透明酸化物半導体(透明導電膜)

 透明酸化物半導体(透明導電膜)は液晶表示やプラズマ表示、ELなどの表示素子、太陽電池、タッチパネル
等の透明電極として利用されITOと呼ばれるSn添加In2O3が主に使用され10−4Ω・cm台の体積抵抗率
が達成されている。
 Inが希少金属であるため代替材料の開発が進められZnOを基材としたものが中心となっている。
 これらはn型半導体であるがPN接合の形成のためp型半導体の探索が進められいくつかのp型半導体が
発見されている。

1. 透明性

 物質の透明性(光の透過)を阻害するのは吸収と反射であるから透明性を向上するためには吸収と反射を
減少させる必要がある。

1−1. 吸収

 酸化物半導体の吸収の主要な機構は基礎吸収と不純物や欠陥による吸収である。

1−1−1. 基礎吸収

 基礎吸収は物質固有のものであり半導体あるいは絶縁体で電子が価電子帯から伝導帯に励起するため
に生じる。
 可視光領域は380nm〜780nm(3.26eV〜1.59eV)であるから価電子帯と伝導帯のエネルギー差
であるバンドギャップエネルギーEgが
   紫外域λg>0.4μmまたはEg>3eV
のいわゆるワイドギャップ半導体であればよい。

1−1−2. 不純物や欠陥による吸収

 着色性の遷移金属イオンの導入や酸素欠陥による色中心の生成を避ける必要がある。

1−2. 反射

 金属や縮退半導体ではプラズマ振動にともなう反射と吸収が生じる。
 また薄膜では多重反射による干渉反射が生じる。

1−2−1. プラズマ反射
 縮退半導体すなわちキャリア(伝導帯に存在する自由電子あるいは価電子帯に存在する自由空孔)が
高濃度になるとフェルミ準位が伝導帯あるいは価電子帯の存在し金属に似た物性を示すようになる。
 このような物質では自由電子によるプラズマ振動が生じ、プラズマ振動数νpより小さい光は全反射され、
プラズマνp振動数付近ではプラズマ吸収が生じる。
 プラズマ振動数νpは
  νp=(1/2π)(Nq/ε*1/2  N:自由電子密度
であるからプラズマ反射はキャリア電子数に依存する。
 自由電子密度1.5x1021cm−3でλp≒0.9μmでありこの程度の電子密度が限界となる。

 1−2−2. 薄膜の反射

 物質の界面では屈折率の違いにより反射が生じる。
 薄膜では多重反射により基板と薄膜と真空中の屈折率と薄膜の厚さによって規定され波長によって変化
する反射(干渉反射)が生じる。
  垂直入射では
    n=mλ/4 (m:整数)
  すなわち λ=4n/m
 で反射率は最大になり
   反射率R=(n−n/(n+n
となる。 
 (nの基板にnで厚みdの薄膜が形成され薄膜側の媒体nから入射)
   
 基板はガラス(n0=1.5)、媒体は空気(n2=1)で薄膜が透明導電体(n=2)
とすると反射率は20%になる。
 厚み0.1μmでは波長0.8μmと0.4μmで反射はピークをとる。

2. 導電性

 導電率σは
  導電率σ=Nqμ
 すなわち
  導電率∝キャリア濃度xキャリア移動度
 である。

2−1. キャリア濃度

 透明導電膜のキャリア濃度は上述のプラズマ反射より制限を受けλp≒0.9μmとすると自由電子密度
は1.5x1021cm−3程度が限界となる。

2−2. キャリア移動度

 キャリア電子移動度は粒界散乱とイオン化不純物散乱によって影響される。
 ZnO、In2O3、SnO2は空間的に広がった金属s軌道を価電子帯下端としてもつため電子の有効質量が
小さく大きな移動度をもつ。
 
3. 透明半導体材料

 透明電極として実用化している透明半導体材料はn型半導体が主である。
 酸化物は、イオン結合性が強く自己補償効果により酸素欠陥が出来やすく、酸素欠陥は電子ドナーとして
作用するために、キャリヤは電子を少なくする事が難しく、また正孔が格子の酸素上に局在しやすいためn型
伝導性になりやすい。

3−1. n型半導体

 n型半導体としてはSnO、ZnO、In2O3などがありその他Cd系(Cdの毒性のため敬遠されるようになった)、
βGa2O3、TeO、GeOやWO、MoO3などの透明カソーディックエレクトロクロミック(EC)材料がある。
 これらではキャリア電子を増加させるための組成制御として

 @ ストイキオメトリ制御
  酸素欠陥または金属過剰にし金属イオンに対する酸素イオンをストイキオメトリより少なくする。

 A金属イオン置換
  金属イオンを原子価の高い金属イオンで置き換える。
  
 B酸素イオン置換
  酸素イオンをFイオン(イオン半径が酸素イオンと近い)に置き換える。
 
 などが行われる。

基材 略称 Eg(eV) ドーパント 抵抗(オーム・cm) 移動度(cm2/V・s)
ZnO       3.37      
AZO   Al3+ 2x10−4  
GZO   Ga3+    
IZO   In3+   40
FZO      
In     3.75      
ITO    Sn4+ 1.5x10−4 30
IFO      
βGa   4.8      
SnO     3.57      
ATO   Sb5+    
FTO      

3−2. p型半導体

 最近p型透明半導体が製作できるようになってきた。
 CuAlO2、CuGaO2、CuInO2などのCuMeO2デラフォサイトDelafossite構造(CuFeO2:デラフォサイトは、
Cu+とFeO2−がc軸に垂直な2次元平面を構成し、これらが交互に積層した構造となっている)を持つ
物質や、SrCu2O、LaCuOS(層状オキシカルコゲナイトLnCuOCn、Ln=ランタニド、Ch=カルコゲナイト、
Ln層とCuCh層がc軸に交互に積層)などが新しく発見された。
 従来からのものとしてはNiO、IrOなどの透明アノーディックEC材料がある。

物質 Eg(eV) 移動度(cm2/V・s) 抵抗(Ω・cm) ドーパント
CuAlO 3.5   アルカリ土類
LaCuOS
LaCuOSe
3.1 0.05〜0.01 アルカリ土類
SrCu 3.2 0.5または3.8 21  
NiO 3.7   Li

3−3. 用途

 透明半導体(透明導電体)は表示素子、太陽電池、タッチパネルのほか、熱反射ガラス、透明ヒータ、
透明電磁波シールド、帯電防止膜などに使用される。

3−4. 透明pn接合

研究機関 n型半導体 p型半導体 製法 デバイス
産総研 ZnO CuAlO レーザ蒸着 太陽電池
東工大、名大 ZnO SrCu   LED
東工大、名大 ZnO NiO(Li)   光センサ
東北大 ZnO ZnO MBE LED


3−5. 透明TFT

研究機関 半導体 ゲート絶縁膜  電極  移動度(cm2/V・s)  製法 
東工大 InGaO(ZnO) a−HfO ITO 80  
東工大 InGaOZnO ITO 10  
大工大 ZnO Al,ZnMgO AZO    PLD
大工大 ITO Bi3.25La0.75Ti12 Pt/Ti    
東北大 ZnO     2.3  


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