Pbフリーはんだの金属学的基礎


〔U〕 Pbフリーはんだの探索 

(3) Pbフリーはんだ探索の国際的プロジェクト 

(3−1) 国際的プロジェクトの概要

 鉛フリーはんだ調査の国際的プロジェクトは1990年代初めからまずはんだ合金の選択が開始され、後半に各プロジェクトの
推奨はんだが提案された。更にその後信頼性調査が行われている。
 合金の調査の主なプロジェクトは

@ Lead-free Soldering(1991−1993年)などのDTI(貿易産業省)支援の英国のプロジェクト。 
   ITRI(国際錫研究所、SOLDERTEC:ソルダリング技術センター)やNPL(国立物理学研究所)が中心。

A IDEALS(欧州):欧州Brite Euramコンソーティア(1996−1999年)

B NCMS(米国全国製造科学センター)のLead-free Solder Project(1992−1996年)
   NISTより詳しいデータが報告されている。→LFS search NIST

C NEMI(INEMI:国際電子機器製造業者協会)の諸プロジェクト(1999−)

 その他
  IVF(スウェーデン生産技術研究所)
  HUT(フィンランド:ヘルシンキ工科大)
  ZVEI(ドイツ電気電子産業中央連盟) 

 その後の信頼性調査のプロジェクトとしては2000年代に
  欧州では
   ELFNET(2002−2006年)
    最終報告 DB

  米国では
   NASAのJCAA/JG−PP(Joint Group on Pollution Prevention、Joint Council on Aging Aircraft)
   INEMのNEMIからINEMIに引き継がれたいくつかのプロジェクトなどがある。

 日本では
  1994年から回路実装学会JIEP(現エレクトロ実装学会)で鉛フリーはんだ研究会が発足し、1998−2000年にかけて
 NEDOプロジェクトとしてJEIDA(現JEITA)のもと日本溶接協会JWESが参加して鉛フリーはんだ規格化のための研究開発
 プロジェクトが実行された。


yarime 2009による研究開発プロジェクトの経緯


NISTのhandwerkerのプレゼン(2002)による経緯 


ELFNETによる経緯説明
 

欧州のプロジェクト概要



(3−2) 国外プロジェクトの報告内容

 ここでは主に上記国際的プロジェクトのはんだ合金選定と推奨はんだについて主に紹介する。
 欧州のプロジェクトのもっと詳しい結果概要は→欧州の諸プロジェクト結果概要

(3−2−1) 英国DTI、ITRIの主な報告

 DTIの報告としては2000更新のものが発表されている。 鉛フリーはんだ付けの現況分析(2000)
 内容的には1999年のもが詳しい。

 1991−1993年のプロジェクトでは電子アセンブリ適性と供給可能性から5種を試験に採用。
Bi−42Sn 低機械的特性と低融点により除外
Sn−9Zn Znの腐食により除外
Sn−5Sb 高融点により除外
Sn−3.5Ag
Sn−0.7Cu


 最終的にITRIの推奨はんだはSn−(3.4−4.1)Ag−(0.45−0.9)CuでこれにはSn−4Ag−0.5Cu、Sn−3.8Ag−0.7Cu、
Sn−3.6Ag−0.5Cu、Sn−3.5Ag−0.7Cuなどが含まれる。

 ITRI推奨(1999)によると



その他公開大学(オープン・ユニヴァーシティ)が工学物理化学研究評議会EPSRC支援で1996−2005年に
  Sn−3.5Ag、Sn−0.5Cu、Sn−3.8Ag−0.7Cuを調査、解説がでている。
 →欧州の諸プロジェクト結果概要

(3−2−2) 欧州 IDEALS  Pbフリーはんだ(LS)による電子アセンブリ(EA)の設計寿命改善(ID)と環境自覚製造

 総合報告としてはReport 総合 1996−1999がある。
 解説としてはPFはんだ付けの実行 Warwickがある。

要約
 既知のSn3.5Ag(221℃)、Sn0.7Cu(227℃)と3元共晶Sn3.8Ag0.7Cu(217℃)を基本とした。
 SnAgCuに微量のBi、Sb及びその他を添加したものも調査。
 Sn57Bi、Sn9Znとその派生合金は低融点、Znに伴う問題(腐食、プロセス困難性)のため除外。
 ウェーヴには低Agで融点上昇を抑制するためのBi添加したものを使用。
 Sb添加はSn3.8Ag0.7CuとBi添加合金両方に結晶粒微細化をもたらす。
 過共晶のSnAgCuSbでウェーヴでの挿入部品のフィレット・リフティングを最小化できる。

 推奨はんだは
  Sn−3.8Ag−0.7Cu(共晶) リフロー
  Sn−3.8Ag−0.7Cu−0.25Sb 一般的ウェーヴ
  Sn−5Bi−2Sb−1Ag 片面ウェーヴ

(3−2−3) NCMS 全国製造科学センター(アメリカ)

 Handwerkerのプレゼンがある。
 NCMSのLead-free Solder Project(1992−1996年)
  79種のPbフリーはんだ合金を評価し、合格、不合格絞込み基準Pass-Fail Down-Selection Criteriaで11種を選択し、
 最終的に判断行列表decision matrixにより8種を選択。

NIST 2002



選ばれた11種合金
 A1 :Sn−37Pb  *比較用
 A4 :Sn−3.5Ag
 A6 :Sn−58Bi
 E3 :Sn−3Ag−2Bi−2Sb
 E4 :Sn−3Ag−2Bi
 F2 :Sn−2.6Ag−0.8Cu−0.5Sb(CASTIN)
 F6 :Sn−5Bi−7Zn
 F10:Sn−0.2Ag−2Cu−0.8Sb 
 F17:Sn−3.4Ag−4.8Bi
 F21:Sn−2.8Ag−20In (Indalloy#227))
 F27:Sn−3.5Ag−0.5Cu−1Zn


菅沼・エスペック


 結論
  現時点で汎用でもっとも有望なのはSn−Ag−Cuを基礎としたもの、他の可能性はSn−0.7Cu、Sn−3.5AgとSn−Ag−Bi。

 なおこの過程のデータはNISTのPbフリーはんだの特性(第4版)にある。 →要約 LFS search NIST


(3−2−4) INEMI(NEMI) 

 歴史
  1996年NEMI形成、2004年INEMIと改名。

 Lead-free assembly project(1999−2003年)で合金選択に採用されたのは、IDEALSとNCMSの結果を参考し下記6種を研究。
 
 合金系  備考
Sn−58Bi共晶  融点の低さと、Pbによる低融点共晶形成が問題。Biの供給にも問題。
Sn−Zn−Bi系  有望なのはSn−8Zn−3Bi。
 酸化しやすさとウェーヴでのドロス発生、腐食によるペーストはんだのシェルフ寿命の短さ、Pbとの低融点相形成、
製造困難性などが問題。
Sn−Ag−Bi系  Bi:3−5%、Ag:2−4%で溶融範囲210〜217℃。
 表面実装では良好な特性を示す。
 Sn−Pb−Bi低融点相形成、Sn−Pbはんだめっきでのフィレット・リフティングが問題。
Sn−Ag−Cu系  Sn−2.6Ag−0.8Cu−0.5Sb(CASTIN)もあるがSbの毒性問題不明確。
 217℃近辺融点のSn−3.5Ag−0.7Cu、Sn−4Ag−0.5Cuも考慮しSn−3.8Ag−0.7Cu(IDEALS)
とSn−4Ag−0.5Cu(北米、欧州で利用)の中間のSn−3.9Ag−0.6Cu推奨。
Sn−3.5Ag共晶  特許問題なく、信頼性もSn−Pbと同等、融点はSn−Ag−Cuが低い。
Sn−0.7Cu共晶  融点高く、リフロー不向き。価格メリット大だがペーストでは差小さい。
 IDEALSによればめっきスルーホール接合強度良くない。

 推奨はSn−3.9Ag−0.6Cu、ウェーヴにはSn−0.7Cuも可能性あり。

 Handwerker 2003によるLead-free assembly project(1999−2003年)説明


Leeによるプロジェクト紹介

 フェーズ1 1999−2002年 合金、工程、部品、信頼性
   2000年 リフローにSn3.9Ag0.6Cuを推薦

 フェーズ2 アセンブリと大規模複雑PWBアセンブリに拡大
   Pbフリーアセンブリとリワーク、スズ・ウイスカー

 フェーズ3 5プロジェクト、サプライ・チェーン過渡期問題に対処

 フェーズ4 ウェーヴ・選択はんだ付け、混合アセンブリ、Pbフリー表面処理に対処
  環境自覚電子技術統合グループTIG Snウイスカー等に対処するいくつかのグループ

 Pbフリー合金代替プロジェクト報告 産業の状態(Henshall)

inemi
inemi 2012
  Pbフリー合金特徴化プロジェクト報告 2012
   Part I Henshall - Program Goals, Experimental Structure, Alloy Characterization, and Test Protocols for Accelerated Thermal Cycling
   Part II Parker - Thermal Fatigue Results for Two Common Temperature Cycles
   Part III Sweatman - Thermal Fatigue Results for Low-Ag Alloys
   Part IV Coyle - Effect of Isothermal Preconditioning on Thermal Fatigue Life
inemi cd

(3−2−5) その他のプロジェクト、報告

 詳細は→欧州プロジェクト

 スウェーデン IVF 
    鉛フリーはんだの全体 2000年終了
     調査したはんだ合金は
      Sn−3.5Ag
      Sn−3.5Ag−3Bi
      Sn−3.2Ag−0.5Cu
      Sn−4Ag−0.5Cu

 デンマーク(2002) 
    有望なのはSn−4.0Ag−0.5CuとSn−3.5Ag。

 ドイツ ZVEI
    Sn−3.5Ag、Sn−3.2Ag−0.5Cu、Sn−0.7Cu、Sn−5Sbなどが適当とされる。

JCAA/JG-PP 2004(エージング航空機ジョイント評議会、汚染防止ジョイント・グループ)  2001−  
 試したはんだは
  Sn−3.9Ag−0.6Cu        ウェーヴ、リフロー、手はんだ
  Sn−3.4Ag−1.0Cu−3.3Bi  リフロー、手はんだ
  Sn−0.7Cu−0.05Ni       ウェーヴ、手はんだ

プレゼン 2011
 フェーズ1 JCAA/JGPP LF プロジェクト(2003)
  Sn−3.9Ag−0.6Cu        ウェーヴ、リフロー、手はんだ
  Sn−3.4Ag−1.0Cu−3.3Bi  リフロー、手はんだ
  Sn−0.7Cu−0.05Ni       ウェーヴ、手はんだ

 フェーズ2 NASA DoD LF プロジェクト(2007)
  SAC305 リフロー、手はんだ
  Sn−0.7Cu−0.05Ni(SN100C) リフロー、ウェーヴ、手はんだ

PSMC

先端車両電子センターCAVE 
 IMC成長
  SAC405、Sn−3.5Ag−1.5In、Sn−3.5Ag、Sn−0.7Cu
 濡れ
 機械的特性
 接合信頼性と微細構造研究
 Snウィスカ成長


 一方JPL 2003(NASAのジェット推進研究所)では航空機応用として
 第1フェーズ
   Sn−3.5Ag
   Sn−3.8Ag−0.7Cu
   Sn−2.5Ag−0.8Cu−0.5Sb(CASTIN)
   Sn−20In−2.8Ag (Indalloy 227)


 第2フェーズ(2001−2004)
   リフロー用として
   Sn−3.8Ag−0.7Cu
   Sn−2.5Ag−0.8Cu−0.5Sb


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