Pbフリーはんだの金属学的基礎

(7−5−3) SnAgCu、SnCu系Pbフリーはんだの比較

 ここでは特に各種SAC、SnCu系のPbフリーはんだについて比較する。

@ 各種NESACの比較

  まず3〜4Ag、0.5〜1.0Cuの共晶近傍NESACについて検討する。

(A) 3元共晶

 ParkによるとSACの共晶組成は
  Debahrdt、Petzow:Sn-3.6Ag-1.5Cu
  Miller:Sn-4.7Ag-1.7Cu
  Loomans:Sn-3.5Ag-0.9Cu
  Moon:実験的にはSn-3.5Ag-0.9Cu、計算ではSn-3.66Ag-0.91Cu
  Ohnuma:Sn-3.24Ag-0.57Cu(計算)
 等とされる。HUTによるとSn-3.4Ag-0.8Cuとされる。
  この共晶組成についてはSn-Ag-Cu(SAC)系でも触れた。
  実際は平衡相は実現しがたく、βSnあるいはIMCが初晶として出現しやすい。

(B) 共晶と共晶ずれoff eutectic組成

  ほぼ共晶(一般的にはSAC357など)と亜共晶(SAC305)、過共晶(SAC396、405など)の間に特性的に差があるあるのか。
 (共晶近傍NE・SACの特性と比較も参照)

 光沢と表面状態 
  表面の非金属光沢化(白化)は1Ag付近が最も広範で、それに対し収縮孔(亀裂)は2Ag付近から激しくなる。
  4Agを越えると光沢性が良くなり、更にCuは多いほうが良い。
  これはβSnデンドライト組織が微細化していき、デンドライトでなくなることによる。更にIMCによる共晶組織ネットワークがくずくれ、
 IMCがSnマトリクスに分散したような状態で、共晶領域は少なくなる。
  しかしAgが多くなると巨大な初晶Ag3Snが晶出しやすくなる。



 千住金属工業 鉛フリー実装フォーラム 2004 


Pandher
 Ag、Cu増加でデンドライトβSn微細化、更にデンドライト消失

(a)Sn-3.0-0.5Cu  (c)Sn-3.7Ag-0.9Cu           (b)Sn-3.9-0.6Cu   (d)Sn-3.6Ag-1.0Cu

寸法効果 荘司 群馬大
 微細寸法(径0.5mmx2mm)試料の微細組織とバルク組織
  亜共晶、共晶、過共晶に相当、亜共晶から過共晶になるに従い、βSnは微細になり、過共晶では針状となる。
  マイクロ・サイズ試料よりバルク試料のβSnが粗い。



菅沼
 組成と冷却速度(急冷RC、中冷MC、緩冷SC)

 急冷RCでは共晶組織はSAC357が最も広い。緩冷SCでは共晶組織が粗化。
 共晶組織は冷却速度減少とAg量増で粗化する。

 DSC:昇温0.1℃/min
 




 SACの等軸組織というのが何人かのひとにより紹介されているが、いずれも倍率が極端に異なり、微細な組織を思わせる。

Zeng SAC387
 等軸組織
   250℃で30分保持し、180℃予熱の鋼製鋳型に鋳造し、その後3ヶ月室温でエージング。
 デンドライト組織
   250℃予熱のアルミニウム製鋳型に鋳造し、鋳型ごと水冷。


 *通常は成長速度とともにセル状(柱状)、デンドライト、等軸と変化する。

Lee
 DSC:5℃/min



Song Cu量の影響
 Sn-3.5Ag-xCu


Cuの影響

 Sn-3.5Agへの0.5Cu添加で結晶相(βSn?)粗大化、1.0Cuで微細化。

  ただし実際の基板と部品のはんだによる相互接続でははんだは微量で寸法が小さく、なおかつ電極との反応、電極の溶解が
 生じるのでこのような組織を示しがたい。

Shin Sn-3.5Ag-xCuとCu基材の界面反応
 Cu量で界面IMCの形態変化、Cu量多いと粗化する。



AgとCu 富士通


Almit


(C) 過共晶SAC(SAC405)と亜共晶SAC(SAC305)の比較

  日本ではSAC405が話題になることはないが、欧米ではSAC405がよく使用されたので比較がされる。
  問題となるのは初晶Ag3Snの晶出である。
  強度と従って温度サイクル特性、クリープ特性はSAC405が若干良いとされる。
  しかし一番問題なのはAgが多いことによる価格への影響である。

2009_06_2nd Generation LF Alloys-DfR 第2世代鉛フリーはんだ 2011 

 SAC305とSAC406(SAC396)  やや低いAg(3.0%)か高Ag(3.8−4.0%)か

   SAC396はNEMIで、SAC305はJEIDAで多くのデータ
   SAC305
    巨大初晶Ag3Sn析出問題で有利(析出しにくい)
    低融点
    若干低価格
    SAC305はより低せん断応力(より柔軟compliant)
   SAC305が徐々に標準を勝ち取った。

 SAC405は初晶Ag3Sn量が多い

 低価格より過剰Ag3Sn析出問題でSAC305がSAC405より標準的になった

 
 SACは析出(分散)硬化合金で微細構造はリフロー(アセンブリ)条件の影響を大きく受ける。
 (Ag3Snは大きな初晶として晶出するより微細な共晶として晶出するほうが良い)

Intel プレゼン Vasudevan 2007

  温度サイクル特性はSAC405が良い。

McCormick 305vs405
 CBGA937、表面処理は置換Sn、ENIG、電解NiAu
 −55℃〜125℃では置換Snでは明らかにSAC405が良いが他は差がない、
 −55℃〜125℃でも低水準の故障率ではSAC405が若干良いが、高水準の故障率では差がない。



A NESACと低AgSACの比較

概要

2009_06_2nd Generation LF Alloys-DfR
  SAC305の長所
   高強度なので柔軟なパッケージ(BGA、CSP、QFP)に対し熱サイクル特性が良い。
   高降伏強度なので高サイクル疲労(低振幅振動)特性が良い。
   表面実装部品に対しぬれ特性が十分である。(しかし枕不良がおきやすく、裸のCuに対し濡れが不足)
   高クリープ耐性で高温動作可能。

  SAC305の欠点
   液相線が高くプロセス温度高い(高エネルギー使用、PCBと部品を圧迫)
   析出硬化合金なので機械的特性がプロセスとエージング条件で劇的に変化
   重要ではないが濡れ挙動(高表面張力)、Cu溶解、価格が理想的でない
   高剛性なのでパッド亀裂が一般的破壊モード(動的ひずみ)
   抵抗、キャパシタなど硬い部品で熱サイクル信頼性悪い
   衝撃特性がSnPbより非常に悪い

  SAC105 
   落下、衝撃特性がSAC305より良い
   熱サイクルはSAC305より悪い
   クリープ速度が非常に高い
   Cu溶解速度が低い
   IMCと巨大板状Ag3Sn抑制
   Mn、Ce等添加で特性大きく改善

  SnCuNi
   ウェーブとHALに有望
   Cu、Ni量制御注意
   表面実装に有望(振動、衝撃、熱膨張異方性)
   表面平滑で亀裂発生サイト減少
   高リフロー温度

* 低AgとSnCuの比較 千住金属

  熱特性
   低Agは固相線はSAC305と同じ217℃でSnCuNiの228℃より低い。
   Ni増加すると液相線が上昇し+0.05Niで250℃となる。
  濡れ性
   Agは濡れを改善しブリッジ問題を小さくする。
  引っ張り強度
   Agは引張強度改善。
  クリープ
   Agはクリープ改善。

各種性質のAg依存性

 物理的性質
  融点、固液共存範囲


Effect of silver in common leadfree alloys Pandher


 SAC状態図(液相線))


 濡れ

Pandher Ag効果



 Cu溶解

DfR


 組織的特徴
  微細組織
   Agの影響

 はんだの組織の評価は難しく、組成以外に冷却速度・熱履歴、はんだ量・試料サイズ、相互接合では寸法、電極溶解等
の影響を受ける。

Reid

 各種SACの光学像例


 SAC405だけが他と異なり、SnマトリクスにIMCが密に分散した構造。

Zhang Auburn大

 SAC105

SAC205

 SAC305

 SAC405

 Sn−37Pb

 苅谷ら(Shnawahから)
 FC相互接続

寺島ら


寺島
 電極 基体:無電解Ni(P)/電解0.1μmAu、Si:Cr/0.5μmNi/0.2μmAu


苅谷


Che (2007)

 苅谷らの写真では組成と組織の関係がわかりにくいが、Cheらのものではできすぎなくらい非常にきれいな傾向を示している。

Pandher



Swetman
 Sn−Ag−Cu状態図 平衡条件
  SAC305、SAC107、SAC105、SAC0307では
   第1段階 初晶Snデンドライト
   第2段階
    SAC305:Sn−Ag3Sn共晶
    その他  :Sn−Cu6Sn5共晶
   最終段階 3元Sn−Ag3Sn−Cu6Sn5共晶
   相の割合と形態は合金で変化

 SACとIMC晶出
  SACのIMC、たとえばAg3Sn、Cu6Sn5は初晶、共晶そして微量だが過飽和固溶体からの析出、及び電極材料(の溶解)の影響を
 受けてのはんだ/電極界面への堆積(晶出あるいは偏析)がありそれぞれ形態が異なる。


 機械的特性
  単調応力−ひずみ特性



 機械的強度はAg量にほぼ比例する。



Intel プレゼン Vasudevan 2007
 Agの効果  Agが増えると耐熱疲労性向上
 


 Terashimaら(2003)

Pfahl 2012
 低AgSACは高AgSACより温度サイクル特性が悪い。


2009_06_2nd Generation LF Alloys-DfR


2009_06_2nd Generation LF Alloys-DfR
 振動試験
  低ひずみではSACが良いが、高ひずみではSnPbが良い。




第2世代2011 DfRプレゼン

  クリープ
    SnPbのクリープ速度は125℃までのエージングの影響は大きくない。
    SAC305のクリープ速度はエージング条件により大きく影響される。
    SAC105では更にエージング条件に影響される。

 クリープ




 熱サイクルではSAC305がSAC105より良い。

Liyakathali
 低Ag化による熱サイクル特性の低下は一般的には落下特性の改善より重大。
 単純な質量計算による価格節約はあてにならない。


 SAC105でも依然SnPbより落下特性は悪い。


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