(17−2−7) クリープ腐食
Schueller 高S環境でのPbフリーPCBのクリープ腐食
Pbフリー化に伴いPCBの表面処理としてHASLのおきかえとして置換Agが広く採用されているが、これは
高硫黄および湿度環境ではげしいクリープ腐食をひきおこす。
クリープ腐食とは腐食生成物(多くは銅あるいは銀硫化物)が貴金属あるいは誘電体(絶縁体)のような非腐食性表面に沿って
はって成長するcreep現象である。
置換Agは硫黄の存在で変色するtarnishするがこれは外観だけの問題である。
以前の研究では電気化学マイグレーションは問題でなかった。
典型的混合流動ガス試験(MFG)はクリープ腐食を示さなかった。
しかし高硫黄環境産業では2〜4ヶ月で故障が発生する。
製品追跡によればもし6ヶ月以内に故障が起きないと典型的にはその後この機構で故障しない。
従ってクリープ腐食が起きない硫黄と湿度の閾値があるようにみえる。
高空気流動がクリープ腐食を促進するようにみえる。
腐食生成物は完全に抵抗的で直ちには故障をおこさない。腐食生成物の厚みが増加すると抵抗が減少し、
機能的短絡が発生する。
故障解析
典型的クリープ腐食損傷
EDXでは形成されるのは主にCu2Sと少量のAg2Sである。
クリープ(匍匐)はデンドライトの成長で始まるように見えるがこれは電気化学マイグレーションのデンドライト成長ではない。
電気化学マイグレーションは電場が必要だが、クリープ腐食は電場が必要でなく全方向に発生する。
Cu2Sは表面の湿気層に形成され溶液から析出する。
硫黄化合物は容易に水に解け弱い硫黄酸を形成しこれで銅酸化物を減少させ下の銅を露出させ攻撃する。
表面に水膜を形成するには約50%RHで十分である。
Cu2Sの成長速度は相対湿度で指数的に増加するがAg2SはRHに関係なく成長する。
置換AgのCuでCu硫化物が主なのはCuがAgよりアノード的なため(ガルヴァニック反応のため)である。
露出したカソード領域より表面のアノード領域が小さいとアノード攻撃は促進される。
同様にガルバニック腐食が重要な役割を演ずるのはImAg表面処理ではんだ接合に生じるマイクロボイドである。
Agめっき中のAgとCuの相互作用でCuに空隙が生じる。
空隙はAgコートの下とソルダマスク端の下に生じる。そこでは銅がほとんど露出している。
ソルダマスク端での不完全なAg被覆でImAgめっき溶液がCuをガルバニックに攻撃する。
ソルダマスク端での露出Cuのためほとんどのクリープ腐食はソルダマスク限定(defined)SMD配線がら生じる。
ヴィアでのクリープ腐食とソルダマスク
多量の銅がソルダマスク下で腐食されCu2Sni変化。
置換Agのない裸のCuはクリープ腐食しないとはいえない。
高湿度の厳しいS環境ではOSPのPCBカードでもクリープ腐食がおきる。
傷ついたOSPを通して銅が露出し攻撃される。
Cuの侵食はソルダマスクとパッド界面に集中せず、露出したCu部に一様におきる。
表面処理の比較
耐熱OSP、PbフリーHASL、置換Au
PCB設計
置換Agで腐食故障を減少させるには
はんだマスク限定SMD金属配線を避ける。少なくともアセンブリではんだ付けされない場合。
非試験ヴィアはソルダマスクで完全に覆われる、あるいは完全に充填されるのが好ましい。
部品パッドは角が丸く、ペーストが完全にパッドを覆う。
はんだとフラックスはソルダマスクと配線界面の腐食予防に有効。
絶縁被覆
被覆されない部分(部品の下など)がクリープ腐食し効果は限られている。
置換AgでのAg被覆性改善
ソルダマスク端下の被覆を完全にする。
ソルダマスクと銅の接着を改善し水分のマスク下への侵入を防ぐ。
粘土試験結果
PbフリーHASLが最も良い結果を示した。(粘土試験はやや厳しい)
Savolainen
クリープ腐食はエレクトロマイグレーションと似ているが電場を必要としない、腐食性成分と湿度が必要。
Sが一般的なクリープ腐食をおこす成分。置換Agが特にクリープ腐食をおこしやすいが、Ni/Pd、ENIG、OSPでも時にはおきる。
パッド上のクリープ腐食
EDXによると若干のAg2Sを伴うCu2Sが主。
INEMI Fu
クリープ(匍匐、爬行)腐食
腐食生成物がパッドあるいはヴィアの端を越えてソルダー・マスク(レジスト)の上に広がる。
MFG:混合流動ガス試験(H2S、NO2、Cl2、SO2)と各種因子
既存の試験方法
MFG(混合流動ガス試験条件)
硫黄華試験
60−105℃、20日の槽での硫黄
粘土試験
因子
表面処理
フラックス
ソルダ・マスク幾何
ソルダ・ペースト被覆性
リフローとウェーヴはんだ付け
MFG試験条件
要約
最も激しいのは置換Agと有機酸フラックスの組み合わせ。
PbフリーHASLとロジン・フラックスはクリープ腐食はないが、端部腐食がみられた。
置換Snはほとんどクリープ腐食傾向を示さない。
有機酸フラックス基板がロジン・フラックス基板よりクリープ腐食を示した。
有機酸フラックス工程基板でウェーヴはんだ位置に近い領域で最もクリープ腐食がおき易い。
置換Ag基板ではクリープ腐食が減少、しかしENIG試料では増加、これは更なる実験が必要。
(フラックス残渣分布制御が難しいせいかもしれない。)
低ロジンと高ロジンは同じクリープ腐食結果を示した。
Kenny PWBクリープ腐食機構と緩和戦略
湿度、S含有雰囲気への曝露で誘起されるクリープ腐食と称される現象が最近発見されている。
この現象はPWBの外側表面のCu配線からの銅硫化物結晶の成長で特徴付けられる。
電気化学マイグレーションと似ているがこれは一方向に、典型的にはひとつの電極から他の電極に成長する
長いデンドライトによって特徴付けられる。
一方クリープ腐食は硫黄を含む水分のような酸性媒体中で保護されていないCuが他の金属と反応して形成される。
形成される銅硫化物結晶はすべての方向に等しく成長する。
機構
Cu源は第一に銅ソルダマスク界面で銀めっき浴によりCuが侵食される。
第二はAgめっきの孔である。
リフローで銅がAgめっきの表面に移動。
他のCu源は部分的に充填されたヴィア・ホールと応力条件で亀裂する薄いマスクである。
これらが原因でCuが露出する。
ソルダマスク領域に発生。
NTT
硫化物クリープ:硫化物を形成しない金属表面に基材金属(銅や銀)の腐食生成物(硫化物)がはい出てくる現象。