(17−3−4) 応力と熱マイグレーション
固体での外部場による物質の微視的運動であるマイグレーションには今まで述べたエレクトロマイグレーションのほかに
ストレスマイグレーションと熱マイグレーションがある。
@ 半導体の配線でのストレスマイグレーション
Alers 東芝
半導体では工程での高温処理により冷却後、金属配線に隣接材料との熱膨張率差により大きな引張り応力が残留応力として生じ、
この応力が時間と共に空孔の拡散により緩和される(クリープ)ことでボイド形成から断線に到る現象が応力マイグレーションである。
ソニー
ルネサス
A はんだでの熱マイグレーションの影響
Abdulhamid 熱thermoマイグレーションとエレクトロ・マイグレーション
緒言(要旨)
金属導体が電位差を受けると電流がアノードからカソードに流れ、一方電子はカソードからアノードに移動する。
金属導体が高電流密度にさらされるといわゆる電子風が運動量の一部を金属あるいは合金の原子あるいはイオンに移し、
原子あるいはイオンを電子の流れの方向に動かす。その結果導体の劣化が2つの形式でおきる。
アノードでは原子が蓄積し最終的にヒロックが形成され、カソードでは空孔が濃縮しボイドが形成される。
Blackは限られた薄膜での平均破壊時間と電流密度の関係を確立した。
Blechは薄膜内での応力勾配が高電流密度でのエレクトロマイグレーションに対向する力となることを明らかにした。
更に薄膜に対し”Blechの臨界長さ”と呼ばれる電気的駆動力による質量拡散が完全に応力勾配と相釣り合う長さ尺度
を提案。
エレクトロマイグレーションの古典的定義は高電流密度の結果による金属でのイオン輸送によって引き起こされた
構造的損傷とされる。
エレクトロマイグレーションは通常低電流密度では顕著ではない。
エレクトロマイグレーションはある種の駆動力下における拡散制御過程での質量輸送である。
ここでの駆動力は移動種の濃度勾配だけが唯一の要素である拡散過程が関係するのより複雑である。
エレクトロマイグレーションに対する電気的駆動力は電子風力と直接的電場力からなる。
電子風力は移動する電子とイオン原子の運動量交換の効果で、電場が導体に印加されたときに価電子の散乱によって起きる。
電流密度が十分高くなるとこの運動量交換効果は顕著になり、エレクトロマイグレーションと呼ばれる感知できる質量輸送となる。
はんだはCuやAlより低融点(室温でもホモロガス温度の0.5倍以上)であるため拡散的であり、また純金属と
はんだ合金の微細組織は異なるためエレクトロマイグレーションの性質はははんだではCuやAlとまったく異なる。
はんだ合金(はんだ接合)では拡散種がひとつではないということが問題を複雑にする。
高電流密度でのジュール発熱は非常に局在化する。このため熱勾配が発生し熱マイグレーションをもたらす。
基材/はんだ界面の高熱抵抗と電子パッケージの成分の導電性の違いは顕著な温度勾配を引き起こし、
そのため熱マイグレーションが生じる。
典型的フリップ・チップ部品でのAl配線の断面積ははんだボールより非常に小さく、部品の主要な電気抵抗源となる。
そのため大きなジュール発熱がAl(あるいはCu)配線で発生する。これにより大きな熱勾配がはんだ接合を横切って
維持される。
Sn−Pbでは150℃、1.6x10
4A/cm
2で1000℃/cmが報告されている。
またSn−PbではSnは高温側に移動し、Pbは低温側に移動する。
熱マイグレーションとエレクトロマイグレーションの共存ではもし高温側がカソード側と一致すると熱マイグレーションが
エレクトロマイグレーションを促進する。もし高温側がアノード側だと拮抗する。
実験構成
SAC405はんだボール、SAC305プリはんだ
はんだ接合径140μm、スタンドオフ100μm
基材:裸のCuあるいは無電解5μmNi/0.05μmAu
UBM:110μm径、厚み3μm、Ti/Ni(V)/Cu
ダイのAl配線:65μm幅、1.5μm厚み、基材のCu配線:65μm幅、15μm厚み
はんだ接合5、6は熱マイグレーションTMだけ受ける。(高温Siダイ側、低温基材側)
はんだ接合4、10はTMとEMは反対方向。
はんだ接合7、11はTMとEMは同じ方向。
試験前のはんだ接合の微細組織
UBM/はんだとCuパッド/はんだ界面のIMCはCu6Sn5。
はんだ接合の温度分布
はんだ接合の電流分布
Al配線の温度分布と電流分布
はんだ接合のSiダイ/UBMとCuパッド/はんだ界面
2.0x10
4A/cm2、887h、破壊は観察されず。
平均ダイの頂点と基材の下部温度は78℃と66℃
はんだ接合7が最も厳しい拡散駆動力を受けるがボイド核生成あるいは亀裂はない。
上側のCu6Sn5は未試験のものに比べ観察されない。
Cu6Sn5 IMCの島がすべてのはんだボールでCuパッド/はんだ界面近くに見られる。
Cu6Sn5 IMCの厚みは未試験のものとほぼ同じ。
2.4x10
4A/cm2、693hで破壊。
平均高温と低温は103℃と93℃
高温側にIMCは観察されない。
すべてのはんだ接合に亀裂が見られる。
TMとEMが同じ方向に作用するはんだ接合7が最も悪い。
すべてのはんだボールで低温側のIMCは未試験のものより厚い。
Cu6Sn5の島は前の試験にくらべ観察されない。
2.8x10
4A/cm2、562minで破壊。
平均高温と低温は135℃と126℃。
高温側の界面はいずれもIMCがない。
低温側は未試験のものよりIMCが厚くなり、いくつかのIMC島が観察される。
すべての三つの負荷の場合で高温界面でのCu6Sn5 IMCの欠如が明白。
下側のIMC層が厚くなるのが観察でき、Al配線のエレクトロマイグレーションあるいは溶融による
損傷はない。
結論
はんだ接合の破壊は熱マイグレーションによる。
破壊試料では亀裂とCu6Sn5の分解が高温界面で観察された。
亀裂と分解は熱勾配駆動力下でのCuの低温側への拡散の結果である。
恒温エージングではCu6Sn5の欠如は観察されないのでIMCのSnとCu原子への分解は熱勾配力下で
起きると思われる。
観察結果から熱マイグレーション駆動力はエレクトロマイグレーション力と同じかそれ以上でさえあることを意味する。
Abdulhamid Pbフリーはんだの機械的性質への熱マイグレーションの影響
実験構成
はんだ:SAC405、はんだで2つのCu板(19x38mm、0.8mmt)を挟む。
高温側160℃、低温側50℃で温度勾配1000℃/cm。
未試験(リフロー上がり)
平均IMC厚みは上(高温側)が6.7±0.6μm、下(低温側)が4.5±0.4μm
低温側界面
高温側界面
IMC厚み
熱勾配下での低温側から高温側への硬さの低下は高温側でのSn粒粗化による。
恒温エージングでは硬さ低下は見られないのでSn粒寸法は一様。
熱マイグレーションと恒温実験の2つの大きな微細組織の差は
熱マイグレーションでは高温、低温側ともCu3Snが欠如。
熱マイグレーションでの高温側(155℃)でのCu6Sn5層の薄化。
薄化は熱勾配下でCu6Sn5のCuとSnへの分解でおきる。
熱勾配下では両方とも低温側へ移動するがCuがSnより速く拡散し、見かけのCuの低温側への
Snの高温側へ移動は拡散速度の差で引き起こされる。
Cuが低温側へ移動し、分解したSnと反応し新たに薄いCu6Sn5層が形成される。
低温側付近ではCuが高濃度。
Chen エレクトロマイグレーションと熱マイグレーション
電子装置のAlとCu相互接続技術ではエレクトロマイグレーションEMが最もおおきな信頼性問題であるが、
最近消費者電子製品のパッケージ技術でのフリップ・チップはんだ接合のEMがAlとCuの相互接続に比べより簡単に
破壊しやすいため問題と認識されている。AlとCu相互接続技術ではでは熱マイグレーションTMは問題ではないが、
EM同様にTMもフリップ・チップはんだ接続では厳しい信頼性問題であると認識されている。
特にバンプ径の減少に伴いEMが重大な問題となる。電流密度に加えフリップ・チップの配置が電流集中に影響しEMを促進する。
<電流集中効果>
チップ側のAl配線の断面ははんだバンプよりかなり小さく、コンタクトで大きな電流密度変化がおき、
電流集中がおきる。
フリップ・チップはんだ接合のEM損傷はチップ側のカソード・コンタクト近く、電子がバンプに
入る所でおきる。
Siチップ:0.8μmCu/0.32μmNi(V)/1μmAlと基材:0.08−0.2μmAu/3.8−5μmNi(V)/38μmCu
はんだ:共晶SnPb、SAC405、電流密度は3.5x10
3〜3.7x10
3
<Siチップ側カソード・コンタクトでのボイド形成>
Siのカソード・コンタクト(電子の流れがはんだバンプに入る所)でボイドがパンケーキ状に形成。
<ジュール加熱と温度分布>
Al(またはCu)相互接続とはんだ接合の電気的挙動の比較
2つのはんだ接合での温度分布
Al配線が最高温度となる。
<はんだバンプでの温度分布>
<電力負荷でのSnAgはんだ接合の熱マイグレーション>
フリップ・チップ装置に電流が印加されるとEMだけでなくジュール加熱も引き起こされる。
ジュール加熱によりTMを起こすに十分な温度勾配(〜1000℃)が引き起こされる。
<ホットスポット温度と熱勾配、SnAg>
<SnPbの非電力負荷での熱マイグレーション> 省略
SnPbではSnとPbの再分配が起き、顕著な組織変化がおきるがPbフリーはんだではそれほどはっきりしない。
<エレクトロマイグレーションと熱マイグレーション駆動力の比較>
EMとTMの駆動力による原子流束は
C:濃度、D:原子拡散、Z
*:有効電荷数、ρ:電気抵抗、j:電流密度、Q
*:輸送熱
駆動力は
これらをもとに推定するとはんだ接合では10
4A/cm
−2で1000℃/cmでTMが引き起こされ、
AlやCuではEMが引き起こされるためには10
5から10
6A/cm
−2以上必要で温度勾配では10000℃/cm
以上となり、このためAlやCu]ではTMは信頼性問題とならない。
<Cu UBMの厚みの電流集中への影響>
フリップ・チップはんだ接合の配線−バンプ配置特有性のため電流集中がEM故障の主原因である。
電流集中効果を減少させるためにはCu UBMの厚みを増加させると電流集中ははんだよりCuで起きる。
薄いCu、たとえばAl/Ni(V)/CuではCuは約0.4μmで電流集中ははんだでおき、はんだのEMに影響する。
薄いUBMではすべてのCuは消費されIMCを形成する。典型的にはEMははんだにボイドを形成し、パンケーキ状
ボイドがコンタクトに沿ってはんだ/IMC界面におきる。
5−10μm厚みCu UBMではほとんどの電流集中はCu内でおきる。ボイド形成はバンプへの電子の流れの入り口に
位置する。ボイドは時間とともに大きくなる。
EMでCuがはんだに溶解し、Cu厚みは減少し、5μm以下になると破壊が起きる。
EMとCuのIMCへの転換の相乗でコンタクトの抵抗が徐々に上昇し破壊に至る。
限られた量のSnと多量のCuの場合はCu6Sn5を犠牲にCu3Snが厚く成長しKirkendallボイドを伴う。
Kirkendallボイドは電気的、熱的伝導性に影響し、ジュール加熱と熱放散ははんだ接合の大きな
問題で温度勾配にも影響する。このようにTMを伴うEMとKirkendallボイド形成は電流集中に取って代わり
Cu柱バンプ使用での大きな信頼性問題となる。
<EM下でのCuとNiの高速溶解>
PbフリーはんだとCu UBMではEMとTMで激しいIMV形成がおきうる。
特にCu柱あるいはTSV(Si貫通ビア)技術でははんだバンプ高さは20μm程度にもなり、その結果
すべてのはんだバンプは電流負荷で完全にIMC化し脆性破壊をもたらす。
20μm高さのはんだ接合では2℃の温度差で1000℃/cmの温度勾配をもたらす。そのため
小さなフリップ・チップはんだ接合ではTMが深刻な信頼性問題となる。
<Sn粒結晶方位のEMとTMへの影響>
特別に高速なCuとNiの溶解は特殊なSn粒結晶方位に沿っておき得る。
CuとNiの高速溶解はc軸に沿っての拡散がa、b軸よりかなり速いことによる。
そのためSn基PbフリーはんだのEMとTMでSn粒結晶方位は大きな役割を演ずる。
<はんだバンプでのストレスマイグレーション>
電流負荷ではんだの応力が存在することが提案されている。
蓄積応力は電流集中効果に関係している。
SnAgCuの後方応力(バック・ストレス)は共晶SnPbより大きいように見え、これは
SnAgCuはんだの表面酸化物によるだろう。
共晶SnAgCuのアノードでのウィスカ形成の表面形態
<CuとNiの熱マイグレーション>
隣のバンプのEM負荷の影響によるTM
TMでCu−Sn IMCが低温側(基材)端に移動。
通電していないにもかかわらず上左角近くにはっきりした損傷がある。