Pbフリーはんだの金属学的基礎
〔V〕 Pbフリーはんだ
以下、主要Pbフリーはんだについて高融点系としてSn−Cu系、Sn−Ag系、低融点系としてSn−Bi、Sn−Zn、
Sn−In、Sn−Agの低融点化系についてはんだバルクの性質を中心に紹介する。
(5) 高融点系
(5−1) Sn−Cu系
Sn−Cu系はSn−0.7Cuに共晶点があり融点は227℃といわれる。
共晶を形成するのは金属間化合物IMCの
Cu6Sn5である。このCu6Sn5は高温相と低温相があるとされる。
Cu6Sn5の融点は435℃といわれる。Cu6Sn5はファセット相となる。
一方βSnはノンファセット相である。ファセット相のIMCは比較的小さな過冷却で晶出するがβSnは大きな過冷却
を必要とする。このためIMC相が大きな初相として晶出しやすく、機械的特性に問題をおこすことがある。
共晶点でのCu量が少なく、過共晶側の液相線が急峻でCuのちょっとした組成ずれでも固液共存範囲が広がる
という欠点がある。
共晶温度もそれほど低下せず、機械的特性も良くないが、低コストという長所があり、微量成分添加による改善が
行われている。
(5−1−1) Sn−Cuの組織と性質
Sn−Cu
防衛大のグループによる亜共晶、共晶、過共晶の凝固過程の解析によると
一般的に過冷却量はファセット相で約2〜3℃、ノンファセット相で約0.1℃であるがSn−Cu系ではノンファセット相のβSnが
ファセット相のCu6Sn5に比べてはるかに大きな過冷却を必要としている。
ハローはSundquistらによると共晶の片方が大きな過冷却でおきるとし、Barclayらはノンファセット−ファセット共晶系の左右非対称な状態図で
ノンファセット相の液相線の傾きが緩やかでかつ共晶成長のため大きな過冷却が必要な場合過共晶側で現れるとしている。
また同じく
防衛大のグループによると亜共晶ではβSnの初晶の晶出で液面から突き出た凝固相が形成され、微細な
表面凸凹組織となる。
Sn−0.5Cu(亜共晶)の凝固の様子
Sn−0.87Cu(ほぼ共晶)の凝固の様子
Sn−2.02Cu(過共晶)の凝固の様子
Felberbaumらによると、Sn−Cu系は高成長速度とCu<0.9wt%では初晶βSnセルあるいはデンドライトを
共晶(βSn+Cu6Sn5)が囲んだ組織となる。
亜共晶組織(初晶+共晶)
低成長速度あるいはSn−0.9Cuでは完全な共晶組織になる。
共晶組織(低成長速度) 共晶組織(高成長速度)
日本フィラーメタルズの資料によると
(5−1−2) Sn−Cuの改善 Sn−Cu−X(X=Ni、Co等)
Sn−CuへNiを微量添加したものが実用に供されている。特にフローに有利である。
Sn−CuへのNiの微量添加は組織改善に効果があるとされる。
またCuとの接合界面に形成されるSn−Cu系金属間化合物の形態改善に大きな効果がある。
(接合界面のIMCについては 〔W〕
接合界面とIMC で詳述)
接合界面のIMC層組織の変化によりCuの溶解抑制の効果もあるとされる。
Coも同様の効果があるとされる。
3元共晶近傍Sn−Ag−Cuはんだに比べ、Sn−CuにNiあるいはCoを添加したものはCu溶解
(溶食leaching、erosion)が少ないとされる。
はんだに添加された微量のNiはCu6Sn5のCuを置換し(Cu,Ni)6Sn5を形成するとされる。
Coも同様に(Cu,Co)6Sn5を形成するとされる。
(a) Sn−Cu−Ni
FelberbaumらによるとSn−Cu−Ni系の共晶組成はSn−0.7Cu−0.05Ni付近とされる。
Ni添加では亜共晶ではβSn、過共晶では初晶Cu6Sn5が生成。
Ni添加亜共晶組織 Ni添加過共晶組織
Niの添加では共晶領域では初晶βSnは見られないとする。
共晶組織領域では低成長速度の場合、粗い共晶組織と微細共晶組織の混合組織。
高成長速度ではセル状組織が見られる。
Ni添加共晶組織(低成長速度) Ni添加共晶組織(高成長速度)
ただしブリッジマン炉による組織のため、実際のはんだ接合の場合とは熱の流れや電極等の溶解の影響もあるので
かなり異なる。
日本スペリアによるとSn−Cu組織はNi添加により均一な共晶組織となる。
しかし、Ni量が多くなると初晶(Cu,Ni)6Sn5が析出し機械的特性が劣化する。
以下
Balver Zinnのデータを示す。
Ni量による組織変化
流動性は0.06%付近が良いとされる。
Cuの溶解
Cu6Sn5の成長
落下試験
Sn−Cu−Ni系でのIMCの晶出
O点はL+(Cu,Ni)6Sn5+(Ni,Cu)3Sn4
250℃で0.5Cu
NogitaらによるNiの組織への影響。
(b) Sn−Cu−Co
Sn−Cu−Co系ではSn−0.7Cu−0.4Coが
3元共晶とされ融点は224℃といわれる。
この合金には(Co,Cu)Sn2と(Cu,Co)6Sn5が生成するとされる。
しかし特性がよくないのでCoが多すぎるようである。
Chuang(台湾国立大)らによるとSn−0.7Cu−0.4CoはんだとENIG(無電解Ni(P)/置換Auの接合では
(Cu,Co)6Sn5(IMC1)と(Co,Cu)Sn3(IMC2)が生じるとする。
Sn−0.7Cu−0.4Coはんだの接合組織(
Chuang(台湾国立大)ら)
東芝によるとCoを添加したSn−Cu−Coはんだは表面張力が低下するという。
日本フィラーメタルズによれば500℃ではNiよりCoのほうがCu食われを抑制するという。
Indium Copr.によると
Niの添加最小量は0.035%に対しCoは0.003%という。
(c) Sn−Cu+X+Y
富士電機からNi+Ge、
ケスターからはNi+Bi添加が提案されている。(K100LD)
極低Ag型で
弘輝からSn−0.1Ag−0.7Cu−0.03Coなど様々提案されている。
日本スペリアによる比較結果でははっきりした結果が出ていない。
実験用小ウェーヴ槽使用。PCBはOPS。
Sn−0.7Cu−0.3Ag−0.1Bi、Sn−0.7Cu、Sn−0.7Cu−0.3AgがIMC薄い。(1μm以下)
Sn−0.6Cu−0.07Bi−0.04Ni、Sn−0.7Cu−0.03Ni−0.3Agが3〜5μm。
Sn−0.7Cu−0.5Ni、Sn−0.7Cu−0.05Ni−Geが6〜7μm。
Sn−0.7Cu−0.1Ni−Geが7μm以上。
いずれもCu3Snは検出されない。
(Ag添加が抑制、高Niが促進、Geが促進の傾向が見える)
エージングの影響
エージングによる増加量
Sn−0.7Cu−0.03Ni−0.3Agが両温度で成長少ない。
Sn−0.7Cu−0.05Ni−Geの減少は試料間の変動の影響?
はんだ付け上がり状態ではNi含有はんだはIMC厚く、珊瑚構造。
Indium Co.からはSn−0,5Cu−0.3Bi+Co(Sn992)
(d) Sn−Cu−X(Si、Ti・・・)
シンガポールのアサヒ・ソルダーはSn−0.7Cu−0.02Si
比較
中国のソルダーウェエルはSn−0.7Cu−0.04Ti
を提案している。
特性:伸び25%、抗張力36N/mm2
Chen
Differential scanning calorimetery (DSC) results of Sn-Ag and Sn-Ag-Ti solders (a) during heating (endothermal)
and (b) during cooling (exothermal). DSC results of Sn-Cu and Sn-Cu-Ti
solders (c) during heating (endothermal)
and (d) during cooling (e...
Optical microscopy (OM) bright filed and cross-polarized images of Sn-Ag-Ti
solders as a function of cooling rate and Ti concentration.
OM bright filed and cross-polarized images of Sn-Cu-Ti solders as a function of cooling rate and Ti concentration.
Illustration of microhardness results of (a) Sn-Ag and (b) Sn-Cu base solders
undergoing different cooling conditions.
Illustration of microhardness results of (a) Sn-Ag and (b) Sn-Cu base solders
aged at 200 °C up to 100 h.
OM bright filed images of SA0..2Ti, SA0..6Ti, SC0..2Ti and SC.6Ti solders
aged at 200 °C for 0 h, 2 h, 30 h and 100 h.
(5−1−3) Sn−Cu−X(Zn、Bi、In) 低融点化
Sn−Cu系の低融点化の試みもSn−Agほどではないが行われている。
ただしCuの量が少ないためSn−Cuの低融点化というより低融点系はんだの改善という趣旨が強い。
詳しくは
低融点系
(a) Sn−Cu−Zn
アルゼンチンのグループによると
3元共晶はL→Sn+Zn+γ(CuZn4)で共晶温度は190℃〜199℃付近。
ε(Cu3Sn)相の晶出が抑制されCu6Sn5のみ存在、Znが多くなると(6原子%付近)β(CuZn)相が更に多く(11原子%)なると、γ(Cu5Zn8)が晶出する。
セレスティカのグループによるとSn−6.5Zn−0.5Cu付近が3元共晶点。
(特開平09−155587によると3元共晶点はSn−8.0Zn−0.2Cuで194℃)。
Znの微量添加はCuとの接合界面のIMC改善に効果があるとされ研究が多い。
ワンらによると
Sn−0.7Cu Sn−0.7Cu−0.2Zn Sn−0.7Cu−1.0Zn
Sn−0.7Cu
Sn−0.7Cu−0.2Zn
Luo
KAISTのグループによると0.4Zn計算ではβSn、Cu6Sn5、Cu5Zn8よりなるはずだが、Ni−P/Au(0.05μm)に対しては
(Cu,Ni)6Sn5、(Cu,Ni,Zn)6Sn5が形成されるという。界面のIMCについては詳しくは
〔W〕
接合界面と金属間化合物IMCで述べる。
(b) Sn−Cu−Bi
NISTによる状態図は
九州工業大のグループによるとやや異なる状態図が与えられているが共晶点はSn−54.6Bi−0.014Cuで140℃とされる。
Liyakathali
Sn−0.5Cu+Bi
Sn−Cuの低融点化というよりSn−Biの改善が目的となっている。詳しくは(7)
低融点系
(c) Sn−Cu−In
エジプト・マンスーラ大のグループによるとSn−0.7Cu−xInで、x=1.5ではCu6Sn5のほかにCu9In4がX=
形成され、X=2.5でC10Sn3が形成されるとしている。
In添加によりクリープ特性、ヤング率が低下する。
また
エジプトのザガジグ大のグループによるとSn−0.7Cu−2Inでは
Cu6Sn5、γIn−Snが見られるという。
国立台湾大のグループによるとSn−20In−0.8Cu(168−185℃)ではCu6(Sn,In)5が認められるという。
(d) Sn−Cu−Ga
愛媛大のグループによるとSn−0.7Cu−4Gaの融点(溶融開始、液相線?)はSn−Pbより低いという。
Cuとの接合は2Gaに極値があるという。ただしGa添加に伴い脆くなる欠点がある。
瀋陽国立物質科学研究所のグループによるSn−0.7Cuに0.01Gaと0.05Pを添加しての耐食性比較では
Gaは効果があるがPは効果がないという。