(14−3−2) ブラック・パッドと諸因子の影響

  以上は主にブラック・パッドが生じたアセンブリについての解析結果であるが、以下にめっき工程からの
 ブラック・パッドの原因を調査した諸報告を見てみる。

ITRI報告
  種々の因子について検討しているがブラックパッドは再現せずはっきりした関係は不明。

 検討された因子

 Round1
 実験条件
  P量:低(6−7%)、中(7−9%)、高(8−10%)
  NiとAu浴:0MTO、5MTO
  Ni厚み:1.9μm、5.1μm
  Au厚み:0.05〜0.08μm、0.10〜0.17μm

  接合強度試験では非常に悪いものから良いものまであったがブラック・パッドは発見されなかった。

検討された因子

 実験条件
  Ni厚み:1.9μm、3.8μm、5.7μm
  Au厚み:0.05μm、0.10μm、0.15μm
  Ni速度:0.8、1.0(基準)、1.2
  Au速度:0.8、1.0(基準)、1.2

  ブラック・パッドは発見されなかった。

Veninga


   

Atotech
 ENIG表面処理のNi層のP濃度がブラックパッドの根本的原因か?

  めっき反応(NiとPの共析)




  P量と無電解Niの特性




  浸漬Auめっき反応


  Au置換反応によるAu下の非常に薄いP富化層形成


  ブラックパッドの出現したPCBの外観


  症状
   Niの過剰腐食で(はんだ付け前でも)表面に暗い帯形成。
   置換AuのNiへの貧弱な固着。
   影響領域には厚い置換Au(>0.12μm)が認められる。
   Auのシアン剥離でパッドに重い泥亀裂mud crackが見える。
   欠陥はんだ接合はNiの濡れはじき領域を呈する。
   欠陥領域は黒い汚れのような色で黒くみえる。
   表面のP富化が認められが、これはNiとAuの重い交換反応の副作用で濡れはじきの根本原因ではない。
   予知できない低水準の欠陥。

  ブラックパッドは通常のNiへのAu置換の制御された反応が制御されていないので超腐食としても知られている。

  試験条件









            12.0%Pの高P ENIGのIMC調査

  高速せん断試験結果




  耐SO2ガス腐食試験結果



  結論
   Ni層のP量が10wt%ではENIG層は腐食しやすいかという問題に対する答えは否。
    10%Pを含有するNiはNi腐食杭(スパイク)を示さず、化学的にはより活性的でなく、
    非常に耐腐食性があり良好なはんだ接合をもたらす。
   高P量が過腐食を引き起こすかという問題に対する答えも否。
    NiとAuの交換反応は高Pでは低く、高P ENIGはより反応性が小さく、超腐食あるいは
    ブラックパッドに耐性がある。
  Ni層の高P量ははんだ接合一体性を劣化させるか。
   高速度せん断試験によれば中P ENIGとせん断強度では同等で全エネルギーでは高い。

  市場では高P ENIGの能力が過小評価されている。
   高P ENIGはブラックパッドへの高耐性にほかにAu量が減少するという利益がある。
   Auが薄いことは高孔性を予想させるが高P Ni層はNi粒界を示さず、Au浴で攻撃されにくく、
  Auは薄くても緻密である。
   孔はAu厚みだけで決まるのではなく、下のNiの性質と品質およびAu堆積法も関係する。

Johal
 最終表面処理として無電解Ni/浸漬Auを使用するPWBのブラックパッド欠陥の原因機構研究

 ・ブラックパッド欠陥観察の要約

   光の反射とはんだ付けの熱工程による金属表面酸化でパッドは黒あるいは暗い灰色で出現。


   SEMではシアン剥離で無電解Ni表面は泥亀裂トポグラフィを呈する。


   ENIGでの最上層の強化層をもつスルーホールあるいは表面実装パッドの断面は虫歯効果、Cuまで浸透する
 無電解Ni層の深い腐食を呈する。
   これはAuよごれと無電解Ni層破壊を防ぐためのENIG上へのNi保護層電解によって最も良く調べられる。


  浸漬Auのシアン剥離と表面検査によって明るい領域と暗い領域が現れる。
  暗い領域は腐食あるいは不均一無電解Ni表面形態を示す。


  制御されない浸漬Au置換は堆積した無電解Ni上に不都合な構造となりAu層のはがれ、ふくれををもたらす。
  浸漬Au堆積前の汚染あるいはNi表面酸化と混同するな。

   加速堆積(めっき)による無電解Niめっき上の浸漬Auはがれあるいはふくれ

 ・諸研究で示されたブラックパッドを促進あるいは抑制する多くの因子の要約

 1. 最小無電解Ni厚み4μmが推奨される。薄い厚みはより塊状な表面形態をもたらし、高浸漬Au浸透を起こす。


  より塊状な2.5μm以下の低Ni厚みと正常な厚み5.0μm

 2. 無電解Niの堆積速度は実質的に堆積Niの化学的と物理的性質の両方を変えることができる。
    これは内部応力、機械的および電気的特性とより重要なのは共析P量を含む。
    一般則として速度が速いとP量が低い。それゆえ盛業され一貫した無電解Ni堆積速度が必要である。

 3. 無電解NiのP量は多く研究され、7−11wt%が4−6wt%より良いという人もいる。

 4. 浸漬Au厚みがはっきりとブラックパッド欠陥と強い結びつきを示す。業界は0.05〜0.13μmを推奨。
    0.15〜0.23μmの厚い浸漬Auは無電界Ni層を高度に侵食する。
    厚いAuの影響は無電解Niの厚みが3.0μm以下だと拡大される。




  回路基板の設計によるもたらされるブラックパッドにいたる可能な機構をこの研究が調査



  実験は
 1. Au浴での電気的結合したCuとNiのガルヴァニック効果でひきおこされるAu浸漬の加速堆積


  露出Cu領域とNi領域の比が8:1を超えると暗い無電解Ni表面となる。
  Cuに対するNi表面領域が増加するとNi表面暗化は認められない。

 2. 電気的に結合された異なる品質の無電解Niの効果


  影響なし。

 3. 浸漬Au浴に使用される複雑な試薬の効果。

  堆積速度に影響。

  結論
   Cu/Ni間ガルヴァニック・セルが存在し得、加速浸漬Au堆積で強いNi腐食とブラックパッド欠陥をもたらす。


Roepsch Champaign

 ブラックパッド欠陥

  無電解Ni/浸漬Auめっきから生じうる。
    浸漬Auめっき浴での超腐食的活性。
    P富化層を生じる。
  欠陥をもつ表面の外観から名が生じた。
  最終製品では破壊的にのみ同定される。
    Au層エッチングで調べられる。

 ブラックパッドの同定
  泥亀裂外観
  異常に厚いP富化層
    ある程度のP富化層は正常はんだ接合でも期待される。
  Ni粒に沿っての腐食杭(spike)
    腐食杭は応力集中点として働き、IMCに亀裂を引き起こす得る。
  異なる水準の欠陥の厳しさが同定される
    はんだ接合信頼性へ反しない効果からNi表面の不濡れと、あるいは早期接合欠陥までの 
   (*この実験で特有なのはNi(P)めっきを浸透し下地Cuに達する厳しい腐食杭によるCu−Sn IMC形成の同定。
     このような不良は恐らく日本ではほとんど起こりえず、めっきい工程に対する基本的あり方の問題のような気がする。)

 ENIGめっきの利点
  微細配線に理想的
  平らで高度に均一
  多回はんだサイクルで生き残る可能性
  腐食耐性
  長シェルフ寿命
  導電性
  ワイヤボンド可能表面
 欠点
  ブラックパッド欠陥
  予測できない欠陥発生
  製造工程制御困難
  潜在界面破壊不良

 不良部品の不良解析結果

  破壊時にCCAに残ったはんだボールの最上。
    破壊面は平らな外観。

 













 表面から見たはんだの窪み領域


  腐食杭経由のはんだとCuパッド間に経路が存在。





  泥亀裂を取り囲む暗い領域は高P領域を示す。              腐食杭はP富化層下のNiへ伸びる。



 不良部品の要約

 ・不良表面は平らな外観。はんだ不濡れ同様脆性破壊の証拠。
 ・無電解Ni/浸漬Auめっき表面処理。
 ・不良部品に激しいブラックパッド検出。
   表面の泥亀裂外観。
   P富化層。
   Ni層を突き通して下地Cuまでの腐食杭。
   Ni層上のCu/Sn IMC検出。
 ・多くのBGAパッド表面はNi(P)への不濡れを呈する。
 ・IMCは脆く、機械的衝撃に耐え得れない。
 ・Ni/Sn IMC下のNi層の腐食亀裂は応力集中点として働きIMC破壊あるいは亀裂可能性を増加させる。

 不良PWBの付着部品例


  部品側のパッドとボール界面の像










 付着部品の要約
  ・ブラックパッド欠陥が存在。
  ・Cu/Sn IMCが不良部品にも同様に存在。
  ・界面のNiめっきとCu/Sn IMC間に激しい亀裂存在。
  ・Cu/Sn IMCがはんだボールから部品パッドに食い込む。
  ・はんだボールがパッドに付着するCu/Sn IMCで発生する微小亀裂存在。

 PWB不良

  PWB不良履歴
  ・めっきスルーホールPTHでのはんだ不濡れにより部品実装基板が不良解析室に届く。
  ・数度のリワーク後でも依然としてはんだは濡れない。
  ・PTHの光学検査で黒い表面存在が示される。
  ・SEMで泥亀裂表面を示す。
  ・EDS分析で暗い領域での高P量を示す。







 信頼性問題
  ・ブラックパッド欠陥は多くの場合破壊検査でのみ検出される。
  ・潜在不良を起こす。
  ・腐食杭はもろいIMCへ応力を集中し得、早期不良を引き起こす。
  ・激しい場合、部品からPWBに届くCu/Sn IMCを形成し得る。
   弱いあるいは周辺の接合は潜在不良時期まで気がつかないで居得る。
  ・ブラックパッド欠陥に利用できるスクリーニング試験がない。
  ・欠陥の発生は無秩序で予測できない。ロットに特別ではない。
  ・置換Au浴で起き、欠陥を起こす特別なパラメータは今の時点で知られない。
  ・幾何学的密度に関係すると信じられている。配線寸法減少でより起き易いだろう。

 ブラックパッド欠陥発生に影響する因子
  議論される問題点
   パッド幾何(形状)
   Cu表面粗さ
   はんだマスクの影響
   P量
   応力
   Ni粒構造

 結果

  銅表面粗さ
  ・欠陥はNiめっきの窪んだ領域により起こり易い。
  ・窪んだ領域はCu表面トポログラフィ(形状)に伴うNiめっきの結果。
  ・BGA部品のめっきで容易に観察される。
  ・PWBめっき試料は類似の異常をもつが多くはない。



   微細配線(〜25μm)により窪み領域のよどみ帯stagnant zoneがあり得る。
   よどみ帯は電荷均衡の維持による腐食の結果。


  はんだマスクの影響
  ・欠陥ははんだマスクがある領域に多い。
  ・めっき浴汚染によってはんだマスクはブラックパッド発生し得る。
  ・硬化不十分なundercuredはんだマスクが汚染を出しうる。


  はんだとNiめっき近くのはんだマスクの後方散乱電子SEM像。
  ブラックパッドはこれら端に起きている。

  P量
  ・文献では低P量で欠陥発生が増加しがちである。
  ・文献ではブラックパッド欠陥を避けるために中範囲Pめっきを推奨。
     7−11wt%P
     6−8.5wt%P
  ・この研究のデータではP量は低ければ欠陥はより起き難い。
    NiめっきのPがより多ければP富化層をより形成し易い。
     5−6wt%程度が発生なし、6.5−8.5wt%程度で発生。

  パッド形状
  ・形状が欠陥発生で役割を演ずる。
  ・欠陥はパッド中心に対しパッドの角、端でより頻繁かつ激しく起きるのが認められる。
  ・多くの場合、欠陥は端から始まりこれを起源に拡大する。
  ・角での応力増大が欠陥所在位置として寄与すると疑われる。




  応力
  ・応力がある領域に集中することによりある形状の配線がより影響することがありそう。
  ・表面粗さが固有応力に影響しそう。
  ・粗い表面堆積は一般的に高応力と関係する高内部欠陥と関係する。
  ・P量もまた弾性係数、CTEと堆積Ni膜の固有応力に影響すると報告されている
  ・10.5wt%PでNiめっきは応力がない。
  ・P<10.5wt%で引っ張り応力で、P>10.5wt%で圧縮応力。
  ・全応力は累積的。
  ・基材の特性により応力は変化。
  ・ENめっきが堆積する基材(例:PWB)は一般的に高CTE。
  ・冷却でCTE差によりENは圧縮応力状態にされる。
  ・PWBのENは低P量で無応力となる傾向がある。
    基材の圧縮応力が低P量でのめっきの引っ張り応力を相殺する。
  ・内部応力に影響する因子は他の因子同様に形状、P量、基材を含む。
  ・累積効果考慮の必要性。
  ・応力に影響する種々の因子の累積効果により文献の矛盾が説明し得る。
    文献では低P量が欠陥を形成し易いと述べているがこれは本実験と相反する。

  Ni粒構造


  断面でパッドの端と中央で粒構造に違いが観察される。
  表面近く(Au直下)の粒が広がっている。
  引っ張り応力状態に見える。

 
  データによって応力が欠陥発生に影響することが支持される。
  Ni粒が角で引き離されているのが示されている。
  10.5wt%以下ENめっきは固有引っ張り応力状態。
  粒解析によれば端で引っ張り応力がより厳しく、ブラックパッド発生を促進する。


  パッドの角あるいは端の粒はパッドの中央平坦部より顕著に大きい。
  粒構造とブラックパッド間の関係は依然調査中。

  要約・結論
   BGA不良
   ・Niへのはんだの濡れ不足がほとんどあるいは全くNi/Sn IMC形成がないことで証明される。
    (*Cu含有はんだではNi/Sn IMCが形成されるとは限らない。)
    Ni(P)めっきでの激しい腐食杭がCu/Sn IMC形成を可能とするはんだのCuパッドとの接触を起こす経路を
    作り出す。
   ・Cu/Sn IMCがはんだボールから部品パッドに据えられる。
   ・機械的不良の前にブラックパッド欠陥の兆候はない。
   ・激しいブラックパッドの場合、社内で検出されなくても潜在不良が切迫している。
   PWB不良
   ・PWBはPTHではんだ濡れ不足。
   ・基板前処理ははんだ付け性に顕著な差をもたらさない。
   ・ブラックパッド欠陥はPTHで最も激しい。
   ENIGめっきの信頼性
   ・ENIGめっきはブラックパッド欠陥を有し得る。
   ・欠陥は製品出荷前に検出され得ない。
   ・潜在不良の危険性状態にある。

   影響因子
   ・ブラックパッドといくつかの因子の間の関係が分かった。
     表面粗さ、はんだマスク、P量、形状、応力、粒構造
   ・パッド端がパッドの他よりより激しいブラックパッドを有する。
   ・はんだマスクからの汚染が欠陥形成に影響する。
   ・不規則表面配線が欠陥を形成しやすい。
   ・P量データによれば低Pが欠陥を形成しにくい。(*上述のようにこれと反対の見解は多い)
   ・欠陥形成が応力で影響されることが研究により示唆される。

  *観察結果から推定しているだけであって、実験により因果関係で証明されている訳ではないようだ。


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