(15−6−2) 再結晶関係理論 

@ Sn膜の2次元性によるウィスカ成長

(A) Boguslavskyの再結晶理論 Boguslavsky

  通常溶融相からできたバルク金属には格子欠陥はほとんどないが、融点以下で形成されるめっきには結晶欠陥として
 エネルギーが貯蔵される。
  またSnの再結晶温度は低く約30℃で再結晶が室温付近で自発的に起きうる。

  Snではめっき工程は再結晶温度に近いかそれより上でめっき(堆積)の間あるいは間もなく回復、再結晶が終了する。
  再結晶でウィスカは成長しないが、ウィスカ形成可能性をもつ結晶体構造が形成される。
  再結晶の最終段階の粒成長でウィスカ成長は正常粒成長と異なる。
  ウィスカ成長は堆積膜の元の境界の外で起きる。
  ウィスカ成長は2つの条件の会った異常粒成長である、
  第一に正常粒成長が禁止されていること、第二にそれでも構造条件で、ある粒が成長できること。
  Snめっきは1粒子の厚みであることで第一条件が満足される。表面効果で古典的粒成長が禁止されている。
  第二条件を満足させるのはウィスカとして成長する粒が特異であることによる。
  Snはテトラゴナルで異方性である。 配向の異なる粒は異なる表面エネルギーをもつだろう、このため周囲の粒にたいするある種の
 結晶方位(配向)の組み合わせがウィスカ成長に適合する条件を生み出す。

  Boguslavskyは機構としてFrank−Read源を提案し、Lindborgの2段階論に依拠。
  また粒界が重要な役割をもち、低角粒界をウィスカ発生サイトとし、高角粒界が拡散路として好まれウィスカ維持を制約する。
  拡散がウィスカ成長を支配する機構。界面IMCが種々な方法でウィスカ成長に影響。
  他に不純物濃度、表面酸化、粒子包有などが影響。究極的には堆積膜構造がウィスカ成長しやすさを決める。


  エッチングで異なる結晶方位の粒が見える。


  微細柱状構造で大きな再結晶粒がめっき膜からウィスカに伸びている。




(B) 辻の化学ポテンシャル理論(ミクロ歪エネルギーによる再結晶)


 特徴
  形態、強度
   根元から成長し、大抵単結晶で、全体がほとんど同じ太さの針状。
   直径1〜4μm、長さはその1000倍程度。
   通常のSnは最大降伏歪約10−4に対しウィスカは10−2以上の弾性歪に耐える。(Herring)
   LeBretらは転位が含まれていないと報告。
   転位が低いのは成長過程に再結晶や結晶成長過程が含まれているため。
    →ウィスカ成長の転位機構論は事実と相容れない。
  成長方向
   おおむね直線的に成長するがなかには捩れたもの、キンクを有するものがある。

  成長方向は比較的低指数の結晶軸と一致。Snのすべり方向と一致。
  →転位理論の根拠、しかしすべり方向と一致するのは〔001〕と〔101〕のみ。
  キンクしているウィスカは成長方向を変えるだけ。
  一定の結晶学的方向に成長するのは表面エネルギーを最小にするためであろう。


 成長の影響要因

  外部応力
   外部応力印加で成長速度が速くなる。→Sn原子が圧縮応力の存在する場所から拡散。

  内部応力
   従来からめっき時に生成する内部応力が駆動力と考えられてきたが実証はされたなかった。
   TuらCuとSn2層膜でSn側に圧縮応力、Cu側に引っ張り応力が生成することを示し、これが界面生成のMC、Sn、Cuの
  密度差によると考えた。また表面の酸化膜の破れ目から押し出されるようにウィスカが成長すると考えた。
   →酸化皮膜は100−200Åでウィスカを押し出す応力を支えきれない。
   XuはCuにSnめっきでは圧縮応力、Ni下地では引っ張り応力を報告。Niはウィスカ成長を抑制。
   IMC生成に起因する圧縮応力がウィスカの駆動力と考えられている。

  温度サイクル
   温度サイクルがウィスカ成長を著しく促進、Sn皮膜と素地金属との熱膨張率差が大きいほどウィスカ発生しやすい。
   ウィスカ側面には1回のサイクルごとのストライエーション(筋)が認められる。
   →圧縮応力が生じる高温保持でウィスカが押し出されるように発生→粒界や粒内のすべりで発生。
   自然成長のウィスカと形状や発生密度が著しくことなる。直線的成長はほとんど見られず短いウィスカが多数出現。
   →圧縮応力によるすべりで発生。
   別のモデルが必要。

  皮膜構造
   無光沢めっきでは膜厚が薄くなるほど粒子半径が小さくなる。
   ウィスカの半径は皮膜表面の結晶粒半径に一致。→表面に存在する結晶粒を核。
   0.2μm以下の膜厚ではウィスカは認められない。
   表面効果によりウィスカには臨界半径があると考えられる。




 成長機構モデル
  転位モデル
    Eshelby:表面エネルギー(表面酸化による低下)が駆動力。Bardeen-Herringの転位ループが成長源。
    Lindborg:駆動力はマクロ圧縮応力。
    Lee:駆動力としてSn粒界に生成するIMCによる圧縮応力。
    成長方向とキンク形成が説明できない。

  再結晶モデル
    Ellis、Furutaら:内外部応力が誘発する再結晶が原因。
     再結晶による粒成長が、粒界移動しにくいため皮膜外側に成長。
     粒界の固定(ピンニング)は膜厚が薄く粒サイズが制約されることや表面酸化膜による。
     ウィスカの転位密度が非常に小さいことや、キンク、スベリ方向以外への成長も説明できる。
     課題は再結晶程度のエネルギー(10−2〜20MPa)が駆動力となるかどうか。


 駆動力とその起源
     応力でなく化学ポテンシャル差によりSnが移動し、結晶成長によりウィスカが形成。
     Sn皮膜はウィスカ成長に必要なマクロ応力を保持できない。
     (皮膜応力は10MPa程度、Snのバルク降伏応力は11MPa)
     化学ポテンシャル源は原子レベルの歪。
     表面エネルギーが粒径を制約。これが特定方位のウィスカ成長の原因。


A Viancoの動的再結晶理論
  Vianco 動的再結晶DRX(引き続く変形に伴う追加欠陥生成による再結晶過程の増進)モデル
  
   DRXを開始する変形機構と粒成長を維持する物質輸送機構を確立する必要。
   大駆動力と高ホモロガス温度でも自発的ウィスカ成長は起こらない。
   圧縮応力は非弾性変形を起こし歪エネルギーを増加させDRXが始まる。
   (a)圧縮応力で転位が生み出され既存の粒界に蓄積。
   (b)その結果、DRX粒微細化段階として新粒が発生する場所に歪エネルギー増加。
   粒移動により変形物質に新しく形成された粒が成長。(b)、(c)
   新粒の寸法は既存粒寸法に整合するように制約され、既存粒寸法はSn膜厚みと関係。
   (d)圧縮応力で変形と従って駆動力は継続、層内でのDRX粒成長は拘束され表面からウィスカとして成長。

B 特殊再結晶粒生成理論

(A) Smetanaの斜角粒界理論
 Smetana 2007 


   柱状粒界→斜角粒界が低応力領域に形成。

  粒界が鍵、斜角粒界は周囲より低い圧縮成分をもつ。



Crandallの説明


 圧縮応力下の粒界(a)に再結晶で斜角oblique angled粒界が形成(b)、これは垂直粒界より低応力でこれが応力勾配源となる。
 粒界は空孔の生成・消滅場所となる。
 応力勾配で斜角粒界へSnが拡散。(c)
 粒界は固定されていないので粒界スベリ(クリープ)がおきる。
 多くのSnが粒界に移動し、粒界のある原子はウィスカ粒に移動。(d)
 これにより上方へウィスカが成長。(e)
 どこでSn原子がウィスカ粒に導入されるかと拘束粒界があるかどうかにより表面からどのように(真っ直ぐ、曲がる、屈曲kink・・・)ウィスカが
突き出るかが決まる。

  詳しくは→(15−6−6) 粒界スベリ理論


(B) 応力集中部の損傷と再結晶によるウィスカ成長、
 Su








 条件:温度サイクル(−55〜85℃)、マットSn、10μm、CDA194LF



  1.粒界あるいは多重点に応力集中、粒が堅いとひずみエネルギー勾配大。
  2.高ひずみエネルギーで弱い粒が破壊。
  3.破壊粒で回復・核生成がおきウィスカ粒形成。
  4.引っ込んだ粒の表面拡散は非常に速く、表面をウィスカ根元にSn原子移動。
  5.元のめっき上がり粒が消費され成長停止。

 粒方位の重要性
  ウィスカはある特定の粒の近くでのみ核生成、しかしこれら粒はウィスカ成長ですぐ消費される。
  Snは非常に異方的。異なる面、方向での機械的性質は非常に異なる。
  成長モデルは必ずしも長範囲損傷と拡散活動を必要としない。
 
 目標はどの粒界あるいは粒結合部が最もウィスカになりやすいかに答えること。
  歪エネルギー分布が必要。
  より高い歪エネルギー密度がウィスカ成長に関係あるとする。

 実験結果
  温度サイクル試験でのウィスカ成長は特別な結晶方向をもつ近隣の粒と強く結びついている。
  これらの粒はSnの異方性のため他より高い歪・応力下にありそうである。
  これらの粒はまた非常に高い表面拡散性をもち、これがウィスカ成長を助ける。

C Gaylonらの統合理論

 圧縮応力、再結晶、Sn自己拡散を要素とする統合理論。

Galyon(2005)
  統合理論は微細構造、内部応力状態のような物理的属性を組み入れる。
  再結晶、粒界拡散、膜−基材相互拡散(Kirkendall効果など)、応力勾配を重視。
  ウィスカ位置への物質輸送に転位機構を必要としない。
  正応力勾配の駆動力下で取り巻く粒界網によりウィスカ粒に物質が輸送。

INEMI   
 統合理論
  必要要因
   ・圧縮応力 
   ・再結晶(?)
   ・Sn自己拡散

 膜の応力状態
   Kirkedall効果、IMC形成の影響と帯域構造

  Kirkedall効果
   空孔側の引張応力と反応側の圧縮応力
  IMC形成によるモル体積変化→IMC形成で膨張

 統合理論(の要素の圧縮応力理論) 4帯域構造



応力解析

 帯構造
  拡散・IMC形成の影響。
 結晶微細構造と応力
  応力状態はウィスカ粒と周辺で差はない。
 ウィスカ粒と応力状態
  結晶方位でなく粒界形態(morphogy)。
  ウィスカ粒は近くの粒と同じ応力状態、ウィスカ粒を特徴付けるのは斜角粒界。



 ウィスカ粒・・・結晶方位と応力状態

  結晶方位は膜応力状態に関して重要な因子。
  低剛性面方位とウィスカ粒方位の一致はおそらく存在する。


 潜伏期間:再結晶

  ブライトSnノジュール構造は古典的再結晶の外観。
  マットSnウィスカ粒は明らかな再結晶構造でない。

  ウィスカ粒は低剛性面結晶方位をもつ傾向があるが、むしろ直近粒の方位との相対方位が重要、すなわち 
 直近の粒と比較して堅くstiffない。

 拡散
   室温での拡散
    膜粒界経由で膜表面へIMC領域からSnが外へ拡散し膜/基材構造の弾性ひずみエネルギーを下げる。
    格子拡散は重要でない。始めはSn拡散の駆動力は応力勾配で濃度勾配ではない。
    Snは膜粒界から付近の粒に移動し膜面に後背応力を生じる。

    斜角粒界では後背応力で斜角粒界に平行なせん断活動が生じる。
    ウィスカ粒内のせん断活動は粒界すべり効果を生み出しウィスカ粒を上昇させる。
    いまのところ粒界スベリの直接的証拠はないが機構として可能な候補と思われる。

    ウィスカ成長で拡散が後背応力蓄積なしに可能となる。
    ウィスカ成長の継続的拡散のための駆動力は継続的IMC反応、ウィスカ成長でIMC反応が
   継続可能となる。

   125℃以上での拡散
    格子(バルク)拡散が顕著になっていく。格子拡散は後背応力を生じない。

Gaylon
 (統合理論の要素の)再結晶理論

 1.ウィスカ/ノジュールはめっき上がり構造からは成長しない。
 2.局在化再結晶事象がウィスカ/ノジュール形成を進行させる。
 3.再結晶領域は周辺領域に対し低い平均応力の領域。
 4.もし周辺領域がより圧縮応力ならウィスカ/ノジュールが形成され得る。
 5.もし酸化物が厚すぎなければ表面層からウィスカ/ノジュールが突き出得る。
 6.ウィスカあるいはフィラメントはノジュール形成の特殊な場合。
 7.ウィスカ/ノジュール物質は基本的ににめっき基材界面から粒界経由で付近の領域から
 主に来る。








  遠くでの粒沈降

 SnCu IMCの関係を示唆する写真が多い。

2004年
 1.ウィスカはめっき上がり微細構造からは成長せず、めっき上がりと異なる粒から形成される。
 2.ウィスカ粒は再結晶事象で形成される。めっき膜内のマクロあるいはミクロ応力が再結晶を駆動。
 3.膜/基材界面領域とウィスカ粒を結びつける粒界網経由でSn原子はウィスカ粒に輸送される。
   ウィスカ成長に影響するある種の拡散事象が存在。
 4.Sn輸送の駆動力は正応力勾配で圧縮応力状態ではない。
 5.基材界面でのIMC形成で非常に高い圧縮応力がIMC領域に発生。
   この領域はいつもIMCと非反応/移動Sn原子が混合。
 6.CuとSnの非釣り合い相互拡散でKirkendall効果と膜/基材界面付近にCu基材内の空孔富化帯
  をもたらす。
 7.Cu基材内のKirkendall帯でKirkendall帯に引っ張り応力状態を確立する収縮効果が生じる。
 8.転位機構は多分ウィスカ成長に妥当ではない。
   Sn原子は拡散でウィスカ粒界からウィスカ粒に移動でき、そこでウィスカ粒表面を上昇させフィラメント状ウィスカを成長させる。


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