(11−11−6) 添加成分、不純物の影響のまとめ

  Sn基はんだへの添加成分、不純物、混入成分の影響は大きく次の2つが考えられる。
    @ はんだバルク中ではんだバルクの特性に影響
    A 界面反応、界面組織に関係して界面特性に影響

  混入経路ははんだ成分の他に接合相手からの溶解がある。
  フローでははんだ槽に混入した不純物が考えられる。

  はんだバルクへの影響は
    SnとIMCを形成するかどうか
      SnとIMCを形成・・・分散強化、βSn結晶粒微細化
         一部の例外を除くほとんど
      SnとIMCを形成しない
        固溶度大・・・固溶強化
         Zn、Bi、Al
        固溶度小
         Cr、W
        Sn以外の主要成分(Ag、Cu、Zn、Bi)とIMC形成
         Zn、Al
        Ni/AuのAu、Cu/AgのAgと反応
         Zn、Al
    実用的にどの程度の量が添加可能か
      多量に添加可能(5%以上)  (Pb)、Bi、In、Zn
      中程度(1〜5%)         Sb、Ag、Cu、(Au)
      微量(1%未満)           Ni、Co、Al

  界面への影響は
    Snに優先してCuまたはNiと反応
       Zn、(In)
    SnとCu、NiとのIMC化反応を促進
    SnとCu、NiとのIMC化反応を抑制
    SnとCu、NiとのIMC化反応に中立的
    Cu6Sn5あるいはNi4Sn3に置換固溶・・・形態変化
       NiとCuは互いに量が少ないときは置換固溶し多くなると自らのIMCを形成する。

    界面にSnとの反応相形成
    界面に濃縮(Snと反応しない)・・・粒界脆化
       Bi、(Pb)
    界面で希薄化(Snと反応)
       Zn
    Ni界面にIMCとして偏析
     Cu6Sn5、AuSn4

    Ni/AuのAu、Cu/AgのAgとの反応相形成
       Zn、In

  などが起こりうる。


 各種元素のIMC形成の可能性

   Sn2元系合金の共晶点(一部は包晶)
元素
共晶点
(℃)
共晶組成
(wt%)
Li
222
1
Li2Sn5
Be
232
0.001
Be
B
232
0.001
B
Na
220
1
NaSn6
Mg
203.5
2.13
Mg2Sn
Al
228
0.6
Al
Si
232
0.001
Si
P
232
0.01
Sn4P3
S
231
0.05
SnS
K
232
0.01
KSn4
Ca
230
0.1
CaSn3
Sc Ti
231
0.1
Ti6Sn5
V
232
0.01
V2Sn3
Cr
232
0.01
Cr
Mn
231
0.1
MnSn2
Fe
232
0.01
FeSn2
Co
229
0.5
CoSn2
Ni
231
0.02
Ni3Sn4
Cu
227
0.7
Cu6Sn5
Zn
198
8.8
Zn
Ga
20.5
86.3
Ga
Ge
231
0.16
Ge
As Se
231
0.05
SnSe
Rb
Sr
230
1
SnSr4
Y
229
1
Sn3Y
Zr
232
0.01
ZrSn2
Nb
232
0.01
NbSn2
Mo
232
0.01
MoSn2
Tc Ru Rh Pd
231
0.5
PdSn4
Ag
221
3.5
Ag3Sn
Cd
176
33.45
Cd
In
120
50.9
β+γ
Sn
(232)
Sb(per)
250
6.7
Sn3Sb2→
Te
231.5
0.01
SnTe
Cs
Ba
232
0.01
Sn5Ba
Hf
230
1
HfSn2
Ta W Re
232
0.1
Re
Os Ir Pt
228
0.8
PtSn4
Au
217
10
Sn4Au
Hg Tl
168
43
SnTl
Pb
183
37
Pb
Bi
139
57
Bi


La
235(per)
0.01
LaSn3→
Ce
230
2
CeSn3
Pr
235(per)
0.01
PrSn3→
Nd
235(per)
0.01
NdSn3→
Gd
232
0.01
GdSn3
Dy
215
2
DySn4
Yb
230
1
Sn3Yb
Lu
232
0.01
LuSn3

   Snおよびその他はんだ関係金属間での金属間化合物形成(◎:IMC形成)
Au Ag Cu Pd Pt Sn Bi Zn In Al Sb Ni Co Fe Ti Cr
Au ss ss ss ss ss eu eu eu
Ag ss eu ss ss? eu eu eu eu eu
Cu ss eu ss ss eu ss eu eu eu
Pd ss ss ss ss ss ss
Pt ss ss? ss ss ss ss ss
Sn eu eu eu eu?
Bi eu eu eu eu eu ss eu eu eu
Zn eu eu eu eu
In eu eu eu
Al eu eu eu eu
Sb ss
Ni ss eu ss ss ss ss eu
 ss:固溶、eu:2相


(A) 概観・・・はんだバルクへの影響


IBM Kang



Sweatman





Kaila
SAC105+X


Dudek





(B) 概観・・・界面反応への影響

論文1 Pbフリーはんだ付けでの界面反応層への不純物と合金化の効果 

要約
 合金化および不純物成分はSn基はんだと導電金属との反応で3つの主な効果をもつ。
  第1に反応、成長速度を抑制、促進する。
  第2に形成相の物理的性質を変化できる。
  第3に界面に付加反応相を形成したり、別の反応生成物を形成できる。
 合金化および不純物成分はおおまかに2分類できる。
  IMC相に顕著な固溶を示すもの(Ni、Au、Sb、In、Co、Pt、Pd、Zn)
  IMC相に多くは固溶しないもの(Bi、Ag、Fe、Al、P、RE、Ti、S)
 ある種の合金化成分は適量の添加で界面のIMCの性質を調整できるが、過剰だと信頼性の劇的減少をもたらす。

*Cu−Sn IMCで
  Cuを置換・・・Ni、Au、Co、Pt、Pd
  Snを置換・・・Sb、In、Zn

序言
 携帯製品の登場により電子製品の信頼性に関するIMC反応層の機械的性質がより重要となっている。
 はんだ相互接続での応力の大きさと分布は熱サイクルと落下試験条件とではことなる。
 Pbフリーはんだの高流動応力のためIMCは落下では熱サイクルより顕著に高い応力を蒙る。
 界面反応と生成相の性質を変化させるによく使用される手段は金属形成層またははんだへの微量成分添加である。
 ここではSn基はんだとCu基体の反応を検討し、Ni基体については行わない。





論文2 鉛フリーはんだと一般的基体金属との界面反応

要約
 固液反応でのIMC形成は主に基体金属の溶解過程によって支配される。
 固体でのはんだ接続のアニーリングは固液反応によって形成された微細構造を劇的に変化させることができる。
  特にはんだの1成分だけが界面反応に加わる場合。
 添加成分は基体金属とSn間の2元反応に3つの主要な影響を与える。
  反応、成長速度を増加、減少させる。
  形成される相の物理的特性を変える。
  付加反応生成物を形成あるいは新しい反応生成物と2元平衡相を置き換える。

序言
 電子製品ではほとんどの基体金属、コーティング、金属形成層metallizationははんだ中のSnとIMCを形成する。
 IMC形成が良好な金属学的接合を示すとされる。しかしまたIMCは本来脆く、構造欠陥を発生しやすい。
 このためはんだ相互接続でのはんだ−導体金属相互作用と相展開を理解することが信頼性理解にとって重要である。

 はんだ付け過程は主に溶解、化学反応、凝固の3つの過程からなる。
 またはんだ付けで形成されたIMCは製品の保管、使用で成長・変化する。
 それゆえ製品の信頼性理解のためには固液系と固固系を研究する必要がある。
 
 電子製品の信頼性はIMC反応層の機械的性質に関係する。
 特に落下のような機械的衝撃はそうである。
 落下衝撃と熱サイクルでのはんだ相互接合の受ける応力の大きさと分布は異なる。
 高ひずみ速度でははんだバルクよりIMC層の性質が相互接合の破壊挙動を主に決める。

 慎重な構造的調査と熱力学と速度論がこれらの界面反応の理解への基礎を提供する。



 両者は詳しくは→ヘルシンキ工科大(HUT)のT.ラウリラ、V・ヴオリネンらの論文

Yang



Amagai
Sn-3.0Ag-X Co、Ni、Pt、Al、P、Cu、Zn、Ge、Ag、In、Sb、Au
 落下のCo、Ni、Ptが有効


Intermetallic compound
(a) top view of IMC after one solder reflow; (b) cross section of IMC after one solder reflow;
(c) top view of IMC after four solder reflows; (d) cross section of IMC after four solder reflows
 



 Sn3.0Ag:                             Sn3.0Ag0.5Cu


 Sn3.0Ag0.05Al                         Sn3.0Ag0.03P


Sn3.0Ag0.05Ge                          Sn3.0Ag0.03Ni 


Sn3.0Ag0.1Zn                             Sn3.0Ag0.05Pt


Sn3.0Ag0.1Au                           Sn3.0Ag0.3Sb


Sn3.0Ag0.3In                            Sn3.0Ag0.03Co


 IMC element analysis (wt%)
(a) IMC element analysis after one solder reflow; (b) IMC element analysis after four solder reflows


  
Sn3.0Ag0.05Pt                             Sn3.0Ag0.03Co

 
 Sn3.0Ag0.5Sb                             Sn3.0Ag0.03Ni


Kim



Wang




(C) Sn系はんだへの添加、不純物成分の影響・・・まとめ

・貴金属元素

 Au
  Niの保護層として主に利用、電解Niでは厚めになる。
  挿入部品ではコネクタなどのCu合金の表面処理でも使用される。
  Sn中に多量に溶解するが、固溶度は小さくほとんどAuSn4として存在。
  AuSn4化で体積がかなり多くなる。
  はんだ脆化の原因として嫌われる。
  Ni基材ではエージングでの界面への再堆積(層状に偏析)する場合がある。
  Zn、Inとでは界面に反応層を形成し、大規模剥離などを起こす可能性がある。

 Ag
  SACの主要添加成分、Ag3Snとして分散強化を示す。
  比較的多量に添加でき(1〜4%)そのためその他のSn系はんだでも強化のため添加することが多い。
  Ag食われ対策の効果もある。
  はんだのほかに、Sn−Agのはんだめっき、Cu/Agの表面処理としても利用される。
  一部の部品やソーラー・セルなどでの電極用としても利用される。
  これらのAgが未反応のまま残るとイオンマイグレーションや硫化による腐食、ウィスカ形成の原因となる。
  AuについでSnへの溶解量が多い。
  過共晶では大きな初晶として晶出し応力集中を起こし、亀裂の起点・経路となりやすい。
  そのためSACでは3%以下が好ましいとされる。

 Cu
  SACやSn−Cuはんだとして微量添加、しかしパッドなどのCuからの溶解も多い。
  溶解量はAgに次ぎ比較的多く、はんだと界面の反応に種々影響を与える。
  Cu6Sn5を形成するがAg3Snほどの強化はもたらさない。
  共晶としての(微細組織)での添加量は少なく(1%未満)、強化元素としてはあまり期待できない。
  過共晶ではAg同様に大きな初晶として晶出する。
  ただしCu食われに効果があり、ディップめっき用などとして多量に添加することもある。
  はんだ中に存在すると、Ni基体でも(Cu,Ni)6Sn5を界面層として形成。
  Snウィスカ促進要因とされる。

 Pd
  主にNi/Pd/Auのはんだめっきから入ると考えられる、比較的Snへの溶解度が大きい。
  Au同様のPdSn4を形成し、界面に残ると問題を起こす可能性がある。

 Pt
  貴金属ではあるがSnへの溶解量、反応量は少ない。
  特殊な部品での電極材料として利用される。
  Au同様のPtSn4を形成するので多量に混入するのは問題と思われる。

 Ni
  パッド基材として電解Ni/Au、無電解Ni−P/Au、UBMとしてスパッタNi/Au、スパッタNi−V/Auなどとして
 使用されるため、はんだへのAu供給源ともなる。
  Snへの溶解量は少ない。はんだ中へ溶解するとNi3Sn4を形成し分散強化、あるいはCu6Sn5、AuSn4などへ置換固溶する。
  界面のCu6Sn5 IMCへ置換固溶しその形態を変え、界面特性をよい方にもっていくとされ、はんだ中に微量添加することが多い。
  結晶粒微細化の効果もある。
  またAuSn4にも置換固溶しかつ再堆積抑制効果がある。
  特にSn−Cu系はんだではSn−Cu−Niが主流となっている。

 Co
  Snへの溶解量は少ない。
  Ni同様に界面のCu6Sn5IMCへ置換固溶しその形態を変え、界面特性をよい方にもっていくとされ、はんだ中に微量添加することが多い。

 Fe
  はんだ自体に添加されることはないと思われる。はんだ小手先や42アロイなどで関係してくる。
  フロー槽ではPbフリーはんだで食われが問題とされ、FeSn2の大きなIMCとしてはんだ中へ混入する場合がある。

・低融点金属

 Bi
  低融点化、固溶強化、(固相からの)析出強化効果、一方ではんだを脆くする。
  濡れを改善する目的でも添加することが多い。
  Pbが存在すると低融点相を形成しフィレット剥離や再溶融剥離の原因となる。
  またPb混入で高温特性は極度に劣化。
  Biは多量に存在すると、界面の反応に関与しないため界面に富化、偏析し、界面脆性の原因にもなる。
  Cuのリサイクルに有害。(電解精錬で不純物となりやすい)

 Zn
  低融点化効果。
  微量添加でCu3Sn形成を抑制し界面特性を改善するとされる。
  高温高湿で酸化し特性劣化を起こす。
  量が多くなると、Snに優先してCuやNiとIMCを形成し、その反応はSn系IMCより速い。
  はんだの流動性、濡れ性を悪くし、ボイドを形成しやすい。

 Al
  固溶強化効果。他の元素とIMC形成し分散強化、時効強化効果。
  Snとは反応しないが、CuやAgとIMC形成。AuともIMC形成。
  界面にCu−Al IMCを形成する。
  溶接ウィスカの原因とされる。

 Sb
  固溶強化、時効強化効果。
  Snペスト抑制効果。
  毒性が場合となることが多い。(EFSOT

 In
  低融点化、固溶強化効果。
  量が多くなる(8%〜)と温度サイクル等で相変態による収縮を起こす。
  Auと反応しIMCを形成する。

 Ga
  固溶強化効果。
  濡れ広がりを悪化させる。

・酸化しやすい金属
  Ge、P
   自らが酸化しはんだのドロスを減らすあるいは耐酸化性対策候補とされ、特にGe、Pがドロス減少のためよく利用される。

高融点金属
  一般的にはんだ濡れ性が悪く、特に酸化に注意が必要。CuやNiとの合金化でSnとの反応抑制。

 Ti
  SnとIMCを形成し、結晶粒微細化。
  ただし接合基材としてはIMCを形成しないと思われるが、するという主張もある。

 Cr
  SnとIMCを形成しないが、純安定なIMCを形成するともされる。
  効果についてははっきりしない。
  接合基材としてはOの混入の影響を大きく受け、酸化しやすく濡れの悪い金属とされる。
  UBMの最下地として使用される。
  Niと合金化で接合基材としてあるいはCuとの合金化でUBMとして利用され、Snとの反応を
 抑制すると思われる。

 Mn
  SnとIMCを形成し、結晶粒微細化。

 V
  UBMでNi−V合金が利用される。SnとIMC形成。

 W
  UBMの合金化(Ni−W)、Snとの反応を抑制すると思われる。

・希土類(Y、La、Ce)

 SnとIMCを形成し、分散強化、結晶粒微細化などの効果をもつが、酸化にともないウィスカが発生するので、
ウイスカ危険因子として問題視されている。


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