Pbフリーはんだの金属学的基礎
                                                   

〔T〕 Snの金属学的基礎

(1) Snの金属学的基礎

(1−1) Snの基本的性質

(1−1−1) Snの同素体

 Snには低温側からα、β、γの3つの同素体があるとされる。

 β→γは100℃から161℃、170℃、175℃、195℃更に203℃まで種々あるが200℃付近が正しいとされる。

 G.ネチャエフらの文献では
 
同素変態 β−Sn γ−Sn
存在温度範囲、K 286.3−446.1 446.1−505
密度、g/cm 7.295 6.52
比熱容量、J・K/g 0.2234 0.2234

 γは斜方晶とされる。

 βからαの変態は低温で起き、Snペストといわれる問題を生じる。

 

 苅谷らの文献から(Pottgen
         同素体 白スズ(β) 灰スズ(α)
結晶構造
 格子定数(Å)
BCT
 a:5.831
 c:3.181
ダイヤモンド状
 6.489Å
密度(g/cm 7.29(288K) 5.77(286K)
電気抵抗(μΩ) 11(273K) 300(273K)
熱膨張係数(ppm/K) 20 4.7



(1−1−2) Snペスト

 高純度Snでは変態温度は13.2℃とされるが実際は約−10℃で起こり、約−45℃で最大の変態速度とされる。
 この変態は約27%の体積増加を起こし、組織崩壊を起こす。(Snペスト)
 Snペストは合金化による抑制が効果があり特にPb、Bi、Sbが効果があるとされる。
 αSnへの接触(自己触媒効果 感染→ペスト)、加工などが促進するとされる。

 Snペストの実際

   苅谷らのSn−0.5Cuの255Kエージング結果
  

  255Kで7ヶ月
 

  255Kで1.5年
  

 末永らの実験結果
  4N(99.99%)のSnと3NのSnあるいはPbフリーはんだ各種を−45℃で180日間放置すると、4Nのものは
 α相が生じたが、その他は生じなかったという。

   4NSnで発生したSnペスト
  

  また0.01%の添加ではPb、Biに抑制効果が見られ、Agにもこれらより劣るが抑制効果は見られるとする。
  Feは明らかに促進効果があるとする。

HUTのW Peng
 Sn−0.7Cu、SAC348、Sn−3.5Ag、Sn−36Pbを調べている。
 機械的性質の役割が大きいとする。










*スズ鳴き(tin cry)
  βSnを変形させる(曲げる)とガリッという独特の音を発し、これをスズ鳴きという。
 
  これれは結晶構造の変化(双晶に変化、変形双晶)に起因し、音響放出AEacoustic emissionである。
  AEは一般的には可聴周波数以上となる。
  同様の現象はNb、In、Zn、Gaでも起きる。
  双晶による変形はbccやhcpで低温や高速変形するときに起きやすい。

 
 
 変形モードとしてスベリより変形双晶が好まれるのは
  可能なスベリ系が少ない、低対称結晶(例:Sn(正方晶)、Zn(hcp))
  高歪速度、金属中での音速変形で双晶が起きる。(Sn、In鳴き)

(1−1−3) βSnの異方性

  βSnは異方性が大きく、特に熱膨張率はc軸方向がa軸方向の倍ある。
  またヤング率はc軸方向がa軸方向の3倍近くある。

Pierce
 
Mclean
 

(1−1−4) すべり系

Bieler
  βSnは結晶構造が複雑ですべり系も複雑である。
  藤原らによると(100)と(110)が最も容易。

  

Matin



木下





(1−1−5) 高速拡散

 βSnではAu、Ag、Cuなどが高速拡散を起こし、金属間化合物IMC形成などに大きな影響を与える。

 Cottsらの文献
  

  NISTの文献から


Seo


 Snの異方性
結晶軸 熱膨張係数
(ppm/℃)
ヤング率E
(GPa)
Sn中の拡散率(150℃)(cm/s) Snの自己拡散率
(150℃)(cm/s)
Ag Cu Ni
a軸 15.45 22.9 5.6x10−11 1.99x10−7 3.85x10−9 8.70x10−13
c軸 30.50 68.9 3.13x10−9 18.57x10−6 1.17x10−4 4.7x10−13

Zou


IBM


(1−2) Snの材料的特徴

(1−2−1) ホモロガスhomologous温度(融点規格化温度)

  ホモロガス温度(融点規格化温度、相同温度)は対象温度Tuseを融点Tmで割った値すなわちThomo=Tuse/Tmで、
 ホモロガス温度Thomoによれば融点の異なる材料でもその特性が同一基準で比較でき、再結晶やクリープなどが拡散が絡む
 現象では約0.5Thomoが目安となる。   
  Snは常温付近で約0.5Thomoで、従って常温でもで再結晶やクリープ、組織変化が起き易い。
  
金属 融点(°K) ホモロガス温度
300K 400K
Sn  505 0.59 0.79
Zn  693 0.43 0.58
Pb  600 0.50 0.67
Bi  545 0.55 0.73
In  430 0.70 0.93
Sn−80Au  553 0.54 0.72
Sn−9Sb  519 0.58 0.77
共晶Sn−Ag−Cu  490 0.61 0.82
Sn−9Zn  472 0.64 0.85
Sn−37Pb  456 0.66 0.88
Sn−58Bi  412 0.73 0.97
Sn−52In  390 0.77
   
Al  933 0.32 0.43
Ag 1235 0.24 0.32
Cu 1385 0.22 0.29
Ni 1728 0.17 0.23
Fe 1811 0.17 0.22
Cu6Sn5(η)  688 0.44 0.58
Cu3Sn(ε)  949 0.32 0.42
Ni3Sn4 1069 0.28 0.37
AuSn4  525 0.57 0.76
PdSn4  568 0.53 0.70
PtSn4  795 0.38 0.50
FeSn2  786 0.38 0.51
CoSn2  798 0.35 0.50
Ag3Sn  753 0.40 0.53
Ag5Zn8(γ)  704 0.43 0.57
Cu5Zn8(γ)  973 0.31 0.41
Ni5Zn21(γ) 1154 0.26 0.35

(1−2−2) 表面張力、粘度、蒸気圧

  Snは比較的表面張力が小さい。
  またPbはSnより表面張力が小さく、Sn−Pb系はんだは表面張力では有利であるが、
 一方Pbフリーはんだの主な金属であるAg、Cu、Znは表面張力が大きく不利となる。
  Biは表面張力が小さく、Bi合金化は表面張力低下に効果がある。

◎ 粘度

Handbook of Lead-Free Solder Technology for Microelectronic Assemblies
Karl J. Puttlitz,Kathleen A. Stalter から
 融点での粘度
元素 粘度、μ(mPa・sec) 参照
Ag  4.28 Iidaら
Au  5.38 Gebhardtら
Bi  1.63 Iidaら
Cu  4.34 Iidaら
In  1.80 Iidaら
Ni  4.5−6.4 Iidaら
Pb  2.61 Iidaら
Sn  1.81 Iidaら
Sb  1.43 Iidaら
Zn  3.50 Iidaら

NPL UKのHuntら(孫引き)


◎ 表面張力

帝国カレッジのSymsら


◎ 蒸気圧

Rothの Vacuum Sealig Technologyのものを紹介する。


 *蒸気圧、表面張力、粘度等についてもっと種々なデータ →蒸気圧、表面張力、粘度

(1−2−3) 溶融Snへの高融点金属の溶解

 Snは貴金属を溶解しやすく、その傾向はおよそ下記の通りである。
  Au>Ag>Cu>Pd>Ni、Co、Fe、Pt
 この溶解はSnの合金化によって変化する。(はんだについては→(10−2−1) 接合金属の溶解

(1−2−4) 金属間化合物の形成

  Snは多くの元素と金属間化合物IMCを形成する。(Stannide

Au Ag Cu Pd Pt Bi Zn In Al Sb Ni Co Fe Ti Cr
Sn eu eu eu eu
◎:IMC形成、eu:IMC形成しない、
*Crは形成するともいわれる。
 詳しくは →(10) Pbフリーはんだと金属間化合物IMC

(1−2−5) 物理的性質

 機械的特性については種々の理由でばらつくがelfnet のデータ・ベースを紹介しておく。



また

UCLAによると






 液体SnへのCの溶解度
  lgXc=−13800/T+0.315   Xcはモル比

 酸化
  低圧(2x10−4)では温度に関係なしにSnO、
  5x10−3では400℃までSnO、温度上昇でSnO2が形成され始める。

硬度

 Chan

 マットSn:〜8−10kg/mm2
 光沢Sn:〜15−20kg/mm2

(1−2−6) 化学的性質

 詳しくは
   →酸化 
   →腐食

(1−2−7) 金属資源としてのSn

 錫鉱石の主要生産国は中国、インドネシア、ペルー、ボリビア、ブラジル、オーストラリアで年間約3億トン程度である。
 電気錫の主要生産国は中国、インドネシアで、生産は約3.5億トン程度である。
 主に漂砂鉱床として産する
 用途ははんだ(増加傾向)、ブリキ(減少傾向)、青銅鋳物(減少傾向)が主である。
 すずは錫石(SnO2)として黄銅鉱、黄鉄鉱、タングステン鉱などに伴い、Fe、Cu、W等を含む。
 
 精錬は酸化物なので反射炉などでコークス、石灰石で主に還元精錬を行う。純度99.85%。
 更に高純度化は電解精錬を行う。純度99.995%以上。

 紛争鉱物
  米国の2010年7月に成立した金融規制改革法1502条に規定されるもので、コンゴ共和国とその周辺国から
 産出されるSn、Ta、W、Auが対象として挙げられている。

*In、Sb、Bi資源

 In
  Inは主に閃亜鉛鉱(ZnS)やそのほか亜鉛や銅、鉛の硫化物鉱、すず鉱石に微量含まれる
  生産は亜鉛の副産物となり、その量は6百トン前後である

 Sb
  鉱石は輝安鉱Sb2S3が代表でその他、硫化物、酸化物として産する。
  地金としてよりSb2O3として多く利用される

 Bi
  ビスマスはビスマス鉱石(自然蒼鉛、輝蒼鉛鉱Bi2S3)からと鉛・銅精錬の副産物から得られ、
 鉛精錬の副産物としての供給が主である
  消費量は1千トンから1.5千トン程度で微増の傾向にある。

 リサイクル
  はんだ、ブリキのSnはリサイクルされるという。(年間約900万トン弱


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