(13−4) 熱疲労(温度サイクル疲労)

  すでに (13−1−1) はんだ相互接合の環境と破壊 で述べたが、通常、電子装置でのはんだ接合の破壊は
 圧倒的に熱疲労が多い。
  従ってPbフリーはんだの探索・調査でも熱疲労の研究が多く、その結果、NE(共晶近傍)SnPbはんだ代替の
 候補の第1にあげられたNESAC系はNESnPbより耐熱疲労性は優れているとされた。
  一方で携帯形電子機器においては落下による破壊が重要視されて来て、落下に対しては高AgのNESAC系より
 低AgSACがよいとされ特にBGAなどのはんだボールでは耐落下衝撃性のため低AgSACボールへの移行が
 進んでいる。
  しかし低AgSACは耐熱疲労性がNESACより劣るため、微量成分添加により低AgSACの耐熱疲労性の
 改善やNESACの耐落下衝撃性の改善が進められてきた。
  このように1種類のPbフリーはんだが万能な特性を持つということが期待できないためBGA等では種々の
 Pbフリーはんだの混合、すなわちはんだボールとはんだペーストが異なる場合の諸特性の調査が行われる
 ようになった。

  また当初NESACが優れているとされた耐熱疲労性についてもリードレス部品やΔTが大きくなるとNESnPb
 が優れるとされる。

  以上のようにPbフリーはんだの耐熱疲労性の問題は当初より複雑な状態となっている。
  そこで以下にPbフリーはんだの耐熱疲労性について見ていく。

(13−4−1) 熱疲労(温度サイクル)の概要

 はんだのホモロガス温度



  このようにはんだのホモロガス温度は温度サイクル範囲においても高いため復旧(回復と再結晶)や
 応力緩和現象が大きな影響を与える。

 温度サイクル試験の規格例

  EIAJ ED-4702A
   TEST METHODS
    001 温度サイクル
    002 はんだ接合強度(ピール、プル、プッシュ)
    003 基板曲げ試験(表面実装部品)
    004 繰り返し基板曲げ試験(表面実装部品)
    005 落下試験


  JESD22−A104D



 実使用環境での温度変化
  Johnsonによると




Engelmaier



 実験で使用される条件
Osterman



 熱疲労(温度サイクル)の特徴
  温度サイクルに伴う応力変化

 Hallの応力−ひずみヒステリシス・曲線 (LCCCアセンブリ)


  非弾性変形(塑性変形+クリープ)の温度依存性のため温度サイクルでのヒステリシス曲線は複雑となる。

山田



Wild



 Skogstrom(36:Mustafa、38:Wang) 温度サイクルと恒温での応力−ひずみヒステリシス曲線


  温度変化によるアセンブリしたPWBの変形

   温度の昇降でCTE差により曲げが増加。
   保持時間で緩和が起き、その結果塑性変形が生じ、曲げが減少。


  温度サイクルによるヒステリシスの変化(Sn−Pb)
Dasgupta


 Dudek
  FE解析 各種はんだの温度サイクルでの応力−ひずみヒステリシス




Darveaux


  

Darveaux
  瞬間塑性変形と遷移クリープの影響

  −40〜125℃、昇降900秒、保持900秒。


  部品にかかるひずみ
   チップ部品あるいはリードレス・パッケージでは第1次近似として
     
      d:中立点DNPからの距離、h:スタンドオフ高さ、Δα:パッケージとPCBのCTE差
   ただし接合にかかる応力はすべてはんだが引き受けるという前提。
   リード部品ではリードが緩和するのでこれより低い。
   BGAではシリコン・ダイの影響でパッケージ外辺よりダイ外辺直下付近が最初に破壊しやすい。

  広域(グローバル)CTEミスマッチと局部CTEミスマッチ

Clech
  広域ひずみは上記と同じ
  局部ひずみは
    γ=ΔαΔT
     Δα:はんだとリードフレーム材料またはPWB材料

Han
    広域CTEミスマッチ・・・部品とPCB
    局部CTEミスマッチ・・・界面での近接材料間




Ghaffarian
  応力条件が広域から局部に変化すると高応力領域は基板(PWB)からパッケージに移動

     広域は昇降温2〜5℃/分、高温20分保持          局部は昇降温10〜15℃/分、少なくと10分保持

NASA
  グローバル、ローカルとはんだ合金のCTEミスマッチの3つ


  高SnはんだはβSn粒の影響が大きく、βSnは異方性が大きい。(下記)


 熱サイクルでのせん断ひずみと基板変形による引っ張り負荷

Shnawah



 SACとSnPbの温度サイクルの一般的比較

Osterman

  SACとSnPbの比較(一般論)



  温度サイクルではSn−Pbは粒粗大化と亀裂形成、成長を示すが、SACでは再結晶による
 微粒化と粒界の分離による亀裂成長を示す。



  ひずみが大きくなるとSnPbが勝るようになる。


2009_06_2nd Generation LF Alloys-DfR 第2世代2011 

・温度サイクル(基板搭載試験)
  温度サイクルに対しては一般的にSAC、特に高AgSACが強いが、厳しい条件に対してはSnPbが優れる。
  (高ΔT、チップ部品のような脆い材料の部品、大きなエリア・パッケージ部品)


  硬いstiff部品:フリップ・チップ→Sn−Pbが良い
  柔軟compliant部品:TBGA→SACが良い
  リードレス、セラミック部品、厳しい温度サイクルではSnPbが良い

  ΔTによって異なる(遷移点が存在)





(13−4−2) バルクはんだでの温度サイクル疲労

  高SnはんだではβSn粒の結晶配向がバルクでの温度サイクル疲労に大きな影響を与える。
  βSnは異方性が大きく、結晶方位の異なる粒界に温度サイクルにより大きな応力が発生する。

 Snの熱膨張率係数CTEの異方性

Pierce
 
Mclean
 

 BGAの場合
   小さなはんだボールは1個ないし数個のβSn粒よりなり、その結晶方位のありかたで熱膨張率差に
  大きな違いが生じ、その結果熱サイクル特性がボールごとに大きく異なることとなる。
レンセラー大・ハートフォード校-Pierce


  はんだボールごとに種々の結晶方位をとり熱膨張率CTE差が極端に異なる。

Matin
 バルクはんだでの温度サイクル



  粒界亀裂が生じている(A点)。3重点(B点)ではスベリ帯も発生。


  粒構造は変化ない。



  結晶方位差の大きい部分に大きな応力発生。


  応力集中していない領域には破壊は生じていない。((e)、(g)、(h))
  高応力集中部に破壊が生じている。((a)、(c)、(d)、(f))



   (b)、(c)では粒内にスベリも見える。
   (e)では粒界すべりが存在。

  結論
   Snの熱異方性によって引き起こされた最大応力部の高傾角粒界にマイクロ亀裂が局在化。

Erinc
 バルクSAC405


  粒界に亀裂が出現し、損傷は極度に粒間に局在。


  3重点での変形。



  粒内と低傾角粒界はほとんど損傷していない、一方ですべての高傾角粒界は損傷。


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