(13−9−5) アールト大W.Pengの論文

Weiqun Peng 

<要約>

1. 序言

  消費者電子機器の携帯化、多機能化と小型化が進展。
  電子機器を構成する要素には内部相互接続があり故障はしばしばこの内部相互接続が関係。
  特にPWBとシリコン素子、パッケージ、モジュールなどとのはんだ接合が重要。
  パッケージには種々の形態と接続端子、電極が存在し微細化、高密度化が進展。
  これらとはんだのPbフリー化により新たな信頼性問題が発生。

2.信頼性挑戦

  WLCSP、FCBGAなどでははんだ接合は2つの金属系間で構成され、一方はUBM、他方つまりPWBはOSP(Cu)
 あるいはNi/Au。


  この信頼性を金属学的、機械的、電気的、環境的観点から検討する。

2 信頼性挑戦
2.1 金属学的反応

 リフロー過程
   融点より20℃程度上の温度で溶融、UBMあるいはパッド金属の溶融はんだへの溶解、界面でのIMC形成、
  場合によってIMC剥離が生じる。
   2つの電極の交互作用も重要。
   凝固で、IMC成長、はんだバルク粗大化、新IMC相形成が温度条件に依存して生じる。

 金属(UBM、パッド)溶解
   SnPbとSnAgとでは若干異なるがAu、Ag、Pd、Cu、Niの順に溶解しやすい。
   SnPbよりPbフリーはんだで溶解しやすい。
   Niは溶解が遅く、Cuのバリアとしてよく使用される。



 界面反応 
   リフローでの電極溶解でUBMあるいはパッド上にIMCが形成される。
   IMCは通常AuSn4、Cu6Sn5、Ni3Sn4など。
   信頼性試験や実使用でも界面反応は続く。この固相反応(拡散)では界面にCu3Snが形成され、Cu6Sn5はやや平坦化する。
   成分間の相互拡散の速さは異なり界面にマイクロボイドが発生する。これは温度、時間と共に増加。


 IMC剥離
   界面のIMCがはんだバルクへ移動することがあり剥離spallingと称する。
   これはNi/AuとのSnAgCu接合で観察された。  
   複数回リフローでNi3Sn4、Cu6Sn5の2層構造が形成される。
   IMC間の弱い結合でCu6Sn5が内部圧縮応力で剥離。
   更にNiめっきに圧縮応力があれば2層は容易に分離、界面故障を引き起こす。

 交差作用
   Au、Cuなどの溶融はんだへの高速溶解のために小さなあるいは小体積のはんだ接合では一方の電極(金属)
  が他方の界面反応に影響を与える。
   Ni(V)/CuとNi(P)/AuでAuが移動し対面のNi溶解を促進し、IMC剥離を加速。



2.2 機械的
  機械的負荷には単調、繰り返し曲げ、ねじり、落下などがある。
  基板での機械的負荷がはんだ接合の主な応力原因。
  応力はせん断、引っ張り(引き剥がし)あるいはその結合。
  落下では引っ張り応力、温度サイクルではCTEミスマッチによるせん断応力となるが、
 基板の位置により中央では引っ張り、周辺ではせん断が支配的。


  構造と構成材料で熱膨張率差の影響は異なる。(CSPがBGAより厳しい)

2.3 電気的

  熱マイグレーション、エレクトロ・マイグレーションが熱勾配、高電流により起き、高湿度で電気化学マイグレーション
 (イオン・マイグレーション)が起きる。

2.4 環境

  高湿、高温、低温、腐食環境などが有り得る。
  フラックス残渣が更に悪影響を与えることもある。
  吸湿が樹脂封止の故障の主要原因のひとつ。
  低温ではSnペストが起こり得る。

3.はんだ接合の機械的信頼性
3.1 SACはんだの機械的性質

  金属材料の機械的特性は微細組織、組成、製造工程に依存。
  微細構造は組成、製造工程で決まる。

3.1.1. IMCの分散強化効果

  SnAgCuはんだではAg、CuはほとんどAg3Sn、Cu6Sn5となる。
  このAg3Sn、Cu6Sn5分散構造には得失がある。
  はんだバルクの疲労抵抗を向上させるがSnPbより非常に硬く変形困難で、機械的応力緩和・解放困難で
 落下での界面破壊を引き起こし、Pbフリーパッケージ接合の問題となっている。
  熱的あるいは機械的サイクルでは亀裂は粒界スベリによって粒界に沿って伝播。
  共晶組織のAg3Snは粒界すべりを抑制するので、Ag増加で熱サイクル特性改善。
  Cu6Sn5はAg3Snより大きいのでそれほど顕著ではない。
  しかしAg>3%でAg3Snが界面で巨大化しかえって亀裂伝播チャネルとなり、耐疲労性劣化。
  Agが多いとより高弾性、高硬度となる。低Agが柔軟で落下、衝撃、高歪速度(曲げ・せん断・・・)試験で良い性能を示す。
  BGAパッケージでは落下、高歪速度に対し低Ag(<1.2%)が好ましい。
  はんだは応力状況に応じて選択されるべきである。
  はんだ接合で引っ張りが支配的なら低Agはんだが、せん断が支配的なら高Agはんだがはんだバルクでの疲労亀裂伝播を
 抑制する。

3.1.2.熱エージング効果

  リフロー後ははんだ接合は非平衡状態にある。
  エージングで過飽和Cu、Agが非常に微細なCu6Sn5とAg3Snとして析出し、微量でも効果がありはんだが強化される。
  この過程が界面に応力が蓄積するのを助け、落下性能が劣化する。
  更なるエージングあるいは高温(125℃〜)ではIMC粗化が生じ、はんだは軟化し、落下性能の改善や硬度低下が生じる。

  SAC387ボール




  携帯装置の落下性能向上のため熱エージングを採用するのは産業上実際的ではないが、実使用でははんだ接合は
 高温に曝されるので室温での落下試験では十分に評価できない。

3.1.3.ひずみ速度硬化

  種々の試験ではんだが変形するとバルクはんだの加工硬化あるいはひずみ硬化が生じる。
  Snの室温でのホモロガス温度>0.59Tmなので回復と加工硬化の減少が生じる。
  回復は時間依存過程である。
  あるひずみ速度での強度は回復と加工硬化の釣り合いとなる。
  強度はひずみ速度とともに増加する。(ひずみ速度硬化)
  SnPbとSnAgは歪速度応答性が異なりSnPbが敏感。
  SnPbは低ひずみ速度で軟化、これはSnAg基ではみられず、高ひずみ速度ではSnAgがSnPbより加工硬化しやすい。 
  これらの差異はAg3Snの転位移動の妨害効果による。

  高ひずみ速度ではSnAgが加工硬化しやすいことは携帯電子機器では重要である。
  落下のひずみ速度は約10/sと見積もられ、温度サイクルの〜10−3/sより非常に速い。
  はんだの流動応力は落下では熱サイクルより2〜3倍大きくはんだ接合の角領域により集中する。
  落下ではSACはSnPbより強くなり界面故障の割合が高くなりパッケージ性能が低下する。
  これはAg3Sn存在が原因なのでAg量減少で改善される。
  ボール引きやせん断試験結果は試験速度に依存、低速でははんだバルク破壊、高速では界面破壊が支配的となる。
  はんだ接合の破壊モードははんだの機械的特性だけでなく、パッドの表面処理とパッド下の材料にも関係する。

  熱サイクルはより複雑で、シリコン、パッケージ基材、PCBなどとのCTE不整合のためはんだボールは加工硬化する。
  同時にこれらの機械的特性は暴露温度に影響され、熱サイクルでの昇降速度や保持時間が重要な影響を与える。
  昇降速度が速いと高ひずみ速度となりはんだ/パッド界面に高応力がかかる。
  このためパッケージ性能は熱サイクルより熱衝撃が悪い。
  はんだが0.5Tm(ホモロガス温度)以上になると(共晶SACでは−28℃)回復過程が活性化される。
  回復過程で変形粒は微細化し、ひずみ硬化が減少する。そのため高温では低温より軟らかくなる。
  回復過程は時間依存過程なので保持時間が短いほど回復は少なく、はんだは軟らかくなりにくい。

3.1.4 はんだ疲労 

  はんだ疲労は繰り返し負荷過程での典型的破壊機構である。
  熱サイクルでは熱膨張率差で繰り返し応力が発生する。
  耐疲労性は初期はんだ微細構造に依存する。
  SACは高Snはんだなので疲労挙動はSnリッチ相(βSn)によりほぼ決定される。

  共晶近傍SACは冷却速度と凝固条件によりと等軸かデンドライト微細構造となる。
  等軸組織は等軸Snリッチ粒と分散IMCよりなり、デンドライト組織は微細な共晶構造に囲まれる。
  電子機器では通常デンドライト微細構造となるが熱サイクルあるいは繰り返し落下試験後の再結晶で
 デンドライト構造は等軸構造に進展することがある。
  等軸構造ではすべり帯がSn粒に見られるが、疲労初期には粒界に沿って粒界すべりとマイクロクラックが進展する。
  熱サイクルでは疲労ははんだ接合の応力のかかったネック部(くびれ部)のSn粒の再結晶によって始まる事が多く、
 変形部は微細粒化する。再結晶領域の粒界すべりは微小亀裂の生成と伝播を促進し初期疲労に至る。



  微小亀裂の合併で疲労亀裂となるがAg3Snによって合併は抑制される。それゆえ高Agは熱疲労を起こしにくい。
  初晶の巨大な板状Ag3Snは亀裂伝播経路となる事も多い。

  デンドライト構造ではβSnデンドライトへのサイクル変形の蓄積でβSnデンドライトと共晶組織の境界あるいはβSnデンドライト
 内部に沿って亀裂が発生し、共晶組織を通って粒間を亀裂が伝播する。
  等軸構造では粒界から亀裂発生しやすく、高角粒界を好む、亀裂成長は粒間と粒内が混合。
  初期は亀裂は孤立し分離、亀裂の増加で合併し疲労亀裂を形成し、引き続く成長で徐々にはんだの疲労破壊に至る。
  粒界亀裂の合併は針状Ag3Snが阻止するので、熱サイクルは高Agが良い成績を示す。
  しかし巨大な初晶Ag3Snが析出しないようにAgは共晶の3.4%より低いほうが良い。 
  亀裂はこの巨大な初晶Ag3Snに沿って伝播する。



  熱エージング後の落下では熱エージングで生じた界面近くの再結晶領域で亀裂がおきる。


  Ag3Sn板とはんだの界面が亀裂経路となりやすい。


  落下では亀裂は端から始まり中央に伝播する。延性的なはんだを亀裂は伝播する。

3.2.界面反応

  界面結合強度は大きく界面構造(IMC相と形態morphology)に影響される。

3.2.1.IMC形成と形態 

 OSP−CuとCu−Sn IMC
  OSP−CuとSACの接合ではリフローでCu上に最初にCu6Sn5が形成され、形状は半球形か丸い形状である。
  はんだをエッチングすると界面Cu6Sn5層はほたて貝殻状scallop-likeである。
  Cu量が共晶より高くなると初晶Cu6Sn5が棒状あるいはニードル状に析出する。
  固相反応でCu3Snが形成される。リフロー後では非常に薄く層状であるが、高温貯蔵でSEMで認められるようになる。
  時間と温度でCu3Snは厚くなりCu/Cu3Sn界面ととCu3Sn内にカーケンダール・ドイドが発生する。

 Ni/AuめっきとSAC
  Auのはんだへの溶解と拡散は非常に速い。
  AuSn4形成による信頼性問題を避けるためにAuめっきは非常に薄くする必要がある。
  Ni/AuではAuは完全にはんだ中に溶解し、NiとSnで界面反応が起きる。
  SnAgCuとNiの界面反応は複雑ではんだ中のCu量に依存する。
  Cu量によりNi3SnからCu6Sn5に変化する。
    0.3%以下だとNi3Sn4が生成。
    0.3−0.6%では両者だがCu6Sn5は連続層にならない。
    0.6%以上ではCu6Sn5が生成。
  SACのNi/Au上の界面IMCは純粋なNi3Sn、Cu6Sn5でなくNi、Cu、Auを含む。
    Cu6Sn5へのNi固溶は高く20原子%、Ni3Sn4には電子アセンブリでは9原子%までのCuが検出される。
    微量のAuも界面IMCに取り入れられる。
    Cu、Ni、AuはすべてfccでCu6Sn5、Ni3Sn4の格子を互いに置換するので(Cu,Ni,Au)6Sn5あるいは(Ni,Cu,Au)3Sn4
   となる。
  Ni上の(Cu,Ni,Au)6Sn5の形態はCu上のCu6Sn5と異なり、CuとSnAgCuでは界面Cu6Sn5はほたて貝殻状だが、
 Niの上の(Cu,Ni)6Sn5は棒状あるいはウイスカー状、高温暴露でIMC層が成長し、IMC結晶の粗化coarsenと平坦化flattenがおきる。
  熱サイクルでウイスカー状(Cu,Ni)6Sn5は等軸構造となり、界面近くのはんだのCu6Sn5が界面に再堆積。



  (Cu,Ni)6Sn5の下に(Ni,Cu)3Sn4が形成されることがある。
  業界ははんだ接合の界面破壊の割合が高いのを経験してきている。

  (Cu,Ni)6Sn5はSnPbのNi3Sn4より脆いとされる。
  高界面破壊速度は(Cu,Ni)6Sn5の下のNi3Sn4との弱い界面によると考えられる。


3.2.2.マイクロ・ボイド形成

  界面反応はリフロー後も固相反応で続き、IMC成長とCu3Sn/Cu界面とCu3Sn層内でのマイクロボイド発生にいたる。
  Cu3Snでの主要拡散種はCuでCuとSnの相互拡散は釣り合いがとれずKirkendallボイドが形成される。
  SPSのはんだ浴への添加はボイド生成に大きな影響を与える、また亀裂界面にはSが検出される。
  はんだとCuパッド間のマイクロ・ボイドの主原因はKirkendall効果ではなくCuめっきで巻き込まれた不純物である。

3.2.3 固体でのIMC成長

  Cu3Snの成長でCu6Sn5/はんだ界面へのCu移動は抑制され、Cu6Sn5の成長ははんだ中のCuに依存。
  はんだ中のCuが消費されると、熱エージングではCu3Snが両側へ成長する。

3.3 Snペスト

  Snは13℃でβSn(bct)からαSn(ダイヤモンド構造)へ同素変態し、体積が27%増加し、このためバルクSnは
 分解し粉々になる。(Snペスト、Sn病)
  変態抑制には合金化、特にPbが有効であることが知られている。
  固体Snに固溶する成分がSnペスト抑制に効果があると思われる。

  Sn−0.7Cu、Sn−3.4−0.8Cu、Sn−3.5Ag、Sn−36Pb−2Agの2−196℃x50h、2−40℃x4年、2−17℃x1.5年の
 保持試験でいずれもSnペストは起きなかった、純Snだけはおきた。
  PbフリーはんだでSnペストは起きそうにない。




6. 要約
1) 
  SACはんだ接合のCuとの界面IMCはSnPbと同じ。
   Cu:Cu6Sn5とCu3Sn
   Ni/AuはCu量による 
    0.3%以下で(Ni,Cu)3Sn4  
    0.3%以上で(Cu,Ni)6Sn5と(Ni,Cu)3Sn4が共存し、高界面破壊の原因になる思われる。
2)
  熱エージングがPbフリーはんだ接合の微細構造を変化させる。
  適正な熱エージングで接合信頼性が向上。
  IMC分散強化、IMC粗大化、ひずみ速度硬化、再結晶が観測され衝撃性能に影響。
3)
  Cu/Cu3Sn界面のマイクロ・ボイドについては論議がある。
  弱い界面はCu3Sn/Cu6Sn5とCu6Sn5/はんだ。
  エージングで弱い界面はIMC層からはんだバルクに移動。
  エージングでCu6Sn5を犠牲にCu3Sn成長。
4)
  せん断強度とクリープでは共晶が非共晶より良い。
5)
  SACとSnPbのAu存在下での熱サイクルでの異なる挙動。
  PbフリーではAu−SnとAg−Snの界面を亀裂が伝播。
  SnPbでははんだ−部品界面のPbリッチ層を伝播。
6)
  Snペストは起こりそうにない。


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