(14−3) 無電解Ni−P/Auのブラック・パッド問題



  無電解Ni−P/置換AuめっきではPbはんだでもはんだ弾き、あるいは濡れ不良の発生が問題とされ、
 このはんだ弾きはPbフリーはんだでより発生しやすくなってきているが、原因は明らかでなかった。
  一部ではAuめっきが薄いことによるNiの酸化に原因が求められ、やみくもにAuを厚くすることを推奨するむきもあるが、
 Auを厚くすることはAuのIMC形成による別の問題の原因となり、本来めっきに問題がなければAuはフラッシュといわれる
 0.03〜0.08μm程度でも問題は生じない。
  外観的にははんだはじき部が黒く見え、このことよりブラックパッドと称される。
  このブラックパッドは程度に幅があり、はんだを弾いて黒く見える場合から一見はんだが濡れているように
 みえ潜在化しているものまで様々有り得るとされる。

  一方、Pbフリー化に伴い、無電解Ni−P/置換AuでのBGA,CSP(バンプ)の耐衝撃性などの接合信頼性の低下が問題化し、
 この原因は日本ではPbフリーはんだの反応性とされ、具体的にはSnとNi−Pと反応によりP濃縮層が生成することが原因とされ、
  反応の機構やその構造(IMC構造)、それとはんだ組成やリフロー温度、Au厚さなどの関係が研究されてきた。

  このBGA,バンプの問題あるいはblack pad問題は米国などでも研究が行われ、主にめっきとの関係が究明
 されるという日本と傾向が異なる状況が見られる。
  この米国等の研究の過程で無電解Ni−P/Auにおけるはんだはじきないし濡れ不良とBGA,バンプの
 接合信頼性不良問題は関係があるということが判明してきた。

  すなわち無電解NiのPが少ないと耐食性が劣るため、Au置換めっきの際、Niが腐食されPが表面に析出し、
 濡れ不良となる。(ブラックパッド)
  一方無電解NiのPが多いとNi腐食の問題は起こらないが、はんだ付けによるP濃縮が起こり、接合信頼性の
 低下が起こるというのである。
  ただしブラックパッドは低Pのほうが起こりにくいとする主張もある。

  ブラックパッドはNiの超腐食を主因とし、腐食によりNi粒界に亀裂(あるいは局所的溶解)が発生し、亀裂周辺はP富化し、
 腐食の進行に伴いP富化層がひろがり、これに対応して腐食がひどい場合にははんだはじきとなり、はんだはじき
 が起こらない場合でも亀裂による接合信頼性低下が起こりうるという考えがある。
  亀裂は平面的には粒界に網目状(泥地状)に形成され断面的には杭状となる。

  腐食の根本原因はAuの置換めっき(NiとAuのイオン化傾向の違いを利用しNiを溶解させながらAuが置換析出する)
 そのものに起源すると考えられているが、めっき液の汚染やリンスやソルダーマスクの影響等の可能性の指摘もある。
  (もちろん無電解Ni−P/Auの濡れ不良の原因すべてがめっき時のNi腐食というわけではない。)
  しかしながらブラックパッドの原因推定は種々行われているが、それら因子をもとにした実験計画ではブラックパッドの再現
 はなかなか起こらず、明確な因果関係は確立したといえない。
  すなわちブラックパッド対策のためのめっき工程管理策ははっきりしたものとなっていない。

  上述のようにblack padは元々のNi−Pめっきの超腐食によると一般的には考えられているが、本来Ni−Pめっきでははんだ付け
 による界面反応でも多かれ少なかれP富化層が生じ、またNi−Pとはんだの界面反応で生じる界面IMCは脆性破壊を起こしやすい傾向
 を有するために無電解Ni−P/置換Auめっきの信頼性は複雑である。


(14−3−1) ブラックパッド現象

Biunno

  ブラック・パッド条件は最初に1990年Puttlitzによって報告された。
  部分的にしか濡れない暗い灰色から黒い外見を示す欠陥接合をブラック・パッドと称した。
  原因は非常に活性的で腐食的な置換Au(IG)工程が原因で、これが表面近くのP−Ni微細構造を
 周辺とともに完全に不濡れ状態に変化させるというものであった。
  最初の実験計画DOEはLPI(liquid photo imageable)はんだマスク工程をふくんでいた。
  この実験でははんだマスクは多層PCBで激しく接着部分(下の部分)が影響されundercuredていた。
  2回目の実験は無電解Niと置換Auめっき工程のめっき化学であった。
  NiとAu厚み、トポグラフィ、Auポロシティ、構造欠陥に影響する重要因子がチェックされた。
  変化因子はNiとAuのpH、温度、Niの浴組成(makeup)、攪拌、Au自由シアンが含まれていた。

  実験結果は思わしくなく、欠陥は再現しなかった。

  一般的結果
   Ni pHがNiの厚みとトポグラフィ全般に最も顕著な効果を示す。
   NiとAuの温度が厚みに強い影響をもつ。
   pHと攪拌相互作用は厚みに弱い影響しかもたない。
  構造結果
   試験因子と構造欠陥は弱い相関:繰り返し実験は混合した結果をもたらした。
   欠陥挙動activityは集合clusteredしていることが判明。

   超hyper活性に基づき欠陥構造を8分類。

 1.最小IGスパイク(杭)浸透


 2.深いIGスパイク浸透(上方の写真)
 3.浅く広がったIG浸透(下方の写真)


 4.深く広がったIG浸透


 5.無電解Ni塊からのIGの分離


 6.小区域黒帯


 7.端区域黒帯(上方の写真)
 8.大区域黒帯(下方の写真)


  はんだ接合不良後のブラックパッド表面の平面視顕微鏡写真

  ブラックパッド不良は通常、変形したNi表面ではっきりした分離を示す。
  わずかあるいは全くNi−Sn IMCがNi表面あるいは部品端子で認められない。
  黒い表面は泥亀裂mud cracked様相外見をもちP濃度は10wt%を越える。


  いくつかの長いスパイク(杭状突起)認められ、これは2つの塊の間に存在し、空隙のように
 みえる。塊の境界の小さな空隙状スパイクも見られる。
  表面近くに空隙があり、Ni層のバルクより密でないことがはっきりわかる。


  欠陥はいくつかのパッドに集まる傾向がある。超IG腐食は無秩序に起こるのではない。


  1から4の欠陥タイプの密度は非常に低いが明確で一様なNi/Sn IMC連続層が存在。

  電圧誘起超活性


  右の4つのブラックパッドは1Vに結合、左から中央の橙色パッドはグランドに結合。


  電圧で誘起されたブラックパッドは自然におきるものと全く同じ特徴をもつ。
  (泥亀裂状mud cracked様相外見、粗い表面、高P量)
  誘起腐食の浸食はある場所では激しい。


  グランドに結合したすべてのパッドは高加速Auめっきが起きている。
  大きな立方Au結晶が橙色パッド表面に観察される。通常の置換Auの1000倍以上の大きさ。
  影響は非常に局在化。

  P富化IG超活性 誘起vs自然

   P富化には2つの異なる原因がある。


  黒帯欠陥はNi/はんだ界面領域に形成されるP富化層で通常バルクP濃度(4〜7wt%)の2倍。


  黒帯欠陥形成によるP富化。
  ほとんど完全にNi/Sn IMCが存在しない。


  良好なはんだ接合界面例。
  界面近くの薄い黒帯の直上にNi/Sn IMCが見える。
  薄い黒帯は表面近くでのIMC形成によるNi欠乏で形成される。

  シアンエッチングによるブラックパッド表面解析

 



  結論
   ブラックパッドによるP富化はNi/S IMC形成による薄い自然のP富化層と区別できる。


Zeng
 
  熱サイクルではんだボールがとれたENIGめっきパッド。
  ブラックパッド表面には微量の微細なIMCがあるが、はんだはほとんどない。
  パッドは平らに見える。


  高倍率ではめっき塊(ノジュール)の境界のような特徴が表面に観察される。(a)
  30度傾斜で境界状特徴はめっき塊から分離して見える。(泥亀裂mud-crackとよばれる)
  パッド表面の組成はNi3Pに近く、接合はNi3PとNi3Sn4の間で破壊し、泥亀裂はNi3P層に存在することを意味する。

 
  断面ではパッド表面に泥亀裂が杭状(spike)に見える。


 欠陥品(a)には杭(スパイク)があり、良品(b)には欠陥はない。

 
  杭あるいは亀裂周辺の羽状構造は正常なNi(P)めっきと異なる。
  欠陥領域は2つの異なる領域からなる。
   暗い取り囲む物質と明るい核、明るい核はAuに富み、欠陥領域のP量はNi(P)めっきより高い。


  はんだ付けされていない試料。
  パッドは周辺に激しい欠陥領域がある。
  上から見ると、めっき塊の境界は灰色で広く、黒い物質−多分Pで飾られている。
  側面から見ると境界は深く見える。ひとつは深くて亀裂のように見える。(矢印)

 
  めっき塊の間の杭に加え、塊は多孔質。


  パッド端の塊境界は完全に亀裂。
  付近の塊は大きな欠陥領域、Auが亀裂に浸透。(a、矢印)
  塊の欠落も認められる。(b、矢印)

・ブラックパッドの診断

   ENIGめっきがブラックパッドであろうがなかろうがはんだ付け後のP量は元のNi(P)めっきより高い。
   これはENIGとはんだの反応による。
   はんだ付けではんだの種類によりNi(P)とで異なるIMC層が形成される。
   Cuを含有しないはんだではNi3Sn4、Cuを含有するはんだでは(Cu,Ni)6Sn5。
   はんだ反応はアモルファスNi(P)めっきの結晶化を促進する。
   多くの商業的に生産された基材ではP量は7〜10wt%。
   結晶化でこの組成のNi(P)めっきはNiとNi3Pの混合に転換する。
   Ni原子は(Cu,Ni)6Sn5に取り込まれるかSnと反応しNi3Sn4となる。
   そのためリフローでNi(P)の結晶化部分はNi3PとなりPはNi(P)めっきより多くなる。
   これら2つIMC層の間に他の非常に薄い層、約100nm厚みのNi、Sn、P含有層がある。
   ブラックパッドがはんだボール不良をおこすとはんだボールは通常Ni3Sn4あるいは(Cu,Ni)6Sn5層と
  Ni3P層の間でパッドから分離する。
   パッド表面のEDX分析ではNi3Pからの信号が主に検出され、P量は15wt%(25at%)を越える。
   破壊パッドの高P量事態はブラックパッド欠陥の証拠ではない。

  著者や文献からENIGめっきのブラックパッド欠陥同定に以下の基準が提案される。
  低倍率では不良パッドは平らに見える。ほとんどはんだはパッドに残っていない。
  高倍率SEMではパッドは暗く見える。若干の孤立したIMCあるいははんだが見える。
  しかしパッドはIMCあるいははんだで覆われていない。
  塊境界がパッド表面の上からはっきり見える。
  泥亀裂を見るため30°傾斜すると塊境界が分離していることがわかる。
  決定的証拠はパッド断面でパッド表面に杭spikeが認められること。
  断面の杭は表面の傾斜視での泥亀裂に相関する。これでブラックパッドと結論できる。

・ブラックパッド欠陥の起源

  はんだ付けがブラックパッド欠陥を起こすように思われるがこれは正しくない。
  いくつかのモデルがあるがBiunnoのモデルが支持される。
  彼のモデルではブラックパッド欠陥は置換Au浴によるNi(P)めっきのガルヴァニック超腐食の結果である。

・ブラックパッドのはんだ接合の破壊機構

  溶融はんだが深く腐食領域に浸透すると腐食領域の空隙を広げる。
  腐食領域がはんだ付け可能でも腐食したNi(P)の多孔性のため結合は弱い。
  主IMC(Cu6SnあるいはNi3Sn)とNi3P層の間に形成されるKirkendallボイドのためENIGめっきとはんだの
 界面強度は過活性腐食がなくても本来弱い。
  もし周辺が激しく腐食されていると亀裂は簡単に発生しボイドの生じたNi−Sn−P層を経由して伝播し、
 主IMCとNi3P層の間で破壊する。
  破壊でパッドを上から見ると2つの異なる領域が認められる。
  露出したNi3Pと泥亀裂と他は破壊したNi−Sn−P(Ni3SnP)層。
  暗い領域はNi3Pで灰色領域はNi−Sn−P。



  結論
   ブラックパッドは不適正なはんだ付け工程が原因かどうかの議論があったが、
  はんだ接合のブラックパッド不良でははんだ付け前にNiめっきに泥亀裂あるいは杭(スパイク)が存在し、
  亀裂の周辺物質は腐食している。これよりENIGのブラックパッド欠陥は置換Auめっき浴による無電解Niめっきの
  超活性腐食の結果であることが支持される。
   泥亀裂はははんだ付け工程で形成される。(?)
   ENIGめっきのはんだ接合の界面不良はNiのAuめっきでの超ガルヴァニック腐食とリフローによるNi−Sn−P層の
  Kirkenndallボイドの結合効果である。
  (*Biunnoの解釈と異なる部分がある)


日立化成

  熱処理された無電解Auめっき表面でのワイヤボンディング強度が低いのと
 無電解Auめっき表面ではんだボール接続強度が低い原因。
   ワイヤボンディング→下地NiがAu表面に拡散してAu表面を汚染。
   はんだボール→下地Niの置換Auめっきでの局所的溶解によりNiめっきとAuめっき界面に腐食層が残存。

・無電解Ni(P)/Auのワイヤボンディング性(熱処理の影響)




・はんだボール(SnPb共晶)の接続
  高速せん断試験での界面破壊モードの観察





  無電解Ni/AuではAuとNiの界面でNi層内に局所的溶解が存在。


  無電解Ni/Auでは局所的溶解以外に無電解Niめっき表面は置換AuめっきによってNiが溶解して、
 均一かつ微小な溶解孔が形成、相対的にPが濃縮された白色の空洞層になっている。


  無電解Niの置換Auめっきの被覆は十分でない。


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