
  主に鉱物学で、晶出した結晶が残液から分離する(反応系外に出る)ことにより平衡と異なる結晶が生成していく現象をさす。
  
(4−2) 共晶組織の分類

 共晶組織の分類にはいくつかの方法があり、たとえば
  形態から
   正常normal共晶(あるいは規則regular共晶)と異常anomalous共晶(あるいは不規則irregular共晶)と退化degenerate共晶。
  熱力学的に
   ノンファセット・ノンファセット共晶、ノンファセット・ファセット共晶、ファセット・ファセット共晶。
  成長機構から
   協調成長、分離成長。
などと分類される。



(4−2−1) Bradyの分類(1922年)
 表面張力を基準に分類。

 クラス1. 球状globular
   両成分は高いが異なる表面張力。Cd-Sn、Cd-Pb、Cu-Ag、Zn-Bi等。
 クラス2. 層状lamellar
   両成分は高くてほぼ等しい表面張力。ほぼ等しい割合。Pb-Sn等。
 クラス3. 角張ったangular
   A. 一方が低い表面張力。Sb-Pb、Pb-Bi、Sn-Bi、Cd-Bi等。
   B. 一方が高い表面張力。Ag-Pb、Ag-Bi、Al-Sn、Cu-Bi、Cu-Pb等。
 クラス4. 結晶体crystalline
   両成分の表面張力は低い。Sb-CuSb。非金属共晶に良く見られる。

(4−2−2) Portevinの分類(1923年)
 形態から分類。

 タイプT 規則結晶
   ひとつの成分のマトリックスに他の成分が散在。
   Sn-Cu、Sn-Co等。
 タイプU デンドライトまたは骸晶skeleton(隅、稜が成長し中央部の成長が遅れ窪んでいる)
   Ag-Sb、Mg-Cu、Mg-Si、Bi-Pb等。
 タイプV 共晶群体colonyまたは複雑粒complex grains
   spherical(球状)、fan-like(扇状)、parallel-clustered(平行密集) varietiesに副分類。
  *Portevinの複雑粒complex grainsは内部に共晶粒子をもつ多数の多面体でまた共晶群体colonyとも呼ばれるが、細胞状cellular共晶と
  されることもある。
 タイプW granular
   金属には見られない。

(4−2−3) Chadwickの分類
  連続共晶、不連続共晶、らせん共晶に分類。
  GuptaのPhase Equilibria in Materialsによる詳しい分類では

 ・連続共晶
    両相が成長方向に連続している。
   ラメラ(層状)共晶
   ロッド状(棒状)共晶
   セル(細胞)状共晶(コロニー状)
     共晶群体colonyあるいは細胞状cellular共晶はセルに多数(10−100)のラメラ対をもつ大きな粒である。
   らせん共晶
     2相がはめ込まれたラセン板として存在、Zn-Mgなど。
  
 ・不連続共晶
    相の連続性がなく、マトリックスにバラバラな粒子が分散した形で存在。
   針状acicular
   ノジュール状(塊状)
   漢字状chinese script

(4−2−4) Scheilの分類(1954年)
  溶質相の体積比Vによる分類。

 ・正常nomal共晶(規則共晶)
  体積比が近い。ノンファセット・ノンファセット共晶。
  ラメラ状 
  ロッド状

 ・異常anomalous共晶(不規則共晶)
  体積比が大きく異なるか、少数相が顕著な異方性を示す。
  ノンファセット・ファセット共晶。
  不規則ないしニードル状。

 ・退化degenerate共晶
  正常共晶あるいは異常共晶のような協調成長による組織を示さない、マトリックス相に第2相がほぼ均一に分布した状態を示す
 共晶系組織を指す。本来成長機構を示す分離共晶と区別がつかなくなっている。
  主な形状は、ノジュール状(塊状)、針状acicular、漢字状chinese script
 Introduction to Solid State Chemistryから)

(4−2−4) Jacksonの溶融エントロピーΔSによる分類(1966年)

 Jacksonは溶融エントロピーΔSによって3分類、これをTaylorが拡大。
 Taylorは溶解solutionエントロピーを使用し、23J/mol-Kを基準とした。

 ・ノンファセット・ノンファセット共晶(正常共晶)
   両相が低エントロピー、23 J/mol-K以下

 ・ファセット・ノンファセット共晶(異常共晶)  
   高エントロピーと低エントロピー

 ・ファセット・ファセット共晶
   不規則共晶。
   両相が高エントロピー、23 J/mol-K以上

(4−2−5) Kurz とFisherの分類(1989年)
  Jacksonの荒さパラメーターαと溶質相の体積比Vによる分類。

        ノンファセット・ノンファセット共晶 ファセット・ノンファセット共晶 
 

(4−2−6) Crokerらの分類(1973年)
 溶解エントロピーΔSと溶質相の体積Vによる分類

 規則ラメラlamellar、規則ロッドrod、枝折brokenラメラ(と繊維fibrous)、不規則、複雑complex規則、準quasi規則に分類。
  複雑complex規則:内部がregularなcellularとcellular間はirregular。
  準quasi規則:plateとrodの組み合わせ。

     (成長速度10cm/s)

 Vが10%で枝折ラメラから不規則片状flake構造に変化し、約20%で複雑規則構造に変化、更にVが大きくなると準i規則構造となる。
      
 もっと詳しい分類では規則ラメラlamellar、規則ロッドrod、枝折brokenラメラ、不規則、複雑complex規則、準quasi規則に
らせんspiral、球状globularという分類もなされる。

(4−2−7) Spenglerの分類。
  2相の体積比のほかに融点の関係を加えた。
  θ=(T−T)/(T−T)   T=低溶融成分の融点、T=高溶融成分の融点、T=共晶点
   正常共晶:0.1<θ<1
   異常共晶:0.01<θ<0.1
   退化共晶:θ<0.01

(4−2−6) Sundquist、Mondolfoらの理論

 不純物の存非が共晶形成相のどちらかの核生成を促進し異常共晶組織の形成規定要因となる。
 正常共晶は共晶相α、βが各々の核生成を促進し合うが(協調成長)、異常共晶では不純物が
両者の核生成を促進し、極端な場合、初相αがβ相のハローに囲まれ、退化組織となる。

(4−3) 共晶凝固の理論

  Zenerはラメラ共晶成長でラメラ間隔λ」と成長速度Vで
   λV=一定
 とした。
  HuntとJacksonはこれについて一般理論を立てた。

 ・HuntとJackson理論と協調cooperative(coupled)成長
  
  共通固液界面(3重点)を形成し、成長方向と垂直方向に溶質を交換しながら成長。
  両相の平均温度は等しい→協調(結合)成長するΔT=ΔTα=ΔTβ
  ΔT=ΔTc+ΔTrとして計算。

  ΔT=KλV+K/λ
  λV=K/K(=一定)
  ΔTλ=2K(=一定)
  ΔT/V=4K(=一定)
  

 ・Trivedi、Magnin、Kurz理論
  ペクレ数Peは協調成長の界面成長条件の一般的評価量で、HuntとJackson理論では1より非常に小さいすなわち、共晶間隔(λ)は拡散距離
 より非常に小さく、界面過冷却は界面組成がほぼ共晶組成に等しいくらいに小さいと仮定されている。
  HuntとJackson理論は成長速度が小さい場合に適合し、大きい場合は拡散距離は小さくなり、過冷却は非常に大きくなり、ペクレ数Peは1に近づき、
 HuntとJackson理論は破綻し、λV等は定数でなくなる。

 ・ラメラからロッドへの変化(Chadwickの説明)
  不純物の効果で説明、添加不純物のα相とβ相の分配係数がかなり異なると組成的過冷却が一方の相で大きく、
 この相のラメラは崩壊する。
  一方、Huntは端面での崩壊を曲率界面と結びついたセル境界での成長方向の変化のせいにした。

 
  ラメラからロッドへの変化の機構(Chadwickの説明)

 ・共晶界面の不安定性
  2成分系の共晶合金は平面的界面で成長するが速い成長になると平面的2相界面は不安定となり、平面からセル状cellular(コロニー)、
 更にデンドライト状となる。
 

 ・Fisher-Kurzの分岐branching制限成長
  ファセット相の異方性成長動力学。
  不規則共晶では種々のラメラの成長方向は平行ではなく(ファセット相の異方性)、収束するラメラでは局部間隔は減少し、
 発散するラメラでは広がる。
  極限では収束するラメラは一方がちぎれ、発散するラメラは2つに分岐する。分岐の起こる最大幅を決める基準が問題。
  

 ・振動oscillatoryモード
  ノンファセット相のラメラ幅は最大値と最小値を振動する。
  

(4−4) 競合成長competitive gowthとカプルド・ゾーン(協調領域)

 ・競合成長competitive gowth
   デンドライトと共晶の競合とカプルド・ゾーン(協調領域)

 ・カプルド・ゾーンcoupled zone(協調領域)
   共晶は共晶組成から外れた組成でも共晶組織を形成しやすく、共晶が成長しやすい領域をカプルド・ゾーンという。

  対称型  融点が近く、共晶組成が偏っていない場合。
  非対称(斜傾)skew型  融点差が大きく、共晶組成が低融点成分側に偏っている場合。
 

(4−5) 分離成長と共生成長

 共晶の凝固には協調成長のほかに分離成長がある。
 分離成長(分離共晶)は退化共晶などとともに協調成長に見られるような共晶組織を示さない。
 本来、退化共晶は形態からの命名で分離共晶は成長機構からの命名であるが形態的には類似するため区別されなくなっている。

<分離divorced成長>
  協調成長(ラメラ、ロッド状)に見られるような秩序配置がなく、α相とβ相が個々に配置した種々の共晶構造をいい、
 共晶点をはずれたoff eutectic組成の共晶(一方の相の体積比が小さい)でβ相が核生成のため大きな過冷却を必要とするため、
 α相が液相線の延長を準安定的にβ相が形成されるまで成長されることにより生ずるとされる。
  分離成長では凝固前線でα相とβ相の共通の固液界面形成と溶質の交換が存在せず、両相が互いに独立して成長する。
  協調成長の共晶ではα相とβ相は同時に成長するが分離成長では別々に成長する。
  協調成長では初相のデンドライト間の大きな空間(ポケット)に共晶組織が成長するが、分離成長では初相のデンドライト間の
 小さな空間に分離成長が起る。
  この機構により形成される構造は種々の形態をとり得、基本的にα相のマトリックスにβ相が島状に分散した、ノジュール(塊)状、針状、
 漢字状chinese scriptなどとなるが、これら形態の形成は初相のデンドライトによって形成されるデンドライト間の小さな空間形状に規定される。
 

  また別の説では初相αのデンドライトが面積的に多く、共晶がそのデンドライトの小さな空間の形成される場合、共晶のα相が初相αに
 優先的に形成されるため、β相が取り残された状態となるともされる。
 

  *本来、退化共晶は形態からの、分離共晶は成長機構からの命名であるが結果的に似た組織をさし、また成長機構も明確でないため、
 退化共晶、分離共晶の区別は明確ではない。

 ・分離振動的oscillatory成長
  一方向凝固での分離成長でα相とβ相の交互の核生成が繰り返されることを振動的といい帯状構造となる。
  (凝固経路は非平衡軌跡)

 ・共生symbiotic成長(分離共生成長)
  共生成長は1変数共晶系(3成分系)の特殊な成長タイプで、α相界面と垂直におきる液相ギャップを通しての拡散により溶質交換を行いながら、
 共通の固液界面は形成せず(α相とβ相は液相により隔てられる)に同時に成長する。
  (凝固経路はほぼ平衡軌跡をたどる。)
  このような成長は少数相への接種剤の添加によって可能となる。
  一方向凝固では平らなマトリックス相の前面に少数相が核生成し粒子に成長し、粒子と移動する界面に働く力により粒子の排除と抱き込みの配置
 が決まり、この連続の繰り返しで帯状構造が形成される。
 
       (http://adsabs.harvard.edu/full/2001ESASP.454..565Hから)

 ・ハローhaloと分離共晶
   初晶を第2相の層が囲んで共晶から分離しているとき第2相の層をハローhalo(あるいはエンヴェロープenvelope)という。
   
  Sundquistらによるハローhalo形成の説明。
   合金対の非相互的核生成性を基礎、相αがβ相をほとんど過冷却なしに核生成させるとすれば、β相はα相を核生成させにくい。
   過共晶合金が液相線温度になると初相βが晶出し、液相線に沿って組成が変化する。β相がα相を核生成させにくいと、液相組成は
  液相線の延長の沿って変化しある温度で過冷却が大きくなりα相が晶出し、α相はβ相の周囲にβ相のハローを形成する。
   α相の成長で共晶組成まで戻り、共晶が成長を始める。
   亜共晶合金では液相線温度になると初相αが晶出し、β相が晶出するまで、液相組成は液相線とその準安定延長に沿って変化し、
  ある温度で過β相が晶出する、もしα相がβ相を核生成しやすいと、この温度は共晶温度に近く、β相はハローとして成長し、共晶組成になると、
  共晶が成長を始める。

(4−6) 鋳鉄と共晶

 主要な鋳造合金であるAl−Si系とFe−C系はノンファセット−ファセット共晶に属し、種々の特異な形態を示す。
 Fe−C系には2つの共晶系のFe−グラファイト(黒鉛)とFe−カーバイド(FeC)がある。
 カーバイド形成元素(Cr、Mo、W等)は白鋳鉄化を促進し、カーバイドを形成しない元素(Si、C、Al等)はねずみ鋳鉄化を促進する。
 また窒化物、硫化物、炭化物、酸化物、金属間化合物等は黒鉛晶出核となりねずみ鋳鉄化を促進する。
 
    Fe−C系状態図(実線:Fe−セメンタイト系、点線:Fe−黒鉛系)

<主な鋳鉄>

 ・白鋳鉄 white cast iron
   準安定Fe−カーバイド系凝固の結果生じ、オーステナイトとカーバイド(セメンタイト)の白色共晶(レーデブライト)を生成する。
   最終的にオーステナイトはパーライト、フェライト等となる。
   ラメラ(edgewise成長)と棒状(sidewise成長)の2タイプの共晶構造が生じる。
  
  レーデブライト成長の模式図

 ・ねずみ鋳鉄 gray cast iron
   安定Fe−グラファイト系凝固の結果生じ、オーステナイトとグラファイトの灰色共晶を生成する。
   冷却速度でグラファイトの形状変化。
   最終的にオーステナイトはパーライト、フェライト等となる。
 
         FG:片状黒鉛、CG:CV黒鉛、SG:球状化黒鉛
   組成、温度勾配、成長速度の影響のFe−C−Si合金の形態模式図

 ・まだら鋳鉄 mottle cast iron
   白鋳鉄とねずみ鋳鉄の中間体でグラファイとカーバイドを有する。

 *ダクタイルductile鋳鉄
   黒鉛を球状化処理したもの。

 *可鍛鋳鉄(マレアブルmalleable)
   白鋳鉄(パーライト・マトリックス中にカーバイド)を熱処理しカーバイドを分解させ、焼き戻しtemper黒鉛としたもの。

<種々なFe−グラファイト系鋳鉄>

 ・片状flake黒鉛鋳鉄
  黒鉛の形状でA型からE型に分類される。
  形状・寸法は組成、過冷却度、接種剤(少量添加物)による。

  A型:均一分布、無秩序配向
  B型:ローゼット(円花飾り)状集合、無秩序配向
  C型累重片状、無秩序配向
  D型:デンドライト間偏析、無秩序配向
  E型:デンドライト間偏析、優先配向
 

 ・CVcompacted vermicular黒鉛鋳鉄  vermicular:ぜん虫状
   球状と片状の中間形状。
  

 ・球状化spheroidal黒鉛鋳鉄(ダクタイルductile鋳鉄、ノジュラーnodular鋳鉄)
   Mg、Ca、希土類などの添加による。
   球状化黒鉛鋳鉄は分離成長機構によると考えられている。
   即ち、球状黒鉛とオーステナイトは別々に(場所と時間)晶出し(分離共晶)、ある球状黒鉛では周囲にオーステナイト殻が形成され、
  この球状黒鉛はオーステナイト殻を通しての拡散により成長しハローが形成される。

  
   球状化黒鉛の成長の模式図(分離共晶とハロー)

(5) 凝固過程の制御

(5−1) ダイキャストと溶湯鍛造 

 ・ダイキャスト
   大きな圧力(数MPa〜数100MPa)で溶湯を金型内へ射出。

*ダイキャスト合金
  ダイキャストに利用される主な合金はAl、Zn、Mg合金である。
  融点 Zn:419.5℃、Mg:651℃、Al:660℃

 ・溶湯鍛造(高圧鋳造)
   溶湯を高圧(数10MPa)で加圧したまま凝固させる。
  (ダイキャストでは圧力は金型内へ射出するために消費される)

(5−2) 半凝固加工と半溶融加工

 ・半凝固加工(レオキャスト)
  金属を固液共存状態で機械的あるいは電磁的方法等により撹拌を行い生成する樹枝状晶組織を破砕し、
 球状の固相金属と液相成分とが均一・微細かつ等方的に分散した固液共存状態とし鋳造する。
  凝固収縮が小さい、均質な粒状組織が得られる、マクロ偏析が少ない、金型の熱負荷が小さいなどの
 利点がある。

 ・半溶融加工(チキソキャスト)
  半凝固加工のようにして固相結晶粒と液相成分とが均一・微細かつ等方的に分散した固液共存状態にし、
 これをいったん完全に凝固させたのち再加熱して固液共存状態で鋳造する。

(5−3) 一方向凝固

 凝固速度(移動速度)と温度勾配(炉の温度分布)を制御し凝固を一方向に制御する一方向凝固がNi基超合金
で行われる。
 また共晶組織の一方向凝固なども研究されている。

(5−4) 急冷凝固 

 銅製の回転ロールに金属液体を噴射するなどの方法による液体急冷法で金属のアモルファス化が実現できる。
 
(5−5) 無容器凝固−浮遊法

 無容器凝固を実現するものとして浮遊法がある。
 電磁、ガスジェット、超音波、静電、磁場法などを利用し融液を保持する。
 無容器溶融では大きな過冷却が得られる。

(5−6) 金属の凝固膨張
 
 Bi、Sbは凝固に際し膨張する。
 Biは50−60%で凝固収縮0となりBi−42Snなどが利用される。

(6) 析出 
 ここでは析出とは固相での新しい相の生成と解する。
 (液相からの固相の生成は晶出、あるいは晶析、ただし液相(溶液)からの固相の生成を析出という場合もある。)
 固相変態率はJohnson-Mehl-Avramiの式
  V=1−exp(−kt
 で表わされ、n:アブラミ指数は成長機構に対する情報をもつ。

(6−1) スピノーダル曲線とバイノーダル曲線

 過飽和固溶体から新しい相を分離するには核生成−成長型相分離とスピノーダル分解がある。

 2元合金が相分離型の状態図を持つとき固溶体の自由エネルギーの組成依存性は上に凸のW形曲線
(2つの極小と1つの極大をもつ)となり共通接線の二つの接点の間(溶解度ギャップmiscibility gap)で
相分離が起きる。
 この接点の軌跡がバイノーダルbinodal(溶解度ギャップ)曲線であり、自由エネルギーの変曲点の軌跡が
スピノーダルspinodal曲線である。 
 自由エネルギーの1階微分は相の平衡状態の、2階微分は安定性の目安となる。

*離溶exsolution
 鉱物学、宝石学などでは過飽和固溶体の分解、新相析出を離溶と称し、共析も含めている。
 共析によるラメラ構造を連晶intergowthとも称する。
 過飽和固溶体からの新相析出は母相に対して一定の結晶学的関係をもって規則的に析出するので宝石では
アステリズム、シャトヤンシー、シラーといった現象を生じる。
  アステリズム(スター効果、星彩効果)・・・スター・ルビー、スター・サファイアなどに見られる現象。不純物(TiO)析出による。
  シャトヤンシー(キャッツアイ効果、変彩効果)・・・キャッツ・アイ(クリソベリル)、などに見られる現象。不純物析出による。
  シラー(光彩、アデュラレッセンス)・・・ラメラ構造による、長石の正長石(オルソクレース)と曹長石(アルバイト)への
 共析(パーサイト=月長石)が有名。
   
  隕石に見られるウィンドマンシュテッテン組織もNiFe合金のNi(テーナイト)とFe(カマサイト)の共析によるラメラ組織。

(6−2) スピノーダル分解

 スピノーダル曲線の内側では熱ゆらぎにより生じた濃度変化は系の自由エネルギーを低下させ固溶体
より安定で、小さな濃度変化から相分離が始まり連続的に自発的にゆらぎが大きくなり相分離が完了する。
 スピノーダル分解では濃度変動の波長に対応した周期構造(変調構造)をもつ。
 Cu-Ni-Fe、Al-Zn、Au-Niなどで見られる。
 スピノーダル分解は上り坂拡散(uphill diffusion、逆拡散)の1例である。

(6−3) 核生成−成長型相分離  

 バイノーダル曲線とスピノーダル曲線の間では核生成−成長型相分離が起こる。
 この範囲では熱ゆらぎにより生じた小さな濃度変化は系の自由エネルギーを上昇させるので不安定であり
濃度変化は消滅し元の固溶体にもどるが何らかのきっかけで安定組成に近い析出核が出現(潜伏期間)
すれば自由エネルギーは低下し相分離が進行する。
 ・オストワルド成長
  母相に大きな粒子と小さな粒子が分散しているとき小さな粒子が収縮・消滅し大きな粒子が成長する現象をオストワルド成長といい、
 これは母相への溶質の溶解度が粒径に依存することによる。
  すなわちThompson Freundlichの式
    Cr=Cexp(2Mγ/rRTρ)  
    Cr:半径rの粒子の溶解度、C:無限大の粒子の溶解度、M:溶質の分子量、γ:表面張力、ρ:密度
 より粒径の小さいものほど溶解度が大きい。
  また粒子成長はLifshitz-Slyozov-Wagnerの理論では
   d−d=Kt/T   d:時間t、での平均粒子径 K=8σDV/9R σ:界面エネルギー、D:拡散係数、Vm:モル体積

 過飽和固溶体からの析出には連続析出不連続析出粒界反応型析出)がある。

 ・連続析出
  連続析出は粒内に分散して析出し、母相の平均組成は徐々に平衡組成に近づいていく。

 ・不連続析出(粒界反応型析出)
  不連続析出は粒界から過飽和固溶体(粒内)に向かって粒界移動を伴って析出相βと平衡組成の相αがラメラ組織(層状)
を呈しながら成長し、過飽和な相α’は粒界移動によって界面が一掃されるまで組成は変化しない。
 (移動する粒界には平衡組成のαと過飽和なα’で組成の不連続がある。)
 ラメラ組織部をノジュールと称する。
 (ラメラ組織を呈する別の例は共析である。)




 ・無析出(物)帯PFZ
  粒界付近に析出部の存在しない領域=無析出(物)帯が生ずることがある。
  これは粒界が溶質や空孔(不均質核生成の場)の掃き溜め(シンク)として働くため周辺でこれらが枯渇するためとされる。

(6−4) 共析

 固相からの析出で凝固での共晶に対応するのが共析である。
 共析変態では拡散距離を短くするように2種類の生成相が交互に規則的に配列した組織が形成される。
代表的なのがFe-Fe3C系のパーライト変態である。
 γFe(fcc)→αFe(bcc)+Fe3C
 α(フェライト)相とFe3C(セメンタイト)相は板状の各相が交互に配列したラメラ構造をとる。

(6−5) 偏析(モノテクトイドomonotectoid)、包析(peritectoid)

 それぞれ偏晶、包晶に対応した偏析(モノテクトイド)、包析がある。

 偏析(monotectoid)  Al-ZnNb-Zrなど
  α1→α2+β
 包析(peritectoid)  Cu-Siなど
  α+β→γ

(6−6) 析出過程の制御  

 ・析出硬化(時効硬化)
  溶質原子の固溶限の温度変化(過飽和固溶体)を利用して微細な析出相を形成することによる分散強化
 を利用した析出硬化型合金がありAl合金が有名である。
  析出相としては金属間化合物が利用されることが多い。

*GPゾーン
  Al−Cu合金の時効硬化では時効過程で平衡状態図にないGPゾーンと呼ばれる析出物が生じることが知られている。
  これはアルミニウム結晶の(100)面にCu原子が整合して板状に集合したもので直径数10nmで1〜2原子層をなすという。
  Al−Cu合金のほかAl−Mg、Al−Zn、Al−Ag、Mg−Zn合金などにも見られる。

*マトリックスmatrixと母相parent phase
  合金(材料・物質)が析出相あるいは異相など複数の相を含む場合、主要な相をマトリックスという。
  マトリックスmatrixの原義はラテン語で「子宮、母体」の意。
  一般的には基質、合金では基地、母体、母相などという場合もある。
  析出相の母体の場合は母相parent phaseという場合が多い。
  形成の観点でなく状態の場合はマトリックスに対し点在する相を分散相と言う。

*整合と非整合
 整合coherent
  母相中で整合ひずみをもつが界面はない。
  整合析出
   母相と結晶格子の連続性を保つ。
   析出物の大きさ、結晶格子の大きさが関係する。
    
            非整合析出                            整合析出

 非整合noncoherent
  母相(マトリックス)と析出相が界面をもつ。

 半整合
  界面で転位が存在。

 ・ナノ結晶・ナノコンポジット
  析出過程の制御技術としては従来から析出硬化(時効硬化)があるが新しい潮流として結晶組織が
 ナノスケールのサイズをもつナノ結晶、ナノコンポジットの作製が研究されている。
  代表的な方法はアモルファスの熱処理である。軟磁性材料や磁石で実用化例がある。

(7) 固相変態

(7−1) 規則・不規則変態
 
 過飽和相からの相分離は拡散変態であるが、同じ拡散変態でも規則・不規則変態では原子間距離程度の
短距離拡散で規則格子の形成が行われる。
 異種金属の2元系固溶体は通常置換型固溶体となるがこの置換型固溶体は温度が下がると規則・不規則
変態をする場合と相分離を起こす場合がある。
 
 2元系固溶体では異種原子の分布は無秩序の場合と規則配列する場合がある。
 この異種原子が規則的に配列した構造を規則格子といい、この変態を規則−不規則変態という。
 規則−不規則変態は固有の変態点をもたず変態は序々に進む。
 規則格子の形成はX線回折のサイドピークの出現として観測される。
 Ni、Pd、Ptの遷移金属とCu、Ag、Auの貴金属で典型的に見られる。
 これらは通常面心構造だが規則化には格子の隅と面心にそれぞれ規則化するA3B(AB3)構造とAとBが
それぞれ異なる面にそろうAB構造がある。

<長周期規則構造>
 CuAu合金はCu原子のみの面とAu原子のみの面がC軸方向に交互に積層したCuAuTと、CuAuTの単位胞が
b軸に5つつおきに位相をずらして並んだ基本構造の10倍の単位の構造の長周期構造のCuAuUの2種類の
規則構造が見られる。

<逆位相境界と非整合構造> 
 原子の規則配列の位相が食い違ってできた界面は逆(反)位相境界という。 
 長周期構造の周期が基本構造の整数倍にならない場合がありこれを非整合構造incommensurateという。


(7−2) 同素変態 

 組成変化のない結晶構造の変化。
 一般的には低温から高温での変態は面心立方、稠密六方晶のような稠密な原子配置から体心立方晶の
ような疎な構造に変態する場合が多い。

 金属で同素変態がある場合、低温からα、β、γ・・・と称する。
 Feではα(bcc)→912℃:γ(fcc)→1394℃:δ(bcc)と同素変態する。
 なおβは結晶構造の変化の生じない電子状態の変化による磁気変態相である。
 そのほかCoはα(hcp)→β(fcc)、Tiはα(hcp)→β(bcc)の同素変態を行う。
 Snはα→β→γの同素変態を行い、常温相βから低温相αへの変態をSnペストと称する。

*鉱物学では組成が同じで結晶構造の異なるものを(同質)多形といい、特に元素鉱物の場合を同素体と呼ぶ
ことがある。
 同素変態ないしは多形の相変態の機構が問題となるが多形については拡散によるものもあるといわれる。
 多形は比較的低温で生成した準安定相である場合が多く、固体内相転移に対し溶液媒介相転移によるもの
すなわち溶液内での溶解・再結晶の結果生ずる相転移であると考えられる。

 *種々の類似、類縁的結晶構造

 ・ポリティピズムpolytiypismとポリタイプpolytype
  ポリモルフィズムPolymorphism(多形)の特殊なタイプで、同じ2次元層(ポリタイプPolytype)で積層構造が異なる結晶構造、
 雲母、粘土、MoS2、グラファイトなどの層状構造やSiCで見られる。
  ポリティピズムを示す物質の積み重ねの基礎をなす個々の構造をポリタイプと呼ぶ。
  同じポリタイプの異なる積層構造により異なる結晶構造を示すものがポリティピズム。

 ・ポリタイポイドpolytypoid
  陽イオン/陰イオン比変化によって形成される積層欠陥の整列。
  幾何構造が同じで組成が若干異なる。
  欠陥周期が陽イオン/陰イオン比を媒介とする組成に依存する欠陥構造。
  Si3N4−Al2O3系(サイアロン)では6つのポリタイポイドがあり構造は金属/非金属比、M/Xで決定され、
 MmXm−1でm=4から9でRamsdell記号でH,15R、12H、21R,27R、2H。
  ポリティピズムは組成変化のない欠陥構造、例SiC。

 ・ホメオテクトhomeotect 
   Partheは同じXmYn式で示される異なる構造をホメオテクトと呼んだ。
   ホメオテクトは共通単位スラブ(厚板)の異なる積み重ね構造である。
   稠密充填構造(hcp、fcc)、SiC構造、ラーベス相AB、ジシリケート(MoSi)構造など。

 ・偽モルフィズム、偽多形pseudomorphism
  他の鉱物の外観を示す鉱物で、外形が維持されたままで内部構造、化学組成が変化することで生成する。

 ・同族系列homologous series相
  繰り返される同一積み重ねの層数の違いによって形成される1連の構造。
  VnO2n-1のように基本となる構造単位に, 特定の原子面を引き抜きあるいは挿入あるいは, 2種類の基本構造を積み重ねた構造
 よりなる長周期構造をもつで同一の一般式として表現される.系列。
  共通構造原理で築かれた構造単位よりなり、同じ化学要素を異なる割合で含み、単位の大きさが異なる。
  ある基本構造からある再結合原理で引き出された一連の系列。
  ポリゾマティックpolysomatic(accretional)同族系列とvariable-fit 同族系列がある。

 a.ポリゾマティズムpolysomatism
   2つ以上の構造単位(モジュール、スラブ)の組み合わせとして表現される多様な構造ができる現象がポリゾマティズムで、
  このようにして表現される鉱物をポリゾームpolysome、鉱物群をポリゾマティック系列という。
   構造単位をA, Bとすると(AB),(ABB),(ABA)…などがこれにあたり, 天然の鉱物群ではヒューマイト族鉱物やbiopyribolesなどが
  挙げられ, rutile型やperovskite型の構造をもつ物質に対して適用されるものもある。
  
 b.variable-fit 同族系列
   ひとつの構造に大きさの異なる2つの副格子があるような構造。
   2種類の交互する互いに非整合な構成ブロックをもつ系列。
   各ブロックはそれぞれの短範囲周期性をもつ。
   両ブロックの始点が同じになるまで一方はm個で他方はn個を取る。
   半整合Semi-commensurate m:nが非常に大きくはない整数のとき
   非整合Incommensurate  m:nが非常に大きい整数のとき
  
   variable-fit の模式図

(7−3) 無拡散変態

(7−3−1) マルテンサイト変態 

 マルテンサイトmartensiteは炭素を含む鋼を高温(オーステナイト相)から焼き入れ(急冷)したときに形成
される炭素が過飽和した非常に硬い組織である。
 このマルテンサイト変態は原子が拡散を伴わずに協同的に移動することによって生ずる変態である。
 変形はせん断(横ずれ)によって起こり、せん断変形にはすべり変形(全体が同じ方向にずれる)と双晶変形
(交互の方向にずれる)があり、表面形状の起伏が発生する。
 また母相とマルテンサイト相の間には一定の結晶学的方位関係があり特定の晶癖面をもつ。
 マルテンサイト変態は非拡散型の相変態一般に拡大され構造相転移と呼ばれるようにもなり更に機構として
格子振動の特定のモード(ソフトフォノン)の凍結によるものという考えかたがだされている。
 マルテンサイト変態は形状記憶あるいは超弾性と結びついている場合がある。

・熱弾性型マルテンサイト
 母相からマルテンサイトへの変態温度とマルテンサイトから母相への変態温度の温度差(温度ヒステリシス)が小さく、変態の可逆性がある。 
 熱弾性型マルテンサイトでは温度差は20℃以下であるが鉄鋼400℃以上。
 熱弾性型マルテンサイトはほとんど規則合金であり、これが変態の可逆性をもたらすと考えられる。

*バリアントvariant(兄弟相)
 バリアントとは結晶構造は同じ(結晶学的に等価)だが結晶学的方位関係(ミスオリエンテイション:方位角)の異なる結晶ドメイン(領域)。
 鉄鋼のマルテンサイト(Kurdjumov-Sachs(K-S)関係)では24方位(24個のバリアント)が存在。

 強磁性体の磁区、強誘電体の分域、強弾性体(自発ひずみをもち外力で反転)の分域もバリアントといえる。
 NiMnGa、NiFeGa等のホイスラー合金は強磁性マルテンサイトでマルテンサイト相バリアントと磁区が一致する。

・超弾性
 熱弾性型マルテンサイトでは外力にたいして優先方向(弾性歪みエネルギーが小さい)方向のバリエントが成長する。  
 母相からマルレンサイト相への変態(応力誘起マルテンサイト)、あるいはマルテンサイト・バリアント間の食い合い、更には別のマルテンサイト相
への変態で結果的に大きな変形が可逆的に生じる現象が超弾性。
 熱によって変形が可逆的に元に戻る現象が形状記憶。

               応力による優先方向バリアントへの単一化の模式図

・応力(加工)誘起変態

 マルテンサイト変態する合金をマルテンサイト変態温度以上の温度で応力を加えるとマルテンサイト変態を起こす。
 この応力を除くともとの相に戻る。(超弾性)
 またマルテンサイトは応力によって構造の異なるマルテンサイト相(バリアント、結晶方位が異なる)に変態することがある。

 あるいはマルテンサイト変態を起こさせても実際はオーステナイト相が存在し(残留オーステナイト)、これに応力を
加えるとマルテンサイト変態を起こす。
 この残留オーステナイトのマルテンサイト変態を利用したのがTRIP(変態誘起超塑性)鋼である。

 ジルコニアは応力によって正方晶から単斜晶への変態を起す。

(7−3−2) ベイナイト変態
 鉄鋼を一定の温度で変態(等温または恒温変態)させたとき温度の高いほうからパーライト、ベイナイト、
マルテンサイトと呼ばれる変態を起こす。
 パーライトは上述のようにγFe(fcc)→αFe(bcc)+Fe3C の拡散変態である。
 一方マルテンサイトは無拡散変態である。
 この中間でおこるベイナイト変態は微細なαFeとセメンタイトFe3Cの複合組織であるが変態の機構については
成長の過程で無拡散変態が関与するとする説などありはっきりしていない。
 
  
   Ms:マルテンサイト変態開始温度、Mf:マルテンサイト変態終了温度、Ps・Pf:パーライト、Bs・Bf:ベイナイト
      共析炭素鋼のTTT図(恒温変態線図、オーステナイト領域からの急冷である温度で保持)
 
(7−3−3) マッシブmassive変態 

 合金系で結晶構造のみ変化し組成不変の変態で、界面での原子の短範囲拡散による界面の急速な移動による
相変態と考えられている。
 核生成側の母相とは結晶学的方位関係をもつが拡散によって変態が進行するため特定の晶癖面
(析出しやすい結晶面)はもたないのでマッシブ相に変態していく側の母相側とは結晶学的方位関係はない。
 例としてTi-Al合金をα相から急冷して得られるγ相がある。

(7−3−4) ω変態
 β相合金(Ti、Zrなどのbcc)によく見られる回転楕円体状の析出物。
 3層周期の2、3層目の面が互いに近づく様に変位(シャッフル)。

*Snペスト
 純度の高いSnは常温ではβSn(bct:密度7.28)となっているが低温(転移温度は13.2℃でー30℃で
転移速度の極値をとるとも言われる)でαSn(ダイヤモンド立方:密度5.8)に同素変態する。
 この変態は26%の体積増加を示し腫物状に膨張し、結晶が崩壊する。
 更にこの変態はαSnに接触させると促進される(自己触媒的)。(伝染する!ペストという名の由縁)
  Sn−0.5%Cuを255Kで1.5年置いたとき、(苅谷氏らの文献)

*Cohen、Olson、Clappは無拡散変態をつぎのように分類した。
  ・Shuffle変態 Ti、Zr合金(β→ω)、SrTiO、KHPOなど。
  ・格子変形変態 
    ・伸縮支配   Sn(β→α)
    ・せん断支配  
       ・マルテンサイト
       ・準マルテンサイト  Mn−Ni

(7−4) アモルファス金属と金属ガラス及び準結晶  

(7−4−1) アモルファス金属
 アモルファスとはX線回折で結晶特有の鋭いピークをもたず幅広いピーク(ハロー)をもつものである。
 金属はアモルファスになりにくいが液体急冷法で金属のアモルファス化が可能である。
 金属ではSi、Ge、P、C、Pを加えるとアモルファス化しやすい。
 アモルファス合金には加熱によりガラス転移温度に達するまえに結晶化が進行しガラス転移点
を実験的に観察することが出来ないものが多い。
 アモルファス金属は粒界、析出物や欠陥がないため高強度(高引張り強度、低ヤング率)、軟磁性、耐食性
という特徴をもち、弾性変形のあと塑性変形なしに破壊する。

(7−4−2) 金属ガラス
 急冷によらないでもアモルファス化する金属があり金属ガラスと呼ばれる。
 金属ガラスは結晶化する前にガラス転移温度Tgをもつアモルファスである。
 銅鋳型鋳造程度の冷却速度でもガラス化しバルクの金属ガラスが得られる。
 結晶化する前にガラス転移温度Tgをもち結晶化温度TxとTgの間の過冷却液体状態で
粘性流動状態(超塑性)を示す。
 成分的には3元素以上の多元系、各原子の径が12%以上異なる、各元素が化合物化しやすい
という傾向をもつといわれる。(井上明久氏の3原則)
 Pd系で最初に見出されZr系が最初に実用化された。
 Zr55Ni5Al10Cu30 が代表的。
     
(7−4−3) 準結晶
 準結晶は結晶やアモルファスとも異なる固体物質の構造である。
 回折パターンがδ関数的、逆格子点を記述する基本ベクトルが次元数より多く必要、通常の結晶構造
に許されない回転対称性を有すという特徴を持つ。
 結晶は並進対称性を有し、その回転対称性は2回、3回、4回および6回に限られているが、多くの準結晶は
正20面体構造を示し5回対称性を有する。
 正二十面体相は基本構造となるクラスター構造により、MI型(マッカイ二十面体型)、RT型(菱形三十面体型)
に分けられる。
 その他正8角形、正10角形、正12角形相が見出されている。
 これらは準結晶面に垂直な方向は周期的に積層した構造を有する二次元準結晶である。
 原子が規則的に配列しながらも、通常の結晶のような周期的構造は持たず、単一の単位胞で空間を満たすこと
が出来ない。(逆格子点を記述する基本ベクトルが次元数より多く必要)
 脆く、電気や熱が伝わりにくいなどの特徴を持つ。
 準結晶は熱的に不安定なものが多く、Al-Cu-FeやMg-Al-Cuなどのように、3つ以上の元素から構成されると
安定になる傾向がある。
 準結晶は主に液体急冷法により作成され、メカニカルアロイング法では粉末が得られる。
 フェイゾンという特有の局所的な熱ゆらぎ現象を示す。
 準結晶と同じ局所構造を有する結晶相があり近似結晶という。
 これらはいずれも6次元空間の周期構造によりその構造が説明される。

(7−5) 固溶体と金属間化合物

(7−5−1) 固溶体
 固溶体は異種原子が原子レベルで混じりあった状態で、合金の相と組織はAB2元系についてみるとまず
すべての組成で完全に原子レベルで混じりあう全率固溶体が考えられCu−Ni系などがある。
 固溶体で一定の融点で極小値をもつものがある。(定融点合金congruently melting alloy)
   
 その逆に原子レベルであまり混じりあわない場合は共晶となりSn−Pbなどの例がある。
 一般的には合金量が少ない組成では固溶体となる場合が多くこれを一次(α)固溶体とよびやがて中間相
(β)を形成し、α固溶体とβ相の間は(α+β)の2相組織を形成するのが一般的である。
 αから順に生じる相をβ、γ・・と称するがα以外はほとんど金属間化合物である。
 ただし同素変態のあるものは低温相からα、β、γ・・・と称する。
 
 固溶体は温度によって固溶量が変化(溶解度曲線と固溶限、温度が下がるにつれて固溶量が減少)し、
そのため過飽和からの析出(時効)が起こる場合が多い。
 また固溶体には無秩序に混じりあう不規則型と規則的に混じりあう規則型があり、温度が下がるにつれて不規則型
から規則型への変態を起こす例もある。
 また原子位置を置換する置換型と原子半径が小さい場合は格子間に侵入する侵入型がある。
 固溶体にはヒューム・ロザリーの法則がある。
  ・原子寸法因子:原子半径差が15%以内のとき固溶限が大きい。
  ・価電子濃度(1原子あたりの価電子、合金では組成で按分)が一定のところに固溶限が出現。
  ・電気陰性度因子(電気化学的因子):電気陰性度(価電子数)の差が大きいほど固溶限が小さい。
  ・相対原子価因子:低原子価金属に対する高原子価金属の一次固溶限は高原子価金属に対する低原子価金属の
  一次固溶限より大きい。
  ・結晶構造が同じと固溶体を形成しやすい。

*各種合金例

 侵入型合金・・・金属と侵入型合金を形成する元素は原子半径の小さな半金属が主である。
  侵入型固溶体(不規則型)・・・H、(B、)C、Nなどと形成、マルテンサイト(C)、水素吸蔵合金など。
  侵入型化合物(規則型)・・・水素化化合物、炭化物、窒化物など。
      高融点金属の炭化物、窒化物は導電性をもつ
 置換型合金
  不規則置換型=固溶体・・・Cu−〜30Znなど、固溶強化
  規則置換型
    金属間化合物・・・Al−Cu、Al−Mgがジュラルミンの基礎系。
    規則合金(規則格子)・・・規則・不規則変態を行うものの規則相(低温相)、熱弾性マルテンサイトとなるものが多い。
     貴金属β相合金・・・・Cu−Au(歯科用合金の基礎)、βCuZn、AuCd
     Fe−Pt(貴金属)・・・貴金属磁性合金
     ホイスラー合金・・・単体元素では強磁性磁性を示さないものが化合物で強磁性体となる。
      フル・ホイスラー合金・・・XYZ
      ハーフ・ホイスラー合金・・・XYZ
       X=遷移金属(8、9、10、11族)、Y=Mn、Z=pブロック典型元素(In、Sn、Ga、Ge、Sb、Si)
 スピノーダル変態合金
   Fe−Cr(あるいは高融点金属)
     高Cr鋼(フェライト相)の475℃脆化、Crの高低2相にスピノーダル変態
   スピノーダル磁石
     Cu−Ni−Fe、Fe−Ni−Al(−Co)、Fe−Cr−Coj磁石
   スピノーダルCu合金
     Cu−Ni−Sn、Cu−Ti

(7−5−2) 全率固溶合金の種々の型

  アルカリ金属間、アルカリ土類金属間、貴金属金属間、高融点金属間では全率固溶合金が形成されやすい。
  そのほかGe−Si、Se−Te、Bi−Sbなど。

・Isomorphous同形置換
   →結晶構造が同じで原子半径が近い元素同志。
    Ag−Pd                       Ag−Au                       Mo−W
  
  
    Co−Ni
 

  Au−Pd、Au−Pt、Ag−Au、Co−Ni、Cr−W、Cu−Pd、Cu−Pt、Ni−Rh、Mo−W、Mo−V、Mo−Ti、Mo−W、
  Mo−Nb、Ir−Pt、Ir−Rh、V−W、U−Zr、Ta−W、Ta−Ti、Ti−W、Ti−U、Mo−Ti、Ta−Ti、Sc−Zr、Nb−W、Nb−U、
  Nb−Ta、Nb−Ti、Hf−Zr、Hf−Sc、Hf−U、Ba−Sr、Bi−Sb、Ge−Si、Se−Teなど。
 

・一致転移congruent transformation型
    固相線と液相線の一致(一致溶融、一致転移)
    極値がある
  極小値型(実例多い)            Ni−Pd
               
                                           
   Au−Cu、Au−Ni、Co−Pt、Co−Pd、Cr−Mo、Cr−V、Cr−Ti、Cr−K、Cs−Rb、K−Rb、Ni^Pd、Ni−Pt、Ta−Zr、
  Th−Zr、Ti−Zr、Ti−V、Cr−Ti、Sc−Th、Sc−Ti、Nb−Zr、Nb−V、Hf−Ti、Hf−Ta、Ba−Ca、Ca−Srなど。

  極大値型(実在せず?)          
  

   このタイプの例にMg−Li、Pb−Tlが挙げられているが、共晶あるいは偏晶のように見える。
    Mg−Li                             Pb−Tl
  

         
  単調変化型(実在せず?)
  

  固溶度ギャップ型、2相分離型
   原子半径差が大きくなると固溶度ギャップと2相分離が生じる。
   
     

    Au−Ni                           Cr−Mo
  

    Au−Pt                           Cr−W
 

   規則転移型
    Cu−Pt                          Ni−Pt
 

   中間相型
    Fe−V                         Cr−Fe(スピノーダル分解)
 

   同素変態型
    Ti−Hf                          Zr−Hf
 

   共晶への移行
 

   包晶への移行(融点差が大きい場合)
 

*一致溶融とギッブスGibbs・コノヴァォフKonovalov則
  2相共存曲線の傾きは
  
     Gαxx
  あるいは
   
  一致溶融点ではXα−XβA=0だから(Gαxxが有限で分母が0でなければ)左辺=0となり
 傾き0で極値か変極点となる。

(7−5−3) 金属間化合物
 金属の中間相には一定の組成で非金属的性質(結合様式が影響)をもつ複雑な結晶構造の硬くて、脆い
金属間化合物と呼ばれる相が形成されることが多い。
 金属は通常合金化によって融点が下がるが、金属間化合物を形成すると融点が上昇する。
 状態図での出現様式から以下の3タイプが見られる。

 Kurnakov型:高温では不規則固溶体で低温で規則相を形成、CuAu、CuAu、FeAl、TiAlなど。
 Berthollide型:ある組成幅をもちながら同一結晶構造をとるもの。
 Daltonide型:組成に幅がない。構成元素の性質の違いが大きい場合が多い。
 *一般的に不定比化合物、非化学量論的化合物をベルトライド、定比化合物をダルトナイド。

 金属間化合物は結合様式や結晶構造から分類が試みられ代表的なものは以下のようなもである。
 ・電子化合物:価電子濃度が一定のところに特定の結晶構造の金属間化合物が出現。
   3/2:塩化セシウム型構造、β相
   21/13:CuZn型構造、γ相
   7/4:CuZn型構造、ε相
 ・原子半径化合物:size factor compounds →TCP相(topologically close-packed)
   ラーベス相AB:原子半径比が約1.2(1.225:1)のAB型相
      MgCu型構造、MgZn型構造、MgNi型構造・・・
   σ相(Frank-Kasper相):FeCrを基本とする金属間化合物。1分子が30原子から成る。
      正方晶遷移金属間に見られる、硬くて脆い。
      核成長により起こり長時間の高温保持が必要。Ni基超合金やステンレス鋼。
   その他類似のものにδ、μ、χ相・・・
   侵入型化合物 
     金属原子とH、N、C・・・
 ・原子価効果化合物normal valency compounds
   イオン結合タイプ (電気化学的化合物electrochemical compounds)
    NaCl型構造、CaF型構造、逆CaF型構造、・・・
   共有結合タイプ
    ZnS型構造、ウルツァイト型構造、NiAs型構造・・・
 *A15(βタングステン構造)
     AB、AはCr、Mo、Nb、Ti、V、Zrなど、BはGa、Ge、Ir、Ru、Si、Al、Sn、Sb
     超伝導を示す。
 *Zintl相(ジントル相)
     アルカリまたはアルカリ土類金属(A)と13から16族の典型元素(B)との化合物。
     B原子が共有結合でクラスター、層状、網目状構造を形成する際にオクテット則から不足する電子をA原子から
    補う。

 *ノボトニー煙突梯子Nowotny Chimney Ladder相
   4から9族遷移金属T(Mn、Ru、Ir、V、Cr、Mo、Rh・・・)と13、14、15族典型金属E(Al、Ga、Si、Ge、Sn・・・)
  によって形成される金属間化合物TtEm。
   2つの経験則
    遷移金属当りの価電子数が14。
    回折スポットは主反射の周りにサテライト(副反射)をもつ。
     主反射cの周りに偽周期性cpseudoの存在、(2t-m)c=cpseudo
     主反射cの他に副反射cpseudoの存在
     実空間では(2t-m)cpseudo=c
     c当り(2t-m)のcpseudoが繰り返す。
   単位胞はc軸に沿ってT原子のt個の偽セルとE原子のm個の相互侵入する偽セルを持っている。
   遷移金属の4回らせん構造が煙突chimney、典型金属の別のらせん構造が梯子ladderを形成。
   RuGaではRu煙突のらせんの周囲にGa梯子が2回らせんを形成。
   RuSnではSnらせんの周りをRuの3回らせんが囲む。

 ・GCP相(geometrically close packed) 
   共通の最密面(FCC、HCP−common close-packed plane CCP)の周期的な積層による長周期構造をもつ。
    Ni3X 型化合物では積層周期構造・・同種積層に挟まれたhexagonal-layer(AB)と、異種積層に挟まれたcubic-layer
   (ABC)と最密面上のX 原子配列・・Triangle-type(T) とRectangle-type(R)によって特徴付けられる。

 *GCPの異常強化現象
  一般的に金属の降伏応力は温度の上昇に伴い、徐々に低下するが、一部のGCP金属間化合物では、
 ある温度範囲で温度の上昇に伴い強度も上昇する異常強化現象が生じる。
  例としてL1(NiAl)、D0a(NiNb Bertholide型)、D019(NiSn Kurnakov型)、D022(AlTi)、D023(AlZr)、
 D024(NiTi Daltonide型)などがある。 *この結晶構造表示はStructurberichtによる。 Structurbericht DesignationD型 
 
   異常強化(強度の正の温度依存性)

  これは規則格子の転位が主すべり面のほかに非すべり面にも一部分解する交差すべりを形成したほうが
 反位相境界APBエネルギーが小さくなることによる交差すべりの形成によるとするKear-Wilsdorf機構(ロックlock)で
 説明されている。
   
 ・TCP相(topologically close-packed) 
   この相のセル(単位胞)構造は相対的に大きな原子間距離で分離された層に存在する稠密原子をもつ。
   NiやCrのような相対的に小さな原子の稠密層とその層間の14、15、16共配位サイトにあるW,Taのようなより
  大きな原子よりなる。
   4面体(Frank-Kasper タイプ)の中心にあるこれらのサイトの数がTCP相を特徴付け、広い範囲の組成で置き換えられる。
   稠密原子層はW,Taのようなより大きな原子によって挟まれサンドイッチ構造をとり、トポロジカル(位置関係的)な特徴を示す。
   これに対しGCPはすべての方向に稠密である。
   TCPは通常板状形状をとる。
   ステンレス鋼に生じるTCPはσ、χ、Laves、G、R、μなどでGCPはγ’、γ”等である。
  
         TCP相構造例

 *Frank-Kasper相(tetrahedrally closed-packed (TCP))
  球の充填を基礎に三角配位殻の概念で複雑金属を分類。4面体最密充填TCPで配位数12、14、15、16が得られる。
 (同じ大きさの原子による最密充填は4面体と6面体空隙が存在する)
  ただしTCPの4面体はすべては規則的ではない(回位Disclinationをもつ)、なぜなら規則的4面体で完全に空間をみたすことはできない。
  CN12 歪んだ20面体、20個の三角形面が形成、中心原子は20の4面体で囲まれる。
  CN14、CN15、CN16はそれぞれ24面、26面、28面。5稜頂角はすべて(CN12も)12個で6稜頂角は2、3、4個(CN12は0)である。

(7−5−4)メタロイドMetalloid、半金属Semimetalとハーフメタル

  メタロイドは化学的性質からの分類で周期律表上で金属と非金属の中間にあるものでB、Si、Ge、As、Sb、Teなど。
  半金属Semimetalはバンドで構造で伝導帯と価電子帯がエネルギー的に重なってはいるがk空間では離れているもので、
 As、Sb、BiやHgTeなど。
  ハーフメタルはバンド構造で片方の電子スピンが金属的で、もう一方の電子スピンが半導体的なもの。このようなハーフネタルは
 フェルミ面でスピンが片一方だけになっている、つまりスピン偏極していることになる。バンド計算よりホイスラー合金などがハーフ
 メタルの可能性があるとされる。
  ホイスラー合金はコバルト(Co)、鉄(Fe)、シリコン(Si)、銅(Cu)・マンガン(Mn)・アルミニウム(Al)などの元素が規則性をもって
 並ぶことで強磁性体となる3元系合金で、Co2MnSi、Co2FeSiやCu2MnAlなどがある。
  →バンド構造による物質の分類

(7−5−5)金属の融点 ・・・低融点合金
  低温はんだ、温度ヒューズ、ピューター(しろめ・・低温Sn合金、工芸用鋳物材料)などに使用されるSnを中心とする共晶系の
 低融点合金(易融合金、可融合金)がある。(Cs、Rb、Hgなどの扱い難いものを除く)
  低融点合金に使用される金属はSn、Pb、Cd、In、Bi、Zn、Ga(融点30℃)などであるが有害性からCd、Pbが嫌われる。In、Gaは高価。
  常温液体のGa-21.5In-16.0Sn3元共晶は10.7℃、Ga-21.5In-10.0Sn(ガリンスタン)は−19℃とか。
  主な低融点2元共晶はSn-8Zn:199℃、Sn-38Pb:183℃(共晶Pbはんだ)、Bi-42Sn:138℃、In-48Sn:117℃、
 Bi-33In:110℃、In-34Bi:72℃、Ga-24.5In:15.7℃など。

 *融点以上(固相線)以上で物質が融けるのが熔融・融解melt、融点以下で固体物質が溶媒に溶けるのは溶解dissolve。
  Sn(融点232℃)ないしSnはんだに高融点のAu(融点1064℃)、Ag(962℃)、Cu(1083℃)が良く溶解することが知られている。
  溶解についてはNernst-Brunnerの式dn/dt=KA/V・(ns-n)、n=ns〔1-exp{-K(A/V)t}〕が成立する。
    n:t秒後の溶質濃度、ns:溶質の飽和濃度、K:溶解の速度定数、,A:反応面積、V:反応液相の体積

(7−5−6)固相反応
  Snと金属間化合物を形成する金属(Au、Ag、Pd、Cu、Ni、Fe、Co、Pt・・・)の多くは固相反応で金属間化合物を形成する。
  特にAuとCuははんだとの関係で良く調べられており、Alについてもワイヤボンディング問題でよく知られている。
  拡散対あるいはめっきやPVDで積層構造にすると、SnとCuでは固相反応でSn側から厚いCuSn、薄いCuSnが形成され、
 SnとAuではSn側から厚いAuSn、薄いAuSn、AuSnが形成されることが知られている。
  AlへのAuワイヤボンディングではAl側からAuAl、(AuAl)、AuAl、AuAl、AuAlが形成されるとされる。
  固相反応では多くの場合、Kirkendallボイドが形成されるという欠点がある。

(7−6)相変態(相転移)の促進と抑制

(7−6−1)ステンレス鋼の種類

 Feは高温相としてfccのγ相(オーステナイト)と低温相としてbccのα相(フェライト)をもち、更にγ相からの急冷ではマルテンサイト相
を生じることもある。高温相のオーステナイトも合金化で常温で安定化することもある。
 ステンレス鋼にはこれら3相が生じうる。

 Cr系ステンレス鋼
   フェライト系ステンレス
      フェライト相(体心立方晶bcc)、17%Crが基本(SUS430)。
   マルテンサイト系ステンレス
      13Crを主体(SUS410)。
 Cr−Ni系テンレス鋼
   オーステナイト系ステンレス
      面心立方晶fcc、耐食性良、18Cr−8Niが基本(SUS304)。
      オーステナイト相は非磁性だが18C−8Niは応力誘起マルテンサイトにより磁性化しうるのでNiを増やして(11〜13%)
     オーステナイト相を安定化。  →非磁性ステンレス(SUS305)

   2相ステンレス
    オーステナイト相とフェライト相よりなる、フェライト安定化元素のCrがオーステナイト系より多く、Cr/Niがオーステナイト系より大きい。
 析出硬化系ステンレス
   金属間化合物による析出硬化、SUS631は18Cr−8Niの析出硬化型で属間化合物NiAlが析出。

(7−6−2)鉄鋼への合金成分の効果

・フェライト安定化元素とオーステナイト安定化元素
  フェライト(α相)を安定化する元素(フェライト安定化元素)にはCr、W、Mo、V、Siなどがある。
  これらはγ相よりα相に固溶しやすく、多く(Si例外)はbcc構造をもつ。これらはγ相のC量を減少させる。
  オーステナイト(γ相)を安定化する元素(オーステナイト安定化元素)にはMn、Ni、Co、Cuなどがある。

 
   γ相安定化元素(A変態温度低下) a:γ域開放型(Mn、Ni)  b:γ域拡大型(C、N、Cu)
   α相安定化元素(A変態温度上昇) c:γループ型(Si、Cr、Mo、Al、Ti、V、W)  d:γ域縮小型(Nb、Zr)

     Fe−M2元系状態図の分類

 
        Fe−Ni系状態図

 
       Cu−Fe系状態図


      Fe−Cr系状態図

 
     Fe−Zr系状態図

 
     種々のFe−M2元系でのγループの形成

 
   オーステナイトステンレス鋼への合金成分の固溶強化効果


      フェライト相の固溶効果

*溶接の分野では溶接金属の組織を知る方法としてフェライト安定化元素を安定化の程度をCr量に換算したCr当量を横軸、オーステナイト
安定化元素をNi当量として縦軸にし組織を表した組織図がよく利用され、シェフラSchaeffler、デ・ロングDe Long、WRC(米国溶接研究委員会)の
組織図がよく利用される。デ・ロングの図ではNi当量 = 30%C+0.5%Mn+%Ni+30%N とNが含まれ、WRC図ではCr当量=%Cr+%Mo+
0.7×%Nbで表される。
  
  
・添加元素の恒温変態への影響
  特別な炭化物を形成せずフェライトとセメンタイトに固溶する元素はCoが変態を促進する以外Ni、Si、Cu、Al等は変態を抑制する。
  炭化物形成元素(Cr、Mo、W、V等)は恒温変態でのオーステナイトからの変態で、700−500℃(パーライト形成)では変態を抑制し、
 500−400℃では劇的に変態を抑制し、400−300℃(ベイナイト形成)では変態を促進する。
 
   (a)炭素鋼と非炭化物形成元素     (b)炭素鋼と炭化物形成元素
    炭素鋼のTTT図(恒温変態曲線)への添加元素の影響

・マルテンサイトの焼入れ性と開始温度依存性
 焼入れ性(限界冷却時間)を向上させる元素はCr、Mn、Moなどで焼入れ性は炭素当量で表し、例として
  炭素当量(相当炭素量)%=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14

 Msの温度依存性
  C、Mn、V、Cr、Ni、Cu、Moなどはマルテンサイト変態開始温度Msを下げ(残留オーステナイトを増やす)、Al、Coなどは
 上げる。
  Ms点(℃)=550−350×C%−40×Mn%−35×V%−20×Cr% −17×Ni%−10×Cu%−10×Mo%−5×W%
 +15×Co%+30×Al%
  などで示される。あるいは
 

  (a)C量の影響                    (b)1%Cでの合金成分の影響
  マルテンサイト変態への添加成分の影響

  応力誘起マルテンサイト変態の30%引っ張り応力で50%の応力誘起マルテンサイトα’が生じる温度Mdは
  
などの実験式がある。

・黒鉛安定化元素とセメンタイト安定化元素
  セメンタイト安定化元素・・・ Cr、V、Mo、Mn、N、Wなど、炭化物を形成しやすい元素。
  黒鉛安定化元素・・・ Si、Al、Cu、Ni、Coなど、フェライト(α)中に固溶する元素。

・パーライト安定化元素
  Sn、Cu、Mn、Crなどがパーライトを安定化させる。
  一般にセメンタイト安定化元素と黒鉛球状化阻害化元素(Bi、As、Sb、Pb、Te、Se、Sn)がパーライトを安定化する。
  オーステナイト中のCが容易に黒鉛化しないようにし、セメンタイトを安定化するからである。

 
     Feの共析温度への合金成分の影響と共析C量

・鋼中での炭化物形成能
   Zr>Ti>Nb>V>Ta>W>Mo>Cr>Mn>Fe>Ni,Co,Al,Si
       炭化物形成                     炭化物形成しにくい

 
  鉄鋼で可能な種々の炭化物

  鉄鋼では6種の炭化物が形成可能でこれらは2つのグループに分けられる。
  第1グループは複雑な結晶構造で第2グループは単純な結晶構造を持つ。

 
     炭化物、窒化物、硼化物の形成エンタルピー(FeC基準)

  炭化物の硬化効果は分散相の細かさと体積比に依存する。
  微細な分散相は一般的にVC、NbC、TiC、TaCなどの稠密構造の化合物から得られ、M、MC、M23などの複雑な結晶構造で
 低形成エントロピーの化合物は粗い分散相となる。
  
*FeとともにV、Al、Ti、Crなどは窒化物を形成し、Al、Si、V、TiなどのFeより酸素への親和力の大きい元素は酸化鉄を脱酸し、
Al、SiO、TiO、Vなどを形成する。

・フェライト固溶と炭化物固溶
   Si<Co<Ni<(炭化物/フェライトの分配係数1)<W<Mo<V<Mn<Cr
    フェライト(α)中に固溶                 炭化物MC中に固溶

・σ脆化
  Fe−Ni−Crを主成分とするオーステナイト系、フェライト系、2相系ステンレス鋼などでは熱処理の過程で種々の金属間化合物が生成し
 脆化の原因となる。
  σ相はFeとCrの金属間化合物で,その中にMo,W,Si,Nb,Ti等の元素が固溶する。
  σ相の析出を促進する元素としては,Mo,Si,V,Nb,Ti,Vがあり,逆に析出を抑制する元素にNi,NおよびC等がある。
  合金元素の影響はCr当量で表す。
  .Cr当量=Cr+0.31Mn+1.76Mo+0.97W+2.02V+1.58Si+2.44Ti+1.70Nb+1.22Ta−0.226Ni−0.177Co 
 その他χ相、Lavesラーベス相(η)などがよく形成される。
  Niを多く含みTi、Alを添加されたオーステナイト・ステンレス鋼は熱処理でγ’相(Ni(Al,Ti))の析出により高温強度が向上する。
 

*ステンレス鋼に生じるσ、χ、Laves、G、R、μなどはTCP相でγ’(Ni(Al,Ti))、γ”等はGCP相である。
 
   TTT図での各種金属間化合物と合金成分の影響


  Fe−Cr−Ni系3次元状態図

 
 Fe−Cr−Ni系3次元状態図の650℃切断面

 
 
  Fe−Cr−Ni系鋼の析出相

*鉄鋼の簡単な分類

 炭素鋼(普通鋼)
  Cを合金成分とするもので性質はC含有量と熱処理(焼入れ、焼き戻し)による。

 特殊鋼
  硬度、強度、靭性、、耐磨耗性、耐熱性、耐食性などの改善を目的にC以外の種々の元素を加えた合金鋼。
  焼き入れ性向上、合金成分炭化物(Ti、W、V)による硬化と耐熱性、固溶硬化(Cr、Mn、Ni、Mo、Co、Si、C)などが行われる。
  合金成分にはCr(耐食、焼き入れ性、耐磨耗)、Ni(靭性、耐食性)、Mo、W、V(耐熱、焼き入れ性)、Mn(硬さ、強さ、焼入れ性)、Co(耐熱)、
 Cu、Ti(耐食、表面硬度)などがある。
  
  約5%以下が低合金鋼、5−10%を中合金鋼。

 高合金鋼
  約10%以上の合金鋼でステンレス鋼と耐熱鋼が主なもの。
  耐熱鋼は耐酸化のためCr Si、Al、Cr−Ni、耐クリープのためMo、高温で安定な炭化物M形成のためMo、W、Ti、Nbなどが添加される。
  550℃以上用には回復が生じにくいγ相化が行われる。
  更に耐熱性の改善のためにはNi(Ti,Al)の析出効果が利用される。

(7−6−3) チタンへの合金成分の効果

・Ti基2元系合金状態図と合金元素の影響

 純チタンは882℃以下ではHCP構造(α相)でそれ以上ではBCC構造(β相)であるが、α相、β相それぞれの安定化元素としては
  α相安定化元素  Al、Sn、O、C、Nなど。
  β相安定化元素  V、Mo、Nb、Taなど。
がある。
 

 

  全率固溶型にはZr、Hfなど、α相安定型にはAl、O、N、Cなど、(同形isomorphous)β相安定型にはV、Mo、Nb、Ta、Wなど、
 β相共析型にはCr、Fe、Ni、Si、Cu、Mnなどがある。(Zr、Si、Snを中性的元素ともいう)

  純チタンではFe、C、O、N、Hなどが不純物で強度は酸素当量で評価される。酸素当量は
   酸素当量=O%+2.0N%+0.67C%
 などが提案されている。
  α安定化元素には
   Al当量=Al%+0.17Zr%+0.33Sn%+10O%+16.4N%+11.7C%
 などが提案されている。
  β安定化元素には
   Mo当量=Mo%+0.2Ta%+0.28Nb%+0.4W%+0.67V%+1.25Cr%+1.25Ni%+1.7Mn%+1.7Co%+2.5Fe%
   V当量=V%+1.5Mo%+2.4Cr%+3.8Fe%+1.7Ni%+0.6W%+0.4Nb%
  β相共析型には
   Fe当量=Fe%+0.7Co%+0.7Mn%+0.5Cr%+0.5Ni%
 などが提案されている。

・主なTi2元系状態図

   Ti−Zr系状態図

  
   Ti−Al系状態図
  
 
    Ti−V系状態図

 
       Ti−Cr系状態図

   
       Sn−Ti系状態図

・マルテンサイト相とω相

  β相からα相への変態は核生成とマルテンサイト型(せん断型)で起きる。
  純チタンと低チタン合金は急冷で2種類の等温マルテンサイトα’(六方晶)、α”(斜方晶)を生じる。
  通常はα’が生じ、α”は主にMo、Nb、TaあるいはAlとVを含むチタン合金(β安定化元素が比較的多い)で生じる。
  マルテンサイト変態開始温度が室温付近にあるニアnearβ型合金では応力誘起マルテンサイト相が生じる。
  Tiのマルテンサイトは硬くなく、むしろ柔らかい。
 
 αーβチタンとβチタンでは焼き入れと時効で準安定βのからの変態によるωとβ’の2つの準安定相が見られる。
 ωは可逆的で無拡散の変位型変態だがマルテンサイトと異なり表面起伏は生じない。 
 550℃での時効で生じる熱的(時効)isothermalωと焼き入れで生じる非熱的(急冷)athermalωがある。
 β’は200−500℃で生じるマトリックスに整合なBCCゾーンである。


   Ti合金のMsの組成依存

 
   
    同形isomorphousチタン合金の状態図

・チタン合金の種類

 純チタンTiは882℃より高温ではbccのβ相、低温ではhcpのα相をもち合金ではα型、(nearα型、)α+β型、(nearβ型、)β型がある。
  α型
    β領域からの焼き入れでα’と残留βが生じる。
    5−6%Alでα(TiAl、規則相)を生じる。

    商業的純チタン  →酸素当量
    Ti−5Al−2.5Sn
  
  α安定化チタンの状態図

  ニアnearα型
    少量(10%以下)のβ相が存在する合金。
    α+β領域、β領域から焼き入れでβはマルテンサイト変態 α’を生じる。時効で微細なα析出。

    Ti−8Al−1Mo−1V  
    Ti−6Al−2Sn−4Zr−2Mo  

  α+β型
    α+β領域、β領域から焼き入れでβ残留。
    βから焼き入れではMs以下でマルテンサイト変態でα’とα”が生じる。
    マルテンサイトの焼き戻しでαとβあるいはαと化合物
    残留βは時効でωとなる。
    Ti−6Al−4V
    Ti−6Al−6V−2Sn
  ニアnearβ型
    焼き入れではマルテンサイト変態はおこらずω相を生じる。
    応力誘起マルテンサイト変態を起こす。
    Ti−10V−2Fe−3Al
  β型
    Mo当量が25以下で準安定β型、6以下でニアβ型。    
   準安定β型
      Msが室温以下(β領域からの冷却でマルテンサイト変態を起こさない)で、急冷でβ相となり、恒温時効でα+β組織
     にすることができる。
      Ti−8Mo−8V−2Fe−3Al  
      Ti−3Al−8V−6Cr−4Zr−4Mo 
      Ti−15V−3Cr−3Al−3Sn    
      Ti−13V−11Cr−3Al 
      Ti−11.5Mo−6Zr−4.5Sn 
   安定β型
      恒温時効でα+β組織にすることができない。
      Ti−35V−15Cr
      Ti−30Mo



(7−6−4) ニッケル基合金とコバルト基合金 

(a)ニッケル基超合金
 耐熱鋼を上回る高温強度および耐食性の優れた合金を耐熱合金あるいは超耐熱合金ないし超合金(super alloy)と呼び、航空機用
(ジェット・エンジン・タービン)、発電用(ガス・タービン)などに使用されるがその中心はニッケル基合金である。
 Special Metals CorporationのインコネルInconel、インコロイIncoloy、ニモニックNimonic、ユーディメットUdimet
 United Technologies,IncのワスパロイWaspaloy
 Haynes International,Inc.のハイネスHaynes、ハステロイHastelloy
 Carpenter社のカーペンターCarpenter
 General ElectricのルネRene
などが知られている。

 NiはFCC構造をもち融点1455℃である。この相はFe−Ni系状態図をもとにγ相(オーステナイト)と呼ばれる。
 ニッケル基超合金は、固溶強化型合金と、Ni3(Al、Ti)からなるγ’相を含む析出強化型合金とに大別され、さらに、γ’相の多い強析出型合金は、
熱間加工性が劣り、一般に鋳造法や粉末冶金法により製造され、γ’相がに少ない弱析出型合金は、鍛造、圧延等の熱間加工によって製造される。
 
 ニッケル基超合金の添加成分は
   γ形成元素 Co、Cr、Mo、W、Fe、Reなどで固溶強化を示す。
   γ’形成元素 Al、Ti、Taなどで規則構造L1(fcc)のNi(Al、Ti)の析出硬化を示す。
      γ’相のNi(Al、Ti)は母相γに整合的でかつ温度上昇に伴い強度が上昇するという特徴をもつ。
      NiNbは正方晶でD0a規則構造をもちγ”(ガンマ・ダブル・プライム)相と呼ばれる。
   炭化物形成元素  Cr、Mo、W、Nb、Ta、Tiなどで炭化物を形成し析出硬化に寄与する。
      MC型 NbC、TiC、TaC、HfCなど、高温で安定。
      MC型 (Ni,Cr,Mo)
      M23型 Cr23
   粒界偏析元素 B、Zrなど。粒界モルフォロジーを改善し、耐クリープ性を向上。
   その他硼化物M、珪化物など。
  
   超合金に生じる準安定な金属間化合物にはTCP相とGCP相がある。

   TCP相
    対称度が低く、母相に非整合で脆化の原因となりやすい。
    Laves相AB (Ni,Cr,Fe)(Mo,Ti,Nb)
    σ CoCr
    μ (Fe,Co)(Mo,W)
    χ、G、R・・・

   GCP相
    母相に整合的で析出硬化効果を示すことが多い。
    γ’、γ”
    δ相 NiNb、斜方晶、γ”相の長時間時効で生じる。
    η相 NiTi
  
     Niのγ相への添加成分の溶解量
 
 
     δ相、Laves相のTTT図(http://www.jnes.go.jp/content/000117527.pdf JNESから

 
    γ”のTTT図(http://www.jnes.go.jp/content/000117527.pdf JNESから
  
   (http://www.jnes.go.jp/content/000117527.pdf JNESから

(b)コバルト基超合金
 Coは417℃でhcpからfccへの同素変態を行う。
 CoにはNi基超合金のγ’相のような高温強度向上をもたらす良好な析出相が存在しないため耐熱合金としてはあまり使用されない。
 Co基超合金は主にM23やMC型炭化物相により析出強化されている。
 L1型構造を有するCoTi,CoTa等は融点が低くかったり高温での安定性に乏しく高温強度向上の効果をあまりもたらさない。


 

 コバルト基合金は炭化物、珪化物の析出を利用した耐磨耗合金として主に利用されている。

 バイタリウムVitallium Co−Cr−Mo系
 Co-30Cr-5〜6Mo-〜1Si-〜1Mn、歯科用、人工関節など生体材料として利用。

 ステライトStellite Co−Cr−W系
 Co-25〜30Cr-2〜15W-〜3Ni〜3Fe-0.25〜3.3C-〜2Si、主に(Cr,W)236または(Cr,W)73の析出硬化を利用。

 トリバロイTribaloy Co−Mo−Cr系
 Co-28Mo-9Cr-2.5Si、Mo2Co3Siの析出硬化を利用。

 コバルト基耐熱合金はCo-20-〜23Cr-7〜15W-10〜22Ni-〜3Fe-0.1〜0.6Cが代表的組成である。

(7−6−5)ジルコニアへの添加成分の効果
  
 ジルコニア(ZrO酸化ジルコニウム)には低温から単斜晶M(密度5.56)、正方晶T(密度6.1)、立方cubic晶Cがあり、室温付近では
単斜晶であるが1200℃付近の高温相の正方晶から低温相の単斜晶への相変態で約4%の体積増加を生じ破壊を起こす。
 そのため安定化剤と称するMgO、CaO及びY、Hf、CeO等の希土類酸化物の添加(Zrイオンより大きなイオン半径をもつイオン)で
高温相の立方cubic晶あるいは正方晶を室温まで安定化させることが行なわれ、これを安定化ジルコニアという。
 立方晶を安定化させた場合には立方晶安定化ジルコニア(キュービック・ジルコニア)といい、立方晶安定化ジルコニアより少ない量の安定化剤
及び粒径微細化等で正方晶を安定化させたものは正方晶ジルコニアという。
 単に安定化ジルコニアという場合通常は立方晶安定化ジルコニアを指す。

 単斜晶、正方晶、立方晶が2相以上混在するものを部分安定化ジルコニアという。
 (単斜晶と正方晶あるいは単斜晶と立方晶あるいは正方晶と立方晶の2相混在、あるいは単斜晶、正方晶、立方晶の3相混在)
 正方晶は応力で単斜晶に変化する応力誘起変態(マルテンサイト型変態)を起こす。
 

 
     ZrO−Y状態図

(8) 拡散の問題

 ・Kirkendall効果
   相互拡散における拡散係数の違いはKirkendall効果を惹き起こす。
   たとえばAのBに対する拡散係数がBのAに対する拡散係数より大きいとA側の拡散による原子移動にみあうB側の
  拡散による原子補給が行われないためA側にボイドが発生することになる。
   AuめっきとSn系無鉛はんだで問題となることがある。

 ・上り坂拡散(uphill diffusion、逆拡散)
   拡散の駆動力が拡散元素の濃度勾配以外(合金組成、応力、温度)である場合に生じる拡散元素の濃度勾配に逆らう拡散。
   Darkenが炭素鋼の溶接でSiを含まない低炭素の鋼からSiを含む高炭素の鋼へ炭素が拡散することで証明した。
   2元系ではスピノーダル分解で生じる。

 *エレクトロ・マイグレーション
   IC(集積回路)のAl配線に大電流を流したときの断線の原因はエレクトロ・マイグレーションとして説明されている。
   これは配線に電流が流れると電流(電子流)は金属原子に電子風力を与える、つまり電子の衝突によって金属原子がカソード
  側からアノード側に移動し、カソード側にボイドが形成され断線を生じ、アノード側にヒロック(突起)やウイスカが形成される
  というものである。
   なお配線に膨張率差などで引っ張り応力がかかることにより金属原子が移動しボイドが形成され断線を生じる現象を
  ストレス・マイグレーションという。

 *バリア・メタルとアンダー・バンプ・メタルUBM(バンプ下地金属)あるいはアンダー・バリア・メタルUBM
   集積回路等で金属の拡散、反応防止のために形成される金属層をバリア・メタル、上、下層との密着性や熱膨張率の適合が重要。
   特に配線(電極)とバンプ(特にはんだ)との間に形成されるものがUBM(アンダー・バンプ・メタルあるいはアンダー・バリア・メタル)
   当初集積回路で接合の浅いコンタクト部では、Al配線電極とSiがプロセス中に高温で反応してスパイクを形成し、接合面までAlが
  突き抜け、接合が破壊されるのを避けるため、Alの代わりにAl-Si合金を使用したりAl配線の下にバリアメタルを形成したりしていた。
   また配線金属と絶縁膜の熱膨張率差によりストレス・マイグレーションが発生し、この対策としてもバリア・メタルを形成するようになった。
   このようにしてSiまたは絶縁膜と配線(Al、Cu)の間、特にダマシンとよばれるCu配線の間にバリア・メタルが形成される。
   AlではTiN、CuではTa、TaNなどが用いられる。
   またはんだバンプ特にPbフリーはんだバンプは反応性が強く(食われ)かつ応力緩和しにくいいため適当なバリア・メタルが形成が
  必要とされる。

(9) 加工・再結晶組織

(9−1) 集合組織
 金属は多結晶体で通常は個々の結晶粒は無秩序に配向しているが、この多結晶体が
 特定の方向(優先方位)に配向する場合がありこれを集合組織textureという。 

 ・加工集合組織
  金属を塑性加工(圧延、引き抜き等の冷間加工)した場合に生ずる集合組織。

 ・再結晶集合組織
  強い加工を行ったあとの熱処理(焼きなまし)による集合組織。

(9−2) 再結晶

 強加工された金属を加熱すると、原子の再配列がおこりひずみのない結晶に戻り、これを再結晶という。
 実際は再結晶の前にまず点欠陥の消滅や転位の再配列が起こりこれを回復という。
 更に加熱を行うと新しい結晶粒の生成と成長により転位の少ない新結晶組織となり軟化や物理的性質の
大きな変化が起こる。
 この過程を1次再結晶(静的再結晶)という。

 動的再結晶は高温での加工中(応力下)に起こる再結晶。
 
 結晶粒は温度補償歪速度因子(Zener-Hollomon因子)Z=(dε/dt)exp(Q/RT)に支配され、
Zが大きいほど、歪速度が大きいほど、温度が低いほど再結晶粒は小さくなる。

 更に高温あるいは長時間の加熱を行うと特定の結晶粒が他の結晶粒を食って結晶粒の急成長、粗大化が
起こる場合がありこれを2次再結晶(異常結晶粒成長)という。

*珪素鋼では2次再結晶で生じた集合組織の配向方位が変わる3次再結晶が起こる。
  3次再結晶は2次再結晶で残った小さい結晶粒が2次再結晶で生じた大きな結晶粒を食って成長すること
 により起こる。

*正常粒成長では古典的接近方法として
   d=kt
でBurkeとTurnbullはn=0.5とした。従って一般的には
  d=d+kt=d+k’t・exp(−Q/RT)

 異常粒成長では、第2相のZenerのピニング条件より第2相の粒径rとマトリックス粒径R0
   R0=4r/3f    f:分散粒子の体積比率
により第2相が小さく、体積比率が大きければ粒径が小さくなる。
 GladmanはマトリックスR0の粒成長を阻止する第2相の臨界径rの関係として
     Z:成長粒径とR0の比
を導いた。異常粒成長は第2相の径が上式のrを超えたときに発生し、臨界径rが小さいほど起こりやすいことになる。
 またマトリックス粒径が小さいほどおこりやすい。

*回復(recovery)、再結晶、結晶粒成長の一連の過程を復旧(restoration)と称することもある。

・ホモロガス(homologous)温度(相同温度)
  絶対温度(K)表示で、融点で規格化された温度。つまりT/Tm。
  温度を高い、低いと称する場合その認識はその材料の融点によって異なるが、ホモロガス温度で表示すると融点差の影響を補正して統一的解釈
 (同一直線、曲線上にのるなど)できる場合が多い。
  たとえば再結晶温度TrecはTrec/Tm=0.4〜0.6で、つまり再結晶温度0.4Tmから0.6Tmで目安はTm/2とされる。
  クリープ(定温、定応力での時間による変形現象)現象でもよく利用され、クリープはやはり0.5Tm以上で顕著になる。

(9−3) 連続再結晶(その場再結晶)と不連続再結晶

 通常の冷間加工では加工によって生成した亜結晶粒間の方位差(傾角)が小さく(小傾角:15度以下)、この小傾角では
静的再結晶により亜結晶粒から核生成と成長により再結晶しこれを不連続再結晶という。不連続再結晶では再結晶粒は亜結晶粒
の少なくとも数倍の大きさとなる。(加工度小の場合の静的再結晶による不連続再結晶)
 それに対し低温で強加工を施し、亜結晶粒を大傾角(15度以上)とすると、すなわち結晶回転により亜結晶粒の方位差が連続的に増加し
大傾角化すると亜結晶粒はその場で結晶粒となりこれを(動的)連続再結晶という。(加工度大の場合の動的再結晶による連続再結晶)
 不連続再結晶では1μm以下の微細化は不可能であるが連続再結晶によれば1μm以下の微細化も可能である。
 一方Al合金などでは高温、低歪み速度で結晶粒が亜結晶粒界程度の厚みに扁平になり、更に粒界がぎざぎざになり部分的に粒界が
接触するようになって最終的にちぎれ、小さな等軸結晶粒となる幾何学的動的再結晶がある。
 すなわち再結晶は
  静的再結晶 ・・・不連続再結晶
  動的再結晶
    不連続再結晶
    連続再結晶
    幾何学的再結晶
と分類される。

(9−4) 粒子誘起核生成Particle Stimulated Nucleation

 合金に第2相粒子(析出ないし分散相)がある場合、第2相粒子は条件により再結晶遅延効果と再結晶促進効果のいずれかを示す。
 一般に硬くて大きい(>1μm)場合では粒子誘起核生成PSNが起こる場合がある。
 またこの境界は第2相粒子の粒子体積率Fvと粒子径dが Fv/d=0.2μmにあり、 Fv/d>0.2μmで再結晶遅延効果(ゼーナー・
ピニング)が発現されるとされ、したがって結晶粒微細化のためには分散粒子の体積を多くするか微細にする必要がある。

(9−5) 拡散誘起再結晶
 融点の1/3程度の温度の粒界拡散に比べ体積拡散が無視できる程度の温度で、純金属の粒界に沿っての溶質元素(組成の不均一
による)の拡散により、粒界が移動し、後ろに合金層(組成の不連続に異なる領域)が生じることがあり、これを拡散誘起粒界DIGMといい、
更に再結晶により合金相(未反応母相と組成が不連続に異なる再結晶領域)が生じる場合を拡散誘起再結晶DIRという。Fe(Zn)、Cu(Zn)
Cu(Au)、Ag(Au)、Ag(Pd)、W(Cr)などで見られる。

(9−6) 金属の単結晶ウイスカwhisker(ひげ結晶)

 電気めっきしたSn、Zn(亜鉛鋼板も)、Cdなどから単結晶のウイスカが成長する事がよく知られている。
 典型的には太さ1〜2μm、長さ0.1〜10mmで多くは針状だがノジュール(結節)状、ヒロイック(小丘)状なども生じる。
 針状のものは真っ直ぐなもののほかに曲がったりするものもある。
 これらウイスカはめっき後の潜伏期間をもち、常温でも発生、成長する。
 SnのウイスカはPbとの合金化で改善されたがPbフリー化の動きで再燃した。
 SnのPbフリー合金化ではBiが一番効果があるとされるが脆くなる等の欠点もある。
 成長機構ではいくつかの転位モデルが提案されたが疑問がもたれている。
 また再結晶とする説がある。
 いずれにせよ圧縮応力を駆動力とすることが認められている。
 これらはVLS機構と異なりウイスカの根元から成長する。
 Snについては詳しく研究され圧縮応力の原因として、めっきの析出の際の残留応力の他に
  室温ではCu下地に対し金属間化合物CuSnの成長による。Ni層を形成することや150℃付近の熱処理が効果がある。
  温度サイクルによるもの、下地との熱膨張差による、屈曲した形状となりやすい。せいぜい数10μmと大きくならない。
  酸化・腐食により発生する応力による。
  外圧によるもの、コネクターなどで発生。
が区別されている。
 またSnウイスカにはめっき後潜伏期間を経てゆっくり成長する単結晶(βSn)の真正ウイスカのほかに、無電解Snめっき中に発生し、
めっき後は成長しない多結晶(βSnとαSn)の擬似ウイスカがあるとされる。

 ウイスカはAg、Au、Alなどでの発生も報告されている。
 またSnAgCuはんだやSnPbはんだからのウイスカ発生も報告されている。

, AgからS雰囲気でAgSウイスカが成長する。このAgSウイスカ樹枝状形状(基体に平面的ではなく立体的、基体に平面的なものはデンドライト)
のウイスカも成長する。

 ウイスカは成分が下地から供給される真性ウイスカとAgSのような反応による非真性ウイスカに区別することもある。

*気相からの単結晶ウイスカ成長
 気相成長(VS成長)によってもよくウイスカが成長する。成長機構として最初に考えられたのはらせん転位説だが疑問視されている。
 (少なくともすべてのVSウイスカは説明できない)
 成長機構があきらかになっているのはVLS(vapor-liquid-solid)機構と呼ばれるものでSiが有名である。
 VLS機構では気相が液相を経由してウイスカが成長する。
 即ち下図で、基体上に触媒となる物質が存在し(a)、加熱で溶融し(b)、基体を溶解した液滴を形成し(c)、この液滴が気相から
ウイスカ成分を吸収し、飽和し液滴下部にウイスカが析出し(d)、ウイスカ先端に液滴が乗った状態でウイスカが先端から成長していく(e)
というもので、Si上のAuによるSiAuの共晶形成による液滴形成と気相からのSi供給によるSiウイスカ成長や、グラファイト上のFeとFe溶融
によるCを溶解した液滴の形成と気相からのC、Si供給によるSiCウイスカ成長などが成長が有名である

  VLS機構によるウイスカ成長模式図

(10) 結晶粒界

(10−1) 捩れ粒界と傾角粒界

・捩れ粒界
  界面が回転軸に垂直な粒界、らせん転位の集合で形成。

・傾角粒界
  界面が回転軸に平行な粒界、刃状転位の集合で形成。

(10−2) 対応格子点と白l

・対応格子点CLS Coincidence Lattice Site
  同一結晶構造の2結晶をある回転軸の周囲にθ回転させたときに生じる2つの結晶の周期的に重なる格子点。
  図は単純格子を<001>軸に36.52度回転した場合で対応格子点を○で示す、
  
・白l
  もとの結晶格子の単位胞体積と対応格子の単位胞体積の比、あるいは対応格子点の密度の逆数。
  狽ェ小さいほど周期性が短く、規則度が高い。狽ヘ奇数値をとる。
 
(10−3) 小傾角粒界
 小傾角粒界は2つの粒界の結晶軸のなす角度、方位角の差(傾角、ミスオリエンテーション)が15度未満のもので亜粒界。
 小傾角粒界は狽PでRead-shockleyモデル(刃状転位の集合、E=Eθ(A-lnθ))で説明される。

(10−4) 対応粒界
 特定の回転角について形成される周期的原子配列つまり対応格子点をもつ粒界。
 方位関係のずれが15°/1/2以下なら対応粒界の理論が適用できる。(Brandonの条件)

 ・大傾角粒界(対応粒界) 
   傾角>15度を大傾角粒界
   狽Rは双晶、狽Rnは双晶に付随して見られる粒界
   煤@〜(29)

 *対応粒界の意義
   対応粒界は粒界エネルギーが低く安定とされ、実際に多くの物質の多結晶で対応粒界がよく観察される。

  

(10−5) ランダム粒界(一般粒界)狽q
 狽フ大きいもの、たとえば29を超えるものをランダム粒界とする場合が多い。
 
*異なる結晶構造の粒界の界面である異相界面にはBollmannのO−格子理論が利用される。
 O−格子理論では格子点の代わりにパターン(対応等価点)の重なりを考える。

(10−6) 構造ユニット
  粒界は結晶と異なる原子クラスターである構造ユニットの組み合わせと考えられる。

(10−7) 粒界性格
 粒界は2つの結晶の共通回転軸、回転角、粒界面方位などを因子とする粒界性格によってその特性が影響を受ける。

(10−9) 粒界偏析
 偏析という用語は金属学では通常、凝固過程に関係して使用される。
 溶融金属の凝固の過程で鋳塊には肉眼的規模の濃度差が生じ、これはマクロ偏析と呼ばれる。
 また、デンドライトとデンドライト間の空間の間にはμm規模の濃度差が生じ、これはミクロ偏析と呼ばれる。
 これら偏析は融点での固相線と液相線の化学組成の差により生じる。

 凝固・結晶化における偏析に対し、粒界での局部的化学成分の変化で粒界破壊や粒界の脆化、粒界腐食の原因となる偏析―粒界偏析がある。
 粒界偏析はnm規模に限られるが濃度差はマクロおよびミクロ偏析よりかなり大きい。

 合金での溶質元素の粒界偏析は平衡偏析と非平衡偏析に分けられる。

 平衡偏析は熱力学的過程で合金系の平衡化で生じる。
 この偏析の量はアニール温度の低下およびマトリクス中の溶質元素濃度の増加とともに増加する。
 平衡偏析にはマクリーンの統計熱力学的記述が有名である。
 平衡偏析は格子位置の溶質のエネルギーと、粒界の溶質のエネルギーの差に起因し、不純物元素が結晶粒内に存在する場合のエネルギーは,
それが結晶粒界に存在する場合より大きい。このエネルギーの差が偏析の駆動力となる。マクリーンはこれを弾性歪みエネルギーによって見積もった。

 平衡偏析量は低温ほど大きく,温度上昇に伴って減少する。一方,低温では原子拡散速度が小さいため,不純物は粒界へ容易には移動できないが、
温度上昇に伴って拡散速度が増大すると,偏析が可能になる。結局、平衡偏析量と平衡状態へ近づく拡散速度との釣り合いできまる。
 それに対し非平衡偏析では温度上昇とともに偏析の度合いが上昇するが、時効しなくても合金は均質化することが可能である。
 平衡偏析量は単原子層ないし数原子層であるが(ゆえに吸着adsorptionと類推される)、非平衡偏析は数μmで冷却速度などに敏感である。

 非平衡偏析は速度過程と動的事象に依存し、点欠陥―溶質複合体の粒界への拡散で生じる。
 非平衡偏析は過渡的で、一般的にもし拡散過程が完全な平衡に到達することを可能とするなら、時間が無限に近づくにつれて消滅する。
 平衡偏析は可逆偏析であるが非平衡偏析は可逆偏析とは異なる。

 非平衡偏析は焼き入れ(急冷)で生じる熱誘起非平衡偏析、中性子や陽子などの照射によって生じる放射線照射誘起非平衡偏析、
低応力での弾性変形による低応力誘起非平衡偏析、高温での塑性変形による変形誘起非平衡偏析がある。
 また移動界面での溶質積み重ね(パイルアップpile-up)でも非平衡偏析は生じる。

 非平衡偏析では急冷、応力、放射線照射などで、非平衡な点空孔が導入され、粒内と粒界での空孔の消滅のしやすさの違いから空孔濃度差が生じ、
溶質原子と空孔の相互作用の結果、平衡偏析と比べ粒界の化学組成が実質的に変化する。

 放射線照射誘起非平衡偏析では空孔の粒界への移動によって、粒界近傍の合金中の任意の原子が逆に空孔サイトに移動し、粒界近傍に
その原子の欠乏または他の原子の富化が生じる逆カーケンドール効果inverse Kirkendall effectなどが原因に推定されている。

*硬化性脆化と非硬化性脆化
 低合金構造鋼の脆化は硬化性脆化と非硬化性脆化に分けられる。
 硬化性脆化は固溶強化、析出強化のような合金化による強化で引き起こされる。
 非硬化性脆化は主にP、Sなどの不純物元素の粒界偏析によって主に引き起こされる。
 その代表的な例が低合金鋼の焼き戻し脆性で、主にリン(P)の粒界偏析が原因である。
 またFeやニッケル(Ni)の合金では硫黄(S)はPよりも非常に強い粒界脆化を起こすことが知られている。
 これら合金の脆化は合金による強化を起こさずに不純物の偏析の増加で増大する。
 一方、鋼ではB、Be、Moなどのいくつかの元素の粒界偏析は粒界の強度を向上させる。

*脱偏析desegregation
 原子の分布(濃度)差をもたらす原子の移動を偏析segregationという場合、原子の分布差を解消する原子の移動を脱偏析という。
 似たような言葉に逆偏析という言い方があるが、これは正常偏析における原子の分布と異なるなる偏析のあり方(原子の分布)をいうのである。

(11) 熱処理

(11−1) 熱処理
 金属では種々の目的のもとに種々の熱処理(ある温度での加熱)が行われる。
 鋼では硬いマルテンサイトを得るための焼き入れquenchingと焼き入れによる硬くて脆い組織に靭性を与える
ための焼き戻しtemperingが代表的である。
 そのほか結晶粒の大きさや形状を制御する焼きならしnormalizing(焼準)、偏析を解消したり、加工硬化・加工
歪を除去したり、炭化物を球状化する、被削性を向上させるなどを目的とする焼き鈍しannealing(焼鈍)などがある。

(11−2) 鋼の等温(恒温)変態isothermal transformation

 鋼をオーステナイト化し変態点温度以下に冷却しての一定温度での変態を等温(恒温)変態という。
 温度が高いほうからパーライト(〜550℃付近)、ベイナイト、マルテンサイトが得られる。

 オーステンパーはベイナイト領域に焼き入れしベイナイト組織を得る、マルテンパーはマルテンサイト
変態開始温度Ms以下の熱浴に焼き入れし残留オーステナイトの恒温変態を行い焼き戻しマルテンサイトと
低温ベイナイト混合組織とする、マルクェンチはMs点直上の温度に焼き入れ保持し試料の温度差を除去して
から空冷し序々にマルテンサイト変態をさせる。
・TTT Time-Temperature-Transformation曲線(S曲線):恒温変態曲線
  オーステナイトから一定の温度に焼き入れし、その温度で保持したときの組織を示す。
  S字状を示すのでSS曲線ともいい、出っ張った部分を鼻Nose(あるいは膝Knee)と称し、これより上はパーライト
 変態で、下はベイナイト変態。
・CCTcontinuous-Cooling-Transformation曲線:連続冷却変態曲線
  一定の冷却速度で冷却したときの組織を示す。
 

(11−3)  加工熱処理

 加工と熱処理の組み合わせで鋼の強化、靭性化を行う。
 代表的なのはオースフォーミングでオーステナイトをMs点以上の温度で加工したのちマルテンサイト変態を
起こさせる。
 パテンティングはパーライトまたはベイナイト組織化し冷間線引き加工を行う。

(12) 金属の強化・硬化

(12−1) 加工硬化
 転位密度の増加によるもので
   ベイリー・ハーシュBailey-Hirschの関係がある。臨界せん断応力τは
   τ=αμbρ1/2    α:定数、μ:剛性率、b:バーガースベクトルの大きさ、ρ:転位密度
   即ちτ∝ρ1/2

*亜結晶強化substructure hardening,
 小傾角粒界(結晶方位差15度以下)を亜結晶として、Hall-Petchの考え方が適用できるとし、この亜結晶化による
による強化を加工硬化とは別に亜結晶強化とする考えがある。

*焼付硬化bake hardening  
   コットレル雰囲気の形成(ひずみ硬化)と転位上への析出物形成(析出硬化)の2段階の硬化。
   あるいは加工硬化とひずみ時効硬化(焼付硬化)の利用。
   C、Nの影響を除去した鋼(C,Noを除去、あるいは炭化物形成元素で固定)
 

(12−2) 結晶粒微細化強化
 金属の強度σと結晶粒径dにはホール・ペッチHall-Petchの関係
   σ=σ+kd−1/2   σ、kは定数
が見られる。
 結晶粒径が小さくなると(10nm程度)で逆に強度が小さくなる逆Hall-Petchの関係が生ずるともいわれる。

 動的連続再結晶を生じるような強加工severe plastic deformationにより1μm以下の結晶粒微細化が可能で、そのような
強加工方法としてHPT(高圧下ねじり)、ARB(繰り返し重ね接合圧延)、ECPA(等断面傾斜角押し出し)などが研究されている。

 金属の合金化による強化・硬化には以下の3タイプがある。

(12−3) 固溶強化
 固溶体形成による強化でCu合金(Cu−Zn、Cu−Snなど)が有名。
 置換型と侵入型がある。

 固溶強化では
  臨界せん断応力∝(固溶濃度)
  希薄固溶体では   n=1/2 (Friedel限界)
  高濃度固溶体では  n=2/3 (Labusch限界)
が当てはまるとされる。

(12−4) 析出強化(時効)
 Al−Cu合金が有名で過飽和固溶体からの金属間化合物の析出(時効)による。
 Feでは炭化物、窒化物の析出で硬化が起こる。
 析出強化では
  臨界せん断応力∝ε3/2fr1/2 (GeroldとHaberkorn)  ε:格子定数のミスフィット量
 ただし析出物は分散粒子より小さいため転位の移動に対し弱い障害物(転位にカッティング機構が働く)として働く
 析出物の多さで障害の弱さを補う必要がある。

 析出強化の機構
  化学強化chemical strengthening
   新表面形成による界面エネルギーの影響
  剛性強化modulus
   弾性率の差による
  整合性ひずみ強化coherency strain
   整合性析出物周辺の応力場と転位の弾性相互作用
  原子規則強化order
   半位相界面の形成
  積層欠陥強化stacking fault
   積層欠陥エネルギー差の影響

*時効aging
  合金の性質(電気抵抗、硬度、強度など)が時間の経過とともに変化すること。
  時効硬化は析出硬化による。
  自然時効(常温時効)と人工時効(焼き戻し時効)がある。

 過時効overaging  
  硬度、強度などが最高になる温度、時間よりも高い温度、長い温度での時効で硬度、強度が
 再び低下する減少。時効によって上昇した硬度、強度が再び減少する場合。
  これに対し硬度、強度が最高になる前を過小時効(不完全時効)underagingという。

  時効初期の析出物が小さいときは転位が粒子を切断するカッティング機構(粒子せん断機構)が
 支配し降伏応力τは粒子径rと体積分率fに対し
   τ∝(fr)1/2
  粒子が硬いほど、母相の結晶格子と整合性が悪いほど、降伏応力は大きくなる。
  析出物が成長し粒子間距離が大きくなると転位は析出物を迂回して転位ループを形成する
 オロワン機構が支配し
   τ∝f1/2-1
  粒子の性質には関係しない。

 

 復元reversion  
   時効硬化合金で時効温度より高い温度で時効前の性質に戻り、軟化する現象で、硬化の原因
  であった析出物の再固溶により起こる。

 ひずみ時効strain aging
  静的ひずみ時効static
    冷間塑性加工を行うと加工硬化を起こすが、加工後の時間の経過とともに硬化が進行する
   場合を静的ひずみ時効という。
 
  動的ひずみ時効dynamic
    温間加工中に加工硬化(降伏応力上昇)が起こる現象を動的ひずみ時効という。

  適当な温度で鋸刃状(不連続、セレーション、応力振幅)の応力−ひずみ線図を生じることが知られており、
 これをポルトヴァン・ルシャトリエ(Portevin-LeChatelier)効果という。
  この現象は溶質原子と転位の相互作用(Cottrell固着)に起因する動的ひずみ時効とすることもある。
  

 応力時効stress aging
   一定の機械的応力と熱を同時に加え,一定時間保持する加工熱処理。
   外力を付加しての時効。

(12−5) 変態硬化
 Fe−Cのマルテンサイト変態がある。

 析出強化と物理的には同じだが生成機構が異なるものに分散強化がある。析出強化も広い意味では分散強化である。

(12−6) 分散強化
 硬いくて耐熱性のあるセラミック粒子特に酸化物などを介在させる。
 酸化物分散強化Oxide Dispersion Strengthened ODS合金などがある。
 例としてSAP(Sintered Aluminum Poweder、Al中にAl2O3)、アルミナ分散強化銅、ODS銀(CdO、SnO2など)、ODS(ZrO2)白金、
 TD Thoria Dispersedニッケル(ThO2)、ODS(Y2O3など)Ni基超合金、ODS(Y2O3など)フェライト鋼
 析出強化は溶体化・時効によるが分散強化は溶質金属の選択酸化(内部酸化法)−貴金属、粉末冶金法(MAメカニカル・
アロイ法(粉末同士をボール・ミル混合)など、)−耐熱合金、などで製造。
 分散強化にはZenerの式が適用される。
   R=Kr/f  R:結晶粒径、r:分散粒子径、f:分散粒子体積率
 分散強化では
  臨界せん断応力∝√f/r  
 ただし分散粒子は大きくオロワン機構(ループ機構、バイパス機構)が働くとする。
 カッティング機構とオロワン機構の臨界粒径は数nm〜数十nmである。

(12−7)スピノーダル分解と規則格子形成

・スピノーダル分解による強化
  濃度変調の振幅に比例し波長には無関係。Cu−Ni−Sn系合金で見られる。

・規則化硬化
  AuCu合金(歯科用合金)では規則格子形成による硬化が生じる。

*集合組織硬化texture hardening
  Tiα相合金やマグネシウム合金、Zr、Beなど稠密六方晶構造ではすべり方向が底面上に存在し、
 底面集合組織をもつ板で板厚方向の変形が困難となり板面内2軸応力状態での強度が高くなる。

(13) 相変態の種類・分類

 相変態あるいは相転移という言い方があるが違いはあるか。
  相変態phase transformation・・・広いスペクトラムの現象。
  相転移phase transition・・・同一化学組成の2相間の転移。
  相反応phase reaction・・・第2相の析出(α´→α+β)、共析(γ→α+β)などは化学では相反応。
 という人もいる。
   
(13−1)熱力学thermodynamic的分類

(13−1−1)Ehrenfestの分類
    相転移の次元→ギッブスの自由エネルギーの導関数

      1次相転移:1次導関数がゼロでない、有限(エントロピー変化≠0)、2次導関数は無限(Cp→∞)。
            エントロピー、エンタルピー(→潜熱)、比体積の不連続変化
            
      2次相転移:1次導関数がゼロ、2次導関数は有限
            エントロピー、エンタルピー、比体積の連続変化

      n次相転移:n次導関数が有限→不連続
    

*Ubbelohdeの分類

     (熱力学的)連続(不明瞭)相転移  
          エンタルピーの不連続がない。結晶構造変化が円滑で連続的。
     (熱力学的)不連続相転移 
          2相の構造が非常にはっきりと異なり円滑に変化できない。
          石英ークリストバライト、ダイアモンドーグラファイト。

    これらは特徴的異常現象を呈する。
     不連続相転移
        プレ転移およびプレ溶融現象、これは類似種類の結晶の段階的gradual構造変化による。(混合結晶)
     不明瞭ないし連続相転移
        高次の転移によるとされることがある。混合単一結晶内の2つのわずかに異なる構造ないしサブ単位領域の共存による。
        熱力学的転移点でのヒステリシスの発生。これは不明瞭熱力学転移をもたらす共存現象から生じる。

(13−1−2)ランダウの現象論

  転移温度近傍で自由エネルギーを秩序変数(示量変数)で展開、結晶の対称性を考慮。
    自由エネルギーを秩序パラメーターで冪乗展開  ΔG=Aη2+Bη3+Cη4・・・
      1次 B≠O
      2次 偶数冪項だけ、奇数冪項なし。B=0

  一次相転移と二次相転移
    一次相転移:転移温度で秩序変数が不連続的に0、潜熱の発生。
    二次相転移:転移温度で秩序変数が連続的に0、応答関数の発散。
  

   秩序変数:相転移を記述する示量変数(大きさが体積に比例)。
          転移温度以上(無秩序相)では0で、以下(秩序相)では0でない値。
   応答関数:秩序変数の導関数。
   臨界指数
     秩序関数、応答関数、等温曲線、等圧比熱を特徴付ける指数(スケーリング則)。
     スケーリング則とユニバーサリティ(指数間の関係)。

   臨界現象
     ランダウ理論がなりたたない現象、あるいは領域(臨界領域)

(13−1−3)対称性破れ転移と対称性保存転移

・IUPACの定義
  ・対称性保存conserving転移
    一方の相のセル次元または、および角度が他方と異なるが空間群対称性は保存、例;fccCeの冷却による10%高密度化fcc転移
   (気体−液体)
  ・対称性破れ転移(亜subグループ−超superグループ転移:)
    低対称相の空間群対称性が高対称相の亜グループ、例;低温石英(P32:三斜)と高温石英(P622:六方)

 あるいは
  変位相転移
    相転移前後の対称群はグループ・サブグループ関係をもつ
  再構成相転移
    相転移前後の対称群はグループ・サブグループ関係をもたない

(13−1−4)安定性による分類

・可逆・不可逆
    互変enantiotropic転移・・・可逆(平衡転移)
    単変monotropic転移・・・不可逆

・安定・準安定
    準安定 
      1次相転移
       自由エネルギー曲線の外挿、準安定状態存在。
      2次相転移
       自由エネルギー曲線は連続曲線で準安定状態の概念存在せず。
    安定
   
  

*準安定と非平衡

 ・準安定状態
    過(加)熱
    過冷却
    過飽和
   準安定相
    →フランス、英語のウィキでは速度論から、ドイツ語、日本語はかく乱の大小(エネルギー障壁の大きさ)
    →オストワルトの段階則
       過飽和液体から最初に生成される相は必ずしも熱力学的に安定な相ではなく、液体とエネルギーの近い相である。
 ・非平衡⇔平衡
    非平衡状態は(かく乱がなくても)時間をかけて平衡状態へ
    →準平衡(準静的)

 ・系の熱力学的分類
   平衡
    安定
    準安定
    不安定
   非平衡
     系内の熱力学的均一(緩和現象)
        線型、非線型
     系内の熱力学的不均一(輸送現象)
        線型、非線型、定常、非定常

  #過冷却液体は準安定平衡でガラスは非平衡凍結状態だがガラスを非平衡安定状態とも称することが多い。
    
(13−2)機構的mechanistic分類

(13−2−1)Gibbsの考え
    ゆらぎfluctuationをもととする
    新相形成過程
     連続相転移・・・大きな空間で小さな組成揺らぎで始まる  →スピノーダル分解
     不連続相転移・・・小さな空間で大きな組成揺らぎで始まる  →核生成・成長

(13−2−2)Christianの分類

 ・同質homogeneous相変態
     連続、核生成がない
     スピノーダル分解、Au−Cuのスピノーダル規則化
 ・異質heterogeneous相変態
     不連続、 はっきりした界面、核生成と成長
     Au−Cu規則化

   *Cellular状析出と共析出
      Cellular状析出(不連続析出)
       α’→α+β
      共析
       α→β+γ
  

   Christianの分類

(13−2−3)Buerger
    配位数と結合型による分類
    Reconstructive(civilian)とDisplacive(military)

転移の型
1.第1配位coordinationを含む転移
(a)再構成Reconstructive(遅い) ダイアモンド⇔グラファイト
(b)膨張Dilational(速い) 岩塩⇔CsCl
2.第2配位を含む転移
(a)再構成Reconstructive(遅い) 石英⇔クリストバライト
(b)変位Displacive     (速い) 低温⇔高温石英
3.不規則disorderを含む転移
(a)置換Sustitutional(遅い) 低温⇔高温LiFeO2
(b)配向Orientational
   回転Rotational     (速い)
強誘電体⇔常誘電体NH4H2PO4
4.結合型の転移      (遅い) α(灰)⇔β(白)Sn



 相変態の特徴
変態の型 特徴
変位型相変態 結合の小さな変形(膨張あるいは回転)で進行。
原子変位は0.01−0.1Å。
相間にグループ−サブグループ関係がある。
1次または2次の相変態。
再構成型相変態 1次あるいは2次の結合破壊によって進行。
10−20%の格子変形の大きな原子変位。
エネルギー障壁が高いの変態は遅い。
相間にグループ−サブグループ関係がない。
変態で高温相の対称性が高くなる。
規則・不規則型 原子置換で進行、恐らく小さな原子変位を伴う。
CuZnではグループ・サブグループ関係を保持。
Am、Fe、Co、ZnS、SiC(FCC−HCP)は再構成的。


(13−2−4)Cohenの分類
  

・格子変形変態



・シャッフル変態

            ω相                              SrTiO

(13−2−5)Delaeyの金属の相変態の分類
 
 
*Raoによる金属系の相変態の関係




*モルフォトロピックmorphotropic変態(多形相変態、結晶相変態、組成相変態)  
  固溶体での組成変化による相変態。この組成は温度による変化を受けにくい。
  この相変態の境界をモルフォトロピック相境界MPBという。
  PbZrO3−PbTiO3系では正方晶と菱面体晶のMPB付近で圧電性の優れた化合物が得られることで有名。
 

*構造相転移 

   原子の拡散を伴わない結晶構造のわずかな変化による固相間の相転移。
   高温から低温で対称性の低下が生じる。原子の極めてわずかな移動で対称性が変化。
   →相転移を起こす、あるいは特定の結晶構造をとる原子間の相互作用は何か。

    秩序−無秩序型
     原子は空間的に離散的な二つ以上の安定位置の存在
     イジングスピン変数の秩序過程
     NaNO
     
    変位型
     空間的に連続的な原子変位の揺らぎ
     特定フォノンモード(ソフトフォノン)の不安定性、対称性の高い位置の周りで振動していた原子が対称性の低い
    位置で凍結。
     光学的フォノンの凍結 強誘電体
     音響学的フォノンの凍結 強弾性体

     モードソフト化の原因
       格子振動の非調和性、その他・・・

   (結合型)
     イジングスピン−フォノン結合型
       NHBr
     電子系−フォノン結合型 
       ヤーン・テラー効果

   低次元物質
     原子間、分子間の相互作用(イジングスピン、フォノン)が極端に異方性

 *ソフトフォノン 
   変位型の強誘電体では常誘電相の赤外活性格子振動モードに周波数の非常に低いもの(ソフト・モード)
  が存在し、転移点に近づくと振動数が更に減少し、その振幅が増大しやがて振動が凍結し相転移が起こると
  解釈される。

(13−2−6)一致congruent変態⇔分解incongruent変態
   一致congruent変態  →一致溶融、固溶体での極値(液相線、固相線の一致点)
   分解incongruent変態 →分解溶融

(13−3)速度論kineticによる分類

(13−3−1)Le Chatelierの分解
    急速rapidまたは非焼入れ性nonquenchable ・・非熱活性athermal
    緩慢sluggishまたは焼入れ性quenchable   ・・熱活性thermal
      #定義の曖昧さ

(13−4)3次元的分類

(13−4−1)Royの分類
  速度論、熱力学と熱化学、構造

 
  Royの分類
  
(13−4−2)Raoの分類
   機構(構造)、熱力学、速度論で3次元的分類
    x軸 機構
     拡散(再構成) 析出、アモルファス・結晶相変態、マッシブ変態、共析相反応
     変位  
       格子ひずみ マルテンサイト変態
       シャッフル  ω転移、強誘電体転移
     混合
   y軸 熱力学
     1次 比体積、エンタルピー、エントロピーの不連続変化
     高次 連続変化
     混合
   z軸
     熱活性thermal  変位
     非熱活性athermal  再構成(拡散)
  

 Raoによる相変態の分類
 
(13−5)特殊な相転移

5−1)古典的相転移と量子相転移

・古典的相転移
   熱揺らぎによって生じる。温度上昇によるエントロピー増大が原因。低温の高秩序相から高温の低秩序相への変化。
・量子相転移
   絶対零度での量子揺らぎ(不確定原理による)による秩序相と量子無秩序相への相転移。
   圧力、磁場等が原因で起きる。

*トポロジカルtopological相転移
   トポロジカル欠陥(渦、回位など)の凝縮でおきる。
   いくつかの中間変位段階によって仮想的な軌跡が構成される共同的巨視的規模ジャンプで生じる。


(14) 種々な金属

(14−1) Pbフリーはんだ(無鉛はんだ)
 金属の接合技術で溶接weldingとは接合する部材を直接溶融させて接合させる方法でそれに対し、接合する部材より低融点の合金を
接合する部材に介在させて接合する部材を溶融させないで接合する方法のうち450℃以上をろう付けbrazingといい、これに使用する
接合部材をろう(あるいは硬ろう)と称する。
 450℃以下をはんだ付けsolderingといい、これに使用する接合部材をはんだと称する。

 従来はんだ付けには広くSn−Pb合金(共晶)系が使用されていた。
 Sn−38Pbの共晶組成は”共晶はんだ”と呼ばれまたSn−40PbやこれらにAgを添加に強化したものなども使用されていた。
 このSn−Pbはんだは高温特性を除けば(Pbが偏析、粗大化し偏析部から破壊に至る)すぐれたはんだ特性をもっていたが
生体毒性のため使用禁止となりPbを含まないPbフリーはんだ(無鉛はんだ)が使用されるようになった。
 金属で融点で低いのはIn(157℃)、Sn(232℃)、Bi(271℃)、Cd(321℃)、Pb(328℃)などであるが、Pbフリーはんだ
の候補となったのはSnを基礎とする共晶系でSn−Ag、Sn−Cu、Sn−Bi、Sn−Zn、Sn−Inなどである。
 融点以外に具備すべき条件は濡れ広がり、耐候性・耐食性、機械的特性、加工性、コストなどである。

 Sn共晶には化合物を形成するものとしないものがある。  
 
 非化合物形成Sn共晶系
  Sn−9Zn 
   共晶点198℃、SnにZn固溶あり(1wt%程度?)、腐食、濡れ広がりに問題あり。
   実際検討されたのはSn−8Zn−3Bi。
  Sn−57Bi  
   共晶点139℃、SnにBi固溶あり(1wt%以上)、機械的性質に問題あり。
   Sn−57Bi−1Agなど。
  Sn−0.5Al 
   共晶点228℃、腐食、濡れ広がりに問題あり。

 化合物形成Sn共晶系 金属間化合物相はファセットとなる。
  Sn−3.5Ag  
   共晶点221℃、固溶量は0.1wt%以下。
  Sn−0.7Cu  
   共晶点227℃。
  Sn−52In   
   共晶点118℃、In高価、相状態に不明あり。
  Sn−10Au  
   共晶点217℃、Auが巨大晶として晶出し特性悪い
  Sn−2Mg 
   共晶点200℃ 

  一般に強度向上のためAg、濡れ性向上のためBi、融点低のため下Bi、Inなどが添加される場合がある。
  Ni、Co、Fe添加はほとんど融点下がらないが第3成分として添加することで組織改善に効果がある。
  酸化抑制にP、Geの添加が行なわれる場合もある。

 3元系
  Sn−Ag−Cu  
   共晶点217℃、3.5Ag−0.9Cuが米国国立標準技術研究所NISTによれば共晶。
  Sn−Cu−Co 
   Sn−0.68Cu−0.37Coが共晶組成で共晶点224.4℃とされる。

 はんだ付けで特に電子回路で使用する場合、接合する相手(電極)は主にCu、NiでこれらはSnと金属間化合物を形成し、
Snの割合の多いPbフリーはんだは特に金属間化合物が成長しやすく破壊は主に金属間化合物の部分で起こる。

*高温はんだ
 階層はんだ付け(パッケージの内部での電子素子とパッケージの接合)、高電力(パワー)系半導体ダイ・ボンド(ダイ・アタッチ) 
すなわちダイは半導体チップのことで、高電流(パワー)系半導体チップとその台となるリード・フレームの接合等に上記はんだより融点
の高いはんだが利用される。
 よく利用されるのはPb85%以上のSn−Pb高温はんだ。
  10Sn 約270℃以上
   5Sn 約300℃以上
 Pbフリー高温はんだ候補としては
  Au−20Sn 
   共晶点280℃、金属間化合物同志の共晶、フラックスレスのクリーンはんだ付け可能。高価。
  Sn−9Sb(偏晶)  
   偏晶点246℃、温度差が小さい。

 ダイボンド(ダイ・ボンディング)用としては
  Au−12Ge(共晶点356℃)、Au−3.15Si(共晶点363℃)なども利用されることがある。

 更に検討されたものは
  Bi系
   Bi−2.6Ag、共晶点262℃、機械的特性がが悪すぎる。
  Bi(271℃)−Sb(630℃)系、全率固溶
  Zn−Al系  
   5Al:382℃、共晶点ZnへのAl固溶約0.2wt%
   Zn−Al−Mg等3元系化。 

*ろう材
 ろう材はまず濡れ広がり性が重要であり、また耐食性、耐酸化性や機械的性質も重要である。
 これらの点からは一般的に貴金属が良い。また金属間化合物の形成はなるべく避けるほうが良い。
 低融点化のためにはCd、Sn、Inなどの添加が効果があるがCdは有害で、Sn添加では融点は下がるが
脆くなる欠点がある、一方Inは脆くなる欠点は少ないが高価である。

 用途的には貴金属、歯科用の接合に主に金ろう(Au−Ag−Cu−Zn系、30−70%Au、)が使用される。
 工業用にはAu−Cu系(80Auに889℃)、Au−Ni系(17.5Niに約950℃)も利用される。
 両者は極小な一致溶融温度をもつ。
  
     Au−Ni系2元状態図

 高融点化のためにはAu−Pd系、Au−Pt系も利用される。(相手はMo、Wなど)
 PdはCu、Ag、Au、Niと全率固溶し、濡れが良く、耐熱性があり、機械的特性は悪くすることが少く、
脆化しにくいのでこれらの相手によく使用される。

 工業用ろう材の中心となっているのはAg−Cu−Zn系を主とする銀ろうである。
 Ag−Cu2元合金のAg−28.1Cuの共晶779℃を基礎とし、Znは多いとAgと金属間化合物を形成する
ので35%以下である。
 高融点用にはAg−Pd系がよく使用される。(厚膜ペースト用)
 
    Ag−Cu−Zn3元系状態図

  
   Ag−Cu−Sn系3元状態図

 
   Ag−Cu−In系3元状態図

(14−2) Pbフリー快削材(無鉛快削材)
 快削材には切り屑処理性、工具寿命の良さ、切削表面粗さの小さなことが要求され、特に自動機による連続加工のため
切り屑は工具に絡まず小さくちぎれる、切り屑処理性が求められる。
 そのためには溶融脆化効果、応力集中効果、潤滑効果、工具保護効果などをもつ金属、化合物を分散させる。
 鉄鋼では
  低融点金属分散型:Pb、Bi、(Sn)などを分散、溶融脆化効果、潤滑効果、Pbは特に機械的特性と快削性が良い。
  硫化物分散型:MnS分散、応力集中効果、潤滑効果、機械的特性の異方性大きい。
  形状制御硫化物分散型:Ca、Zr、TiあるいはSe、Teで硫化物の形状・分布改善し機械的特性と快削性を改善。
  グラファイト状物質分散型:グラファイト、六方晶BNなどを分散、応力集中効果、潤滑効果、製造が難しい。
  低融点酸化物分散型:CaO−Al−SiO、工具保護効果、単独では利用されない。
  母体脆化型:金属間化合物、リン化物の析出、靭性劣化。
などが利用されるが従来は特にPb快削鋼(〜0.3%Pb)が多く利用されそのほかS快削鋼などがあったが、Pbフリー化にともない
Bi快削鋼、形状制御硫化物快削鋼、BN快削鋼などが開発されているがPb快削鋼に匹敵するものは得られていない。
 Al合金ではBiやSnを添加したもの、黄銅ではBiやSiを添加したもの(γ相析出による母体脆化)が開発されている。

(14−3) 電熱合金、抵抗合金
電熱合金
  高温まで使用できる抵抗加熱用合金としてはニクロム、カンタル(サンドヴィック社登録商標)が良く知られている。

・ニクロム(ニッケル・クロム系)   Nikrothal(サンドヴィック社)、Brightray(Special Metals Co.)、Nicrofer、Cronifer(ティッセン・クルップ社))など。
 Ni−Cr系、Ni−Fe−Cr、Fe−Ni−Crなどがあり1〜2%程度のSi、希土類(La等)を加え耐酸化性を向上させ、また1%前後の
Mnを添加して加工性を改善する。FCC相(オーステナイト相)合金である。Cr及びSiO、Lなどが耐酸化性を向上させる。
 
  Ni−Cr系+Si、希土類(La等) 
    78Ni−20Crが代表的。これは酸化雰囲気で1200℃まで使用できる。常温での抵抗は1.08μΩm、1400ppm。
    68Ni−30Crが1250℃まで使用でき、常温での抵抗は1.18μΩm。
  Ni−Fe−Cr+Si、希土類(La等)
    60Ni−23Fe−15Crでは1150℃まで使用でき、常温での抵抗は1.11μΩm。
  Fe−Ni−Cr+Si、希土類(La等)
    43Fe−35Ni−20Crで1100℃、抵抗は1.05μΩm。
    48Fe−30Ni−20Crで1050℃、抵抗は1.03μΩm。
    54Fe−20Ni−24Crで1050℃、抵抗は0.95μΩm。
 
・カンタルKanthal(鉄Cr系)
 Fe−12〜30Cr−4〜7Al合金で最高1400℃まで使用できる。
 Alが増えるに従って最高使用温度が上昇し、抵抗も高くなる。
 フェライト相。
  20Cr−6Alで1400℃、抵抗は1.45μΩm。
  22Cr−5Alで1300℃、抵抗は1.39μΩm。
  20Cr−4Alで1100℃、抵抗は1.23μΩm。

抵抗合金
  抵抗合金としてはNi−Cr、Ni−Fe、Cu−Ni、Cu−Mn合金が使用され、特に精密抵抗、抵抗歪計にはCu−Ni、Cu−Mn合金が使用され、
 抵抗の温度係数が小さいことが求められる。
  Cu−Ni系合金は低温加熱(凍結防止、便座等)にも使用される。
  その他用途には熱電対がある。

・Cu−2〜45Ni系  Radio alloys(Cu−2〜22Ni)、Cuprothal(サンドヴィック社)
  Cu−44.0Ni−1.0Mn−0.5Fe  600℃、0.49μΩm、温度係数20ppm
  Cu−23Ni−1.5Mn          400℃、0.30μΩm、180ppm
  Cu−11Ni                 450℃、0.15μΩm、450ppm
  Cu−6Ni                  300℃、0.10μΩm、700ppm
  Cu−2Ni                300℃、0.05μΩm、1400ppm
 
 
・コンスタンタン類  Cu−Ni(+Mn、Fe)
  57Cu−43Ni   0.50μΩm、±20
  55Cu−45Ni   0.50μΩm、±40
  53Cu−44Ni−3Mn  0.52μΩm、±70

  55Cu−45Niを典型とし、Mn、Feを添加したものでConstantan、Advance、Eureka、Ferryなどと呼ばれる。

  モネルMonel、ルセロ  30Cu−67Ni−2Fe−1Mn(+Si)   0.50μΩm、1450ppm
  Isazin Cu−23Ni−1.5Mn 180ppm 0.30μΩm
  Isotan Cu−44Ni−1Mn 600℃、−80〜+40ppm、0.49μΩm、
  Copelコーペル   54Cu−45Ni−0.3Fe    0.47μΩm、±20

  洋白は50〜70Cu−15〜35Zn−5〜35Niの合金、Niが多いほどバネ性にすぐれ、Znが多いほど高強度。
   64Cu−18Ni−18Zn   6.0IACS
   62Cu−14Ni−24Zn   6.9IACS
   56Cu−18Ni−26Zn   5.6IACS

  プラチノイドPlatinoide  54Cu−25Ni−20Zn   0.34μΩm
  ニッケリンNickelin    54Cu−26Ni−20Zn   0.43μΩm

・Cu−Mn系
  マンガニンManganin   Cu−10〜13Mn−1〜4Ni、代表的なものはCu−12Mn−2Ni、0.44μΩm、20ppm。

  Ohmal        Cu−9〜11Mn−3.6Ni−0.3Fe−0.1Si

 Niの代わりにSn、Ge、Si
  Zeranin  Cu−7Mn−2.3Sn        0.29μΩm、±10ppm    
  Cu−9,5Mn−0.7Ge      0.37μΩm

 Cu−Mn−Al系
  Isabellin       Cu−13Mn−3Al     0.50μΩm  
  Therlo        Cu−9.5Mn−5.5Al   
  Novokonstant   Cu−12Mn−4Al−1.5Fe  0.45μΩm

・Ni−Fe系 Nifethal(サンドヴィック社)
  72Ni−Fe 500℃まで、0.2μΩm。
  52Ni−Fe 600℃まで、0.37μΩm。
  42Ni−Fe 600℃まで、0.63μΩm。
  Resistherm(Isabellenhutte)  Ni−30Fe−0.6Al−0.5Mn−0.3Cr  600℃まで、0.33Ωm、3200ppm

・Ni−Cr−Al系
  35〜95Ni−Cr−Al(+Cu、Fe、Mn)
  Karma    Ni−20Cr−3Al−3Fe                 1.33Ωm、±5ppm
  Evanohm   Ni−20Cr−2.5Al−1.7Cu             1.33Ωm、20ppm
  Isaohm    Ni−20Cr−3.5Al−1Si−0.5Mn−0.5Fe  1.32Ωm、±50ppm


  Ag−Mn−Sn系
    Ag−13Mn−9Sn  0.57μΩm
  Au合金系
    Au−Co、Cr
    Au−2Cr 0.33μΩm

・抵抗歪計用合金
  Constantan、Manganin、Isoelastic、Karmaなどが利用される。

・熱電対用合金
  クロメル   90Ni−10Cr
   *80Ni−20Cr(Chromel A Nichrome 80-20)、60Ni−16Cr−24Fe( Chromel C Nichrome60)
  アルメル   94Ni−3Al−1Si−2Mn

(14−4)Al合金とCu合金

(14−4−1)アルミニウム合金

 Alは多くの金属と金属間化合物を形成する。
 Be、Si、Zn、Ga,Ge等とは化合物を形成せず共晶反応型となる。
 Alへの固溶量が多いのはZn、Ag、Mg、Li、Ga、Cu、Ge、Siなど。(固溶限1at%以上)
 Al合金では固溶硬化は期待できず、時効硬化か加工硬化が利用される。
 Al合金ではAl−Cu、Al−Mg、Al−Zn、Al−Agなどで時効硬化の過程に母相と整合性の良い
GPゾーンが形成される。

 
       典型的Al系2元状態図

       Alへの種々な元素の固溶量

 展伸用合金
  1XXX  99.00%以上純Al、主要不純物はSi、Fe。
  2XXX  Al−〜6Cu系
   2014
   2017:ジュラルミン、Al−4Cu−0.5Mg−0.5Mn
   2024:超ジュラルミン、Al−4.4Cu−1.5Mg−0.6Mn
   2011:快削合金、Pb、Bi添加。
  3XXX Al−Mn系
   3004、3104 Mg添加。
  4XXX Al−Si系
   更にCu、Ni、Mg微量で耐熱性向上。
  5XXX Al−Mg系。
  6XXX Al−Mg−Si系。
  7XXX Al−Zn−Mg。
   Cuの有無。
   7075 超々ジュラルミン、Al−5.6Zn−2.5Mg−1.6Cu

  非熱処理型、加工硬化型
    Al−Mn系、Al−Mg系、Al−Si系。
  熱処理型、時効硬化型 
    Al−Cu系(CuAl)、Al−Cu−Mg系、Al−Mg−Si系(MgSi析出)、Al−Zn−Mg系(MgZn析出)、Al−Zn−Mg−Cu系
 *Al−Cu−Li系(AlLi析出)
   2〜3Cu−1.4〜2.0Li(+Zn、Mg、Mn、Zr)、軽量化、Zrで異方性改善、
   2090:Al−2.1Cu−2.0Li−0.10Zr
   8090:Al−2.45Li−1.3Cu−0.95Mg−0.12Zr
 
     Al−Cu系状態図

    Al−Mn系状態図

    Al−Si系状態図

   Al−Mg系状態図

   Al−Zn系状態図

   Al−Li系状態図

(14−4−2)Cu合金

 Cuの合金元素で金属間化合物を形成しないのは
  Ni、Ag、Cr、Fe、Co、Pb、Mn、Nb、Bi等で
 金属間化合物を形成するものは
  Zn、Al、Si、P、Be、Mg、Ti、Zr、Sn、Sb、Cd、In等である。

A) Cu合金の強化方法
 Cu合金の強化方法には固溶強化、析出強化、スピノーダル強化がある。

 Cu−Be、Cu−Cr合金はGPゾーンを形成するとされる。
 Cu合金では Cu−Ti、Cu−Ni−Sn、Cu−Ni−Si、Cu−Co−Si、Cu−Be、Cu−Sb、Cu−In、Cu−Ag、Cu−Sn、
Cu−Sb、Cu−Mg、Cu−Cdなどが粒界反応型(不連続型)の析出物を生じる。

 ・固溶強化型
      Zn、Ni、Al、Si、Mg、Mn、In、(Sn)など。
      Cu−Sn系は状態図上は常温ではα+εの2相であるが、この反応は起こりにくく、約9%Snまではα相で
     それを超えるとδ相が析出するとされる。

  a)黄銅型(Cu−Zn系)
    金属間化合物を形成し、組成によりα、α+β、β・・・という組織をとる。

*亜鉛当量
    黄銅ではZnはCuより腐食、溶出しやすく、その改善やその他特性の改善のため第3成分を添加するが、その場合
   の組織への影響をGuilletは亜鉛当量で示した。
    Zn当量=Zn%+10.0Si%+6.0Al%+2.0Sn%+2.0Mg%+1.0Pb%+1.0Cd%+0.9Fe%+0.5Mn%-1.3Ni (wt%)

     Cu−Zn系状態図
   
       Cu−Mg系
    

  b)Cu−Sn型(共析)
    

      Cu−Al系
    

      Cu−Si系
  


  c)Cu−Mn系
      金属間化合物を形成しない。
   

 

  d)Cu−Ni(全率固溶型)
     
 ・析出強化
  a)固溶度変化型
     Ag、Cr、Fe、CoなどはCuと化合物を形成しない、Pb、Biは快削材に利用される。

       Cu−Ag系
     

         Cu−Cr系
   

         Cu−Fe系                    Cu−Co系
    

*逆行溶解度retrograde solubility
 通常、溶質の溶解度は温度降下に伴い溶解度も減少するが、Cu−Fe系、Cu−Co系では温度降下に伴い
溶解度が増加する逆行溶解度retrograde solubilityを示す。

  

      金属間化合物形成型
    

   

    


  c)3元系での添加成分同士の析出硬化

  P、Si等はCuより化合物を形成しやすい元素と反応して化合物として析出。
  SiではCu−Ni−Si(コルソン合金)、Cu−Co−Si、Cu−Cr−SiなどNi、Coがよく利用される。
  そのほかFe、Cr更にMn、Mgなどもケイ化物を形成する。
  PではCu−P、Ni−P、Fe−P、Co−Pがよく利用され、Mn、Mg、Cr、Ti、Zr等もリン化物を形成。  
  BeもNi、Co、Fe等とベリリウム化物を形成するとされる。
  あるいはZr、Ti等との化合物(Cr−Zr、ZrーTi、TiーCr、Fe−Ti・・・)も析出する。


 ・スピノーダル強化
    Cu−Ti系、Cu−Ni−Sn系、Cu−Ni−Cr系など。

    
    

 ・規則格子形成
    Cu−Au系
     

    Cu−Pt
  
   
B) β相の相変態

  Cu合金のβ相にはマッシブ変態、ベイナイト変態、規則化、マルテンサイト変態などをするものが知られている。

 B−1)マッシブ変態
   Cu−Ga、Cu−Znでは高温相β(bcc、不規則相)は急冷でβ→αmのマッシブ変態を行う。
   Cu−Gaではαmのほかにβ→ζmのマッシブ変態変態が起こり、広い範囲でαmとζmの2相状態が生じる。
   
        Cu−Zn合金マッシブ変態域                     Cu−Ga合金のマッシブ変態域

 B−2)ベイナイト変態
   Cu−Znではβ相の急冷で生じた準安定β1相(B2構造)は200℃の恒温加熱でベイナイト変態をする。
   Cu−Al系もベイナイト変態を行う。

 B−3)規則化とマルテンサイト変態
   Cu−Al、Cu−Sn、Cu−Zn、Cu−Gaのβ相はベルトライド型のヒューム・ロザリー電子化合物(e/a=3/2)の
 金属間化合物で、高温相は不規則型のA2型(bcc)であり、規則型β1(B2、DO3、L2等)をへてマルテンサイトβ´変態
 することが知られている。

C)Cu合金の種類

 銅合金は導電性と熱伝導性に優れ、半導体、ICなどのパッケージ用リード・フレームやコネクター、放熱板などの
電気・電子材料の中心となっている。
 銅の導電率は高純度なものほど高く、一方その強度は合金量が多いほど強い。
 従って導電率と強度の関係は相反している。
 *IACS:20℃で1.7241μΩ・cmの国際標準軟銅を基準とする。

 
            合金量と導電率

 
 

 銅合金の強化は
  固溶強化・・・Sn、Zn、Ni、Mg、Mn、Siなど。
  析出強化・・・以下のような方法
   Cr、Zr、Ag、Co、Fe、Be、
   Cu−P、Fe−P、Ni−P、Co−P化合物
   NiーSi、CoーSi、CrーSi化合物
   Cr−Zr化合物
  スピノーダル強化・・・Cu−Ti、Cu−Ni−Sn、Cu−Ni−Crなど。
  分散強化・・・以下のような方法
   Al
   Nb:急冷凝固、メカニカル・アロイングMA法などで多量の分散(10%Nb等)
     Cr,W、Ta、Nb、Mo、Vなども可能性があるとされる。
などが利用される。
 
 以下CDA(米国の銅開発協会)登録No.に沿って紹介する。

 ・C1XXXX
   純Cuと約99.3%Cuまでの高Cu合金と約96%Cuまでの他に規定されないCu合金を含む。
   中心となる合金は銀入銅(Cu−Ag)、錫入銅(Cu−Sn)、鉄入銅(Cu−Fe)、ジルコニウム銅(Cu−Zr)、
  クロム銅(Cu−Cr)、コバルト銅(Cu−Co)、ニッケル銅(Cu−Ni)、マグネシウム銅(Cu−Mg)、
  ベリリウム銅(Cu−Be)、チタン銅(Cu−Ti)などである。
   電子材料として重要なものが多い。

  <純銅>
    電解銅(電気銅)    99.96%以上 不純物はSe、Sb、Pb、Fe、などで特にBiは0.001%以下と厳しい。  
    無酸素銅OFC      99.95%以上、真空溶解でO:0.001%以下。
    タフピッチ銅TPC    99.90%以上、電気銅から精錬、O:0.02−0.05%。
    リン脱酸銅DHP     99.90%以上、P:0.04%以下。 

    *無酸素銅の改良型
       銀入無酸素銅OFS   0.1%以下Ag。
       そのほか Zr入り無酸素銅、Sn入無酸素銅など。

   おおよそ99.6<Cuの銅合金の代表的なものは
     Cu−Ag 
     Cu−Fe−P
     Cu−Sn(+P)
     Cu−Zr
     Cu−Co−P

   おおよそ99.3<Cuの銅合金の代表的なものは
     Cu−Ag
     Cu−Al−O(Al
     Cu−Fe−P+Ni、Sn、Zn、Mg
     Cu−Sn−P+Fe、Ni、Zn
     Cu−Cr+Zr、Sn、Zn、Si

   約96<Cuの銅合金の代表的なものは
     Cu−Fe−P+Ni、Sn、Zn、Mg
     Cu−Sn−P+Fe、Ni、Zn    (改良リン青銅)  
     Cu−Ni−P+Zn
     Cu−Cr+Zr、Sn、Zn、Si、Ti
     ベリリウム銅(Cu−Be+Co、Ni)
     チタン銅(Cu−Ti)
     マグネシウム銅(Cu−Mg−P)
     低コルソン合金(Cu−Ni−Si+Zn、Sn、Mg、Co)  中心はC6XXXX
    そのほか
     Cu−Zn(+Fe、P、Mg)、Cu−Sn−Ni(+P)、ニッケル銅:Cu−NiーSn(+Fe、P、Zn、Mg)、
    Cu−Sn−Zn(+Fe、P、Mn、Si)など。

 ・C2XXXX
   Cu−Zn(黄銅)系
    金箔Gilding       95−5Zn
    商業青銅bronze    90−10Zn
    宝石青銅        87−13Zn
    赤黄銅brass      85−15Zn
    低黄銅          80−20Zn
                  75−25Zn
    カートリッジ黄銅(7−3黄銅) 
    黄黄銅 yellow brass   65−35Zn
    Muntz Metal(6−4黄銅)    

   *丹銅    Zn<20
   *雷管用銅  98.0〜99.0Cu−Zn    
   *5円硬貨 65Cu−35Zn
   
 ・C3XXX
   Cu−Zn−Pb(快削黄銅)系
   55<Cu<64、0.1<Pb<4.5、Zn<45

 ・C4XXXX  
   Cu−Zn−Sn(Sn入黄銅)系
   0.1<Sn<5.5、Zn<45
    アドミラルティ黄銅;7−3黄銅ベースに1%Sn  
    ネーバル黄銅:6−4黄銅ベースに1%Sn  
    ビスマス快削黄銅:6−4ベースにBi<3.0  

   *10円硬貨:Cu−3.5Zn−1.5Sn

 ・C5XXXX
   Cu−Sn−P(リン青銅)系     
   3<Sn<10、0.03<P<0.35、+Ni、Zn、Fe

 ・C6XXXX  
   特殊青銅すなわちCu−Al、Mni、Si、Ni系
   高力黄銅すなわち黄銅にMn、Al、Fe、Si、Ni、Snなどを添加したもの
   コルソン合金すなわちCu−Ni−Si系でNi−Siの析出硬化を利用したもの
  などが含まれる。

    アルミ青銅
     Cu−Al+Fe、Ni、Mn、Si
      Cu−Al−Fe  
      Cu−Al−Ni(アルミニッケル青銅)  
      Cu−Al−Si  
    マンガン青銅
     Cu−Mn−Al+Fe、Ni 
    シリコン青銅 
     Si+Mn、Zn、Fe、Sn 
     0.6<Si<4.0
    コルソン合金
     Cu−Ni−Si+Zn、Sn、Mg、Mn、Co等
     0.4<Ni<4、0.05<Si<1.2
    高力黄銅  
     Cu−Zn(黄銅)をベースにMn、Al、Feを1〜3%程度、更にNi、Sn、Si等を添加
      Cu−Zn−Fe
      Cu−Zn−Mn 
      Cu−Zn−Si
      Cu−Zn−Al(アルミ黄銅)

   *楽器弁用黄銅 60Cu−Zn−1Sn−0.5Pb−0.5Mn 

 ・C7XXXX
   Cu−Ni(白銅、キュプロ・ニッケル)系とCu−Ni−Zn(洋白、洋銀)系からなりスピノーダル合金も含まれる。
    Cu−Ni(白銅、キュプロ・ニッケル)系  
     Cu−Ni+Sn、Fe、Zn、Mn
     5Ni、7Ni、10Ni、20Ni、30Ni、(45Ni)   
    Cu−Ni−Zn、Cu−Zn−Ni(洋白、洋銀)系 
     90〜40Cu
   *ニッケル黄銅
     500円貨幣はCu−20Zn−8Niでニッケル黄銅と称する。
    コルソン合金
    スピノーダル合金
     Cu−9Ni−6Sn 
     Cu−21Ni−5Sn
     Cu−30Ni−3Cr

  C8XXXX
   鋳造黄銅
    純Cu
    Cu−Be+(Co、Si、Ni)
    黄銅
     Cu−Zn+Sn、Pb、Ni、Mn、Fe
    シリコン(シルジン)青銅
     Cu−Zn−Si+Sn
    高力黄銅
     ビスマス青銅
     Cu−Zn−SnーBi

  C9XXX  
   鋳造青銅
    Sn青銅
     Cu−Sn、7〜19Sn
     +Zn、Pb、Mn、Fe<Ni、
    リン青銅  
     Cu−Sn−P
     0.05<P<1.0
    鉛青銅 
     Cu−Pb−Sn+Ni、Zn、P
     軸受 
    アルミ青銅
    マンガン青銅
    ニッケル青銅
    
    その他
     砲金:Cu−10Sn−2Zn
     bell bronze:Cu−20Sn
     malleable bronze:Cu−8Sn
    
D)電子材料用

D−1)リード・フレーム


      ICパッケージの模式断面図と外観
 
  半導体、ICのパッケージのリードフレームに利用されるのはFe−42Ni(42アロイ)と
 Cu合金である。
  42アロイは樹脂との密着性にすぐれるが導電性、伝熱性は銅合金がすぐれているので
 現在は銅合金が主流とされる。
  使用される銅合金は鉄入銅(Cu−0.1Fe−0.03P、Cu−2.3Fe−0.12Zn−0.03Pなど)、
 錫入銅(Cu−0.15Sn−0.01P)、クロム銅(Cu−0.3Cr−0.25Sn−0.2Zn)、ジルコニウム銅(Cu−0.02Zr、Cu−0.1Zr)などの
高銅合金やコルソン合金(Cu−3.2Ni−0.7Si−1.25Sn−0.3Zn)などが使用される。

D−2)放熱材料
  ヒート・シンク、ヒート・スプレッダー(放熱板)、BGAのスティフナー(補強板)等に熱伝導性のよい銅合金が使用される。

  
    スティフナー           
 

D−3)コネクター
  コネクターには強度の大きいベリリウム銅、コルソン合金、リン青銅、スピノーダル合金などが主に利用される。

*バネ材料
  銅合金ではバネ材料としてはりん青銅、洋白、ベリリウム銅、チタン銅、Cu−Ni−Snなどが利用される。

(14−5) 高融点合金
 4,5,6族同志の固溶強化が主で、炭化物の析出硬化や酸化物分散強化も利用されている。
 加工は粉末冶金(焼結)と真空溶解が主である。
 用途は原子力と宇宙である。

(14−5−1) W合金
  焼結法が主。

 ・ヘビー・メタル
   Wに2〜10%のNi・FeまたはNi・Cu。  
   液相焼結、焼結合金。用途は錘(自動巻き重錘)等
 ・W−(10〜50)Cu:電気接点、放電加工・スポット溶接電極、放熱板(10〜30Cu)等
 ・W−(20〜70)Ag:電気接点
   
 *超硬合金
   超硬合金とはWC(炭化タングステン)をCoなどで焼結したものである。
   結合材としてはCoのほかNi、Crなどがあり、TiC、TaCなどを添加したものもある。
   一般的には各種炭化物TiC、CrC、窒化物TiN、硼化物TiB2,MoB、WB等をNi、Coなどで
  結合、焼結した材料をサーメットcermet(セラミックと金属の複合材料)と称する。
   ただし硼化物は共有結合性が強く緻密な焼結体を製作しにくい。

 ・分散強化
   1〜2La2O3  
   2.0CeO2  
   2.5La2O3+0.07ZrO2
   1〜2ThO2
 ・W−(5または26)Re(+Hf、C)
  
(14−5−2) Ta合金
  Ta−2.5W (R05252)
  Ta−7.5W
  Ta−10W (R05255)
  Ta−8W−2Hf (T−111) 
  Ta−10W−2.5Hf−0.01C (T−222)  
  Ta−8W−1RE−0.7Hf(−0.025C) ASTAR−811(C)
  Ta−30Nb
  Ta−40Nb (R05240)
  *ASTM B708規格
   R05252、R05255、R05240

(14−5−3) Mo合金
 ・固溶強化
   Mo−20〜50W
   Mo−4または40Re
   Mo−11Ta
 ・炭化物形成
   TZM  Mo−0.5Ti−0.08Zr−0.03C
   MHC  Mo−1.2Hf−0.1C
 ・分散強化
   0.3〜0.7または0.03La2O3 
   0.5Y2O3(+0.08CeO2)
   1.7ZrO2 
 ・Mo−Cu 
   15〜30Cu

(14−5−4) Nb合金
   Nb−1Zr (Nb1Zr)
   Nb−1Zr−0.1C (PWC−11)
   Nb−10Hf−1Ti (C103)
   Nb−10W−28Ta−1Zr (FS85)
   Nb−10W−10Hf−0.2Y (Cb129Y)
   Nb−10W−2.5Z r(Cb725)
   Nb−30Hf−9または15W
   Nb−10W−10Ta (SCb291)

(14−5−5) Zr合金
  原子炉用にはSnを添加したものとNbを添加したものがある。
   Zircaloy−2 Zr−1.5Sn−0.15Fe−0.1Cr−0.05Ni (HCP)
   Zircaloy−4 Zr−1.5Sn−0.2Fe−0.1Cr (HCP)
   Zr−Nb  Zr−2.5Nb(+0.2Fe) (HCP+BCC)

  非原子炉の商業グレードのもとでは Hfを添加したものがある。
  702  Hf<4.5、Fe+Cr<0.2、C<0.05 (HCP)
  705  Hf<4.5、Fe+Cr<0.2、C<0.05、2.0<Nb<3.0 (HCP+BCC)

(14−5−6) Cr合金
  W、Moの固溶強化と炭化物の析出硬化、Yで耐酸化性、真空溶解(誘導溶解)
   Cr−7.5W−0.8Zr−0.2Ti−0.1C−0.15Y (C207  GE) 
   Cr−7.1Mo−2Ta−0.09C−0.1(Y+La) (CI−41  GE)
  粉末冶金、MgO添加
   Cr−6MgO−0.5Ti (Chrome-30  Bendix)
   Cr−3MgO−2.5V−0.5Si (Chrome-90  Bendix)
   Cr−3MgO−2.5V−1Si−0.5Ti−2Ta−0.5C (Chrome-90S  Bendix)
  Cr−2Ta−0.5Si系
   Alloy E  +0.1Ti
   Alloy H  +0.5希土類
   Alloy J 
  ロシア製
   Cr−0.15Ti−0.2V−0.02C (BX−2)

(14−5−7) V合金
  V−4Cr−4Ti(+Y)

(14−6) 低融点合金

  単体金属ではSnの融点232℃、合金ではSn−Pnの共晶組成63.0Sn−37.0Pbの183℃が
 目安となろう。

・2元系
  主な低融点2元共晶はSn-8Zn:199℃、Sn-38Pb:183℃(共晶Pbはんだ)、Bi-42Sn:138℃、
 In-48Sn:117℃、Bi-33In:110℃、In-34Bi:72℃、Ga-24.5In:15.7℃など。

 低融点合金でよく使用されるのはBi、Pb、Sn、Cd、Zn、Inである。
 Inは高価なので特に融点を下げる用途に使用、またPb、Cdは毒性から避けられるようになってきた。

(14−6−1) 易融合金、可融合金fusible alloy

 低融点合金を易融合金、可融合金fusible alloyと称することがある。
 主要なものは共晶であるが、共晶ではなく固液共存(凝固)範囲をもつものもある。
 代表的なものはBi−Pb−Sn3元系のニュートン、ローズ、ダルセ合金や旧Cerro Metal Productsの
セロ合金やセルローCerrolow合金である。
 特殊なものにNaとKの合金NaK(ナック、77Na−23Kで融点−11℃、原子炉冷却材)がある。
  
・3元系
 常温液体のGa-21.5In-16.0Sn3元共晶は10.7℃、Ga-21.5In-10.0Sn(ガリンスタン)は−19℃とか。
 
 Bi−Pb−Sn系  
合金名 Bi Pb Sn 融点℃
ニュートンNewton 50 31 19 98
ローズRose 50 28 22 95
ダルセD'Arcet 50 25 25 95
オニオンOnion 50 30 20 92
*マロットMalotte 46 20 34 96−123
組成は種々あり。
 
 

 Bi−Sn−In系
  フイールドField合金:51In−32.5Bi−16.5Sn、62℃
  Cerrolow174:57Bi−17Sn−26In、78.9℃

 
 

 Bi−Sn−Zn系
  3元共晶:54.5Bi−47.8Sn−2.7Zn 130℃ (諸説あり)

 

  
  Ga−In−Sn系
   Indalloy51:62.5Ga−21.5In−16.0Sn、共晶10.7℃
   ガリンスタン(68.5Ga−21.5In−10Sn)は−19℃ともいう。
 
  
 Ga−Sn−Zn系
  3元共晶点:17℃
  

 そのほかGa−In−Zn3元共晶13℃、Ga−Ag−In3元共晶14℃など。

・多元系
  Bi−Pb−Sn−Cd系
Bi Pb Sn Cd 融点℃
ウッド合金 50 25 12.5 12.5 70
リポヴィッツ合金 50 27 13 10 74

  Ga−In−Sn−Zn系
   Indalloy46L:61.0Ga−25.0In−13.0Sn−1.0Zn、6.5−7.6℃

  Cerro Alloysセロ合金
    Cerro Metal Products(現Bolton Metal Products)の合金。
Bi Pb Sn Cd In Sb 融点℃
Bi−Pb−Sn+Cd、Sb系
Cerro SHIELD 52.5 32 15.5      95
Cerro SAFE 42.5 37.7 11.3 8.5 70−88
Cerro BENT 50 26.7 13.3 10 70
Cerromatrix 48 28.5 14.5 103−227
Cerrolowシリーズ :Bi−Pb−Sn−Cd−In系
117 44.7 22.6 8.3 5.3 19.1 47.2
136 49 18 12 21 58
147 48 25.6 12.8 9.6 64−65
158 50 26.7 13.3 10 70

*温度ヒューズ 
  主に50−200℃付近が利用されている。

(14−5−2) ピューターpewter しろめ(白目、ハクロウ)
 Sn主体の低融点合金で簡単に鋳造できる。工芸用鋳物材料。
 主にSnが85−99%でCu、Sb、Bi(、Pb・・今は忌避)などを添加。
 融点は170−230℃。

(14−6−3) 活字合金
 Pb、Sb、Snよりなる。Sbは凝固膨張を起こす特異な金属。
 11<Sb<30、3<Sn<20、融点(液相線)は240〜300℃。

(14−6−4) バビット・メタル(ホワイト・メタル)
 Snを主成分にSb、Cu、(Pb)、Pbを主成分とするものもある。
 5<Sb<13、3<Cu<8.5
 ころがり軸受合金として利用される。

(14−7) ダイカスト合金
 ダイカストの95%はAl合金で約4%がZn合金とされる。
 Al合金ではほとんどがAl−Si−Cu合金(ADC12、凝固開始580℃)である。
 Zn合金ではZn−Al(+Mg合金)(ZDC2、380℃)である。
 Mg合金ではMg−Al−Zn−Mn合金(MDC1DまたはAZ91D、600℃)である。
 
金属 融点℃ 比重 熱伝導率W/mK
Zn 419 7.14 116
Mg 651 1.74 157
Al 660 2.72 236

・ダイカスト用Al合金
  Al−Si系(ADC1)、Al−Si−Mg系(ADC3)、Al−Mg系(ADC5)、Al−Si−Cu系(ADC10、12、14)など。
  Si、Cu、Mg、Mnなどの添加で融点低下、強度向上、耐食性改善が行われる。

・Zn合金
  Znは六方晶。六方晶は異方性のため塑性加工が困難。
  Zn−Al−Cu系(ZDC1)、Zn−Al系(ZDC2)、+ミッシュメタル系など。
  Pb、Cd、Snは粒間腐食の原因となるため厳しく制限。

・Mg合金
 Mgは六方晶。
 ダイカスト用はJISでは
  MDC1:Mg−Al−Zn−Mn
  MDC2:Mg−Al−Mn
  他にMg−Al−Si−Mn(MDC3、MDC6)

 鋳造用Mg合金の中心はMg−Al系とMg−Zn系である。固溶硬化と析出硬化(金属間化合物)がある。
  Mg−Al−Zn(MC1〜3)、Mg−Al−Mn(MC5)

 Zr添加効果
  Mg−Zn系やMg−RE(希土類)に添加されるZrは結晶粒微細化効果を有する。
  Mg−Zn−Zr(MC6、MC7)、Mg−Zr−Zn−RE(MC8)、Mg−Zr−RE(MC9)、
 Mg−Zn−Zr−RE(MC10)。

 腐食
  Fe、Ni、Cuが悪影響を及ぼす。

 ASTM規格
  Mg合金ではわかりやすさからASTM規格がよく利用される、
  これは1字、2字目が主要添加元素を示し、3字、4字目の数字がそれぞれの元素の量を示し、5字目は
 A、B、C・・・で開発順を表す。
  AZD91DはAl9%、Zn1%を示す。
  元素は
  A:Al
  C:Cu
  E:希土類(ミッシュメタル)
  H:Th
  K:Zr
  L:Li
  M:Mn
  Q:Ag
  S:Si
  Y:W
  Z:Zn
   などを示す。
  ダイカスト用はAZ系、AM系、AS系、AE系など、鋳造用はAZ系、EZ系、QE系、ZE系、WE系など。
  展伸用はAZ系が主である。

(14−8) 貴金属合金

・Au合金
  Auは柔らかいので、固溶強化とAu−Cuの規則化強化を利用する。

  Au−Ag−Cu系3元状態図 液相線
  

   Au−Ag−Cu3元状態図 2相領域
   
      Au−Cu:規則化、Ag−Cu:共晶

  Au−Ag−Cu系合金の色

   
   
   
  種々なAu合金の色
   青:表面酸化膜の干渉色
    Au−25.0Fe、Au−54.0In
   紫
    Au−20Al  
     金属間化合物AuAl2 

   ホワイト・ゴールド   Ni、Pdは強く金を白化
    Au−Cu−Ni、Au−Ag−Pd

   Au−Pt−Pd系
     Au−Pt:2相分離

・PdとPt
   地殻での存在量はたとえば
   Ag 75ppb
   Pd 15ppb
   Pt  5ppb
   Au  4ppb
   Os 1.5ppb
   Rh、Ir、Ru 1ppb
   Re  0.7ppb
  とされ、
   Au、Pd、PtがOs、Rh、Ir、Ru、Reより高い傾向を示す。

   Pt族
    Pt(プラチナ、白金)、Ir(イリジウム))、Os(オスミウム)
    Re(レニウム)、Rh(ロジウム)、Ru(ルテニウム)

  Pt合金としては
   Pt−Cu
   Pt−Pd:硬化は小さい
   Pt−Co
   Pt−W
   Pt−Pd−Cu
   Pt−Ru、Pt−Ir
    Ru、Ir:結晶粒微細化
  などがあり、宝石ではPtの強化は
   Pt−950(95%Pt):Ru、Cu、Co、W、Ir
   Pt−900:Pd、Cu、Ru、Ir
   Pt−850:Pd、Cu、Ru、Ir
 が利用される。

(14−9) 超塑性
 超塑性とは水飴のごとくあるいはガラスのようにと称される大きな伸びを示す合金である。
 ある温度で一定の歪速度で引っ張ったときに超塑性では均一伸びを生じ簡単には破断に至らない。
 (通常の金属ではある場所からくびれが発生し破断に至る。)
 超塑性には微細結晶粒超塑性と変態超塑性がある。
 微細結晶粒超塑性は10μm以下の結晶粒をもつ合金にみられ、結晶粒界のすべりと結晶粒の回転によって生じ、
2相混合組織(共晶あるいは共析)でよくみられ、急冷、粉末冶金、メカニカル・アロイング、加工熱処理、再結晶などにより
微細結晶化が行われる。
 Zn−22Al、Ti合金(Ti-6Al-4Vなど)、Ni基超合金、2相ステンレスなど。
 変態超塑性は変態点を上下する温度サイクルで生じる。

(14−10) 制振合金
 内部摩擦により振動を減衰させるもので減衰機構により、複合型、強磁性型、転位型、双晶型がある。
  複合型:二相あるいはそれ以上の複雑な組織、強くて靭性のある相中に軟らかい相が混在した合金組織を持つ。
       片状黒鉛鋳鉄など。
  強磁性型:サイレンタロイ(Fe-12Cr-3Al)
  転位型:Mg合金
  双晶型:熱弾性マルテンサイトMnCu合金

(14−11) ガラス封着合金
 ガラスとの接合、特に気密封止にガラスと熱膨張率を合わせた合金が使用される。
 KOVARコバール Fe-29Ni-17Co  熱膨張率 約  5ppm(10−6/℃)   硼珪酸ガラス
 42アロイ      Fe-42Ni             約  5ppm
 50アロイ      Fe-50Ni             約 10ppm            ソーダライムガラス
 467アロイ     Fe-47-6Cr            約 10ppm
 など。

(14−12) 低熱膨張率合金

・インバー(アンバー)Invar
 低熱膨張率合金。キュリー点以下の温度での自発体積磁歪による体積変化が格子振動による体積変化
を打ち消す。
  インバー          Fe-36Ni  
  スーパーインバー    Fe-32Ni-5Co  
  ステンレスインバー   Fe-54Co-9.5Cr
  高耐食非磁性インバー Cr-Fe-Mn
  高強度インバー     Fe-38Ni-Co-Ti
  Fe-30Pt、Fe-30Pd

・エリンバーElinvar
 恒弾性率合金。室温付近でヤング率の温度係数がほとんどゼロとなる。
 通常金属・合金では温度上昇により格子振動の非調和性のため熱膨張し、ヤング率は低下するが、
 エリンバーでは強磁性体での磁気歪効果により、ヤング率の温度変化が打消される。
 ヤング率は結晶学的異方性があるので結晶方位などの組織制御によってもある程度調整できる。
  Fe-Ni系
   Elinvar    Fe-36Ni-12Cr-(1〜2)Mn
   Ni-span   Fe-36Ni-9Cr
   Iso-elastic Fe-36Ni -(7〜8)Cr-0.5Mo-0.6Mn
   Metelinvar Fe-40Ni-6Cr-1.5Mo-2Mn
   NiVarox   Fe-36Ni-8Cr
  Co系
   Coelinvar  Co-Fe-Cr
   Elcolloy   Co-Fe-Cr-W-Ni

(14−13) 水素吸蔵合金
 水素吸蔵合金は水素と反応し金属水素化物を形成し、この反応は可逆的で水素の吸蔵・放出が可能である。
 吸蔵は発熱反応であり冷却または加圧が必要で、放出は吸熱反応で加熱または減圧が必要である。
 金属水素化物は単体では安定か極めて不安定かいずれかとなり、安定なものは水素を放出しにくく、不安定な
ものは水素を吸蔵しにくいがこの両者を合金化させると水素吸蔵合金として使用しやすくなる。
 水素吸蔵合金は多くは金属間化合物で水素と親和性のあるA元素と親和性のないB元素で
AB(TiFe)、AB(Ti系ラーベス相合金)、AB(Mg2Ni)、AB(LaNi)などの組成の合金が主である。
 (Ti系BCC固溶体型合金もある)
  A:Ti、Zr、Mg、希土類元素など B:Fe、Ni、Coなど
 Mgは高温を要し(300℃)、希土類、Ti系は100℃前後で反応を行う。
 化学式ではLaNi5H6、MgH2、TiFeH2だが原子当り(H/M)はMgが2でLaNi5、TiFeが1である。
 金属水素化物には金属結合型(3Aから8A族金属元素)、共有結合型(B族元素)、イオン結合型(アルカリ、アルカリ土類)
があり、水素吸蔵合金は主に金属結合型(Mg系はイオン結合型で反応に高温を要す)である。
 水素吸蔵合金では水素は原子状になり金属結晶の格子間の4面体位置あるいは8面体位置に侵入して侵入型化合物を形成する。
 水素吸蔵合金は水素の吸蔵で結晶構造は変化せず体積膨張を起こし、そのため反応の繰り返しにより微粉化する。




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