Pbフリーはんだの金属学的基礎
(7−5) SAC系およびSnCuX系のまとめ
(7−5−1) NESACとその代替の動向
SnPb代替はんだがSAC系に集約されるまでの経緯は 〔U〕
Pbフリーはんだの探索 で詳しく述べた。
SAC系では当初(2000年前後)は共晶に近いとされるSAC387などが中心となった。
その後欧米ではSAC405などの高AgSACが多く利用され、日本ではSAC305を標準とした。
2005年頃までに亜共晶のSAC305に多くが移行、SAC305は高AgSACより価格的に若干有利である。
特性的にはSAC305もSAC405も大きな違いはなかった。
どちらも特許に問題がないと考えられた。(SAC405は先行文献、SAC305は特許失効)
ウェーヴ用にはSnCuNiも推奨されたが、低価格化のため特性的に優れるSAC系で低AgSACが検討された。
(日本ではSnCuNiはスペリア社の特許製品のため避けられたが欧米では比較的良好な性質が認められた。)
また携帯機器の盛行で落下衝撃が問題となり低AgSAC(SAC105など)が落下衝撃破壊に対してSAC305など
より優位なことが判明、欧米では主にBGA用に検討が進んでいる。
共晶近傍SAC(NESAC)の微量元素添加による改善も進められた。
更に低SAgSAC、SnCu系の微量元素添加による改善も積極的に進められた。
このように共晶近傍SAC、特にSAC305の代替としては
フロー用低AgSAC・・・・・SAC0307、SAC107など。
耐落下衝撃用低SAC・・・SAC105など。
微量添加合金
NESAC+X
低AgSAC+X
SnCu+X
が候補にあがっている。
微量添加成分Xとしては固溶強化の見られるBi、Sb、In、界面IMCの改善効果の見られるNi、Coなどが検討(商品化)されている。
Mn、Ce、TiなどはSn結晶粒微細化と組織安定化に効果があるとされる。
希土類添加についてはウィスカが懸念されている。
これら代替候補の比較の焦点は温度サイクルと高ひずみ速度試験特性(落下衝撃、振動など)となっており、この両者はPbフリーはんだ
で相反関係(トレード・オフ)になっているが携帯機器以外では依然温度サイクル特性が重要である。
この点について詳しくは (13−9)
Pbフリーの信頼性 まとめ で述べる。
またこれら特性に大きな影響を与えるのは接合界面の特にIMC層の形態である。
これらについては改めて〔W〕
はんだ接合界面と金属間化合物、と 〔X〕
機械的性質と信頼性 で詳しく紹介する。
Indium社のSandyらの概観(要旨)
1990年代末から2000年初期のPbフリーはんだの研究の結果、共晶ないし共晶近傍Sn−Ag−Cuが選択肢とみなされた。
正確な共晶組成の合意はなかったがSAC387が近く、初期の一部の先駆者はこの組成を選択した。
2005年頃までにSAC305を使用する実装業者がいた。SAC305は共晶はずれで固液共存範囲をもっていた。また低Agで若干
低価格である。2007年頃までにIPCのはんだ製品価値協議会はSAC305を好ましいとした。
1990年代中期から約2005年までに携帯機器が増加し落下衝撃故障問題が生じた。
調査の結果SAC105が落下衝撃により強いことがわかった。2000年代末までにSAC105が携帯機器の主要選択肢となった。
2010年までにHenshallらとCoyleらが熱サイクルでSAC105がSnPbよりすぐれていることを示した。
同じ頃LeeらがSAC105へのMn、Ceの微量添加が純SAC105より落下衝撃と熱サイクルで顕著に優れていることを示した。
(Leeらは同じIndiumu社なのでこの辺宣伝臭がする。)
Pbフリー移行以降多くの使用者がSAC特にSAC305あるいはSAC387(どちらかというとSAC405)を採用した。
しかしここ数年貴金属価格が上昇し、これがAg削減圧力となってきている。
選択肢が3つに分けられる。
共晶近傍SAC SAC305、SAC387、SAC405など、熱サイクル特性が良い。
低Ag合金 SAC105、SAC0307など、落下衝撃特性が良く、Agが少ない。熱サイクル特性悪化が欠点。
高温環境などの信頼性不明。
微量添加合金 SN100C(スペリア、SnCuNi)、SACX(クックソン、低AgSAC+Bi+Ni)、SACM(インジウム社、SAC105+Mn)、
Sn992(インジウム社、SnCu+Bi+Co)など。
Kostic 2011 概要
SnPbの互換品はない
依然としてSnPbはんだあるいはめっきの互換品はない
業界はまだSnPbの置き換えを標準化していない
機械的特性が広く変化
異なる合金が異なるリフロー温度
異なる合金間でうまく互いに反応しないかもしれない
特許あるいは著作権で保護されている合金もある
はんだ接合組成も含む(*アイオワ大特許ははんだ合金組成だけでなく接合部組成も対象)
Pbフリーはんだの傾向
2005年は答えはSAC305
期待に答えられなかった
現存する合金の限界の発見で多くの合金が特殊用途に使用されている
SAC105
SAC405
Sn100C(日本スペリア):SnCuNi(Ge)
Sn−0.7Cu+Co
Sn−Bi
K100LD(Kester):SnCuNi+Bi
CASTIN(AIM):Sn−2.5Ag−0.8Cu−0.5Sb
SnCu
SnCuNi
SnBiZn
SnAgBi
Pbフリーはんだアセンブリと目視問題
PWB積層板laminate応力
目視
高アセンブリ温度
部品の耐熱性
BGAの合金混合での溶け合い不良
濡れと保管寿命
Pbフリーはんだと表面処理への転換の影響
新しい、知られていない破壊モードの出現
使用条件、環境に従い異なる応用ごとに異なるはんだが必要
温度、熱サイクル、振動、衝撃・・・
リワークとリペアが主要な懸念
装置・道具がリペアによる汚染(はんだ、表面処理)の影響を受ける
ある部品では信頼性の危険無しにSnPbとPbフリーを混合できない。
後退(Pbフリー部品とPbはんだ)両立問題
(界面へのPb偏析)
(ペーストはんだとはんだボールの溶け込み。混合不良)
Pbフリー信頼性問題
マイクロ・ボイド発生(カーケンダールボイド)
はんだボイド増加
高温、振動での低信頼性
*図に疑問、SACとSnPb逆か
BGAの混合(PbフリーボールとSnPbペースト)
はんだ付け性
Pbフリーはんだは濡れが劣る
Pbフリー耐久性
実際(フィールド)と実験(ラボ)との関係が未確立
SAC相互接続は高温、振動、衝撃で低信頼
消費財では低応力水準なので問題ではない
低応力:Pbフリーが良好
高応力:SnPbが良好
PbフリーSn信頼性問題
Snウィスカ
Sn伝染病plague
いままでPbフリーはんだ接合では観測されていない、継続研究中の領域
Ag、Cu、Zn添加が悪化させる
正方晶(βSn)から立方晶(αSn)への冷却による結晶構造変化
13.2℃で変化開始、最高変化速度は約−30℃
αSnは脆く、粉化しやすく、βSnより26%体積増加
Pb、Sb、Bi添加で抑制
Pbは5%以上、Sb、Biは0.5%以上
部品標準化管理委員会PSMC 2010 概要
Pbフリーはんだ問題 ”SnPbでは決して見られなかったこと”
〔注〕多くはSnPbで見られなかったのではなく、問題視されず調べられてなかっただけ、Pbフリーになって種々詳しく
調査するようになって明らかになったことも多く、特にかなり過酷な条件が多くどこまで問題かも明確でない場合が多い。
IMC剥離
ある種のリフローでの液体状態でIMCがパッドから浮き上がる。
信頼性の問題になるか?
Snを経由してのNiとCuの相互拡散
NiがCuパッド側で(Cu,Ni)6Sn5形成。
CuがNiと反応しIMC形成
この厚いIMCは信頼性で問題か?
これは高電流密度でより悪化するか?
IMC破壊
Cu含有はんだとNiパッドの接合でNi3Sn4の上に(Cu,Ni)6Sn5が生成し、このIMC間が機械的衝撃等に弱い。
*IMC剥離、交互作用等については(11−8)
はんだ接合界面に見られるいくつかの現象
はんだボイドが顕著に熱サイクル寿命を減少させる
他のPbフリーはどうか、振動、衝撃はどうか。
Ag(置換Ag表面処理)とSによる腐食
硫黄と高湿度環境問題はCu腐食、電気化学マイグレーション、Agウィスカも含む。
絶縁被覆がSnウィスカと奇妙な突出物で破壊される。
SnPb合金とBi含有Pbフリーはんだで接合で生じる問題
微量のPbがBi含有はんだの信頼性を減少させる。
Sn−58Biでは破局的・・・熱ではんだ接合は粉々になる。
Pbフリーはんだ問題 ”SnPb同様の問題”
小さな接合部、高電流でのエレクトロマイグレーション
1x10
−4A/cm
2台の電流密度でCuパッド溶解。
小さな接合ではしばしば単一粒はんだ接合となる→Cu拡散速度は粒結晶方向で異なる。
Pbフリーはんだでもボイドが生じる。
Pbフリー電子技術での影響
Pbフリーはんだ接合は衝撃信頼性低下
Cu溶解がリワーク、リペアに影響
Pbフリーの高プロセス温度でCAF問題が再登場
SACはほとんどSnで、Snは非常に異方的
c軸方向が温度変化でより拡張・収縮
c軸方向がより硬くstiff、a軸方向がより柔軟compliant
c軸がパッド表面、荷重に平行だと特に急速に亀裂を生じる。
はんだはホモロガス温度(使用温度/融点)が80%台
析出物の拡散とクリープが顕著。
PbフリーはんだはSnPbより信頼性が良かったり悪かったりする
PbフリーはPCBに影響
SACとNiパッドは強固でない
Pbフリー対応PCBはより脆い
パッド・クレータリングで早期故障の危険性(検知されない、見えないパッド・クレータリング)
振動、落下衝撃等による他の故障
パッド・クレータリング
はんだとパッドのIMC結合
どの場合もPbフリーが一貫して信頼性が劣る。
SACの機械的応答性
SACは柔軟でなくパッドにより応力がかかる。
故障モードはパッド・クレータリング
信頼性予測
SnPb材料特性はほとんど接合寸法に依存しない
Pbフリーはんだ特性は接合寸法、工程、履歴、合金添加物で変化
モデルが比較を説明できない
熱サイクルでの保持時間での違い
実使用条件依存性
エージングとサイクル効果による誤差は大きいだろう
これも説明できない
第2析出物の粗大化進行によるはんだ特性変化
ひずみによる粗大化と転位構造形成で特性が接合部位で変化
FLEXTRONICS 2012(概要)
リフロー工程での鉛フリーはんだ合金
鉛フリーはんだペースト
SACがリフローでは最も一般的に使用されている鉛フリー合金
Agは3.0〜4.0
業界推奨は
INEMI:SAC396
IPC/JEITA:SAC305
EU:SAC387
業界は組成の標準化の努力に着手中
現在SAC305が最も一般的
低価格、低あるいは無銀鉛フリーはんだペーストの代替利用が始まっている。
リフロー工程
プロセスウィンドウが狭い
工程最適化が重要、瀬戸際
エリア/アレー球
SAC305が一般的
SAC105のような代替が始まっている
利用環境の考慮が信頼性で重要
落下または熱サイクル
BGA/CSPボール
Ag量は落下と熱サイクルに関し相反関係にある。
低Agで融点上昇。
低AgでE低下。
高柔軟性のためのAg低減はバルク最適化手法、最適Ag量は約1%と思われる。
代替合金の推進力
SMT工程では落下・衝撃性能問題
価格
代替鉛フリーはんだペースト
印刷性と濡れ特性は良い。
多くの材料はSAC305の比べ過剰なはんだボール(ないしグレーピング:葡萄状化表面)とボイドを呈する。
SAC305ペーストと同等の性能の材料は少ない。
(*低AgSACはペーストでなくはんだボールとしての利用が主であると思われる)
代替鉛フリー合金はSAC305より融点が高い(約10℃)
代替合金信頼性
短時間保持の熱サイクルではAg量と特性寿命に相関、高Agが優れ、鉛フリーがSnPbより優れる。
−40℃〜125℃で鉛フリー合金の差はなくなり、すべての合金がSnPbの特性寿命に近づく。
多様な合金管理への挑戦
融点差・・Ag量減少で融点上昇
混合合金考慮・・不溶融はんだ接合
混合合金PCBアセンブリ挑戦
後方両立・・PbフリーボールとSnPbペースト
混合合金PCBアセンブリ問題
ボイドと不均一はんだ接合−不完全混合はんだ接合は一般的に均一はんだ接合より信頼性が劣る。
ウェーヴでの鉛フリーはんだ合金
はんだ棒
SAC305、SnCuNi(Sn100C)、SnCuが一般的。
PTHミニポットリワークではSnCuNiが一般的。
挑戦
狭いプロセスウィンドウ
フラックス材料・・高温過程へのVOC化、ハロゲンフリー化が不十分
表面張力と濡れ性
厚い基板でのホール充填が依然課題
Cu溶解
ホール充填とCu溶解の相反関係
高温と長時間接触はホール充填には良いが、Cu溶解促進。
高Agはホール充填に有利だがCu溶解に不利。
添加成分(Ni、Ge、Sb・・)はCu溶解を抑制するがPTH濡れを阻害。
MANHATTAN計画 Phase1 2009 要旨
Pbフリーはんだ合金は最初、共晶近傍のSn(3.5〜3.9)Ag(0.7〜0.9)Cu付近を基礎とした。(NCMS、iNEMIなど)
Ag価格問題とアイオワ州大特許を避けるためJEITAと続いてIPCが亜共晶のSAC305を推薦。
欧州の企業は共晶合金による、特に収縮孔発生の低下、融点と固液共存範囲の低下から高AgのSAC405にとどまることを選んだ。
主流のSAC305とSAC405はBGAはんだボールとはんだペースト、ウェーヴ合金に使用。
SAC305とSAC405は機械的衝撃性能が悪いので携帯製品でBGAとCSPはんだ接合、特に動的負荷条件での
機械的強度改善のため低Ag、低Cu開発に拍車がかかっている。
これら合金はSb、Ni、Bi、P、Ge、Co、In、Crなどの微量添加がよくなされる。
Limaye
Sn(3〜4)AgCuは応力を増加させる
SnPbより硬い、非常に高E、同じ変形で高応力
SnPbより強い、高応力に耐える
SnPbより低塑性
高凝固温度で熱膨張率差があると部品/接合で応力増加
クリープ速度はSnPbより10〜100倍遅い
Sn(3〜4)AgCuは至るところで破壊
IMC層
PCBパッド剥離
部品パッドと本体(セラミック)
Sn(3〜4)AgCuはんだ接合はより衝撃に弱い
低AgはんだSAC105への移行の強い傾向
金属学的混乱
IMC関係の問題
Kirkendallボイド
無電解Ni/置換AuのNi3P析出
SACはSnPbより信頼できるか
応力依存
Snウィスカ
2009_06_2nd Generation LF Alloys-DfR 第2世代2011 DfRプレゼン
なぜSAC305が標準無鉛はんだとなったか。
SACは共晶SnPbを置き換える理想的はんだとみなされたことはなく、
単にそのときに最善の選択であっただけ。すでに利用可能で納得できる融点で、他の選択に比べ信頼性問題が最もなかった。
しかしSAC305には新しい合金で克服できる弱点がある。
SACは析出硬化合金で微細構造と機械的特性がリフロー温度、時間、冷却速度、エージング(保持時間)により大きく影響される。
はんだ特性がアセンブリ条件や消費者使用環境にそのように依存することは好ましくない。
望ましい性質
各はんだに長短があり、用途ごとに異なる最適はんだがありうる。一般的消費者条件では
低融点(190℃に近い)
低剛性(51GPaからSnPbの40GPa近く)
良好な濡れ挙動(濡れ時間0.5秒程度)
安定な挙動(析出硬化、急速軟化がないほうが好ましい、アセンブリ後の安定した特性)
低降伏応力と低加工硬化速度(SnPb同等、疲労で損傷を受けない柔軟性compliance)
低Cu溶解(Cu配線の溶食抑制)
低表面張力(Cu配線の被覆とPTHの濡れ上がりのため)
はんだの傾向
表面実装リフローではSAC305が支配的
携帯機器でのエリア・アレー部品でSAC105使用が増加
SnCuがウェーヴとHASLで普及
SACX、SnCuXへの強い傾向
見込みある成分
Snが主成分(Cuとよく理解されたIMC形成)
Ag低減で弾性係数低下(SAC105は11%SAC405より小さい)
微量のNi、CoがIMC形成抑制、Cu溶解低減(Tmは220℃以上となる)
Pbが供給鎖から除外されればBiが大きな役割(SnAgCuBiが見込みある)
Mn、Ceなどが耐衝撃性改善で大きな見込み
ウェーヴはんだ合金
SnAgCu−適度な濡れ、ドロスが多い、過剰なCu溶解、高価
SnCu−ぬれ悪い、低価格、高槽温度必要、
SnCuX(Ni・・・)−濡れ良い、適度な価格、浴制御必要(CuとNi比)
鉛フリーの現況
部品(はんだボ−ル)供給
SACが依然支配的、しかし低Ag導入増加(SAC205、SAC105、SAC0507)
はんだペースト
SAC305が依然支配的
ウェーヴとリワーク
Sn0.7CuNi(SN100C)
Sn0.6CuCo(SN100e)
Sn0.7CuNiBi(K100LD)
HASL
Sn0.7CuNi(SN100C)
<NESAC合金代替の検討プロジェクト>
JEITAによるフロー用低AgSACでは
JEITA 第2世代フロー用はんだ標準化プロジェクト 2008
iNEMIでNESAC代替として調査されているのは
Henshall 2011
NESACで業界は2006年のRoHS最終期限に間に合った
業界はSAC305と他のNE合金を標準Pbフリー合金として採用。
多くの因子の釣り合いを考慮。→比較的低融点、熱疲労信頼性が良好。
組成の機械的強さrobustnessとCu溶解への影響を考慮していなかった。
更なる最適化必要
SAC305/405の問題
BGA、特にNi/Auでの落下/衝撃性能の悪さ
Ag価格の上昇が低Ag化推進原動力
厚い基板でのいくつかの表面処理のバレル充填の悪さ
熱間割れと他の表面現象が目視とリワークで問題
主なBGA/CSPボールの商業あるいは研究中のPbフリーはんだリスト(多くは低Ag)
完全な合金はない、各合金にそれぞれの問題
技術的問題と非技術的問題(供給鎖管理など)
試験中の組成
第2世代2011 Tulkoff DfRプレゼン