(15−7) ウイスカー緩和策の概観


 緩和策については(15−2) ウィスカの現象と理論の概観のなかの特に
   (15−2−3) 原因−駆動力と生成・成長機構
   (15−2−4) Osenbachの説明
で触れられているが、ここでは更に詳しい文献を見てみる。


 部品とはんだ付け・実装・組み立て後のウィスカ形成の差

Dittes
 諸条件とウィスカ成長 
   部品状態保管とはんだ付け後の使用状態の差異


 ウィスカ試験の多くは部品状態で、PCBにはんだ付けした状態でないことに注意。

 部品の基板搭載時の変形、応力付加、はんだ付けによるめっきの溶融・移動などが起きる。
 更に製品組み立て(アエンブリ)による応力付加等のや製品使用状態の影響もある。
   →すべてウィスカ形成に影響


(15−7−1) 緩和策の歴史

2003年11月 Galyon 

 熱処理 ・・・アニール(融点以下)、溶融(通常油浸漬)、リフロー(通常ベルト炉)
  1962年にGlazunovaは100℃、6時間以下、150℃、2時間以下でのアニールのウィスカ発生・成長の抑制効果に言及。
  1968年にRozenは191−218℃、最低4時間、窒素中処理の効果とSn−Cu界面のIMC改善とめっき膜の粒成長に言及。
  1975年にSabbaghらは抑制に効果があるが除去はできないと要約。
  1973年にTuは60℃以上でCu6Sn5はCu3Snに変化するとした。
  1974年にBrittonはデータを概観し、黄銅へのSnめっきのアニールは形成開始を遅延させるだけとした。
  1983年にGlazunovaは基材、下地の違いによる効果に言及。またアニールがめっき膜の残留応力減少させると述べた。
  2002年にWhitlawらは各種SnとSn合金をCu−2.0Fe−1.2Znと42アロイに形成しアニール効果を確認、しかし
 52℃、98%RH放置ではあるものにウィスカが生成。

 下地
  1974年にBrittonは黄銅へのCuの効果と鉄鋼への悪影響を認める、また黄銅へのNi効果を認めた。条件は20℃の乾燥条件。
  1987年にDunnは20℃、40−80%RHで黄銅へのCu下地で多量のウィスカ発生を報告。
  1997年にEwellらは多層キャパシタではNi下地で問題が出てないことを報告。
  2002年にChenらはCuへのNi下地Snめっきで応力測定し、Ni下地では残留応力は引っ張りで、Ni無しは圧縮であることを発見。
  同年、WhitelawらはCu合金(C194)へのNi下地の52℃、98%RHへの効果を発表。
  同年、Voらは60℃、95%RHとー45℃から85℃の温度サイクルでNi下地は完全には緩和できないことを示した。
  同年、E3グループは室温保管にAgとNi下地が効果ありと述べた。温度サイクルはCu基材のSnめっきに対し影響はないが、
 42アロイには加速効果を認めた。
  これらをもとにインフィニオンはマット・SnめっきCu基合金リードフレームの緩和策の下記を採用。
   1. Ag下地(>2μm)
   2. Ni下地(>0.52μm)
   3. アニール(150℃、2時間)

 合金Snめっき
  1963年にGlazunovaらはSn60−40SnPb−、65−55SnCu、65−35SnNi、80−20SnZnなどを調べ、90−20SnZn以外は成長抑制
  の顕著な効果を認めた、低合金ではSnNiでNi>12%以上とした。また2−3%BiとSbに3−4ヶ月の潜伏期間増加を認めた。
  1966年にArnoldはウィスカ緩和にSb、Co、Cu、Ge、Au、Pb、Niが最も有望とした。このなかでSnPbがめっき性等から実際的とした。
  これをもとに緩和策としてSn−10Pbが1960年代晩期から支配的になった。
  1964年にBrittonらはCuまたは鉄鋼基体より黄銅がよりウィスカが成長しやすいとした。Znが表面に到達することを証明。Cuも表面に到達。
  1974年にBrittonはSn−35Niがウィスカを生じないとした。しかしはんだ付け性がSn−Pbより劣る。
  1998年にYanadaは5−15%のBi、Ag添加効果を報告。
  2000年にSchettyは55℃保管での合金効果について、基体が黄銅、194アロイ(Cu−2Fe−12Zn)でSn1Cu、Sn2Cu、Sn3Cu、Sn5Bi、
 Sn10Bi、Sn10Pbのすべてにウィスカ成長を認めた。
  2001年にVoらはSnBiが他のSn基めっきより優れているとした。しかしはんだ付け性は共晶SnPbよりすべて劣る。
  2001年にMoonらはCuがSn膜粒径を小さくし粒界のIMCを析出するとした。

  これら結果には大きな相違が見られる。

 溶融、リフローSnめっき
  1966年Arnoldが溶融とホット・ディッピングのウィスカ緩和効果に言及。
  1974年にBrittonがホット・ディップとリフロー溶融が効果ありと述べた。
  1987年Dunnが機械的拘束したSnめっき鋼の溶融効果を肯定した。
  
 Sn、Ni、CuとそのIMCの物理的性質
 

 Sn膜の応力測定
  マクロ応力
   片もち梁の利用
   X線回折(ピーク位置移動)による格子歪
   X線ピーク幅の広がり
  ミクロ応力
    X線ピーク幅の広がり

 Sn膜の優先配向


  現時点では優先配向は商業利用では満足して制御できない。

 拡散
  拡散はウィスカ形成の認識された要素。NiはCuの拡散バリアとして名高い。

  自己拡散


  Snでの高速拡散(Cu、Ni、Au)

  SnのNi、Cuとの相対拡散

(15−7−2) Hillmanらの概観

Hillmanら Snウィスカ緩和の新しい(より良い)接近法 

 基礎
  ウィスカを駆動する応力は5の源から生じる。
   下地金属(IMC形成)
   下地金属(熱膨張係数の差)
   バルクめっき条件
   酸化・腐食
   外部圧力

 下地金属(IMC形成)
   CuのSn粒(内)拡散と粒界拡散速度の大きな差のためCu6Sn5は粒界に成長。
   体積膨張は58%(Cu6Sn5に対するCuとSnのモル体積)でめっき中に大きな圧縮応力発生。
   下地めっきにNiを使用するとSnとCuの相互拡散としたがってCu6Sn5形成を阻止。
   SnとNiのIMCのSn3Ni4は比較的薄く、均一でNiのSnでの低溶解度のため自己制限。
   この形態は圧縮応力を生まず、むしろ若干引っ張り応力的。
   このため1.2μm以上のNi下地めっきがウィスカ成長抑制のためよく使用される。

   めっき後すぐの150−170℃でのアニールもよく利用される。
   60℃以上ではCu3Snが形成され、75℃以上ではSnのバルクと粒界の拡散速度はほぼ等しくなる。
   これによるIMC形態は圧縮応力を生ぜず、均一な層がCuとSnの拡散速度と相互混合を減少させる。


 下地金属(熱膨張係数の差)
  下地金属がSnめっきより熱膨張率が小さいと、繰り返し温度変化で圧縮応力が生じる。
 
材料 CTE(ppm/℃
Sn 23
Cu 17
黄銅 19
青銅 10
Ni 13
42アロイ  5
鉄鋼 11−17



 バルクめっき条件
  集合組織texturingあるいは有機光沢剤のようなめっき成分の巻き込みを起こすような条件などでのめっき工程によりめっきバルクに
 圧縮応力が導入される。
  小粒はSnとCuの相互拡散とウィスカ形成のための速いSn拡散のための粒界をより多く生じる。
  このため光沢Sn(粒サイズ<1μm)は電子部品に許容されない。
  集合組織(粒の優先配向)の度合いは臨界則を演ずると思われる。
  高有機光沢剤量、高電流密度が集合組織をもたらす可能性がある。
  このようにして導入された粒配向はウィスカに好都合で圧縮応力を増加させる。

 酸化・腐食
  Snの酸化過程も圧縮応力状態を誘起する。
  常温でのSnの粒内及び粒界でのOとSnの拡散速度の大きな差のためSnO2は粒界(微小亀裂も)に優先し成長する。
  体積膨張でめっきに大きな圧縮応力が生じる。
  同様にある条件では表面に腐食が生じ、腐食生成物がSn内に圧縮応力を誘起する。


  昇温、湿度への暴露が常温でのSn酸化の自己制限を打ち破りこのような挙動を加速させるという示唆がある。

 外部圧力
  コネクタ(基板上、プレスフィット)、スタンドオフ、カード・ガイド、ワッシャー、ターミナル、取り外し(セパラブル)シールディングなどを含む
 電子製品の外部圧力点に共通であるが、特にSnめっきフレキシブル回路の接触圧力が問題である。
  ポリイミド基板の高剛性は局部的高圧力、従って高応力をもたらす。応力が大きいほど応力解放のためウィスカは長くなる。

 緩和の新接近法
  1原因の応力だけに対応する緩和は失敗する。すべての応力に対して保護することは不可能であると思われる。
  このためチェックリストと工程管理の基本的2行動に頼る。

  IMC形成のよる応力は適正に制御されているか
   アニールによって。(めっき24時間以内の150℃x1h)
   適当な下地めっきによって。(Ni、Agなど)
   表面粗化などによって下地が異方性IMC成長を制限しているか。

  熱膨張率差による応力は適正に制御されているか
   下地はCu。
   熱膨張係数はNi(13ppm)より大か同等。

  バルクめっきの応力は適正に制御されているか。
   供給者は面内応力を月単位で測定し、応力が引っ張りか温和な圧縮であることを保証。
   低C、有機含有量Snめっきだけを使用。
   めっきをリフロー。

  酸化・腐食による応力は適正に制御されているか。
   装置は直接腐食条件に曝してはいけない。(水状フラックス残渣、腐食ガス、塩噴霧・・・)
   装置を真空で使用。
   湿度40%以下。
   絶縁保護コーティングかポッティング材料で被覆。

  外部負荷による応力は適正に制御されているか。
   Snめっきを取り外しできる機械的負荷体に採用しない。

Schueller DfR (Hillmanらに欠ける部分だけ補遺)

 ウィスカによる潜在的故障モード

  直接接触
    短絡、放電を起こす。
  電磁放射
    EM信号送受信、高周波でのノイズ。
    6GHz以上の信号劣化はウィスカ長さに無関係。
  デブリ(ゴミ)
    取れて2端子間を短絡。



 光沢剤
  マット・Snは鈍い外観・・・大粒、平滑でない表面
  浴に添加されたC光沢剤が新粒成長の核発生サイトとなる。
   →光沢めっきは小粒で平滑な表面
 


 腐食試験と汚染物の影響


 フレキシブル・ケーブルの接触応力

 →柔らかい高分子基材の接触が広範囲に応力を発生。

 採られるべき主な行動
  光沢めっき禁止(コネクタ・シェルと機械部品)
  Feまたは黄銅へのSnめっき禁止(機械部品)
  向き合わせmatedフレキシブル回路にはAuめっき使用。
  Ni下地またはめっき後の熱処理保証。
  ファイン・ピッチ部品にはウィスカ試験実施。
  可能なら絶縁被覆コート


(15−7−3) Smetanaらの概観

Smetana 2006 iNEMIの高信頼性製品に使用される部品のPbフリー表面処理についての推奨

 純Sn(及びPbフリー高Sn合金)表面処理はSnウィスカ成長の可能性による電子製品の信頼性危険がある。
 3つの方法による受容基準 
   緩和策の実施
   Sn試験要求
   供給者の工程管理
 ウィスカ緩和策はなお多くの場合論争的
 Snウィスカの基本的理論が依然論争的
  駆動力は圧縮応力  →粒界エネルギー派も存在
  転位機構理論は大方不承認 →再結晶を基礎とした理論
 圧縮応力源
  IMC形成 
   モル体積が置き換えたSnより大きいとSn膜圧縮応力 Cu6Sn5
                      小さいと   引っ張り応力 Ni3Sn
  酸化物成長
   SnO、SnO2のモル体積が置き換えたSnより大きい 圧縮応力
   激しい酸化(腐食)が高応力を生じる
  熱
   Snと基体(下地)のCTE不適合が温度変化で応力発生
  機械的

 緩和策は応力源あるいは応力解放にウィスカ成長以外の方法で対処しなければならない。

緩和策

 非Snめっき
  NiPd、NiPdAu、NiAu
   可能ならば好ましい
   SnPbまたはSACと両立
   モールド樹脂接着性良くない。
  Ag基礎表面処理 Ni/Ag、Cu/Ag、(Ni/)AgPd
   高硫黄環境でだけウィスカ成長、しかし他の理由で望ましくない
   はんだ付け性、シェルフ寿命に問題
   H2S(場合によってはSO2)雰囲気でAgウィスカまたはデンドライト成長。

 合金化
  SnPb
   たくさんの水平粒界
   ほとんど等軸組織(柱状でない)
   (大きな原子の置換拡散あるいは柔らかい相で高圧縮応力の緩和相となるという理論がある)
  SnBiとSnAg
   SnPbと同様の作用とするがデータは限られている。


  合金化はなぜ必ずしも効果がないか
    合金化成分量の非一様性
     量が少ない  SnPbのウィスカはPbの検知されない領域、SnPbはPb〜10%
     Biは<4% 亀裂抑制、はんだ付け性、低融点相形成(SnPbBi)
     Agは〜4%に制限 Agデンドライト、めっき工程管理困難
    量が少ないと粒組織を十分変化できるか疑問

  SnCu
    Cuはウィスカ形成を促進
      圧縮応力を増加
      Cu基体へのSnCuは最悪なひとつ


 下地 主にNi(場合によってAg)
  Cu基下地とSn反応によるCu6Sn5形成による圧縮応力蓄積を除去
     応力要因 Sn粒界へのIMC成長、モル体積増加
  IMC成長による応力源以外に効果ない
     CTE不適合、酸化、機械的なものでは依然ウィスカ形成 
     *Ni下地の例外の可能性
  Ni下地
      コネクタと受動素子に多く使用
      Sn−Ni相互拡散速度はSn−Cuより遅い
      SnのNiへの拡散はNiのSnへの拡散より速い
      Niモル体積6.6、Ni3Sn4は75.25   19.8ccs<34ccs
      Sn/Ni/Cu Snが空孔多い領域、Niが膨張
    帯域構造


  Ag下地 
   産業利用は限られている、データ少ない
   IMC成長速度はSnCuより遅い
   理論・詳細は少ない


 なぜ下地めっきは働かないか?
  下地めっきはIMC形成に関係する応力にしか効果ない。
  Niは他の原因にも効果ありえるがすべてへはない。
  他の圧縮応力源には酸化、温度サイクルでのCTE不整合による応力、機械的応力などがある。
  下地が亀裂、損傷すると激しいウィスカ成長がおきる。



 1:Flat、2:Bent、3:Tip、4:Scraped


 溶融
  めっき後すぐ(典型<1週)
   長い実使用で良好な結果。
   微細配線部品には使用されない。
   固有のめっき応力の除去と大きな粒成長。
   Cu3Sn形成でその上へのCu6Sn5形成速度(と伴う応力蓄積)が遅くなる。
  アセンブリ過程での部品表面処理溶融(リフロー)は同じ効果を示さない。
   幾何効果で溜まり部と薄くなる部分が生じる。
   IMC層がSnめっきに溶解し高応力部となる、Sn粒をウィスカ形成しやすい微粒にする。
   アセンブリ・リフロー・サイクルが影響。
     時には悪化




     良くなる場合もある

     リフローは影響ないというメーカーもある。

 ホット・ディップ
  純Sn、AnAgCu、SnAgまたはSnCuさえも
   良好な実使用経験、構造鉄鋼部品、コネクター、リレーなど。
   溶融と同様な効果(粒成長、応力、IMC)
   SnAgCu、SnAgなども利用でき、めっきより合金制御性良い。
   SnCuは大疑問。
   効果の関係する多くの要因がある。
     リード、部品幾何(形状)
     ディップ後の成形作業
     ディップ後の冷却作業
     はんだ浴維持と不純物
     フラックス種類
  いつでも効果あるわけではない。

 アニール、熱処理(Cu系基体) 150℃x1h、24時間以内。
  IC業界で頻用。(E4先導)
  めっき応力除去、粒成長、Cu3Sn(Cu6Sn5のこれ以上の成長抑制)上に均一Cu6Sn5形成。


  いつでも効果あるわけではない。 Snめっき工程等の依存。


 42アロイ
  ウィスカ駆動力はCTE不適合、下地めっきやアニール効果なし。
  SnBiがある程度有効(SnPbはんだとでは接合強度寿命に問題)
  温度サイクルではしばしば長いウィスカ成長


 他の配慮
  マットvs光沢めっき
   マットが一般的にはウィスカ形成しにくい。 低応力、大粒。
   マットSnがウィスカ・フリーというのは懐疑的。
  厚めっきvs薄めっき
   厚めっきが一般的にはウィスカ成長を遅らせる。



 表面化学エッチング
  3〜4μmのエッチングが効果ありという試験結果(試験が限られている)。
  4帯域モデルでのIMC形成の谷と丘が垂直効果という理論が当てはまる。


 絶縁被覆コート
  アセンブリ後のコートが成長速度を減少しそう。
  材料と環境に特殊性ありそう。
  解決cureとしてはデータ支持しない。

 要約
  緩和策はウィスカ危険性減少戦術の3つの鍵要求のひとつ
   試験と工程制御も重要
  この3段階戦術がSnウィスカの危険性を減少させるが除去はしない。


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