Pbフリーはんだの金属学的基礎
備考 2
〔2〕 はんだとフラックスの毒性およびはんだ付け環境での健康問題
はんだ付けにおける健康問題ははんだ合金とはんだフラックスの毒性による。
人体への影響は経口、経皮(皮膚と目)、吸引によるものが考えられる。
はんだ合金については手指等を経由しての経口によるもの、蒸気の吸引が問題となるが、実際は通常の
工程では蒸気はほとんど問題とならず、手指を介して(飲食、喫煙)の経口摂取が一番注意すべきものである。
フラックスについては経口摂取による問題は大きくないと考えられるが、蒸気の吸引や皮膚や目への接触が一番
注意すべきものである。ペーストはんだでは皮膚へのペーストの直接接触も注意する必要がある。
<2−1> はんだの金属成分の毒性
<2−1−1> Pbフリーはんだ合金成分の評価
KTEC
カリフォルニア州規制
STLC:soluble threshold limit concentration TTLC:total threshold limit concentration
California Code of Regulations, Title 22, Chapter 11, Article 3.
STLCは溶出量
TTLCは物質の含有による危険性
許容量はTTLCを侵さないはんだの合金量
労働環境では表面実装協議会SMCが
OSHA PEL:職業安全健康管理 許容曝露限界
ACGIH TLV:米国産業衛生専門家会議 閾限界値
表面実装協議会SMCは
Bi<Zn<In<Sn<Cu<Sb,Ag<Pb
としている。
溶出leaching実験結果と毒性データから環境、職業的影響は以下の順に増加
カリフォルニア大
Sb、Bi、Cu、In、Ag、Snの比較
毒性評価(下降的に毒性低くなる)
生物蓄積性:bioaccumulativity
発ガン物質:carcinogenicity
先天性異常(催奇形性:)birth defects(teratogenicity)
飲料水基準限界:drinking water standard limits
許容曝露限界:permsissible exposure limit
総合評価(毒性、供給性、環境)
またIMS−EFSOTプロジェクトの「環境対応次世代接合技術の開発」は
芹沢ら
http://www.sanetu.co.jp/qa/pdf/pdf05.pdf
Pb フリー Kes
労働環境基準
安全DS
Sn−3.0Ag−0.5CuのMSDS
Teck
NIOSH REL:米国労働安全衛生研究所推奨曝露限度
用語
<2−1−2> Pb (CSA7439-92-1)の毒性と蒸気圧
・毒性
厚生労働省
吸収・代謝
吸入、経口摂取により吸収され、経皮吸収はほとんどない。
消化管からの吸収は種々の要因の影響を受けるが食事中では約10%が吸収、幼児・小児は約50%が吸収。
吸収された鉛は血液、軟部組織にすみやかに取り込まれ、後に骨に緩慢に再分布。
血中、軟部組織での半減期は約28−36日で骨部はずっと長い。
成人より小児が体内にとどまりやすい。
毒性
急性毒性
LD50見受けず、経口による致死的な影響の最低濃度は塩による吸収率の違いで300−4000mg/体重Kg/日。
国際化学物質安全性カード 抜粋
許容濃度:
TLV:0.05 mg/m
3(TWA);A3(動物実験では発がん性が確認されているが、人との関連は不明な物質)
BEI(生物学的暴露指標)記載あり (ACGIH 2004)
(訳注:詳細は ACGHI の TLVs and BEIs を参照)
MAK:発がん性カテゴリー:3B;生殖細胞変異原性グループ:3A (DFG 2004)
(訳注:詳細は DFG の List of MAK and BAT values を参照)
長期または反復暴露の影響:
血液、骨髄、中枢神経系、末梢神経系、腎臓に影響を与え、貧血、脳障害(痙攣など)、末梢神経障害、胃痙攣、腎臓障害を生じることがある。
人で生殖・発生毒性を引き起こす。
鉛WG
産業研究
鉛の習慣許容摂取量 25μg/kg体重・週(WHO、1987)
労働環境
管理濃度 鉛 0.1mg/m3
許容濃度(日本産業衛生学会勧告、1996) 鉛および鉛化合物 0.1mg/m3
2B(証拠が比較的に十分でない発ガン物質)
生物学的許容値(日本産業衛生学会勧告、1996)
血液鉛 40μg/dl
米国産業衛生専門家会議ACGIH
鉛、元素と無機化合物(Pbとして): 0.05mg/m3 A3(動物発ガン性)
血液鉛 30μg/dl
京大
・Pbの蒸気圧
はんだの金属成分は蒸気・粉塵としての吸入と経口摂取が体内取り込み経路。
はんだのPbについては蒸気より手についたものの経口摂取に注意する必要がある。
はんだに触った手で飲食、喫煙するようなことは絶対避ける必要がある。
Sobolev プレゼン
Sobolevが与えている式P=6.57x109exp[−184960/(RT)}によりもっと低い温度を求めると
これからdm/dt=Sp{M/(2πRT)}
1/2により蒸発量を計算すると
LANSCEのPb-Bi でのPbの蒸気圧(=全蒸気圧) ただしこの系は以下の温度で液体状態。
Rothの Vacuum Sealing Technology (1Torr≒133Pa)
*蒸気圧はCd、Znが高いので、特に不純物としてのCdに注意が必要。
平成17年度鉛フリーはんだ関連作業等に係わる化学物質管理マニュアル
logP=AT
-1+BlogT+CT+D
<2−2> フラックス
<2−2−1> 松脂、ロジンとフラックスの健康への影響
松脂、ロジンとフラックスの物理的・化学的性質については→
フラックス
フラックスの主成分は松脂(ロジンRosin: CAS No. 8050-09-7)であり、松脂の主成分は
アビエチン酸C
20H
30O
2という有機酸(カルボン酸)である。
Fume Weller av.se
松脂煙霧が引き起こす病状
職業性喘息
慢性気管支炎
化学過敏症
胸痛
頭痛・めまい
目と鼻の刺激症
皮膚疾患
はんだの煙として可能性のある気体
ロジンの健康への影響
H17 日本
中央労働災害防止協会の<
平成17年度鉛フリーはんだ関連作業等に係わる化学物質管理マニュアル>によれば
Jaish
MSDS ロジン
9.物理的及び化学的性質 |
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物理的状態 |
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形状 |
固体 |
色 |
淡黄〜琥珀色 |
臭い |
特徴臭 |
pH |
データなし |
融点・凝固点 |
約70〜130 : IUCLID (2000) |
沸点、初留点及び沸騰範囲 |
280℃ : IUCLID (2000) |
引火点 |
187℃ : ICSC (J) (2004) |
自然発火温度 |
データなし |
燃焼性(固体、ガス) |
データなし |
爆発範囲 |
データなし |
蒸気圧 |
< 0.075mmHg : NITE 総合検索 (Access on May. 2009) |
蒸気密度 |
データなし |
蒸発速度(酢酸ブチル=1) |
データなし |
比重(密度) |
1.07〜1.09 : MERCK(14th、2006) 1.07g/cm (3℃) : ICSC (J) (2004) |
溶解度 |
水 : 130 mg/L (20℃) : IUCLID(2000) |
|
アルコール、ベンゼン、エーテル、氷酢酸、二硫化炭素 : 可溶 : MERCK(14th、2006) |
オクタノール・水分配係数 |
データなし |
分解温度 |
データなし |
粘度 |
データなし |
粉じん爆発下限濃度 |
データなし |
最小発火エネルギー |
データなし |
体積抵抗率(導電率) |
データなし |
|
|
10.安定性及び反応性 |
|
安定性 |
法規制に従った保管及び取扱においては安定と考えられる |
危険有害反応可能性 |
加熱すると分解し、刺激性ヒュームを生じる。 |
避けるべき条件 |
加熱 |
混触危険物質 |
強力な酸化剤 |
危険有害な分解生成物 |
刺激性ヒューム |
|
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11.有害性情報 |
|
急性毒性 |
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経口 |
ラットLD50値 7600, 8400, ca.7600 mg/kg (IUCLID, 2000)に基づき、区分外とした。 |
経皮 |
ウサギLD50 >2500 mg/kg およびラットLD50 = 2500 mg/kg (IUCLID (2000))の結果から、
JISの分類基準に基づき区分外とした。 |
吸入 |
吸入(ガス): |
GHSの定義による固体である。 |
|
吸入(蒸気): |
データなし |
|
吸入(粉じん): |
ラットLC50(6時間)値 約1.5 mg/L(4時間換算値:約 2.3mg/L)(IUCLID, 2000)に
基づき、区分4とした。
なお、蒸気圧データは無いが、固体であり蒸気圧が < 0.1 hPa(IUCLID (2000))と
記載されていることから粉じんと判断した。 |
皮膚腐食性・刺激性 |
ラットを用いた試験において、軽度の刺激性(IUCLID (2000))との情報から、JIS分類基準の区分外
(国連分類基準の区分3)とした。 |
眼に対する重篤な損傷・刺激性 |
ラットを用いた試験において、軽度の刺激性(IUCLID (2000))との情報から、区分2Bとした。 |
呼吸器感作性又は皮膚感作性 |
呼吸器感作性:ほとんどが職業ばく露の場合であるが、当該物質を含む松やに、はんだ融剤、
樹脂酸などを扱う作業者が喘息あるいは喘息様症状を呈した症例報告が数多く出ている
((ACGIH (7th, 2001))、DFGOT vol. 11 (1998))。
その他に作業に関連した呼吸器症状の訴え((ACGIH (7th, 2001)))、呼気流量の低下、気管支炎、
さらに症状持続や重度の喘息発作が報告され((ACGIH (7th, 2001))、症状の発生と程度がばく露
レベルに関連していることを示す記述もある((ACGIH (7th, 2001)、DFGOT vol.
11 (1998))。
以上の知見に加え、日本産業衛生学会で気道感作性物質の第1群に分類されていること
(産衛学会勧告 (2008))に基づき区分1とした。 |
|
皮膚感作性:モルモットを用いたマキシマイゼーション試験で陽性結果(IUCLID
(2000))があること、
ヒトで当該物質あるいは当該物質を含む産物に起因するとされるアレルギー性接触皮膚炎の報告
が複数ある(ACGIH (7th, 2001)、DFGOT vol. 11 (1998))こと、さらにEU分類がR43であること
(EU-Annex I(Access on May, 2009))に基づき区分1とした。 |
生殖細胞変異原性 |
マウスに経口投与後の骨髄を用いた小核試験(体細胞in vivo変異原性試験)で陰性結果(栗田年代:
平成9年度食品添加物規格基準作成等の試験検査、財団法人残留農薬研究所)に
基づき区分外とした。
なお、in vitro試験では、細菌を用いた復帰突然変異試験と哺乳類培養細胞(CHL/IU)を用いた
染色体異常試験の結果が報告されている(既存添加物の安全性の見直しに関する調査研究
平成15年度 (H.16))が、いずれも陰性である。 |
発がん性 |
データなし |
生殖毒性 |
データなし |
特定標的臓器・全身毒性(単回ばく露) |
データなし |
特定標的臓器・全身毒性(反復ばく露) |
ラットに90日間混餌投与により、飼料中濃度0.5%(約 239〜282 mg/kg/day)では、血液あるいは
血液化学など一部の検査項目で変化が認められたものの病理組織学的毒性変化はなく、重大な
毒性影響の記述はない(既存添加物の安全性の見直しに関する調査研究平成15年度
(H.16);
渡辺敦光:平成10年度食品添加物規格基準作成等の試験検査、広島大学)。
したがって、本試験の結果から経口投与では区分外に該当するが、他経路のデータがないため
「分類できない」とする。 |
吸引性呼吸器有害性 |
データなし |
|
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12.環境影響情報 |
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水生環境急性有害性 |
甲殻類(オオミジンコ)での48時間EC50 = 4.5mg/L(IUCLID, 2000)であることから、区分2とした。 |
水生環境慢性有害性 |
急性毒性が区分2、急速分解性がなく(BODによる分解度:36-48%(IUCLID、2000))、生物蓄積性が不明で
あることから、区分2とした。 |
Rosin EPA 2004
急性経口LD50(半数致死量)は5000mg/kg/日以上
NOEL:無観測可能影響水準、無影響量
Daphnia:ミジンコ、Genetox:遺伝毒性
*ペーストはんだの健康への影響
ペーストはんだではロジン、ロジン誘導体(重合ロジン、水素添加ロジン、フェノール変性ロジン、マレイン化ロジン、アクリル化ロジンなど)
のほかに活性剤(ハロゲン化アルコール、有機酸、有機アミン)、高沸点溶剤(グリコール、グリコールエステル、グリコールエーテル)、チキソ剤
(高級脂肪酸エステル類、酸アミド類)などが含まれるとされ、その詳しい内容が開示されず、毒性情報も不明なものが多いので注意が必要。
常温蒸気、直接接触の機会が多いので特に注意を要する。
分析例によると
SAC305ペーストはんだ
分析例(パナソニック)
<2−2−2> フラックスの蒸気(粉塵)の吸引の健康被害
プレゼン
Sn−Pbはんだは500℃以上でなければ吸引性ヒュームを発生しない。
Pb毒は主に経口摂取による、
粒子寸法による危険性の範疇
粒子状物質吸入範囲
alveolar:肺胞の
肺過敏症(肺感作症)とぜんそく誘発
日本 労働安全衛生総合研究所
HSE(UK)
はんだ付け作業によるフラックスの健康への影響
Solder fume and you 概要
呼吸respiratoryの影響
200℃以上でレジン酸粒子等を含むヒューム形成。温度が高くなると急増、250℃と400℃で3倍。
吸入でロジン基はんだフラックス・ヒュームは職業喘息を引き起こし得、またはその既症状を悪化し得る。
ヒュームはまた目と上気道を刺激する。
初期の症状は涙目、目の痛み、鼻水、鼻づまり、咽頭痛、咳、ゼイゼイする、呼吸困難など。
皮膚の影響
皮膚との接触で皮膚炎を起こす。フラックスとその蒸気には皮膚刺激物質と感作物質が含まれている。
最大暴露限界
0.05mg/m
3(8日以上)
0.15mg/m
3(15分以上)
<2−3> Pbフリーはんだの毒性と労働環境での影響
<2−3−1> Pbフリーはんだの毒性評価
◎
MST(Danish) (Survey on Lead Free Solder Systems)
Toxicology of Metals Agの人体毒性は大きくないが、環境への影響は大きい。
Toxicology of Fluxes フラックスのほとんどの成分は刺激性であり、溶剤には神経へ影響を与えるものがある。
活性剤には接触性、呼吸性アレルギーを起こすものがある。
Toxicological evaluation
Pbフリー用フラックスはPb用に比べ活性が強く、感作性の強いものがある。
リフロー
フロー(ウェーヴ)、手はんだ ・・・ともにリフローと大差ない。
一般的にPbフリーがPbより活性剤の添加量が多い。
<2−3−2> はんだ作業の健康への影響
中央労働災害防止協会
フロー、リフロー、リペアとも暴露問題なし。
施設の整った作業環境で規則どおり作業をしている限りははんだ合金に関しては問題はないといえる。
問題は排気設備等なしでのはんだこてでの加熱しすぎの作業であろう。
〔備考〕
◎
フラックス