(11−8) はんだ接合界面に見られるいくつかの特異現象

(11−8−1) 概観

 Pbフリーはんだ接合界面について種々の現象、問題が指摘されているが多くは長時間リフローや過度な複数回リフローなど
実際的でない条件が多い。
 以下主な例を挙げる。

 @ Kirkendallボイド生成
    Cu3SnではCuがSnより移動しやすく、Cu6Sn5の下へのCu3Sn成長に伴いKirkendall ボイドが生成し、
  界面脆性破壊による信頼性問題を引き起こすとされる。
    無電解Ni(P)でもはんだとの反応に伴うP濃縮層(Ni3P)の成長に伴い発生するとされる。
    ただしKirkenndallボイド生成については議論がある。(発生の有無、生成原因、影響等)

 A 界面からのIMCの大規模剥離
    IMC剥離は溶融はんだ中で長いリフローにより電極との間に形成されたIMCが基材(パッド)から遊離すること。
    反応相の1成分の枯渇に伴うIMC種の変化により過渡的に2層IMC構造となりIMC層間で大規模剥離が発生するとされる。
      例:Ni電極ではんだ中Cu量の減少により(Cu,Ni)6Sn5の下から(Ni,Cu)3Sn4が成長し2層構造となり、
       (Cu,Ni)6Sn5が剥離。
    応力や下地との濡れ(接合力)が原因ともされる。

 B Cu基体とNi基体の交差反応
    Cu基体とNi基体の相互接合では、はんだ中に溶解したCuはNiに引き寄せられNi基体界面で(Cu,Ni)6Sn5を形成、
   またはんだ中に溶解したNiはCu基体界面に移動しCu6Sn5に固溶。

 C AuSn4再堆積
     再堆積redepositionとは電極(パッド)から溶解しはんだバルク中に分散した成分がエージングで電極付近に
    層状のIMCとして偏析していく現象。Ni/AuのAu(AuSn4)で見られ、Niとの親和力によるとされる。

  以上はこの後詳しく述べる、以下についてはすでに述べたが再述する。

 D 接合界面のCu6Sn5の帆立貝殻scallop状という特殊な形状の影響
     IMC間の隙間が拡散チャンネルとなる。
     帆立貝殻scallop状の根元で亀裂発生しやすい。
     Ni、Co添加で緻密な組織となる。
野北


 E Cu6Sn5の相変態の影響
     高温安定相の六方晶ηCu6Sn5(密度8.448)から低温安定相の単斜相η’Cu6Sn5(8.270)への186℃での相変態で
    2.15%の体積上昇し、亀裂発生。
     通常は高温相が凍結されているがエージング等で変態。
     Ni(野北)、Co(東芝)は相変態に影響。


 F はんだとNi基体の反応へのCuの影響
     NiとSnの反応で形成されるのはNi3Sn4だが、はんだ中のCu量により(Ni,Cu)3Sn4、(Ni,Cu)3Sn4と(Cu,Ni)6Sn5の2層、
    (Cu,Ni)6Sn5単独と変化する。
     しかし2層構造は実際のリフロー条件ではあまり生じるように見えず、多くは長時間リフロー、多数回リフローとかなり非現実的
    条件か、(Cu,Ni)6Sn5単独形成状態からのエージングによるものである。

 G 電解Niでの界面反応へのCuの影響
     Cuを含有しないはんだでは界面は
       はんだ|Ni3Sn4|Ni
    となるが、Cuを含有すると
       はんだ|(Cu,Ni)6Sn5|Ni   
    となる。
     この場合、エージングで(Cu,Ni)6Sn5とNiの間に(Ni,Cu)3Sn4が成長。
       はんだ|(Cu,Ni)6Sn5|(Ni,Cu)3Sn4|Ni

 H 無電解Ni(P)でのNi3P形成
     SnとNi(P)の反応ではNi(P)にPの濃化が生じ、Pリッチ相が生じる。
     Ni3P(Pリッチ層)の構造は複雑であるが以下では単純化してある。
     Cuを含有しないはんだでは界面は
       はんだ|Ni3Sn4|Ni3P|Ni(P)
    となるが、Cuを含有すると(Cu>0.6%)
       はんだ|(Cu,Ni)6Sn5|Ni3P|Ni(P)
    となり、Cuを含有すると(Cu,Ni)6Sn5の形成でエージングでのNi3P(Pリッチ層)成長が抑制される。

 I スパッタNi(V)でのNi3Sn4抑制(ishikawa
     Cu含有はんだ|(Cu,Ni)6Sn5|NiVで複数回リフローではNi3Sn4は形成されず(Cu,Ni)6Sn5|Ni−Sn−V|NiVとなる。


 J スパッタNi(V)でのSnパッチ生成(精華大
     Cu6Sn5|Ni(V)でCu6Sn5の粒界付近の拡散の速い場所のNi(V)にSnリッチ相(Ni−Sn−V))を形成しエージングで徐々に拡大。
     Cu6Sn5とSnリッチ相の間には(Ni,Cu)3Sn4生成。

 リフロー後

 200℃、1000h

KAIST



*補遺
 NiVは局部的反応を起こしやすい?

Kim
 Ni(V)が局部的に溶解し(Ni固溶のAu−Sn IMC形成?)、Alがはんだ(Au−Sn IMC?)に露出し、Au−Alを形成。


精華大 Snパッチ

 エージングでCu6Sn5の粒界付近のNi(V)層にSnリッチ相形成。Snの増加でV2Snが形成されSnパッチとなる。

 K Sn−ZnはんだとCu、Ni/Auとの反応
     Sn−ZnはんだとNi/AuではまずAu−Zn IMCが形成されるが、Auの量によりAu−Zn IMCははんだ中に遊離していき、
    界面にはNi−Zn IMCが形成される。
     Sn−ZnはんだとCuではCu−Zn IMCが形成される。
菅沼の概観 

Kim


 L 合金基材(電極)との反応
     42アロイでは(Fe,Ni)Sn2の2層構造で基材側は均一ではんだ側凸凹している。反応は遅い。
     黄銅(Cu−Zn)ではCu6Sn5。その他銅合金もCu6Sn5。
Hwang 阪大 


Kim



Zeng 概観
(1) Ni(P)と共晶SACの反応 Ni3Pの形成
 SnPbではNi3Sn4|Ni3Pとなるが、SACでは(Cu,N)6Sn5|NiSnP|Ni3Pとなり、ボイドも生成。



(2) 薄膜Cu/Ni(V)/Al UBMの溶融共晶SACによる溶解

 SnPbでは薄膜Cu/Ni(V)/Al UBMは安定


 SACの場合
  多数回リフローでは界面IMCは長く伸びる。




  リフロー回数とともにNi(V)層にSn、V、Alを含む白いパッチが生じる。
  更なるリフローで白いパッチはNi(V)層を食って広がり、最終的にIMCとAlの間はSnとなる。


  エージングでも同様の結果




 SACはCuの溶解度が高いため、Cu6Sn5が溶解し、Ni(V)が溶融はんだに露出する。

(4) Au/Ni/Cuでのはんだ接合におけるAuSn4再配分(再堆積)

 はんだ(Pb)によるNi3Sn4へのAuSn4の濡れやすさから説明。
 *SnAgでも認められているのでこの説は受け入れられない。

(4) 基板側金属化がはんだ接合を横断してチップ側IMC剥離を引き起こす。
   <下記> Ni電極へのAuの影響、AuがNi溶解を促進

(5) エレクトロマイグレーション (省略)
(6) ウィスカ成長 (省略)

Zeng プレゼン  

(1) Cu3Snの形成とボイド生成


(2) SnPbでのNi基体へのAuの影響、エージングによる(Au,Ni)Sn4の再堆積(Ni3Sn4上に層状に偏析)。


(3) 対向Cu電極からのCu溶解の影響、Ni上への(Cu,Ni)6Sn5形成



 以下2つは詳しい論文みあたらない。詳細不明。

(4) Ni電極へのAuの影響、AuがNi溶解を促進

 Auが存在するとCu6Sn5が球状となり、Niがはんだへ露出する。

 

 *この写真では下地が同じでない(CrとTi)ので断定はできないと思われる、下地の状態(酸化など)の問題も考えられる。

(5) Ni電極への対向Cu電極の影響、

 Ni上に形成されたCu5Sn5が長時間エージングで成長し多量のNiを固溶し、Ni基体劣化。


 *なぜポーラスになるのか、Kirkendallボイドのせいあるいは(Cu、Ni)6Sn5の特異な形態によるものか(粒界が反応しやすい)?

Ho 界面反応問題
 Sn基はんだとCuとの反応でのNiの効果
  Kirkendallボイド形成
    Sn−Znはんだ以外では50℃以上の反応でCu6Sn5とCu3Snが形成され、Cu/Cu3Sn界面とCu3Sn内部にボイド形成。

  はんだへのNi添加
    Cu3Snの抑制、Cu6Sn5が厚くなりNiがCuを置換し(Cu,Ni)6Sn5形成、
  2層で上は(Cu,Ni)6Sn5粒子の集合。

 Sn基はんだとNiとの反応でのCuの効果
  Cu濃度効果
    Cu<3%:(Ni,Cu)3Sn4形成
    0.4〜0.5%:(Ni,Cu)3Sn4と(Cu,Ni)6Sn5形成
    Cu>0.5%:(Cu,Ni)6Sn5だけ形成 
    不一致の理由のひとつははんだ量効果


       <250℃、10分ではんだ付け>
  はんだ量効果
    接合が小さくなるとCu濃度は急速に低下、はんだ体積が小さいとCu供給は一定とみなされ得なくなる。
    小さなはんだ接合と長い反応時間でより激しくなる。


  大規模剥離
    Cuの枯渇とCu6Sn5とCr(下地)との貧弱な濡れに起因 通常の剥離


    大規模剥離は大きなCu濃度降下を起こしやすい小さな接合で起き易い。

    (Ni,Cu)3Sn4層の形成で元の(Cu,Ni)6Sn5層が押しはなされる。



    抑制には高Cuはんだの使用とはんだ接合のどちらかの側のCuを厚くする。
  固体反応(エージング)でのはんだ量効果



 はんだ接合を横断してのCuとNiの交差作用
  溶融はんだとの反応での交差作用
    リフロー経路の差


  PathT:Cu側リフロー→Ni側リフロー(同時Cu側再リフロー)
   では最初のリフローでSn−3.5AgとCuの典型的なほたて貝殻状Cu6Sn5、
   溶解した多量のCuのため長いCu6Sn5棒がはんだ中に析出。
    第2回では溶解したCuの影響でNi側には(Cu,Ni)6Sn5が形成、
   Cu側のIMCにはNi固溶、(Cu,Ni)6Sn5となる。


  PathU:Ni側リフロー→Cu側リフロー(同時Ni側再リフロー)
   では最初のリフローでNiに薄いNi3Sn4形成。
    第2回では溶解した微量のNiの影響でCu側にはNi量の異なる2層の(Cu,Ni)6Sn5が形成、
   (はんだ側がNi多い)
   Ni側には固溶したCuの影響でIMCのはんだ側は(Cu,Ni)6Sn5に変化。
   FIBで見ると(Cu,Ni)6Sn5の下に薄い(Ni,Cu)3Sn4が存在。


  固体はんだ(エージング)との反応での交差作用


  PathUはNiの溶解効果でCu3Snが薄く、Kirkendallボイドが見えない。


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