(11−9) Auによるはんだ接合脆化
<概要>
溶融SnはAuを良く溶解するが固溶量は少なく、大部分AuSn4として晶出する。
このAuSn4は金属間化合物IMCであるため脆く、はんだ中に占める体積が大きくなるとはんだ接合の劣化を招く。
更にAuはSnとIMC化すると、Au→AuSn4の変化で体積が数倍となる。
これらによりAuのはんだ強度への影響は大きく従来共晶近傍Sn−Pbはんだでは、はんだ中のAu量は3wt%以下にする
ということが基準とされている。
またはんだ中にAuが多く溶解するとはんだの流動性を悪化させボイドの原因ともなる。
信頼性上ではAuによる脆化はエージングにおけるNi基体上へのAuSn4の再堆積(連続層形成)によるとされ、この改善には
Cuの添加が有効とされる。
はんだへのNiの添加も効果があるとされる。更にAgも効果があるとする人もいるが、効果を報告しないのが普通である。
この接合界面へのAuSn4の再堆積ははんだバルク中に比べ少ないAu量でも影響を及ぼすのでPbフリーはんだでは特に
注目される。AuSn4の再堆積の検討でAu量の許容量は低下する傾向がある。
(11−9−1) Sn−PbはんだへのAuの影響、脆化とボイド発生
(A) 経緯
Hilmannらによると
1963年FosterらがSnー40Pbにおいて5〜10wt%Auで伸びの低下と靱性−脆性破壊遷移を認める。
しかしせん断強度はより徐々に低下し15wt%Auでも約20%の低下。
Sn−40Pb−xAuのせん断強度
Au(wt%) |
せん断強度(psi) |
0 |
5830 |
2.5 |
6185 |
5.0 |
5560 |
10 |
4990 |
15 |
4725 |
HardingらはAuの厚みの臨界値として1.25μm(50μインチ)を推奨したが、強度低下はAu量に逆比例し、急激な変化は
なかった。
BesterらはSnPbでの臨界Au量を4〜5wt%とした。
Glazerらは長期信頼性から臨界値を3%とし、これが電子産業の基準となった。
Stiemanらによると最近はもっと薄くAu厚みは0.5μm以下が推奨されている。
(ASM International Electronic materials Handbook, vol. 1 Packaging,
1989 p.638)
*Stiemanらは脆性Au−Sn、脆性NiP−はんだ、脆性Cu IMC破壊を取り上げている。
脆性Au−Sn
Ni界面へのAu移動
脆性NiP−はんだ
ブラック・パッド
脆性Cu IMC破壊
IMC領域で破壊、IMCが総厚で1μm以下と薄い、リフロー時間が短くてCu6Sn5より脆いCu3Snが形成されたと思われる。
疲労破壊面にはストリエーションが見られる。
延性破壊例
(B) Sn−PbはんだへのAuの影響
Hareによると
Auの共晶Sn−Pb組織への影響
共晶Sn−Pb組織
明るい領域がPb相、暗い領域がSn相
Auを含有する共晶Sn−Pb組織
中間色領域がAu−Sn IMC(初晶AuSn4とAuSn2)
Au−Sn IMC板は非常に薄く、〜0.25μm。
Auの影響によるボイド・・・破断面
Pb相(明るい灰色)、Sn相(暗い色、マトリクス)、Au−Sn相(中間色、棒状)が分布する組織
はんだ接合
Au含有量(wt%)と各相体積
Sn62:Sn−36Pb−2Ag
Hare
成分量とIMC体積
EPTAC
Auによるボイドと脆化
2.54μmという指標が旧 J−STD−011にある。
Au厚み、はんだ量とAu脆化
Glazerら
4wt%以上(Au厚みで約1μm以上)でボイドが発生。
Au増加とともにSn−Pb微細組織が粗化、
Vianco
Sn−37Pb
Alam
Sn−37PbBGA、電解Ni/Au
破壊表面
薄い0.1μm、厚い1.3μm
界面IMCの形成
Niが薄いと完全消費し、CuとSnが反応し(Cu,Ni)6Sn5が形成される。
(Cu,Au,Ni)6Sn5が存在すると層状のAuSn4は形成されない。
Niが厚いと(Au,Ni)Sn4が再堆積(界面に層状の偏析)
Niが薄いとSnがCuと(Cu,Au,Ni)6Sn5を形成しAuSn4の連続層は形成されない。
群馬大荘司 AuとPd Sn−37PbとAu、Pd
(11−9−2) 主な金属のSnとのIMC化による体積増加
(A) IMCの結晶学的性質
→
Pbフリーはんだと金属間化合物IMC
Galyon
Song
より
Cu3Sn: 27.30/3=9.1 →Cu3SnでのCu1個割合
Cu6Sn5: 118.01/6=19.67 →Cu6Sn5でのCu1個割合
従ってCu6Sn5ではCu1個につきIMC化で体積は19.67/7.1=2.77倍となり、
Cu厚み1μmがIMC化で2.77μmとなる。
*Cu3Snについては密度は8.9というものと11.3といものが混在。
また
Hareによると
AuSn4 75.0
AuSn4/Au=7.4
AuSn2 42.8
AuSn2/Au=4.2
Li
Lee
An
Mun
Downing
orthorhombic a=6.42、b=11.4、c=6.37 280.6
Nial
FeSn2
hexagonal a=5.317c=9.236 unit cell 4FeSn2 (12atoms) 226.1
あるいはa=6.52c=5.31 225.8
FeSn
hexagonal a=5.292c=4.440 unit cell 3FeSn(6 atoms)
CoSn2
tetragonal
a=6.348c=5.441 4CoSn2 219.2 219.4/4=54.8
Ni3Sn4
monoclinic a=12.2 b=4.005 c=5.215β=105°2′unit cell 2Ni3Sn4
以上のデータをもとに(PdSn4はAuSn4と同じ結晶構造)
Ag3Snでは147.92/6=24.65(unit cellにAg6個)、24.65/10.28=2.4
PdSn4では262.86/4=65.71(unit cellにPd4個)、65.71/8.85=7.4
(B) 主な金属のIMC化による体積増加
金属またはIMC |
原子1個あたりの
Sn配位数 |
モル体積* |
IMC化による体積増加倍率
=層厚みの増加倍率 |
Au |
|
10.21 |
|
Ag |
|
10.28 |
|
Cu |
|
7.1 |
|
Ni |
|
6.6 |
|
Pd |
|
8.85 |
|
Pt |
|
9.09 |
|
Fe |
|
7.09 |
|
Co |
|
6.67 |
|
|
|
|
|
AuSn4 |
4 |
75.0 |
7.4 |
Ag3Sn |
0.33 |
24.65 |
2.4 |
Cu6Sn5 |
0.83 |
19.67 |
2.77 |
Ni3Sn4 |
1.33 |
11.32 |
1.7 |
PdSn4 |
4 |
65.7 |
7.4 |
PtSn4 |
4 |
70.15 |
7.7 |
FeSn2 |
2 |
56.5 |
7.97 |
CoSn2 |
2 |
54.8 |
7.72 |
*Au、Ag、Cu、Pd各原子1個当たりのモル体積
以上のように原子1個あたりのIMC化による体積増加倍率はAg→Ag3Snに比べAu→AuSn4の
ほうがかなり大きく、Auの影響が大きいことがわかる。