(15−2) ウィスカの現象と理論の概観


(15−2−1) Snウィスカ研究の経緯

Gaylyon 2003年7月  2003年11月 2004年 

 金属ウィスカは基体表面に堆積された金属皮膜の表面から発生する(生えてくる)単結晶体である。
 典型的には直径1〜5μm、長さは1〜500μmである。
 ウィスカーには真直ぐなもの、屈曲kinkしたもの、更に曲がったものなどもある。 形態の写真は詳しくは→種々の形状の写真

年譜
 最初に観察されたのは1946年、コンデンサーのCd電解めっきである(Cobb)。
 1948年にはチャンネル・フィルターの故障原因がCdウィスカであることがわかった。
 これらによりベル研究所がウィスカ形成の研究を行い1951年にComptonらによる報告が出た。
 ベル研は自発的ウィスカの形成が電解Cdだけでなく、電解Zn、Snでも起こることを明らかにした。
 またウィスカはAl鋳造合金、硫化水素雰囲気に曝された電解Agでも起こることが判明した。
 1952年にHerringらはSnウィスカの機械的特性を調査し、単結晶と推測した。
 1953年にPeachはウィスカ成長にウィスカの中心のスクリュー転位によるSn原子移動により成長するという最初の
転位機構モデルを提案した。
 同年Koonceらはウィスカは先端ではなく根元から成長することを明らかにした。これでPeachモデルは否定された。
 同年FrankとEshelbyは別々に拡散制約機構で作用するウィスカの根元の転位からウィスカが成長するという提案を行った。
 Eshelby機構はFrank-Read転位源を含み、Frank機構はスクリュー転位に拘束pinnedされた回転端edge転位を含む。
 FrankとEshelby機構の駆動力は負の表面張力を発生する表面酸化過程である。

 1954年にKoonceらはsnウィスカはキンクすることを示した。
 同年Fisher、Darkenらはすずウィスカの加速成長という論文で金属学的に拘束されたclampSnめっき鋼はわずか数日
で多数のSnウィスカを成長させることを発表した。潜伏期間(遅延時間)は拘束力増加でゼロに近づいた。
 7500psi(52.5MPa)で最大成長速度10000Å/秒と報告。
 また成長速度は線形で、ある時点で成長が止まることを示した。
 Fisherらは自発Snウィスカの成長速度は約0.1〜1.0Å/秒であると指摘した。
 これらから、Snは高圧縮応力領域から低圧縮応力領域へ移動するという前提が生じた。
 Fisherらは成長モデルの前提を示した。それは、
   ・単結晶を生じなければならない。
   ・線形成長速度を説明できる。
   ・潜伏期間を説明できる。
   ・極高および定成長速度終期での突然の成長終了を説明できる。
 1955年にHashigutiはFisherらの熱力学的接近法は観測されるウィスカ成長速度の大きさを説明できないとした。
 これに対し1956年FisherはSnの自己拡散に依存する転位スベリ機構を発表。
 1956年にArnoldはウィスカ形成緩和mitigationにPb合金化が効果があることを明らかにした。
 また中性子照射がウィスカ発生を加速することを報告。
 1957年にBakerらはZn、Cd、Snのウィスカの曲がり角度を調べ、ピーク値が低指数面に対応することを発見。
 ウィスカは下地と非整合界面によって分離され、これは転位機構と両立しないと考えた。
 1957年にAmelinckxらはラセン転位モデルを提案。
 1958年にEllisらはSnウィスカ形成因子に再結晶を言及した。
 すべてのウィスカ成長方向は低指数スベリ面方向でなく、転位理論は非スベリ面ウィスカ成長を説明できないと考えた。
 1959年に溶融とホット・ディップSnコートを推薦した。また低湿、低温が成長を抑制すると論評した。
 1963年にGlazunovaらはCu、Ni、Zn、黄銅、Al、Ag、鉄鋼、Sn等の基体でのSn成長実験を行った。
 この結果Snめっきは0.5μm以下ではウィスカが成長しなかった。厚いめっきでは基体により複雑な挙動を示した。
 また初めて100〜180℃での1〜24時間の熱処理効果を示した。
 更に再結晶を形成因子にあげた。
  ウィスカ成長は自発的過程で、・・内部応力による、・・・熱処理効果は内部応力が主要な役割を演じている証拠、
 ・・・これらはウィスカの発生と成長はSnめっきの再結晶の特有な形態である。
 1964年にPittらはSnめっき鋼で拘束条件8000psiで最高成長速度593Å/秒と発表。
 同年Brittonらは黄銅へのSnめっきでCuまたはNi下地が有効であることを発見。
 1966年にEllisは自発成長の成長方向が低結晶軸方向でこれがスベリ面に一致することを示した。これは転位モデルを支持する。
 同年Arnoldは溶融とホット・ディップSnコーティングを推奨、また低相対湿度と低温がウィスカを減少させるとした。
 1968年にRozenは緩和策として最小厚み5μm、191−218℃での窒素中でのポスト・ベークを提案。
 1969年にFurutaらは急冷Sn−50Alで0.5〜5.0Å/秒の成長速度を観察。
 また彼らはEllisらの再結晶概念に修正を行った。成長速度は空孔形成エネルギーの関数とした。
 1973年にTuはCuとSnの2層膜実験でCu下地にだけウィスカ成長することを示した。またCu6Sn5形成に伴う内部圧力を原因とした。
 1976年にLindborgは2段階転位モデルを提案し、粒界および転位パイプ拡散を高ウィスカ成長速度の理由とした。
 しかし成長を先端からとした。
 1982年にKakeshitaらはウィスカは再結晶粒に成長するとした。
 1994年にTuは破れた酸化膜がウィスカ成長の原因とした。
 1998年にLeeらは初めてSn電解めっきの残留応力を測定し、Cu6Sn5IMC形成によって圧縮応力が発生する、ウィスカはSn膜の多くの
 配向と異なる配向の粒から成長、酸化膜は粒界を挟んで存在し、圧縮応力を解放するために、ウィスカは酸化膜に挟まれた粒から
成長するとした。
 同年YamadaはSn−Bi、Sn−Agめっきのウィスカ抑制効果を示した。
 2001年にZhangらはFIBでウィスカの根元にはSn/下地界面から突き出たIMCが近接していることを示した。

 2002年にEgliらはウィスカ成長の危険性の因子は近くの粒との結晶方向の違いの程度に相関していることを示した。
 すなわちウィスカ成長を促進する粒界には離散的discrete低角範囲がある。
 同年にSampsonらは積層セラッミクキャパシタのAgフリット/Ni/Sn電極が熱サイクルでウィスカを形成することを発表。
 これでNi下地でもウィスカが成長することが明らかとなった。ただしこのSnはバレル・めっきで残留応力に関し、ラック・めっきと異なる。
 2002−2003年にScettyらは基材効果を評価、基材応力を重要因子とし、これは事前処理に影響されるとした。
 2003年にDittesらは典型的リードフレーム材で150℃アニール効果とNiとAg下地効果を緩和策として示した。
 2006年にWoodrowらはSn同位体により下地に平行な長距離拡散が生じ、拡散は粒界であることを示した。(プレゼン


 →文献一覧表

 *文献集

Smetana 2007 歴史−成長機構(転位理論と再結晶理論)

 転位理論
   先端から成長
    1952 Peach   転位機構
    1976 Linborg  2段階転位機構

   1954 Koonce  根元からの成長であることを示す。

   根元からの成長
    1953 FrankとEshelby 回転エッジ転位、ラセンscrew転位にピン留めされ、上昇とスベリ
    1956 Frank 転位スベリ
    1957 Amelinckx ラセンhelical転位

   1957 Baker 転位機構と一致しない観察
   1958 Smithら X線調査、いくつかの配向結晶軸、ラセンscrew転位の証拠はない。
   1958 Ellis ウィスカ成長軸は必ずしも低指数スベリ面ではない、転位理論は非スベリ面方向の成長を明らかにできない。
   2003 Lebretら 非スベリ方向のウィスカ軸→転位理論は受け入れがたい。

 再結晶 モデルなしの一般的言明
   1958 Ellis 転位理論以外の機構が必要→再結晶
   1963 Glazunovaら Snウィスカは再結晶の特異な形態。
   1980 Kakeshitaら ウィスカは再結晶粒の成長。

INEMI Snウィスカ・プロジェクト概観 Handwerker 2010

 1999−2002:Pbフリー・アセンブリ・プロジェクトのSnウィスカのタスク・フォース
 2001:3グループに分割、表面処理ユーザー・グループ、Snウィスカ試験・グループ、Snウィスカ・モデリング・グループ
 2007:1グループに統合、Snウィスカ基礎グループ


 フェーズ1、2:(2001−2003)
  Snウィスカ試験文書を提案。
  温度と湿度を試験。
  黄銅基体の光沢Sn、Cu基体のマット・Sn調査。

 フェーズ3 評価:(2003−2004)
  試験法の確認と提案。
  短期(1月)と長期(1年)の比較
  JEDEC Snウィスカ規格へ反映
    JEDEC 規格 JESD22A121 試験方法(2005)
              JESD201    受け入れ基準(2006)
  *下記信頼性試験結果参照

 フェーズ4 評価:(2005)
  電場バイアス効果・・・加速に影響しない
  リフローはウィスカ成長抑制効果ないことが判明。
  酸化、腐食がウィスカの他の起源・・・CTE不整合とIMC不規則成長に続く第3機構。

 フェーズ5:(2004−2007)
  広範な範囲の温度、湿度の効果。30−100℃、10−90%RH。13000hrsまで。
  Cu合金(C194)リード・フレーム上マットSn、多種な厚み(3&8μm)、リフロー条件など。
  腐食潜伏、ウィスカ潜伏、ウィスカ成長速度のモデル
  結論
   ウィスカの存在と腐食の始まりは温度と湿度の機能で示される。
   ウィスカ形成は腐食領域と非腐食領域で異なる。
   Cu上Snでは60℃、87%RHが最適高温高湿試験条件。


 フェーズ7 微細構造進化
  目的
   Sn結晶配向の影響、EBSDとX線回折で分析。
  成長試験
   温度サイクル、保管試験(50℃、55RH%)

  AATC:2−40℃〜85℃


 →CALCE

(15−2−2) 現象

成長速度
 Stupianの採録
  0.03〜9mm/年(Wassink)
  黄銅では8μm/日(Dunn)
 Fukudaの採録
  Tu     0.2/秒
  Key    1.016mm/月
  Kadesch 0.13−0.80mm/年

 Handbook of Lead-Free Solder Technology for Microelectronic Assemblies(Puttitz)
  種々な基体上の自発的Snウィスカ成長速度
めっきタイプ ウィスカ成長速度(Å/sec) 参照
黄銅上Sn 0.100−1.500 Glazunova and Kudryavtsev
Cu上Sn 0.080−0.840 Glazunova and Kudryavtsev
Zn上Sn 0.240 Glazunova and Kudryavtsev
Cuクラッド鋼上Sn 0.008−0.012 Zakraysek
石英上Sn 0.010−0.340 Ellis et al.
鋼上Sn 0.032−0.075 Ellis et al.
黄銅上Fe上Sn(黄銅/Fe/Sn) 0.002−0.008 Ellis et al.

 Chasonら 
  実際のウィスカ成長


機械的特性
 Dunnによると
  ヤング率(5サンプル) 1907、2085、802、8480、2774kg/mm
  UTS 0.8kg/mm
 Barrettの結果
  〔001〕方向のヤング率 8640kg/mm
  〔110〕方向のヤング率 2680kg/mm

最大長さ(環境試験)
 DfR


*一般的には単結晶といわれるが、結晶方位の異なる粒があるように見える場合もある。
NASA

                                     溝のあるflutedウィスカ、断面で異なる配向の結晶が見られる


2004 信頼性試験
 NEMIフェーズ3の実験マトリクス 種々のマットSn

*CDA194:Cu-2.4Fe-0.03P-0.12Zn、C7025:Cu−3.0Ni−0.65Si−0.15Mg(コルソン合金)

 室内(〜19から23℃、〜30から60RH)6000h
 



 恒温保管(高温高湿)

 5000h検査







 温度サイクル

 3000サイクル検査





 要約
  恒温保管(高温高湿)と温度サイクル両方は室内保管に比べウィスカ成長を加速。
  6000時間の室内貯蔵ではC194のマットSn(3−5μm厚み)だけがウィスカ成長。


不連続成長 Jiang
 基材:冷間圧延りん青銅(Cu5Sn0.35P)


  潜伏期間、速い成長期、突然の成長停止期、根元からの短い再成長期、最終的成長停止の5段階


 第1段ウィスカは長さ62μmで径2.8μm、根元の第2段ウィスカ(径約4.5μm)が太く、溝がある。
 第2段が第1段より成長速度速い。


 上例は非常に細く(径約1μm)、竹の節構造、帯の幅は0.2〜0.4μm。
 表面は比較的滑らかでスベリ段(明るい線)が存在。
 下例は不規則形態で3角状に曲がり、いくつかの部分からなる。
 AとBで約90°の捩れ、BとCで成長方向と形態変化。

 酸化膜の破壊と自己治癒が不連続成長の可能な理由かもしれない。


Sobiech





  種々のエージング時間のウィスカと多様なウィスカ形態




Horvath

*孫引き
 フィラメント型:多くは単結晶で、典型的には径1−3μmで長さ数十から数百μm。主にブライトSnめっきと関係。
 柱状columnar型:フィラメント型より通常短く、厚い。径2−6μmでSn層の粒寸法に依存。長さは0.2mmを越える
          ことはめったになく、表面に縦溝がある。時々多結晶。粒寸法1μm以上のマットSnに一般的。
 ノジュール型:一般的に真っ直ぐでなく、厚く、根元が束状。形状と寸法は大きく変化。根元径は5−20μmで長さは10−50μm付近。
          通常、フィラメントの先駆として出現。
 ヒロック型:ピラミッド形構造。しばしば根元から後で数個のウィスカが成長。数μmの水平、垂直次元を持つ。

  文献報告






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