(13−8−4) 結合環境試験(アールト大の研究)
◎
結合負荷接近法 Mattila
信頼性評価は単一負荷試験で行われるが実際の動作では複数の負荷にさらされる。
複数の負荷を取り扱う方法が提案されているがそれらは基本的にHALT(Highly
Accelerated Life Test:高度加速寿命試験)の
考え方に基づいている。
HALTは熱衝撃とランダム振動の併用を基礎としている。
(HALT条件:温度サイクルと振動サイクル結合段階)
しかし、機械的な負荷と熱機械的負荷は基本的に異なる破壊機構と異なる破壊様式をとる。
このため単純な2つの機構の重ね合わせは信頼性予測に誤解を招きうる。
HALTは設計の潜在的弱点の同定には有効な手段だが、加速寿命試験ではない。
HALTは実際の動作と異なる過負荷をもたらすという欠点がある、そこで
MEOST(多環境過負荷試験)
なども考案されている。
・ 異なる負荷条件でのCSP−BGAでの破壊モードと機構の議論
試験条件
はんだSAC305、基板OSP
落下試験 JESD22−B111(高さ84cm:100G、0.5ms)、温度サイクル:−40〜125℃、15分保持。
20%R増加(デイージー・チェーン)が破壊基準値。
(BGAパッケージ、PWB、部品基板の加熱イメージ)
・ 単一負荷試験での破壊様式と機構
・・ 熱サイクル条件での破壊機構
共晶近傍SACは相互接合付近での亀裂で破壊機構はSnPb基の相互接合とは異なる。
共晶SAC(SAC348)のホモロガス温度は0.5〜0.8。
隣接材料の熱膨張率の差により塑性変形発生。
電子装置の作動中にはんだ相互接続の微細構造は変化する。
塑性変形ではんだ中にエネルギーが蓄積されこれが駆動力となって組織が変化する。
はんだ付け上がりのSnリッチはんだ相互接続の微細組織
はんだ付け上がりのSnリッチはんだ相互接続は比較的大きな2,3個の高傾角粒界で区別されるSnコロニーよりなる。(b)
コロニーにはSnのセル状組織が見られ、これらはCu6Sn5とAg3Snが分散した共晶領域で囲まれている。(c)
熱サイクル中の破壊の進展は
まずセル状凝固構造の徐々の進展が起きる。
個々のβSnが合体し、その周辺の小さなIMC粒子が粗大化する。
ポリゴン化の結果小傾角粒界のネットワークが形成される。
これは約50〜数百サイクルで起きる。
セル状構造は熱サイクルの継続で徐々に消滅する。
この進展はこれら領域が再結晶で不連続に等軸組織に変形するまで起きる。
更に再結晶による微細組織変化後にはんだバルクを通って伝播する亀裂が観察される。
亀裂の核生成は保持時間にかかわらず寿命の狭い範囲、700〜1300熱サイクルの間に起きる。
亀裂は寿命の70〜75%の間で成長段階にある。
再結晶の潜伏期間は非常に変わる。
最初の再結晶組織は500サイクルで観察されるが組織的になるには約2000サイクルかかる。
核生成は再結晶による微細組織の変化の前に起こりうるが、再結晶の影響のない亀裂伝播は遅いと思われる。
再結晶が始まると亀裂伝播に影響する。再結晶は始まると亀裂は再結晶領域以上には伝播しない。再結晶の助けがないと
亀裂は相互接続部を完全には伝播しない。再結晶による高傾角粒界が亀裂伝播場所になる。
回復と再結晶からなる復旧restoration過程で破壊機構が理解できる。
・・ パワーサイクル
パワーサイクルの主要破壊機構は熱サイクルとほとんど同じだが、熱サイクルに比べて動作中の部品基板の
温度分布が不均一である。
破壊機構が異なる2つの局面は
再結晶の速度論への電流の流れの影響
エレクトロマイグレーションによって引き起こされるIMC層成長、高傾角粒界がエレクトロマイグレーションの
低エネルギー経路となることでも再結晶はIMC層成長に影響しそうである。
・ 高速変形速度での破壊機構
・・ 落下試験
落下によって筐体から部品基板に衝撃が伝わり高周波曲げが始まる。
基板レベル落下試験はJEDEC JESD22−B111が一般的である。
機械的衝撃は熱サイクル試験と全く異なる破壊モードを引き起こす。
温度のほかに負荷条件での顕著な差は変形速度である。
常温はSACでは0.6Tmでこのような高ホモロガス温度では塑性挙動は強くひずみ速度
に依存する。
温度サイクル試験(〜10
−6−10
−5/s)から落下試験(〜1−10/s)でひずみ速度増加によりはんだは
非常に(流動応力:2〜3倍)強くなる。
UTSも増加するが降伏応力がより敏感ではんだ相互接合での応力分布の度合いは熱サイクルと落下試験条件では異なる。
有限要素法によるとひずみ速度の増加ではんだ相互接合応力が増加するだけでなく、相互接合部の部品側端により集中する。
このようにひずみ速度硬化ではんだバルクは比較的強い材料として振る舞い、IMC層破壊強度を越え、脆いIMC層が破壊する。
・・ 継続的調和振動試験
落下荷重条件で始まる破壊機構は同じひずみ速度であれば部品基板の高周波振動曲げでも始まり得る。
共鳴周波数でアセンブリに調和振動負荷を印加すれば非常に似た荷重条件が生み出され、振動試験での破壊モードが
落下試験でのものと同じであることが示される。
違いは試験に必要な時間で落下は数十分から数時間で振動は数秒に減少。
・ 連続的consecutively結合負荷条件
・・ 機械的衝撃への熱サイクルの影響
はんだ:Sn0.5Ag0.5Cu、
熱サイクル:−45℃/125℃、15分保持、7分昇降、750サイクル
恒温アニール:125℃、500h
部品基板の破壊モードは
リフロー上がりはパッケージ側のCu6Sn5IMC層の亀裂。
熱サイクルでバルクはんだの粒間亀裂に変化。
亀裂は多くは相互接続部を通って完全にバルクはんだを伝播するが、ときには亀裂はバルクはんだを
部分的にしか伝播せず、その後IMC層に移動する。
バルクはんだからIMC層への亀裂経路変化は熱サイクル間の再結晶による粒界ネットワークの形成で
引き起こされる。
亀裂が再結晶部と非再結晶部の境界に到達すると亀裂は伝播経路をIMC層に変える。
微細構造の変化で落下破壊数の大きなバラツキが理解できる。
・・ 機械的衝撃に先行する昇温操作の影響
落下前の恒温アニールがリフロー後や熱サイクル後より顕著に弱い。
破壊モードは単一負荷試験と異なる。
亀裂はバルクはんだで核生成するがすぐにCu3SnIMC層に入る。
恒温アニールでCu3Sn層と電解CuUBMの間に形成される多数のボイドが亀裂が伝播する
ほとんど連続的な経路となる。
落下信頼性ははんだ付けと引き続く使用による進展で形成される微細構造に顕著に影響される。
・ 同時的concurrently結合負荷条件
・・ 落下信頼性への温度効果
落下破壊の平均数は顕著に温度上昇とともに減少し、主要破壊モードは温度で変化する。
基板1では破壊モードは室温ではパッケージ側IMC層、70℃、100℃ではPCB側のはんだ相互接続部のCu配線、
基板2はすべての温度でパッケージ側IMC層亀裂。
基板3はすべての温度でCu配線亀裂。
昇温で(a)はんだの降伏強度と弾性係数減少、(b)PWBの剛性低下、(c)熱誘起ひずみ導入
することで破壊機構に影響しうる。
はんだの強度低下で破壊モードはバルクはんだ亀裂への変化を引き起こしうる。
部品基板の最大ひずみは温度と共に増加する。
応力−ひずみ解析によると温度変化ははんだの機械的特性に顕著に影響するが、PWB剛性
へは弱い。
熱機械的負荷の影響は強いだろうがはんだのクリープ緩和速度と熱履歴に依存する。
基板1:144GBA、多層、基板2:168BGA、多層、基板3:144BGA、2層
・・ 振動負荷での部品基板の寿命へのパワー・サイクルの効果
純振動の主要破壊モードはバルクはんだ亀裂で亀裂はコロニーを経由して起きる。
パワー・サイクルでは再結晶が助けるはんだ相互接合の亀裂が主要破壊機構。
同時動作では寿命はかなり低下。再結晶による微細組織の変形は見られず、亀裂は純振動と
同様の仕方で起きる。
部品:SuperSO8パワー・トランジスタ、460Hz電磁振動機
パワーサイクル:15分間づつのオン・オフ、パッケージ表面はオンで120℃、オフで室温。
要約
|
負荷条件 |
観察破壊モード |
主要破壊機構 |
単一負荷条件 |
|
熱サイクル |
バルクはんだ亀裂 |
はんだ疲労(再結晶支援粒間亀裂) |
パワー・サイクル |
バルクはんだ亀裂 |
はんだ疲労(再結晶支援粒間亀裂) |
機械的衝撃 |
IMC層亀裂
Cu配線亀裂
バルクはんだ亀裂 |
ひずみ速度硬化誘起IMC層亀裂(脆性)
Cu配線疲労
はんだ疲労(延性、粒内、非再結晶) |
振動(高周波数振幅) |
IMC層亀裂 |
ひずみ速度硬化誘起IMC層亀裂(脆性) |
振動(低周波振数幅) |
バルクはんだ亀裂 |
はんだ疲労(延性、粒内、非再結晶) |
連続的結合条件 |
|
熱サイクル+機械的衝撃 |
バルクはんだ亀裂 |
熱サイクルでの再結晶による微細構造変化の結果によるバルクはんだ亀裂 |
昇温+機械的衝撃 |
IMC層亀裂 |
ひずみ速度硬化誘起の構造的に弱化したIMC層の亀裂 |
同時結合条件 |
|
昇温+機械的衝撃 |
IMC層亀裂
Cu配線亀裂
バルクはんだ亀裂 |
ひずみ速度硬化誘起IMC層亀裂(脆性)
Cu配線疲労 はんだ疲労(延性、粒内、非再結晶) |
パワー・サイクル+振動 |
バルクはんだ亀裂 |
はんだ疲労(延性、粒内、非再結晶) |
Karppinen
多重相互作用負荷条件での電子アセンブリの信頼性評価
落下あるいは振動による効果例
エレクトロマイグレーション条件
エレクトロマイグレーション例
作動による電力消費による熱機械的応力例
各種試験規格例
主な試験と予想される破壊
電気的と機械的振動の同時負荷例
結合による加速例
パワーサイクルによるCu6Sn5粗大化例
要約
基板水準SACはんだ相互接合での結合負荷の微細構造と信頼性への効果
前処理または
1次試験 |
恒温アニール |
定常エレクトロ
マイグレーション試験 |
パワーサイクル |
熱サイクル |
主要負荷因子 |
温度 |
電流密度、温度 |
電流密度、温度サイクルプロファイル |
温度サイクルプロファイル |
はんだの微細構造と
機械的性質への効果 |
|
ボイドとヒロック形成:
負荷維持接触領域低減 |
はんだ粒構造の再結晶:
亀裂伝播適合経路形成 |
界面IMC層成長に影響:界面IMC破壊靱性低減、
接触金属とはんだの固着損失 |
↑ |
はんだセル構造粗化、IMC析出物成長、界面IMC層成長:
はんだバルク降伏強度と最大引張強度UTS低減、界面IMC破壊靱性低減 |
|
振動負荷での破壊モードへの
1次試験の効果 |
界面への亀裂経路移行 |
バルクへの亀裂経路移行 |
界面への亀裂経路移行
(再結晶あるいは亀裂経路の
再結晶化バルクへの移行はない) |
バルクへの亀裂経路移行 |
振動負荷での1次試験の効果 |
否定的 |
否定的 |
否定的 |
否定的 |
|
機械的衝撃での破壊モードへの
1次試験の効果 |
界面への亀裂経路移行 |
界面への亀裂経路移行 |
界面への亀裂経路移行
(再結晶あるいは亀裂経路の
再結晶化バルクへの移行はない) |
バルクへの亀裂経路移行 |
機械的衝撃での1次試験の効果 |
否定的 |
否定的 |
否定的/肯定的 |
肯定的 |
|
熱サイクルでの破壊モードへの
1次試験の効果 |
無 |
無 |
− |
− |
熱サイクルでの1次試験の効果 |
無視可能 |
肯定的 |
− |
− |
Skogstrom
振動とパワーサイクル試験の結合が破壊モードと寿命に顕著な影響をもつことが示されている。
定電力と電力サイクル(パワーサイクル)が振動と結合された場合、電気的負荷と振動振幅に応じて3つの異なる破壊モード
が見出されている。
高振動水準で存在するバルクはんだ経由の延性亀裂伝播。
はんだ微細構造には目に付く変化はない。振動が信頼性の主要因子。
中程度の振動水準で存在する粒界に沿っての局部的な亀裂経路伝播を伴う局部再結晶。
振動が亀裂伝播を支配するが熱負荷も顕著に寄与。
再結晶支援亀裂核生成と伝播。
熱サイクル破壊と類似、熱負荷が支配し始める。
振動だけ、定電力+振動、電力サイクル+振動での破壊モード例
結合負荷での加速因子例